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202/252

202.あー!皆が大変だよもう!

「え? バラキエルさんてば、あっちの世界の科学の知識を持ってきてこっちでも科学的な開発をしてるのかい?」


「そーなんですよー。本来はそういうのはNGなんですけどねー」


 ツユちゃんが手でバッテンを作って、ぶっぶーって口をする。かわええ。

 このツユちゃんはあたしが夢の中で作った自問自答用の幻のはずだから、あたしがさっきのバラキエルさんといた部屋とかを見てそう考察したってことなんだろうね。

 まあでも、たしかにそうでもしないとあんなオフィスみたいな部屋とか、あっちの世界の素敵なご飯とか作れないもんね。


「まあ、この世界に関してはあまり直接的に手出ししないって決めてるから多目に見てるんですけどねー」


「ん?」


「あーいえいえ、こっちの話ですー」


 このツユちゃんはあたしの夢のくせに勝手になんか話すみたいね。さすがはあたしの夢。夢でさえ自由だよ、ホント。


「それにしても、なんでバラキエルさんはそんなことしてるんだか。まあ、あっちの世界が好きだとか言ってたけどね」


 こっちの世界もコンクリートジャングルにするつもりかね。あたしゃこっちの世界の自然豊かなとこもけっこう好きなんだけどね。


「……あの子は、悲劇の未来しか見えないことに絶望してるんですよー。だから魔力のないあっちの世界に憧れて、この世界を魔法の使えない世界にしようとしてるんですー。科学文明の持ち込みはその足掛かりでしょうねー」


「そっか。そういや、そんなこと言ってたね」


 世界はいずれ必ず滅びる。それをいつも視させられることに疲れた。みたいなことを言ってたような。


「ホントは、そんなつもりでそうしたんじゃないんですけどねー」


「あん?」


「ふふふー」


 ……なんかもはや笑ってすまそうとしてないかい? まあ、あたしっぽいっちゃぽいけど。


「まあでも、もし神様的ななんかがバラキエルさんにわざとそういう力を与えたんだとしたら、きっとなんか、もっと他にやってほしいかったこととか。たとえば平和のために役立ててほしいとか、そういう目的があったんだろね」


 神様的なのが良い人だったらね。


「……んふふー」


「わっ! なんだい!」


 急にツユちゃんがニコニコしながらすり寄ってきた。え? いや、かわいいけどさ。お持ち帰りしていいかい?


「いえー、さすがはミサさん。わかってるなーと思いまして~」


「お、おおう?」


 なんかよく分かんないけど、かわいいしポヨンてのが当たってるし、え? なんかありがとうございます。


「じゃー、そんなミサさんに特別大サービスですよー」


「え? 放送できるやつ?」


 と、言いつつ期待してるあたし。


「じつはー……」


 そう言ってあたしの耳に口を近付けるツユちゃん。

 え、なに? なにされんの? ドキドキワクワク。


「……なんですよー!」


「……え?」


 なんて?

 いや、予想してたことと違くてちゃんと聞き取れなかったんだけどさ。いや、ぜんぜん違うよ? なんかそんな、放送コードとか気にしちゃうようなこととか期待してないよ? いや、ホントよ? ほらこれ、そういうストーリーじゃないじゃん? え? 焦ってるのが怪しい? あ、怪しくないわ! ほら、さっさと戻るよ。話戻すよ!


「ご、ごめん。ツユちゃん。もっかい言ってくれるかい?」


「えー」


 あたしが頼むとツユちゃんはあたしから離れて、怪しく微笑みながらもう一度言ってくれた。


「バラキエルさんは帝国兵を改造して、魔導機械兵をたくさん造ってるみたいなんですよー」


「……ひ、人を、機械に?」


 あの人は、なんてことを……。

 てか、このツユちゃんってあたしが夢の中で見てる幻的なやつだよね? なんか、あたしが知らないはずのことまで知ってない?


「そうなんですよー。しかもその魔導機械兵は魔法もあんまり効かないし頑丈だし、痛みも感じないから相手にするにはかなーり大変そうなんですよねー」


「そ、それは大変だよ! 皆に早く伝えなきゃ!」


 いくらあのバカ王子たちが軍隊率いてやってきても、そんなん相手じゃ厳しいよ!


