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209/252

209.あっちもこっちもどっちもにっちもさっちもだよ!

「イノス殿下! こいつらが!?」


 こちらはスノーフォレスト軍。

 帝国の北部から攻め行った彼らを、やはり地面から現れた帝国の魔導機械兵が迎え撃つ。

 総数はスノーフォレスト軍の十分の一程度。数の上ではスノーフォレスト軍の方が圧倒的に有利。


「……うん。そうみたいだね。でも油断は禁物。あいつらは魔法も物理もほとんど効かないみたいだから」


 スノーフォレスト軍も、南部から攻めているリヴァイスシー軍もまた、シリウス経由で彼らの情報を得ていた。

 物言わぬ『武器』へと変えられてしまった人々。もう二度と人間には戻ることはできない帝国の民。


「……せめて、安らかであるように」


 イノスはそんな彼らに憐れみの目を向けながら天に祈った。


「……」


 そんなイノスの姿を魔導天使のサマエルは慈しむように眺めた。

 その祈りはこの世界では神へと届かないことを魔導天使である彼は知っていた。

 それでもただ一心に祈るスノーフォレストの民の姿を見て、サマエルはそれを止めることはしなかった。


 祈ることで心に安寧をもたらすならば。


 魔導天使の手によって教会などの宗教めいた存在が発生していないこの世界において、唯一祈りを行うスノーフォレストにはそんな理由があったのだ。


「……僕らは無理はしなくていいし殲滅する必要もない。複数で当たりつつ、目標の場所まで行けるように道を開いて。きっと、本隊が彼らの対処法を見つけくれる」


「はっ!!」


 イノス率いるスノーフォレスト軍には特別な任務があるようだった。

 どうやらまともに魔導機械兵の相手をせずに露払いをしながら前進することにしたようだ。


 イノスは剣を抜き、前方を指し示す。


「……前進」













「うわぁー。これが、噂の鉄の兵隊か……」


 南部ではハイド率いるリヴァイスシー軍が同じように帝国の魔導機械兵と会敵していた。

 敵の数も自軍との比率も、スノーフォレスト軍とほぼ同じ。


「……でも、俺たちは北と違って彼らとまともにやりあわないといけない、と」


 なだらかな丘の上から、整然と並んだ帝国兵とリヴァイスシー軍を眺めながらハイドは不満を漏らす。

 彼らに与えられた役割はここに割かれた敵戦力を他に行かせないこと。つまりは時間稼ぎである。

 当然、全滅させることができれば他の援護に回らなければならない。


「……しかも、俺たちの方には魔導天使がいないしな」


 ハイドは不安げに自分の隣を見つめる。

 本来ならそこにいるはずの男が今はいなかった。

 アザゼルは、リヴァイスシー軍の行軍に参加しなかったのだ。


「……はぁ。まあ、今さら文句を言ってもしょうがない」


 ハイドは国を出てくるときにメイドで幼馴染みのヒナに言われた言葉を思い出す。


『男なら、覚悟を決めたらやる。そういうものよ!』


「……そういうものかなぁ」


 熱い心とは無縁で生きてきたハイドにとって、気合いや覚悟などという言葉は胡散臭い以外の何者でもなかった。


「……ま、仕方ないか」


 だが、自分が惚れた女に言われたことならばやってやろうという気概はある男だった。

 ハイドは敵と自分の軍を見渡してから、兵に荷車で運んでもらっていた発明品をバラバラと地面に並べた。


「うーん。まずはこれかな」


 ハイドは大きな筒のようなものをフラフラと持ち上げると、帝国兵のもとに落ちるようにそれを構えた。


「えーと、敵はけっこうヤバいみたいなので、必ず複数人で戦うようにしてください。俺がこれを撃って敵の動きを鈍らせたら戦闘開始です」


 ハイドの命令にリヴァイスシー軍の兵たちがオウ! と剣を抜く。リヴァイアサンの騒動後、ハイドの発明品のヤバさを知った彼らはハイドに信頼を寄せていた。

 きっと彼は言った通りに帝国兵の動きを鈍らせてくれるのだろう。

 リヴァイスシー軍の面々は彼を信じて構えた。


「……よし。広範囲トリモチ弾、発射」


 そして、開戦の合図である号砲が鳴り響いたのだった。














「よかったー! アルちゃんたち大丈夫そうだね!」


 けっこうピンチだったけど無事にバカ王子たちが間に合ったみたい。

 あ、あとでアルちゃんにはお説教しないとね。自分の身を呈してカクさんとクレアを守ろうとしたのは偉いけど、あたしはアルちゃんがいなくなっても悲しいんだからね! って。


