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199.クラリスー!待ってるよー!

「なんか久しぶりねー」


「ホントホント」


 魔獣の森に転移したクラリスたちは懐かしい感覚を味わう。実際はまだ魔獣の森での遠征から1年も経っていないのだが。


「クラリス殿下! お待ちしておりました!」


 クラリスたちが到着すると、森で待機していたアルベルト王国軍の部隊が出迎えた。どうやらゼンから詳細は聞いているようだ。

 そして、その部隊の隣では魔獣たちがケルベロスたちのもとに集まっていた。挨拶でもしているのだろうか。


「……それにしても異様な光景ね。ちょっと前まで命のやり取りをしていた軍と魔獣が一緒にいるなんて」


 軍とともに待機していた様子の魔獣たちを眺めてクラリスが感心した様子を見せる。


「はい。我々も初めは驚き、戸惑いました。しかし、魔獣たちは我々が思っているよりも理性的で、どうやらこちらの言っていることも理解しているようです」


 部隊長と思われる男がそれに応える。


「それは私たちが教育したからなのです。事前にあなたたちが味方だと言っておかなければ、魔獣たちは容赦なくあなたたちの喉を喰いちぎったのです」


「な、なるほど」


 アルビナスからの警告を伴った言葉に部隊長はひきつった笑顔で応えた。

 その任務の特性上、この森に待機する部隊にはアルビナスたちのことがあらかじめ教えられた。アルビナスたちが、三大魔獣の長が人化した姿であり、しかしミサではなく、ミカエルが秘密裏に彼らを懐柔したという触れ込みで。

 だが、それはマウロ王国における人と魔獣との協定のようなもので、魔獣たちが無害化したわけではないとも説明されていた。魔獣によって人と人との大きな戦いが抑制されているという本来の意義を失うわけにはいかなかったからだ。

 現にミサも魔獣に対して自衛や食糧確保のための行動として人を襲うことを禁じたりはしていない。ミサがアルビナスたちを通して魔獣に命じたのは侵略・虐殺・暴走による行動行為の禁止だけだった。

 もっともそれ自体も、ミサ自身は魔獣たちを縛るようなことをするつもりはなく、『まー、皆が安全で安心して暮らせればそれでいーんじゃないかい?』というミサの言葉をもとにミカエルとアルビナスが協議・決定したものだった。

