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207/252

207.お父様とお母様がががががっ!

「……おまえら」


 ゼンが王の執務室に招いた3人が扉を開けて姿を現す。


「どうも」


「陛下。失礼いたします」


「親子団らんの折りに申し訳ないですわね」


 現れたのはミカエルとミサの両親だった。

 軽く会釈をして入るミカエルに対し、ミサの父親は深く礼をし、母親は優雅に舞うように入室した。


「……なぜ、おまえらがゼンの召集に応じた?」


 そんな3人をアルベルト国王は睨み付けるようにじろりと見つめた。

 次期国王として王太子であるゼンではなく、第二王子であるシリウスを推す一派がある。彼らはその筆頭であるはずだった。


「べつに我々は本気でシリウス王子を次の王にしようというわけではないのですよ。あくまで対立候補がいるということを示して、王太子に油断しないでいただこうと考えているだけですから。まあ、もっともゼン王子が腑抜けるようならば躊躇うことなく我々は彼を引きずり落とすつもりではありますけどね」


「……ふ」


 片眉を上げて皮肉るミカエルをゼンは鼻で笑った。

 王族を試すような所業、魔導天使でなければ到底許されないだろう。

 また、ミカエルがその対立構造を利用しようと近付いてくる、愚かな貴族を釣り上げるためにもこの構図を保っていることをゼンは知っていた。そのため不敬とも国家反逆ともとれる彼らのシリウス擁立を黙認していたのだ。

 実際、強力な指導者であるゼンよりも馬鹿で素直なシリウスの方が傀儡にしやすいと、ミカエルにすり寄ってきたりゼンの暗殺を提案してきたりする貴族はそれなりにいた。その度にそれはゼンへと伝えられ、ゼンの使いによってその貴族は処分されているのだ。


 アルベルト国王もそれは承知していたが、その仕組みを破壊しかねないゼンからの召集に応えるという行動に出た3人の真意が王には理解できずにいた。


「まあ、このメンツを見れば、王ならば我々が何を言わんとしているか分かりますよね?」


「……自国のことばかり気にしている場合ではないと言いたいのか?」


「よくお分かりで」


 しぶしぶ答える王にミカエルはわざとらしい柔和な笑みで頷き、そのあとすぐに表情を険しくした。


「帝国の保有する戦力は未知数です。こちらも全力であたらなければ、下手したら連合軍は全滅します」


「……だが、4ヶ国の連合軍だぞ? 帝国一国にそこまで……」


 王はまだ帝国の脅威を信じられずにいるようだった。


「はぁ。だから父上は頭が堅いんですよ」


「……どういうことだ?」


 ゼンが呆れたように首をふる。

 そして訝る父にゼンは諭すように話していく。


「いいですか?

 帝国のバラキエルは俺の眼も、ミカエルの結界も、三大魔獣の感知さえくぐり抜けてミサ嬢を連れ去った。そんなことが普通の者にできると思いますか?」


「……」


「しかも、ヤツはアルベルト王国に侵入したあと、おそらく転移魔法で帝国に帰還している。転移魔法はミカエルの固有魔法だ。おまけに抵抗力の高いミサ嬢を無力化までしている。下手したら俺に類する固有魔法まで使えるのかもしれない。

 ヤツ個人でそれなのだ。帝国軍にも何らかの『細工』をしている可能性は著しく高いと言えないだろうか」


「……むう」


 ゼンに詳しく説明され、王はようやく悩み始めたようだ。


「陛下……いや、王様」


「!」


 そして、ミサの父も口を開く。

 自らの王への呼び方をわざわざ変えたことに王は驚いた表情を見せる。


「先を見据えることは大事です。今回の件の沈静後、間違いなく世界は揺らぐでしょう。そのときに自国を安定して運営していくために次期国王の地盤を磐石にしておきたいという気持ちは分からなくもない。

