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208/252

208.ちょっとー!アルちゃんたちがピンチだよー!

「……はぁはぁ」


「だ、大丈夫か、クレア?」


「は、はい。なんとか……」


 クレアは帝国兵からの絶えることのない剣撃に追い詰められていたところをカークに助けられていた。


「くっ……」


「先輩っ!」


 だが、カーク自身もすでに満身創痍のようだった。


「……さすがに、厳しいのです」


 限界が近い2人を見てアルビナスはぽつりと呟く。自分もとっくに魔力は限界だった。

 もはやまともに傷を治すこともできず、3人は徐々にケガが増えていった。


「……倒せないわけでは、ないんだが、なっ!!」


 カークは敵の剣をかいくぐり、残された体力で渾身の一撃を繰り出す。

 何度も攻撃を加えられた兵の鋼鉄の首がようやく飛ぶ。すると体は文字通り糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちた。

 どうやら頭部で受けた指令をもとに動いているようだ。


「しかし、1体に対して全力で何度も攻撃を当ててようやく傷がつく程度。倒しきるのに時間がかかりすぎます」


 クレアは新たな1体に剣を振るうが、帝国兵はびくともしなかった。


「……おまけにこっちの体力は減るばかりで、威力はどんどん落ちてます」


 痺れる手を何度か振って、クレアは再び剣を握りしめる。剣も自分も、限界が近い。


「……ルーシアは、無事に森を抜けたかな、なのです」


「アルビナス……」


 クレアは疲れ果てたように空を仰ぐアルビナスに視線を送る。

 樹上を駆けるルーシアならばこの魔導機械兵の包囲をきっとくぐり抜け、無事にシリウスのもとへと手紙を届けることだろう。

 アルビナスは薄れ行く意識でただそれだけを祈り、信じていた。

 アルビナスはもう治癒魔法も攻撃魔法も撃てるような状態ではなかった。

 だが、それでも2人への補助魔法(バフ)だけは切らさなかった。

 アルビナスの補助・強化があって初めて、カークとクレアの攻撃は敵にダメージを蓄積させられたのだ。


「……倒せたのは、3体か」


 カークが重たそうに剣先を地面に落とす。

 3人の周りには首をはねられた3体の魔導機械兵が転がっていた。

 そして、その周りにはまだ100体近くの魔導機械兵がいた。


「……よく、やった方じゃないですか」


 地面に片ヒザをつき、剣を支えにするクレア。


「……ルーシアが駆ける時間を稼げたのなら十二分なのです」


「……そうだな」


 カークとクレアにかけていた補助魔法も解けてしまったアルビナスがぺたりと座り込む。

 カークは頑張って補助魔法を継続してくれたことに感謝を込めてアルビナスの肩をポンと叩いた。


「……」


 それを感じたアルビナスは、力を振り絞って立ち上がった。


「……アルビナス?」


「ん?」


 ふらふらになりながら立ち上がったアルビナスにカークもクレアも視線を送る。

 帝国の魔導機械兵も様子を見ているようだった。


「……2人とも、頑張ってくれてありがとうなのです。ルーシアを行かせられたのは2人のおかげなのです」


「……」


「……」


「……だからせめて、2人を死なせるわけにはいかないのです」


「……おい」


「どういうこと?」


 様子がおかしいアルビナスにカークとクレアが不安そうな顔をする。


「……これから私がもとの姿に戻って2人を飲み込むのです」


「「!」」


 アルビナスは盲目の蛇。

 その巨大な体ならば、たしかに2人を生きたまま丸ごと飲み込むことは難しくないだろう。


「そのあとは力ずくで包囲を突破するのです」


「……そんな力、残ってないだろ」


 心配そうな様子のカークにアルビナスは微笑む。


「もとの姿に戻って、人化の術に使ってる魔力を還元すれば、それぐらいはできると思うのです」


「……」


 カークは、ならばなぜそれをもっと早く言わなかったのかと疑問に感じた。


「……でも、私の体の構造上、人間2人を丸飲みしたら吐き出すのは難しいのです」


「!」


「あと、頑張って抑制するけど本能的に2時間ぐらいで勝手に消化を始めるのです」


「……」


「……だから、私のなかに入って1時間半ぐらい経ったら、私の腹を裂いてなかから出てほしいのです」


「!」


「……そんな」


 2人を飲んだら、脱出するには2人がなかからアルビナスの体を切り裂いて出てくるしかない。

 だからこそ、アルビナスはギリギリまでそれを2人に告げられなかったのだ。


「……大丈夫。2人のことは私が絶対に守るのです。2人がいなくなったら、きっとミサが悲しむのです」


「なに言ってんだ!」


「クレア?」


 寂しそうに呟くアルビナスにクレアがくってかかる。


「アルビナスがいなくなってもミサは悲しむに決まってる!」


「……そんなこと」


「……おまえは、彼女の何を見てきたんだ」


「!」


 悲観するアルビナスにカークも声をかける。


「……彼女が、おまえがいなくなっても悲しまないと、本当に思ってるのか?