「まー、ミサさんはまだまだおやすみしてるから、それは無理なんですけどねー」


「あ、そだった! 早く起きろあたし! うりゃ! うりゃ!」


 あたしは自分を起こそうとほっぺをべしべし叩いたけど、痛くも痒くもなかった。

 やっぱりここな夢の中なんだ。


「無理ですよー。催眠魔法(ヒュプノ)で眠らされたのなら術者が魔法を解くか、第三者が魔法で起こさない限り自然に起きることはありませんからー」


「くそー」


 そういや、先生が授業でそんなことを言ってた気がするね。


「……皆は、大丈夫なのかなぁ」


 早くも眠っちゃったことを後悔してるけど、今は皆を信じて待つしかないんだね。
















「……ねえ。なんか、おかしいわ」


「ん? 何がだ? ルーシア」


 クラリスたちと分かれ、別ルートで帝国城を目指しているカーク、クレア、ルーシア、アルビナスの4人。

 横に並ぶカークとクレアを前後に挟む形で、前にルーシア、後ろにアルビナスという陣形で進んでいた。


 異変を感じたルーシアに後ろを歩くクレアが尋ねる。


「……動物や魔獣がいないのもそうだけど、なんだろ。なんか、普通じゃない何かがある気がする」


「普通じゃない何か、なのです?」


 ルーシアの感じた異変にアルビナスも前に出てくる。

 どうやら立ち止まって詳しく調べるつもりのようだ。


「……俺には、特段異変は感じないが」


 カークが周囲を警戒するが、しんとした森には風に揺れる木々があるだけだった。


「……ちょっと静かにしてて」


 ルーシアは瞳を真っ赤に染めると、ゆっくりと周囲を見回した。

 それは蜘蛛の姿のときの眼だった。


「……やっぱり。ほんのかすかに、いろんな所に熱源反応がある」


「熱……」


 ルーシアに言われてアルビナスも周囲を索敵する。


「……魔力的な反応はどこにもないのです」


「魔力探知じゃなくて、魔獣としての感知機能で視るのよ」


 アルビナスはルーシアに言われた通りに獲物をとらえる時のように周囲の熱を調べた。


「……ホントなのです。かすかに、熱を持つ何かが点在してるのです」


 そして、アルビナスもそれの存在に気付く。

 蜘蛛や蛇は獲物の熱を感知する能力を持つ。彼女たちはその能力でもって魔法頼みの人間では決して見つけることが出来ないはずのそれを見つけたのだ。


「……確認しよう」


「こっちよ」


 それを異常な何かととらえたカークが確認しようとルーシアたちに案内させる。

 そして、木々の間の本当に分かりにくい所に隠すようにして、それはそこにあった。


「……何かしら、これ。目みたいのがついてる。中で赤い光が点滅してるわね。外殻は、鉄みたいに堅いわ」


 ルーシアは初めて見るそれに目を丸くした。


「……生物、ではないのです。人工物。どちらかというと、リヴァイスシー王国の王子が作っていた加工構造物が近いと思うのです」


 鉄などの素材を加工されて造られたそれはレンズを有し、そこにアルビナスたちの姿をしっかりと捉えていた。

 それはまぎれもなく、ミサがいた世界の監視カメラであったが、アルビナスたちがそれを知るはずもなかった。


「!」


「何か来る!」


「地面から!」


 そして、それが間近でアルビナスたちの姿をとらえたことで、土中に潜んでいたそれらが姿を現す。


「……な、なんだこれは」


「鉄、の混ざった人間、でしょうか」


「……でも人間の匂いがほとんどしないわ。こうして動くまではたぶんケルベロスの鼻でさえ分からないほど」


「……人間、だったもの、かもなのです」


 土の中から這い出てきたのは鋼鉄の体を持つ、人の姿をした何かだった。

 しかし、完全な鋼鉄というわけではなく、肘や膝などの関節部分。あるいは剣を持つ手。あるいは顔の半分など、個体によってところどころ人間のような部分を持っていた。かと思えば顔全体が鉄で覆われ、目には先ほどのカメラと同じレンズを持つ個体もいる。


「……囲まれたわね」


 森一帯の地面から現れたそれらは百体をゆうに越えていた。ルーシアたちはそれらに完全に包囲されてしまった。


「……敵、なんですよね」


「まあ、そうだろうな」


 剣を抜くカークに合わせるようにクレアも剣を抜いて構える。

 そんな2人の動作を機械兵たちが検知する。


「敵対行動を確認。撃退作業に入ります」


 そして、機械兵たちはいっせいにそう口走ると全員が同時に剣を抜き、構える。

 口まで機械になっているものは合成音声のような声だったが、そうでない者はそれぞれに声に違いがあった。


「な、なんなのよ、こいつらは」


「……これは、たぶん武器なのです」


「ぶきぃっ?」


 身構えるルーシアにアルビナスが応える。


「スノーフォレストの魔導天使が動物を使役するように。あるいはアルベルト王国の王子が人を操るように。何らかの方法で簡易的な意思を持たせて動かし、与えられた命令によって敵を撃退する。そういう存在なのです」


「……なるほど。兵の損耗もなしに敵を一方的に攻撃できるというわけか。それは、凄まじい脅威だな」


「……」


 アルビナスは気付いていたが、あえてそれを口にはしなかった。

 目の前の不可思議な存在が、おそらく帝国兵をベースに造られていることを。そして、この類いの変態はたいがい元に戻すことはできないであろうことを。

 あちらはきっと無感情に襲い掛かってくる。恐れも、痛みもなく。

 彼らに同情している暇はない。訓練されているとはいえ、クレアやカークが彼らにそういった感情を抱かないとも限らない。

 アルビナスは目の前の脅威に全力で対応するために、クレアたちにとっては目の前の彼らがただの武器であってもらうことにしたのだ。


「行動開始」


「来るわよ!」


 そして、いっせいに剣を振り上げて向かってきた機械兵たちをクレアたちは迎え撃った。





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