 ですが、大事なのは今なのですよ。

 今、すべてを注がなければ今後の世界というもの自体がなくなりかねない。

 もしかしたらゼン王子の力がなくとも何とかなるかもしれませんが、備えあれば患いなし。王ならば、少しでも犠牲を少なくすることも考えなければならないのです」


「……」


「それにね、王様」


 ミサの父に続いて母もまた口を開く。


「『私とこの人がいた世界』の言葉で、虎穴に入らずんば虎子を得ずってのがあってね。ここで出し惜しみして出すものを出さなかった国に世界は大事なものを託してはくれないのよ。

 他の国は自分たちが出せる戦力を余すことなく出してくれてる。王太子が軍を率いているのが何よりの証拠ね。

 それなのにアルベルト王国だけがその先のことを打算的に考えて引っ込めてるのは、ちょっとダサいんじゃないかしら?」


「……ふっ」


 2人に詰められ、王は懐かしむように息を吐いた。


「……おまえたち2人には、よくそうやって説教をされたな。

 国とは、王とは、人とは、指導者とは。

 時折、よく分からない言葉を引き合いに出してきたりもしたが、おまえたちの助言には何度も助けられた」


「まあ、こう見えても前はそれなりに大きな企業の幹部でしたからな」


「ふふ。私は小さい会社の社長だったもの」


 感謝の意を伝える王に2人は過去を思い出すように照れ笑いしていた。


「王様には感謝しているのです。私たちが今ミサがやっているお役目を達成できなかった時も、見捨てることなく側に置いてくださった。爵位を与え、仕事をくださった。

 あなたのおかげで、我々は今こうして穏やかに過ごせているのです」


「……」


「だからこそ、あなたには嘘やごまかしなんてなしにこうした方がいいってことはハッキリ伝えようとこの人と決めたのよ。

 私たちを護ってくれたあなたを、今度は私たちが助ける番ねって」


 ミサの母はそう言って王にウインクしてみせた。

 実際、マウロ王国での失敗から彼らを排斥しようとする貴族もいた。王はそんな者たちから2人を護ったのだ。


「!」


 そのとき、4人がいる部屋の窓がコンコンとノックされた。

 それは手紙をくわえた鳥だった。

 それが帝国に潜入している者からの報せだと悟ったミカエルが窓を開け、手紙を受け取る。


「……ふむ」


 手紙を読み終えたミカエルは改めて王に向き直った。


「やはり帝国の戦力は我々の想定を遥かに超えていました……」


 ミカエルはそう切り出すと、スケイルからの手紙に書かれていた内容を皆に伝えた。

 人を『改造』した魔導機械兵。魔法にも物理にも強く、どこかから受けた指令で統一した動きを取ることができる強力な兵。そして、その数は未知数であるということを。


「魔法と、科学の融合……」


「……科学を、この世界に持ち込んだってこと?」


「……科学?」


 神妙な顔をするミサの両親の言葉に王もゼンも首をかしげる。

 ただでさえ魔法という強力な能力が存在する世界に、あちらの世界の科学を持ち込んだら世界は確実に混乱する。

 それを危惧した転生者の2人はささいな技術供与はしつつも、革命的な科学技術の提供だけはするまいと決めていたのだ。その結果として、帝国のようなことを行う輩が現れないとも言えなかったから。

