22.やっぱり話なんて出来ないよ
「それで?
例の闇属性の少女はその後、どうしているのだ?」
王都に出向いたミカエルは王城で王と謁見していた。
今は玉座のある謁見の間ではなく、王の執務室で2人は話をしている。
お付きのメイドも下がらせて王と2人になれるのはミカエルぐらいである。
「はい。
簡単な初級魔法は一通り使えるようになりましたが、以前報告したように、やはり闇の魔力をそれらの魔法に練り込むことに苦労しているようです」
執務室の机で事務作業をしながら尋ねる王に、ミカエルはその前に立って、ミサについての説明を行う。
「そうか。
闇の魔力は強力だが、使い方を誤れば危険な力となる。
無下に他者を傷付けることのないよう、うまく導いてやるんだぞ」
「ええ。
もちろんです。
まあ、彼女にはそのような心配は無用でしょうがね」
「そうなのか?」
ミカエルがやれやれといった様子を見せると、王は意外そうな顔をした。
王とここまでフランクに話せるところに、ミカエルと王との間に築かれた信頼が窺い知れる。
「ええ。
彼女は善くも悪くもまっすぐです。
自分の信じた正義のために、闇の魔力を正しき道にて使うことでしょう」
「そうか。
くれぐれも、その正義の道筋を間違えさせないようにな」
「はい。
お任せください」
王の言葉に、ミカエルは恭しく頭を下げる。
「ふっ。
経験者は語る、か?」
「…………」
「……まあいい。
それよりも、クラリスはどうだ?」
「順調ですね。
光の魔力を早くもコントロールしてきていますし、クラスメートとも仲良くしています。
先の、ミサくんとも楽しく過ごしているようですよ」
「そうか!」
ミカエルの返答に、王は嬉しそうに笑顔を見せた。
「ふむ。
話は以上だ。
引き続き学院を頼むぞ」
「……はい」
ミカエルは一瞬だけ複雑な表情を見せたが、それを悟られぬように頭を下げ、執務室を退室した。
「学院にはもう1人、息子がいるのですがね……」
ミカエルは廊下を歩きながら、1人ぽつりと呟いていた。
「待てい!
ミサ・フォン・クールベルト!
なぜ逃げる!」
「追ってくるからだよ~!」
え?
話をするんじゃないのかって?
うるさいね。
いざとなったら、やっぱりあんなにぐいぐい追い立ててくる奴とまともに話せる気がしないんだよ!
分かるかい?
あのバカ、全力で向かってくるんだよ!
暑苦しいったらありゃしない!
ぶっちゃけると、怖いんだよ!
身の危険をあたしの本能が全力で感じちゃってるわけ!
頭では理解してても、体が逃げちゃうんだよ~!!
「ま、待て!
貴様、少し早すぎるぞ!
王国最強の名を恣にする俺様でさえ追い付けないとか、どういうことだ!」
王子が息を切らしながら、そんなことを叫びながら追い掛けてくる。
知らないよ!
こちとら、追い付かれたら死ぬぐらいの勢いで走ってるからね!
「あ~、またやってら」
「やれやれ。2人とも懲りないね」
「ミサ~!
いい加減諦めなよ~!」
うるさいよ!
あんたたち、のんびり眺めてないで助けてよ!
スケさんとカクさんも、やれやれじゃないよ!
「ミサ・フォン・クールベルトぉぉぉぉ~~~!!!」
「ひゃああああぁぁぁぁぁ~~~!!」
え?
これ、毎日やるの?
勘弁してよぉ。




