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203/252

203.なんか、いよいよって感じだね

「シリウス殿下。大変お待たせしました。

 マウロ王国軍10万。ただいま到着しました」


 アルベルト王国でマウロ王国軍の合流を待つシリウスのもとに、マウロ王国軍の大将を務める男がやってきた。どうやら無事に2つの軍は合流することができたようだ。


「私は今回、マウロ王国軍をまとめる立場にあたるグラストと申します。この度はよろしくお願い申し上げます」


 それはミサたちがアナスタシアを捜索する際に同行したグラストだった。

 グラストはシリウスに跪いて頭を下げる。


「ああ。俺が今回の連合軍の大将を務めるシリウス・アルベルトだ。よろしく頼む」


「はっ! それではこれより、この場にいるマウロ王国軍は一時的にアルベルト王国第二王子であらせられるシリウス殿下の傘下に入ります!」


 今回、連合軍ではあるもののアルベルト王国の第二王子がそれを率いるということで、マウロ王国軍の一部がアルベルト王国の傘下に一時的に入ることになる。

 両国ともに、自国の人間が帝国に囚われたという事実は同じであっても、片や王太子と魔導天使。片や第二王子の婚約者ということで、マウロ王国がアルベルト王国に助けを求めたという形になった。他国から見ればどちらの国がより深刻な状態なのかは一目瞭然であるからだ。

 それに伴い、アルベルト国王とマウロ国王は此度の連合軍の設立によって、作戦終了後もその関係性を引きずることはない旨を記載した書状を作成し、その条約を交わした。

 つまり、一時的とはいえアルベルト王国の傘下に入ったマウロ王国がその後もアルベルト王国にまともに意見を言えないような状態になることを防いだのだ。連合軍の関係性は今回限り、これが終わればまた対等な国同士である、ということだ。

 そしてこれはアルベルト国王から発案された。


『今はただ互いに、大切な者を取り戻すために尽力しよう』


 その際にアルベルト国王から告げられた言葉を受けて、マウロ国王は書状を交わした。


「ああ。こちらこそ、来てくれてありがとう。絶対に3人とも無事に助け出そう。マウロ王国軍の力を頼りにしている」


「……はっ!」


 そんな父の思いはシリウスには伝えられていないが、シリウスはそんなことには興味がなかった。

 シリウスの中にあったのは、ただ自分の大切な者を助けるための戦力は多い方がいいという、来てくれたことへの感謝だけだった。

 その真っ直ぐな瞳でグラストは理解した。

 この人には損得なしで任せても大丈夫だと。


「マウロ王国軍。カイル殿下、魔導天使サリエル。そして、ミサ嬢の救出のため、シリウス殿下のご命令に従いましょう」


 グラストは改めてシリウスに頭を下げた。実質ともにシリウスの下につくという意志を込めて。

 ゼンならばこうはならなかっただろう。そもそも彼は父のマウロ王国に対する約定に反対していた。今回のトラブルを利用して今後のマウロ王国とのやり取りで優位に立とうとしていたからだ。

 あるいは、自分がそう考えると分かっていて、父と弟をそう配置したのかもしれない。


「ああ。何がなんでも3人を取り戻す。だが、兵の命も無駄にはするな。命はかけても捨てるな。それが最も大事な命令だ」


「はっ! 兵たちに必ず伝えましょう!」


 帝国の方角を静かに見つめながら、グラストの返事を受けたシリウスは剣を抜いた。

 眼下には合流した両軍、総数20万の兵がいた。

 シリウスは抜いた剣を帝国に向け、連合軍に最初の指示を出す。


「……進軍だ」


「はっ!!!!」


 地鳴りにも似た20万の兵たちの返事を皮切りに、連合軍は帝国へと進軍していった。


「北と南も予定通り進軍を開始している。三方位から帝国を取り囲む計画だ」


「なるほど」


 帝国へと向かう軍勢を見送りながらシリウスはグラストに現況を伝える。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……進軍」


 スノーフォレスト王国。

 イノス王太子を大将に据えた5万の兵。




「し、進軍、です!」


 リヴァイスシー王国。

 ハイド王太子を大将に据えた、同じく5万の兵。




 各国から帝国に向かう総勢30万の軍勢が帝国を取り囲む。

 王が自国から動かないことを条件に大規模な連合軍が組まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……それで、アザゼル殿は……」


「……まだ、分からない」


「……そうですか」


 グラストは懸念材料となっていたことを確認するが、シリウスは顔を曇らせるだけだった。


「何もなければ、帝国にこの三方位からの方位攻撃を抑止する戦力はないはずだ」


「……何もなければ、ですね」


「……ああ」


 シリウスもグラストも理解していた。

 帝国がこうなることが分かっていて何の対策もしていないわけがない。

 帝国の未知の戦力を打破するにはやはり可能な限りの手は打っておきたい。

 現場で戦わなければならないシリウスには皆の暗躍を祈るばかりだった。












「アザゼルさん」


「……サマエル、か」


 その頃、ハイド率いるリヴァイスシー王国軍を遠くから見送ったアザゼルのもとをスノーフォレスト王国の魔導天使であるサマエルが訪ねていた。


「……あなたは、いつまでそう在るつもりなのですか?」


 サマエルはモノクルに手をかけながらアザゼルに語りかける。


「……俺は、人間に傾倒しすぎたのだ」


「……かつての、いつかのお話ですか」


 それはこの国での話なのか、それとも遥かな昔の堕天の話なのか。


「あなたは人間を好きすぎる。だから、たった一人の少女の死からいつまでも立ち直れずにいる」


「……ふん」


「それが原因でかつて天から堕ちたというのに」


 アザゼルは人間にさまざまな文化を教授したとして天から追放されていた。


「俺は強力な力を持っていた。それに対して人間は弱かった。俺の強すぎる力をそんな人間のために使って、何が悪いというのか」


 アザゼルは自分に言い聞かせるように呟いた。

 そして、サマエルにじろりと視線を送る。


「……それに、今のおまえには言われたくはないな」


「……」


「なぜそこまで王太子を溺愛する? 毎度毎度、王を継ぐ王太子を溺愛し、王となってからはともに国を盛り立てる者として隣を歩く。その寵愛ぶりはかつての俺なんか比にもならないぞ」