 そして、それは実際に行われたのだ。

 それをすることが本来は禁忌とされているであろう魔導天使の手によって。


「……ミカエル。貴様は知っていたのか?」


「……」


 ゼンはミカエルに科学について問うが、ミカエルはそれに答えなかった。そしてゼンは沈黙が是であると悟る。


「……まあいい。その科学とやらがあれば、人をそんな強力な兵に変えられるというのか?」


「……いや、あっちでも、そんなことはまだ出来ないはず。たぶん、魔法と併用することでどっちの世界でも出来ていなかったことを実現したのだと思われます」


「……たしかに、AIとかに解析させれば固有魔法でさえ解き明かせるのかも」


「……それは、我々でも再現可能なのか?」


「無理ね。私たちはすでに作られたものを使ってただけで構造とかは全然だから、元の作り方を知らない私たちがバラキエルと同じものを作ることはできないわ」


「……そうか」


 抽象的な説明だったが、ゼンはしぶしぶ理解したようだった。コンピュータなどの具体的な言葉を出すのは得策ではないと判断した彼女の意思を汲み取ったのだろう。

 そして、たとえ知っていたとしてもミカエルはそれを教えたりはしないと分かっているから、ゼンも王もミカエルにはそれを尋ねたりはしなかった。


「……さて、王よ。これで分かったでしょう? 帝国の戦力は未知な上に強力。こちらも最大戦力を出し惜しみすることなく投入しなければ到底、太刀打ちできません。

 王よ。許可を」


「……」


 ミカエルはそこでようやく本来の目的を投げ掛けた。

 答えを迫られた王はしばらく俯いて考え込むのだった。















「あ。森の方で動きがあったみたいですねー」


「ええ! いいとこだったのにー!」


 先生が王様になんかの許可をもらうってとこで、王様の答えが今にも出そうだったじゃん!


「……え? てかさ、ちょっと、ちょっと待ってもらっていいかい?」


「えー? なんですかー?」


 いや、チャンネル変えようとしてたとこ邪魔して申し訳ないけどさ。それよりもかなーり気になることがあったんですが!


「え? お父様とお母様って、もしかしてあたしと同じ転生者だったのかい?」


「そーですよ」


「いや、そんな簡単に!」


 肉じゃがってホントは豚肉じゃなくて牛肉だったの? そーだよ。みたいなノリで!

 鉛筆とダイヤモンドは同じ元素だったの? そーだよ。みたいなテンションで!

 

 いや、もっとさ。驚きの事実なんだからさ。

 ふっふっふっ。実はそうなんです。みたいなさ!

 もっとほら。盛り上がる感じのあるじゃん!


「え? じゃあさ。マウロ王国での失敗ってのはこの世界に溢れる闇属性の魔力をどうにかするために、東の魔獣の長であるフェリス様に協力してもらいたいってのを断られたやつのことかい?」


 たしかあたしの前任がどうのとか言ってたやーつ。


「そーですよー」


 ツユちゃんてばまたあっさりと。


「あ、ちなみに、マウロ王国のカイル王子がアナスタシアに頼んで助けられた女性ってのが今のミサさんですよー」


「……ぱーどん?」


 え? なんか今また重要なことをさらっと言わなかったかい?


「アナスタシアが女性の姿も変えて記憶も変えて……ってときに、こっそりミサさんの魂をぶちこんだんですよー。もともとの女性の魂はもう甦らなくていいって言ってたので~」


「お、おおう?」


 ちょい待ち。情報があふれててついていけんす。


「じゃなきゃ、そんな都合よく転生者である2人のもとに新たな転生者であるミサさんが現れるなんてこと起こるわけないじゃないですかー。

 普通なら魔獣の森とかに落ちて速攻食べられてジ・エンドですよー」


「……いや、そんなニッコニコで言われても」


 そう言われりゃその通りなんだけどさ。


「……てか、ツユちゃんて、ホントにあたしが夢の中で創った幻なの? にしてはあたしが知らないことまで知りすぎじゃない?

 しかも、寝てるはずなのに外の状況とか見せてくれるし」


 怪しさマックスなんだけど。


「……さ! 気を取り直して森の方を見てみましょー!」


「あ、スルーした」


 答える気ないね、この人。


「あ、ほらほら! アルビナスたちが大ピンチですよー!」


「え!? あ、ホントだ!」


 誤魔化すように言うツユちゃんにまんまと誤魔化されて『窓』を見ると、帝国兵たちに取り囲まれながらも何とか猛攻をしのいでるアルちゃんとカクさんとクレアの姿があった。

 でも、もう3人ともくたくたで今にも倒れちゃいそうだよ!

 やばいよやばいよ!




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