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222/252

222.あたし魔王やん。え?てか、あたし何歳まで生きるの?

「……と、まあこんな感じで、俺と兄上はそのあと1階からここまで駆け上がってきたわけだ。道中、特に取り立てるものもなかったし、明らかに最上階で何かが行われているのは魔力感知で分かったからな」


「なるほどねー。やっぱりゼン殿下はすごいな~」


「……ふっ」


 森での一連の流れをシリウスが説明すると、ジョンは感心したように何度も頷いた。

 どうやら彼はゼンの固有魔法を怖がるのではなく、単純にすごいと称賛するタイプらしい。

 シリウスはそれが何だか少し嬉しかった。




「……バ、バカな……。10万体以上の魔導機械兵を全て同時に行動不能に?

 いや、指揮系統を握れば確かに不可能ではないが、最終プログラムは一度発動させれば俺でさえ停止は不可能なはず。それを、やすやすと……」


 シリウスの説明を聞いていたバラキエルはゼンの所業に、あり得ないと体を震わせた。


「中途半端にヒトの部分を残したのが仇となりましたね。まあ、そうしなければ複雑な命令を理解したり、あなたとリンクさせたりといった魔法的な部分をクリア出来なかったのでしょうが」


「……くそっ」


 人間の魔導機械兵化のシステムもその弱点も全て、ミカエルには見破られていることにバラキエルは悔しそうに顔を歪めた。


「……だが、」


「ん?」


 しかし、バラキエルはすぐにニヤリと口角を上げる。


「少し、来るのが遅かったなぁっ!」


「なっ!」


 項垂れていたバラキエルがバッ! と起き上がると同時に、部屋全体に敷かれた魔方陣が大きく輝いた。


「バラキエル! 終わったぞ! 詠唱が終わった!」


「ご苦労! 皇帝よっ!」


「いつの間にっ!?」


 ミカエルたちが現れても、魔方陣を囲う魔導士と皇帝はずっと儀式を進める詠唱を唱え続けていた。

 バラキエルから、たとえ腕をもがれようが何をされようが、死ぬまで詠唱を続けろと命令されていたから。


「皆さんっ! 皇帝を殺すか、魔方陣を壊すのです!」


「っ!」


 ミカエルの号令を受けて、皆が皇帝や魔方陣に向けて魔法や剣を向ける。


「無駄だ!」


「くっ! これはっ!」


 が、それらは全てバラキエルによって防がれた。

 魔法はキャンセルされ、シリウスたちの剣はバラキエルが飛ばした光学バイブレーションソードが粉々に粉砕した。

 そして、全員が重力魔法によって動けなくなってしまった。


「私さえ、抑える、とは……」


「貴様は特に重点的に重力魔法をかけさせてもらった。司令塔が壊される前に魔導機械兵から召集しておいた魔力でな。

 10万人以上の魔力を込めた重力魔法だ。さすがの大天使様でも抜け出せまい。潰れていないだけで十分凄まじいがな」


「……くっ」


 その場の全員を行動不能にしたバラキエルは勝利を確信して笑った。


「おかげでほとんどの魔力を消費してしまったが、これでこんなものはなくなるのだ!

 出し惜しみせずに全て使いきれば、貴様らなど容易く御せるというもの!」


「ぐあっ!」


「先生っ!」


 バラキエルは楽しそうに笑いながらミカエルを蹴り上げた。

 クラリスたちが駆け寄ろうとするが、重力魔法によって潰されないように抗うことで精一杯だった。


「ふははははっ!!

 世界最強の魔導天使様も、より強大な魔力の前では無力!