 そのあとに画面が切り替わってイノスとハイドんとこが映し出されたけど、どっちもこれからバトル開始な感じなんだね。

 帝国の兵隊さんたちはすごい強いみたいだけど、こっちは何倍も人数いるし、きっと何とかなるよね!


「……なんとかなると、いいですねー」


「なんだいツユちゃん。縁起でもない」


 あたしの作り出したイマジナリーツユちゃんとは思えない言いぐさだね。


「そろそろ1回、こっちも見ときましょーか」


 ツユちゃんはそう言うと、トリモチを帝国兵にぶちまけたハイドたちのとこからまた映像を切り替えた。


「どこだい? 全面バトルが始まった三王子が気になるんだけど……あ、それとも愛しのクラリスたんかい? それならぜんぜんそっち優先で構わんよ?」


「いやいや、肝心のところをお忘れですよー」


「へい?」


 そうしてツユちゃんが次に画面に映したのは……。


「……あ、あたしだ」


 すやすや寝てるあたしの姿だった。

 うん。相変わらずかわいいね。とんでもない超絶美少女だね。こりゃもう誰だって惚れちまうよまったく。


「……ノーコメントでいいですかー?」


「ツユちゃん呆れとるでしょ?」


 その穏やかな笑みの裏にはどんなツッコミがあるんだい? おばちゃん怒んないから教えてごらん?


「……外見も大事だけど、何より中身が大事、と」


「うっしゃ! ちょっとオモテ出よーか! 戦争だね!」


 拳で語れ!


「はいはい。観ますよー」


 お母さんやめて! 子供がわーわー言ってんのにはいはいで片付けるお母さんやめて! こちとら途端に恥ずかしくなるから! テンション上げて盛り上がってたのに急に照れちゃうから!


「どうせまだ起きれないんですから外には出れませんよ、おとなしくテレビでも観てようねー」


「いや、そのノリもういいから!」


「ミサさんからやってきたくせにー」


 いやそうだけど! そうだけど、ノられるとそれはそれでなのよ!

 そう思うと、こっちの世界の人たちは皆呆れるか唖然とするかだったね。


「まあ、この世界の人たちは存外真面目な人ばかりですからねー」


「ホントやね。あたしとツユちゃんが浮いちゃうもんね」


「そうですねー」


 ……この人、嫌みとか効かん系の人なんだね。てか、これってあたしがあたしに言ってることになるんだよね? あ、なんか泣きそう……。


「ほらほら。始まりましたよー」


「へ?」


 センチメンタルになってたらツユちゃんが画面を観ながら何かが始まったって言ってきた。

 始まったって、いったい何が?


「……あ」


 そう思ったらあたしをアップで映してたカメラが引いてくれて、部屋全体を見せてくれた。

 そこはお城のてっぺん。おっきな魔方陣がある部屋だった。

 その魔方陣を囲うように何人ものフードを被った人がいて、魔方陣の中心にはあたしとサリエルさんが並んで寝かされてる。

 で、あたしたちを見下ろす感じで皇帝さんが立ってた。


『……夜と闇とを依り代へ。天と闇とを捧げよう……』


 皇帝さんはなんか難しそうな文言をぶつぶつと唱えてる。


「……って、これってもう儀式的なやつが始まっちゃってる!?」


「そんな感じですねー」


「やばいよやばいよ!」


 儀式的なのが終わったらあたしもサリエルさんも死んじゃうし、そのあと魔獣たちも消えちゃうんでしょ!


「てか、カイルは? カイルはどこにいるんだい?」


 そういや、前に観たときにはこの部屋にカイルもいたはずだけど。


「あー、そっちはそっちでピンチみたいですけど、そっちも観ますかー」


「うー……こっちも気になるけど観たい! 観る!」


「はいなー」


 そうして、今度はカイルがいるとこの画面に切り替わったとさ。




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