 おまえが好きな彼女は、本当にそういう人か?」


「……愚問なのです」


 まっすぐに自分を見つめて尋ねるカークに、アルビナスはふっと笑みを見せる。

 そんなこと、あるはずがない。

 ミサもきっと、おんなじように言って自分を叱るだろう。

 アルビナスには、ミサのそんな姿が目に浮かんでいた。


「……でも、だからこそ2人を死なせるわけにはいかないのです。

 ミサにそんな悲しみを、3人分も味わわせるわけには、いかないのです」


「……アルビナス」


「ちょっと!」


 悲しそうな顔をする2人をしり目に、アルビナスは体を縮こまらせた。

 人化の術を解き、もとの姿に戻る準備に入ったのだ。


「……大丈夫。2人のことは、必ず守るのです」


「おい!」


「ちょっと待って!」


「……ミサに、よろしく、なのです」


 そこでようやく危険を察知した魔導機械兵たちが動き出す。

 剣を振り上げ、アルビナスを亡き者にしようと動く。


「……ミサ……もう一度、会いたかっ……」


「ちょぉーーっと、ストーーップ!!」


「……え?」


 そして今にも蛇の姿になろうとしていたアルビナスだったが、空から降ってきた声に動きを止める。


「わっ!」


「なんだっ!?」


「これはっ!!」


 そして、声とともに降ってきた無数の糸が帝国兵たちの剣をからめとって動きを止めた。


「ルーシア!?」


「セーフ! よね?」


 3人の間に降り立ったルーシアが息を乱しながら3人の顔を見渡す。


「うんうん。なんとかみんな、無事に生きてるわね」


「な、なんでここにいるのです!?」


 安心したようにこくこくと頷くルーシアにアルビナスは驚きを隠せずにいた。

 ここからどれだけ頑張って急いでも、森を抜けて国境を越え、連合軍のもとにたどり着くのにこれほどの短時間で済むはずがない。

 つまり、ルーシアは手紙を届けずに戻ってきたことになる。


「あなたが手紙を届けなければ、私たちがここで時間を稼いでいた意味も!」


 また、アルビナスからすれば、せめてルーシアだけでも逃がしてミサを守ってほしいという想いもあった。

 助けてくれたルーシアに対して、アルビナスは焦りや怒りも相まってどんな感情をぶつければいいのか分からなくなっていた。


「……頑張ってくれてありがとね」


 ルーシアはそんなアルビナスを優しく抱きしめる。


「な、なにをっ!?」


「うんうん、よしよーし。頑張ったわねー」


 混乱するアルビナスをルーシアは優しく抱き止めながら頭を撫でた。


「……どういうことだ?」


「ん?」


 同じく混乱した様子のカークとクレアもルーシアに尋ねる。

 ルーシアはようやく顔をあげて2人を見た。


「だいじょーぶよ。アルベルト王国のお偉いさんたちは、やっぱり思ってたより優秀だったのよ」


「……へ?」


 優しく微笑むルーシアの顔をアルビナスが見上げた瞬間、


「わっ!」


 空が強烈に光り、森に大きな雷が落ちたのだった。


「……こ、これは、《ライトニング・ボルト》」


 カークはその魔法が得意な者を知っていた。


「待たせたな! おまえら!」


 その偉そうな声は懐かしき主の声。


「……な、なぜ、あなたが、ここに……」


 カークはその頼もしき姿が信じられずにいた。


「アルビナス! 手紙はちゃんと受け取ったぞ! 見事な働きに感謝する!」


「……は、はは。相変わらずのバカ王子、なのです」


 ルーシアの背中越しに現れたその男にアルビナスは呆れたように笑う。


「なにおう! 誰がバカ王子だ誰が!」


 そうして地団駄を踏みながら現れたのは連合軍を率いる大将、シリウス・アルベルトだった。


『……ギ』


 シリウスの雷魔法を受けた魔導機械兵は少しだけ動きを鈍らせたが、新たに現れた脅威に全体が向きを変え、シリウスに剣を向けた。


「俺様に剣を向けるとは良い度胸だ!