 互いに互いの領域を侵し過ぎれば牙を剥かれる。馴れ合うよりもそういった牽制し合う関係性の方が良いだろういう結論に至ったのだ。


「それで? 私たちはどこから帝国に侵入するのかしら?」


「こちらです」


 その話題を切り上げてクラリスが話を進めると部隊長は目的地に案内してくれた。


「ここです。帝国に気付かれない程度に結界を薄くしてあります。あとは魔力同調で結界の魔力の質に合わせていただければ帝国に気付かれずに侵入することが可能です」


「すごい。見事ね」


 クラリスは帝国とアルベルト王国との国境にあたる部分に綺麗に展開された結界に作られた、人ひとりが通れるほどの空間を見て、部隊の優秀さを感じた。

 結界を張った者に気付かれずにその結界をいじるのは難しい。氷が自然に解けていくようなレベルの結界の維持魔力の消耗に合わせてゆっくりと結界を薄くしていったのだろう。

 それは並大抵の集中力ではない。


「お褒めに与り光栄です」


 部隊長はクラリスからの賛辞を嬉しそうに受け取った。

 この結界を張ったのはおそらくバラキエル。

 魔導天使にさえ気付かれないほどの所業ならば、やはらそれは偉業と呼べるレベルだろう。


「よし。じゃあ、予定通り2組に分かれて、帝国に入ったら別々に行動しましょう」


 クラリスに言われて、ゼンが決めた2組に分かれていく。

 クラリス、スケイル、ジョン、ケルベロスのミサ救出チームと、カーク、クレア、ルーシア、アルビナスの地図探索チームだ。


「と言っても、王城に入るまでは一緒なんだけどね」


「いや、違うルートでお城には入るから、念のために帝国に入った時点で分かれた方がいいのです」


「あら、そうなの?」


 2組に分かれたあと、ルーシアとアルビナスが話す。


「んでも、なんでこの組み合わせなんだろうな」


「あー、たしかにー」


 ジョンとケルベロスは組み合わせについて話していた。そこにクラリスが混ざる。


「あら。でもわりとバランスの取れた良い組み合わせよ」


「そーなの?」


 首をかしげるケルベロスにクラリスは目線の高さを合わせて説明する。


「ええ。ちゃんと前衛後衛でバランスが取れるようになってるもの。

 こっちは魔法による補助・回復が得意な私と、魔法で全般的に行動できるスケイル。そこに前衛のジョンと、近中距離で動けて突破力もあるケルベロス。

 あっちは息の合った連携が取れる前衛のカークとクレア。中距離がメインでトリッキーな動きの出来るルーシアに、魔法で全体を支えられるアルビナス。

 それぞれに感知とか解毒とか、いろいろなパターンに対応できる人物がいるのもミソね。

 さすがなお兄様の采配って感じよ」


「ふーん」


「まあ、こちらの戦力を完全に把握されているようであまり良い気持ちはしないのです」


「たしかにねー」


 クラリスの回答に三大魔獣はそれぞれのリアクションを見せた。


「……正直、今回の私たちの侵入でミサを救出するのは難しいかもなのです」


「……アルビナス?」


 ポツリと呟くアルビナスにクラリスが首をかしげる。


「今回の侵入で最も大事なのは帝国内の、特に城内の詳細な地図の入手の方なのです」


「どういうこと?」


「今回の戦い、敵の戦力ははっきり言って未知数なのです。こちらとしては、如何にしてミカエルを帝国内に入れるかにかかっていると思うのです」


「……でも、帝国にはミカエル先生を拒絶する専用の結界があるのよね?」


「そうなのです。それほど、帝国はミカエルを恐れているのです。

 でもそれは逆を言えば、ミカエルさえ入れるようになれば帝国を圧倒できるということでもあるのです」


 実際、帝国はミカエル対策の結界に凄まじい労力を割いていた。

 それこそ、他の結界の一部に手を出されても気付けないほどには。


「結界に関してはおそらくゼン王子とか、アルベルト王とか、ミカエル自身も動いてるはずなのです。つまり、結界さえ解除すれば、私たちが入手した地図をもとにミカエルが帝国内を転移できるのです。

 そうすれば、あとはもうきっとミカエルが勝手にやるのです」


 世界最強とまで謂われるミカエル。

 アルビナスはそんなミカエルに呆れながらも、その実力には信用を置いていた。


「分かったわ。私たちの方は極力無理はするなってことね」


「ん。敵に見つかってまでミサを救出する必要はないのです。無理だと判断したならこっちを手伝うことに注力してほしいのです。

 もし敵に見つかったら余計に状況が悪化しかねないのです」


「……分かったわ」


 アルベルト王国としても、これ以上救出すべき人間を増やすのは得策ではないことは理解していた。

 少数での潜入となるとその可能性が著しく高くなる。

 そしてアルビナスは、クラリスたちがバラキエルに見つかればほぼ確実に捕まるだろうと思っていた。

 数多の監視網を掻い潜ってミサを拐った魔導天使。それはいくら警戒しても足りないということはないだろうという考えをアルビナスに与えるには十分すぎる出来事だった。


「道中、くれぐれも敵に見つからないように。もし見つかったなら……」


「報告される前に倒す、ね」


「ん」


 アルビナスの言葉を引き継いだクラリス。2人は互いに頷きあって確認を完了した。


「……じゃあ、私たちから行くのです」


 広範囲の索敵能力を持つアルビナスとルーシアがまず先に帝国に入る。


「……気をつけて」


「ん」


 アルビナスは薄くなった結界に向き合う。


「私がまず魔力同調をするから、それを見て真似するのです」


「ああ」


「分かった」


 アルビナスに言われてカークとクレアも頷く。どうやらアルビナス、カーク、クレア、ルーシアの順番で入るようだ。


「……ん」


 アルビナスが自身の纏う魔力を結界のそれと同調させる。

 同じ魔力の質ならばそこに侵入しても異物として感知されることはない。


「……」


 アルビナスは結界と自分の魔力を同質にすると、ゆっくりと結界へと進み、そこに壁などないかのようにするりと中へと消えていった。

 と言っても結界は半透明なので、薄膜一枚隔てた向こうにアルビナスが移動しただけなのだが。


「……うん。問題ないのです。

 周囲に敵もいないから続くのです」


 結界を無事に透過したアルビナスはすぐに索敵魔法で周囲を調べ、安全性を確かめてからカークに来るように促した。


「よし!」


 そうして、彼らは順に帝国内へと侵入していったのだった。





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