 所詮は力だ! 理不尽に強大な魔力が世界を牛耳るのだ!」


 実に楽しそうに語るバラキエルは、そこで突然、無表情へと変わる。


「……ならば、そんな力、無い方がいいだろう」


「……バラキエルさん」


 嘆きにも似た声に、ミカエルは複雑な心境だった。

 バラキエルがその能力で視た過去と未来。

 ミカエルもまた、彼を知るためにそれを視ていた。


 終わらない争い。

 虐殺。

 絶えず傷つけ合い、そうしてどこまでも進んで、どの世界でも最期は凄惨なる滅亡を遂げる。

 それは魔法の有無に関わらず、どの世界においてもそうであったが、取り分け、魔法が存在する世界においてはそれが特に顕著だった。


「結局、力を付けすぎた者がいずれ世界を滅ぼす。圧倒的な個は、その圧倒的な魔力で世界を滅ぼすのだ。

 この世界においてもそう。かつて魔法は研究されつくされ、1人が世界を滅ぼすほどの大魔法を創った。

 魔王ルシファーと呼ばれたその者がそうして世界を滅ぼし、この世界は闇に堕ちた。

 結局、そいつは神によって討たれたが、闇に堕ちたこの世界は見捨てられた。

 だが、じつに長い長い時間をかけて、この世界に蔓延る闇属性の魔力が少しだけ薄らいだ。

 神はそれを見て、この世界の再生を試みた。一人の大天使と四人の堕天使を派遣し、世界の浄化を命じたのだ。

 結果として、闇以外の属性魔力は少しずつ増え、また新たに生命が誕生していった。

 しかし、世界に溢れすぎた闇属性の魔力の処遇に天使たちは困った。

 困った挙げ句、かつてのルシファーのようにそれを自在に操れる個を喚び出すことにした」


「……それが、ミサ」


 バラキエルから語られる真実にクラリスたちは驚いていた。

 この世界がかつて闇に堕ちた世界だという事実は人々には伏せられていたから。

 人の精神は簡単に影響を受ける。

 自分たちが闇に堕ちた世界に生まれ落ちた命だと知って、その心までが闇に染まる者が現れないとも限らない。

 天使たちはそれを危惧して、世界が再スタートを切ったことを秘密にしていたのだ。


「ミサ嬢は初代ではないがな。

 まあ、とにかく、かくして闇属性の魔力を御せる個がこの世界に現れたわけだ。

 我々魔導天使はそれを待っていた。

 まあ、俺だけは違う意味で、だが。

 とはいえ、魔導天使がルシファーと名をつけてその椅子を空けていたのは何とも皮肉だがな」


 バラキエルはくっくと笑う。


「……が、問題はそのあとだ」


 バラキエルは遠くを視るような虚ろな目に変わる。


「闇属性を自在に操れるようになり、全ての魔導天使と魔獣の長を従えた彼女は、どんな未来であっても必ずこの世界を滅ぼす」


「ミサがそんなことするはずないわっ!」


「そうだそうだ!」


「……」


 バラキエルの言葉にクラリスとジョンは即座に反論するが、それを視たミカエルや、勘の良いゼンは何となく察していた。


「するんだよ。

 彼女は仲間を愛しすぎている。その子孫も。

 強大で膨大な闇の魔力を操る彼女の寿命は長い。

 その長い生の中で、必ず彼女に敵対する存在が現れる。

 それこそ、彼女と世界を二分するほどに強力な存在。あるいは個。あるいは国。あるいは世界として」


「……」


 その先の未来を思い出して、ミカエルは悲しそうに俯く。

 その様子を、スケイルだけが見ていた。


「彼女は自分の大事な者を守るためなら力を惜しまない。

 傷つけられた仲間を守るため。その傷を治すため。あるいは死した仲間を甦らせるため。そして、そんなことをした敵を倒すため。

 彼女は自身の力を遺憾なく振るい、やがて自らの力で敵もろとも世界を滅ぼすのだ」


「そんな……。

 でも! そんなこと! 私たちがさせないわっ!」


「……その時に、もうおまえたちはこの世にはいない。彼女は、おまえたちの子孫を守るために世界をも巻き込むのだ」


「……っ」


 自分の大切な人たちが皆、自分を残してこの世を去り、せめてその子孫を守ろうとするミサ。

 その健気さは、ミサを知る者なら容易に想像がついた。


「もはや意地なのだろうな。

 彼女は何としてもおまえたちの血を守ろうとして、結局、どの世界線においても世界を滅ぼす。

 ならば、今この時点でその元凶たる闇属性の魔力そのものを使って、この世界から魔力そのものを消してしまおうと言うのだ。

 なあに。初めは戸惑うだろうが、ミサ嬢のいた世界は魔法などなくとも発展を遂げている。

