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197/252

197.いろんなとこで皆が動き出してるんだね

「皆さん、集まりましたね」


 学院のミカエルの研究室。

 そこに再び、帝国に潜入する面々が集結した。


「あれ? シリウス殿下は?」


 ジョンが集まった面々をキョロキョロと見回すが、そこにシリウスの姿はなかった。


「王子は本隊の大将ですからね。すでにアルベルト軍のもとに入り、マウロ王国軍との合流を待っています」


「そっか。お兄様とミカエル先生は別行動だったね」


 ミカエルの返答にクラリスがそうかと頷く。


「しかし、クレアやジョンはともかく、殿下の側近であり、正規の騎士や魔導士としても活動している俺とスケイルがこちらで良かったのでしょうか」


 カークが心配そうにミカエルに尋ねる。

 やはり自分が仕える主の大舞台に側にいられないのが心配なようだ。


「ええ。この国の王太子、引いては王の配置展開です。そうした、ということはそうする意味があった、ということでしょう」


「……そうですか。分かり、ました」


 カークは引き下がったが納得した様子ではなかった。その忠義心の強さから、やはり主の側に居たかったのだろう。


「……カー……ん?」


 一連のやり取りを見ていたスケイルがカークに言い聞かせようとするが、


「カーク先輩。頑張りましょう! 私たちの働き次第でシリウス殿下をお守りする結果に繋がるかもしれません! 直接この手でお守り出来なくとも、結果としてそれが殿下のためになるなら良いじゃないですか!」


「……クレア。そうか……そうだな。

 そういう考え方もあるのだな」


「はい!」


「……ふ」


 クレアがカークの不満を吹き飛ばしてくれたので静かに引き下がった。


「では、転移魔法の準備が整いました。

 皆さん、魔方陣の中へ」


 彼らのやり取りが終わった頃にミカエルが大きな魔方陣の敷設を終えて声をかける。

 クラリスたちがぞろぞろとその魔方陣の中に進む。


「……」


 アルビナスたち三大魔獣は静かだった。

 すでにアルベルト王国内の魔獣たちは国内の要所に配置していた。不当な輩を襲うように命令を与えて。

 彼女たちの瞳にはミサを助けるという意気込みだけが込められていた。


「二組とも目指す先はお城です。ですが、この人数がまとめて動けば目立ちます。

 アルベルト王国東の魔獣の森に着いたら当初の予定通り、ミサさんたちを救出する組と帝国及び城内の詳細な地図を確保する組に分かれて帝国に侵入。お城を目指してください。

 結界が張ってあっても魔獣同士は念話が可能でしょう。もし万が一、どちらかの組が帝国兵に捕まった場合はもう一組がどちらの任務も兼務するという形で」


 ミカエルの再度の確認に全員がはい! と元気よく返事を返す。

 片方が帝国兵に捕まっても助けには行かない。どちらかが任務を成功させればいい。

 それは事前に互いに決めたことだった。

 任務の成功が結果として捕まったもう片方を助けることにも繋がるから。

 ミカエルは特にクラリスに関してはその限りではないと反対しかけたが、クラリスの確固とした意思に押し黙ることにしたのだった。


 そうして、全員が転移魔法の魔方陣の上に移動した。


「……では、ご武運を」


 それを確認して、ミカエルは転移魔法を発動。クラリスたちはまとめて魔獣の森へと転移したのだった。


「……皆、どうか無事に」


 ミカエルはそう祈ってから、自らも本隊へと合流するためにその場を後にしたのだった。

















「……ーい」


 んあ?


「おーい」


 誰だい。あたしを起こそうとするのは。


「……サさーん」


「むにゃ」


「ミサさーん。おーいー」


 なんかこののんびりした声、どっかで聞いたことあるよーな。


「……ん?」


「あ、気が付きましたかー」


「……ツユ、ちゃん?」


 しつこく名前を呼ばれたから、寝ぼけた頭でゆっくりと目を開けると、目の前にはメイド服姿のツユちゃんが立ってた。


「はいー。いつもどこでもどこへでも。神出鬼没の何でもメイド。ツユちゃんですー」


「……なにその便利屋さんみたいな謳い文句は」


 てか、ツユちゃんてばリヴァイスシー王国のメイドさんやん。なんでここに……。


「……てか、どこここ?」


 改まって周りを見てみると、何もない真っ白な空間にあたしたちはいた。

 あれ? ていうか、そもそもあたしってばバラキエルさんの催眠魔法で寝てたんじゃなかったっけ?

 儀式とやらはどうなったのかね。


「あー、ここはミサさんの夢の中、みたいなものですー」


「……はい?」


 あー、夢ね、はいはい。なるほど。じゃーやっぱりあたしはまだオネムしてるのかー。


「なぜに夢なのにここにきてツユちゃん?」


 なんならツユちゃんのことちょっと忘れてたんだけどね。


「ふふふ、なんででしょうねー。夢の中にさえ現れちゃう何でもツユちゃんだからじゃないですかねー」


 あーそーなんだー。なんかツユちゃんの笑ってる顔見てるとそれでいっかって思っちゃうわ。


「いやー、じつは私もいま動けないので暇なんですよー。なので夢の中なら干渉できるかなって、ミサさんが眠るまでお待ちしてたんですー。

 よかったらお話しませんかー?」


 んー。これはきっとあたしがそれを必要だと思ってるからこういう夢を見てるんだよね。いったいどういう意味があるんだろ。


「んー。そうだね。あたしも皆が助けに来てくれるのを待つだけだし、ツユちゃんとおしゃべりしてよーかねー」


 きっと、あたしの中で情報の整理が必要ってことなんだろうね。


「わーい!」


 ふふふ。ぴょんぴょん跳ねて喜ぶツユちゃんがかわいい件。


「さてー、じゃー何からお話しましょうかねー」


「そうだねー」


 あたしが何の話を確認しようとしてるか、だよね。


「じゃーあー……」
















「シリウス殿下!」


「……待たせたな」


 シリウスがアルベルト王国軍に合流する。


「殿下の指揮のもとで戦える日を心待ちにしておりました!」


 出迎えた部隊長は興奮した面持ちでシリウスを兵たちのもとへと案内する。

 シリウスは軍務には直接携わっていなくとも、王国最強の剣士として兵とともに鍛練に参加していたため、兵たちはシリウスの腕を疑うようなことはなかった。


「さあ! こちらです!」


 部隊長が意気揚々と大部隊のもとへとシリウスを招く。

 そこには屈強な兵士たちが物々しい雰囲気で待っていた。

 シリウスが現れると、皆一斉にシリウスに目を向ける。


「……」


 兵たちはシリウスの剣士としての腕は疑っていなかった。

 しかし、指揮官となると話は別。

 自らの命は指揮官次第。

 兵たちはシリウスに果たして指揮官として、自分たちの命を預けるだけの資質があるのか見定めようとしていた。


「……っ」


 その射抜くかのような視線にシリウスは一瞬、萎縮しそうになる。


「……」


 が、シリウスは自らの目的を思い出して持ち直すと、腰に下げた剣を抜いて天に掲げたのだった。





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