 嫌味を込めたアザゼルの言葉を受けてサマエルは再びモノクルに触れる。


「……神の毒。死の天使。

 そう呼ばれ、神に目も潰され、かつての私は堕ちた」


 サマエルがつけるモノクルの奥の目に光はなかった。


「……私のこちら側の目は、この世界に来たときにミカエルさんに治してもらいました」


 それに対し、モノクルをつけていない方の目はモノが見えているようだった。


「『これからたくさんの命を守り、育むのです。それを、その目でしっかりと観ていくといいでしょう』

 ミカエルさんはそのときにそう言ったのです。死の天使である私に、ですよ」


「……」


 サマエルはそのときのことを思い出して苦笑する。


「まあ、なんというか、もう死には飽いたのですよ。今度は生を、愛を。そういうものを持ってやってみようと思ったんです」


「……だから命を、動物の力を借りるなどという力の使い方をしているのか」


「……ま、そんなところです」


 サマエルは気恥ずかしそうに頬をかく。


「……ですが、彼らはやはり死ぬ。

 ……思っているよりも簡単に、すぐに死ぬのです」


「……」


 困ったように笑うサマエルをアザゼルはじっと見つめていた。


「ならば、せめて愛そうと。すぐになくなる命なら、せめてそこに在る間は存分に愛そうと、そう思ったのですよ」


「それが行きすぎて今に至ると」


「ふふふ」


 苦笑するアザゼルにサマエルは穏やかな微笑みを返す。


「あなたも知っているでしょう? なくなった命は神の御元に還る。

 きっと失われた命は今は穏やかにあることでしょう」


「……」


 アザゼルはサマエルがあの時の少女のことを言っていることに気付いた。


「ならば私は今ある命を存分に愛する。失われた命のためにも、今ここにある命のためにその力を振るうのです」


「……」


 サマエルは背中から翼を生やす。

 六対十二枚の翼。

 話は終わったと、ふっと浮かび上がる。


「とはいえ、あなたが動かなければ私も存分には動けない。あなた次第で失われる命もあれば救われる命もある。それだけはお忘れなきよう」


 サマエルはそう言い終わると、そのまま空に姿を消した。


「……」


 アザゼルはその姿を見送ったまま、しばらくそこに立ち尽くすのだった。














「父上。戻られたか」


「……ゼン」


 各国の王のもとを訪ね終えたアルベルト国王は自国へと戻ってきた。これから連合軍が帰還するまで王は自国から出ない。その約定を守るために。

 そしてそれをゼンが出迎えたのだった。


 王の執務室。

 窓から外を眺める王にゼンは語りかける。


「シリウスなら出発しましたよ。俺が出る必要もなく、連合軍をまとめて進軍を開始しました」


「……そうか」


 その報告に王は、父は頬を緩める。

 息子の成長は父親からしたら嬉しいものだ。


「……さて」


 そんな王にゼンは執務机に手をかけて詰め寄る。


「リヴァイスシーもスノーフォレストも王太子が軍を率いて進軍を開始した。マウロも軍の最高司令官が軍を率いている。

 父よ。では私はどうするべきか?」


「……」


 息子の言いたいことを王はすぐに理解した。


「……駄目だ」


 そして、それをすぐに否定する。


「はぁ」


 ゼンにそれにあからさまに溜め息を吐いた。

 父がそう言うであろうことは容易に想像がついた。


「あなたもアルベルト国王ならば今回の戦況をある程度読んでいるはずだ。

 誰がどう動き、何と対し、何を抑え、どうなっていくのか。

 帝国の戦力が想定の範囲内で収まるはずがないであろうことも」


「……」


 今でこそ落ち着いてはいるが、アルベルト王国は大陸の中心地として、かつては各国と苛烈な争いを続けていた。

 だからこそ、アルベルト国王は軍事のスペシャリストであって然るべきだった。

 そんな国王が有事の際の戦況を見立てていないわけがなかった。


「俺の力が必要になるであろうことは容易に想定できるのだろう?」


「……駄目だ」


 だが、王の意見は変わらなかった。


「はぁ。あんたは先を見すぎだ。いま必要なのは今なんだよ。今が駄目なら先もないことぐらい分かるだろう」


 頑固な父にゼンは呆れたように溜め息を吐く。


「……おまえは次のアルベルト国王だ。王になる前に、民におまえに対して畏れを抱いてほしくないのだ」


「だから先を見すぎだと言っただろう」


「……」


「……まあ、あんたが頑固親父だってことは分かってたよ。だから俺は助っ人を呼ぶことにした」


「……なんだと?」


 人に助けを求めるなどということをしてこなかったゼンが予想だにしないことを言い出したことに王は驚いた。


「……入れ」


 そして、ゼンに言われて姿を見せた3人に、王はさらに驚きを見せるのだった。




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