20.ケルちゃんがようやくワンコとして迎え入れられたよ
「ミサぁぁぁ~~~!!」
「飛び出しちゃイカン!」
……あ、うん。
前回とおんなじ始まりだろうって?
いや、なかなか話が進まないんだよ。
「え~と、お兄様?
とりあえず大丈夫だから、まずはその剣を下ろそうか?」
刃物。ダメ。ゼッタイ。
「ミ、ミサ!
早くこっちに来てくれ!
頼む!」
聞いてるかい?
「フィーナ!
早く軍に連絡を!
あと、ミカエル先生にも!
……フィーナ!?」
「……あ、あ……」
フィーナまで腰抜かしちゃってるんだけど。
「お、お母様?
大丈夫ですか?」
「ミサぁぁぁぁ~~!」
あ、ダメだね、こりゃ。
説得は無理だと悟ったあたしは、くるりと後ろを振り返った。
「きゃんっ!」
ケルちゃんが嬉しそうに尻尾をパタパタし始めたよ。
嬉しいかい?
かわいいねえ。
それ、尻尾何本あるんだい?
「セ、セブンテイルケルベロス……」
ん?お兄様なんて?
「……獄狼の王」
んん?お父様なんて?
「きゃんっ!」
ああ、はいはい。
かわいいねえ。
「わっ!
ちょっ!
やめてよ、ケルちゃーん!」
いや、ホントにやめてくれるかい?
3つの頭でべろべろナメられて、おまけにその図体。
あたしゃヨダレまみれだよ。
「ミサっ!」
あ、うん。
甘噛みされてるだけだから気にしないで。
あたしの膝ぐらいまで咥えられてるけど、全然痛くはないから。
わんこの口の中って、こんなんなんだね。
あとでちょっと歯磨きしようね。
しばらくあたしをナメ回したケルちゃんは満足したのか、嬉しそうに尻尾を振りながら、あたしの前におすわりした。
「お、落ち着いた、のか?」
う~ん。
まだみんなびっくりしちゃってるねえ。
「ケルちゃん。
ちょっとちっちゃくなれないかい?
あ、出来れば、頭も1つにしてくれると嬉しいよ」
「きゃんっ!」
なんとなく、ケルちゃんが「いいよっ!」って言ってきたような気がする。
「おお~」
ケルちゃんがぐっと身を縮めると、あたしの何倍もあった身体がしゅるしゅると小さくなっていって、柴犬の子犬ぐらいの大きさになった。
尻尾は7本のままだったけど、頭はちゃんと1つになってたよ。
「わふっ!」
「うんうん!
よく出来たね!
偉いよ~!」
「わふわふっ!(すごいだろ~!)」
ん?いまなんか、ステレオ放送みたいに聞こえた気がしたけど、気のせいかね?
「ミ、ミサ。
本当に、ソレは大丈夫なのかい?」
「お兄様。
だから大丈夫だって。
ケルちゃん。
おとなしくてかわいいだろう?」
ケルちゃんがとことことお母様に近付いていく。
「奥様っ!」
復活したフィーナがお母様の前に立ち塞がって、ナイフを構える。
どっから出したの?それ。
けど、ケルちゃんはそんなフィーナの足元にすりすりし始めた。
「きゅ~ん」
「……あ」
そして、誘われるようにケルちゃんを撫で始めるフィーナ。
ふっ。
落ちたね。
そっからは沼だよ。
「わ、わたくしもっ!」
それを見ていたお母様もケルちゃんに飛び付く。
2人にわしゃわしゃされて、ケルちゃんはへそ天でご満悦だ。
女好き。
ケルちゃん。あんたも男だね。
んで、一方、うちの男連中はと言うと、
「ほ、本当に懐いている、のか?」
「し、信じられん」
いや~、どこの世界も、男は頭が固いねえ。
こうして、我が家に新しい家族が増えたんだよ。