 圧倒的な個による支配や破壊がなくなれば、世界はきっと救われるさ」


「……」


 ミカエルには、バラキエルが魔法のなくなった世界のその後を、ミサのいる世界のその後を意図的に話していないことを分かっていた。

 結局は、どういう形であれいつかは世界は終わる。

 バラキエルがやろうとしていることはただ目の前の現実から目を背けるだけの行為だ。

 だが、ミサの暴走によって滅びる世界線があるのもまた事実。

 観測者である自分は、ここでこの世界の人々に言葉をかけることは出来ないとミカエルは判断した。


 結局は、この世界に生まれた人々が世界の未来を選択し、決定する。生まれた命には自由を。


 それが、ミカエルの生みの親の方針だったから。


「……」


 クラリスたちは迷っていた。

 バラキエルがしようとしていることは悪いこと。許されないこと。

 そう思ってここまで来たが、それはミサに孤独を与えないようにすることで、ミサが世界を滅ぼさないようにすることでもあった。

 実際、魔法によって多くの命が失われているのは事実。

 ならば、バラキエルの言う魔法のない世界は、そう悪い世界ではないのではないか。

 クラリスたちは、少しずつそう感じ始めていた。


「ふざけるなっ!」


「!!」


 だが、シリウスだけはそれに即座に憤慨した。


「その魔法のない世界とやらを創るのに必要なのはミサとサリエルの命だろう! それに魔力がなければ魔獣たちも消える!

 おまえが創ろうとしているのはその者たちの犠牲の上にしか成り得ない、血にまみれた世界だ!」


「……そっか。ミサの命を使わないと、それが出来ないんだったわね」


「危うく騙されるところだった」


 核心を突いたシリウスの言葉でクラリスもジョンも、言葉巧みにバラキエルに心理誘導されていたことに気が付いた。


「……ふん。賛同して、おとなしく項垂れていればいいものを」


 バラキエルには、ほとんど魔力が残っていなかった。

 この場にいる全員が死力を尽くして束縛から逃れようとすれば、万が一にも重力魔法を破られる可能性があった。

 バラキエルはそれを悟られないように、彼らを言葉でオトそうとしたのだ。

 儀式は完成しても、皇帝にミサの仕様を移すのは少し時間がかかるから。


「……それに」


「?」


 シリウスは愛おしそうな視線を倒れているミサに向けて言葉を続けた。


「ミサをナメるなよ。

 あいつはバカだが、そんなことをするほど愚かなバカではない。

 あいつの正義は優しさの上に在る。

 たとえ暴走しようとも、世界を、人々を傷付けるようなことをするものか。

 俺様を殴るような胆力を持つ女だ。

 ミサなら、大丈夫だ」


「……お兄様」


「殿下……」


「ふっ」


 シリウスの誇らしげな顔に、クラリスたちも頷き、同意する。


「……」


 ミカエルは傾きかけた天秤を引き戻したシリウスの言葉が単純に嬉しかった。

 圧倒的な超越者たる自分がその言葉を述べても皆には届かないだろう。

 一番間近でミサのことを見てきたシリウスの言葉だからこそ、それは皆の心に届くのだ。


「……バラキエルさん。これが人間ってヤツですよ」


「ちっ」


 バラキエルはつまらなそうに舌打ちをした。


「だが! おまえらは結局、何も出来ない!

 地面に縫い付けられたまま、大事な女が死ぬのを見ているんだな!」


「くっ!」


 バラキエルは問答をやめて儀式魔法を完成させることにした。それだけの魔力を回復させるための時間稼ぎも終わった。

 闇属性の魔力を操る権限を皇帝に移動させた瞬間、世界から魔力が消えるのだ。

 ミサとサリエルと、全ての魔獣の犠牲によって。


「くそっ! 誰かっ! 誰か止めろ!」


「バラキエルでも皇帝でも、魔方陣でもいい! 誰か攻撃をっ!」


「くっ……動け、ないわ」


「くっそ!」


「ぐぎぎぎぎ」


 シリウスたちもケルベロスも懸命に力を振り絞るが、10万体以上の魔導機械兵から集められた魔力による重力魔法に抗うことが出来なかった。


「……おい。早くやれ」


「シリウス・アルベルト・ディオス。なかなか良い言葉だったぞ」


「え?」


 そのとき、ゼンの言葉を受けて1人の男が部屋に現れたのだった。




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