 総員、であえ!」


 シリウスが号令をかけると、連合軍がいっせいに姿を現した。

 それはアルベルト王国軍とマウロ王国軍の連合軍全軍だった。その数は20万にも及ぶ。


「……は、はは」


 その圧倒的な兵力にクレアも笑うしかなかった。


「……なるほど。ミカエルとゼン王子の仕業なのです」


 アルビナスは彼らの行軍の速さのからくりに気付く。

 おそらくゼンの采配によって、ミカエルの転移魔法で連合軍は国境に転移していたのだろう。

 この森はアルベルト王国と帝国との国境にほど近い。アルベルト王国の王都から魔獣の森まで一気に転移してしまえば、連合軍がここまで来るのにそう時間はかからない。

 帝国の結界によって帝国へは転移できなくとも、国境までなら転移魔法が使える。

 こんな大所帯を丸ごと転移させるなどという無茶をさせるのは、あの王子をおいて他にいないだろう。

 きっとミカエルも悪態をつきながら行っていたのだろう。


 敵ならば恐ろしすぎるが、味方ならばこれほど頼もしいコンビはいない。


「……やれやれなのです」


 アルビナスはもはや呆れるしかなかったのだった。




『やれやれだな、まったく』




「!」


 そのとき、魔導機械兵の1人が突然、話し出した。


「……この声は、さっきの」


「……バラキエル」


 それは先ほど突然現れては、アルビナスの石化を無効化させて消えたバラキエルの声だった。


『まさかもう連合軍が帝国内に入り込んでいたとは。ちょっと目を離した隙にこれだ。

 だから奴らは油断できない』


 それがゼンとミカエルを指しているのだとアルビナスはすぐに分かった。


『これだけの軍勢。おまけに北と南からも。

 これは、もう出し惜しみしてられないな』


 バラキエルは帝国の国土の上下からも敵が侵入していることに気付いていた。


『……解放』


「……な、なんだ?」


 バラキエルの声を発する魔導機械兵が呟くと、すべての兵がピタリと動きを止め、それと同時に地面が大きく揺れた。


「……バ、バカな……」


 そして地面から出てきたのは、最初に出現した100体の数百倍の数の魔導機械兵たちだった。

 それが、スノーフォレストとリヴァイスシーの軍の前にも、同じタイミングで地面から現れて立ちふさがった。


「……魔法も物理も効きづらい鋼鉄の兵が、こんなに……」


 シリウスは帝国城への道をふさぐように連合軍と対立する魔導機械兵を見渡した。

 数の上では連合軍の十分の一程度。

 だが、一体一体のレベルはこちらの兵の何倍もの実力を持つ。


「……ギリギリの戦いになるな」


 余裕をもってアルビナスたちを助けて帝国城まで進軍できると思っていたシリウスは突然の出来事に見立てを変えざるを得なかった。


『……では、お楽しみを、殿下』


「……ふん」


 その言葉を最後にバラキエルの声は消え、再び彼らはただの機械兵へと成った。

 機械ということを感じさせないほどに流麗な動きで魔導機械兵たちは剣を構える。


「……」


『ソレら』が、ほんのこの前まで『彼ら』であったことを、シリウスはもうアルビナスとスケイルからの手紙で知っていた。

 ソレがもう、戻れないことも……。


「……せめて、早く楽にしてやろう」


 シリウスはそのことに拳を強く握りながらも、覚悟はとうに決めていた。

 剣を抜き、連合軍に告げる。


「……奴らは魔法も物理攻撃もほとんど効かない。だが、まったく効かないわけではない。魔導士は後衛で防御と補助に専念しろ。

 剣士は一体に対して必ず複数人であたれ」


「あいつらは頭部で指令を受け取ってるのです。首をはねれば動かなくなるのです」


 アルビナスが先ほど入手した情報をシリウスに伝える。


「……だそうだ。強化魔法をかけてもらった者から進軍。俺に続け」


 シリウスはそう言うと自らに強化魔法をかけ、剣に雷を纏わせた。


「カーク。クレア。アルビナス。おまえらは休んでいろ。よく頑張ってくれた」


「……お言葉に、甘えます」


「……はい」


「私も! ……っく!」


「無理をするな」


 アルビナスは進み出ようとしたが、魔力が回復していない体は言うことをきかなかった。


「ルーシアは俺のサポートを。俺たちは2人で行くぞ」


「はいはい」


 座り込むアルビナスの代わりにルーシアがシリウスの横につく。


「……頼むの、です」


 アルビナスは悔しそうに2人の背中を見送った。


「……いくぞ」


 シリウスはその言葉を抱きながら、剣を敵に向けた。

 魔導士たちに強化魔法をかけてもらった兵たちが続々とシリウスの後ろに揃う。


「……進軍!!」


 そして、シリウス率いる連合軍は魔導機械兵へと向かっていったのだった。




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