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196.再びのおやすみ

「うままままままっ!!」


「……口に合ったようで何よりだ」


 テーブルの上には懐かしき料理の数々。

 和洋折衷。

 特に肉じゃがに煮っ転がしにお好み焼き!

 和食が多いのが嬉しいねぇ。

 

「んぐっごくっごくっ!」


「……カレーというのは飲むものだったのか?」


 カレーは飲み物でごわす!


「ぷはぁ~! 食べたー! ごちそうさま!」


「……お、お粗末様です」


 あれ? バラキエルさんちょっと引いてない?


「よく食べるという報告は受けていたが、まさかこれほどとはな」


 テーブルの上の空の食器を呆れたように眺めるバラキエルさん。いやいや、据え膳食わぬは~って言うやん? ……いや、ちょっと違うか。

 てか、報告ってなに? どんな報告してんねん。


「……膨大な魔力の維持と制御に大量のエネルギー摂取が必要ということか」


「へ? あ、そーなん?」


 あたしゃてっきり若さゆえの、食べても食べてもお腹減っちゃうアレかと思ってたよ。

 なんせ若かった頃なんて何年も前だったから、あっちの世界でのあたしの若い頃の食欲事情なんて覚えてないからねぇ。


「……てか、バラキエルさんはなに食べてんの?」


 満腹でおデブ座りするあたしの向かいに座るバラキエルさんは長方形のカロリー○イトみたいのをかじってた。

 あっちの世界での豪華ないろんな食事出してもらっといて、そっちは携帯食料をかじるだけとか申し訳なさすぎるんだけど。まあ、それはそれで懐かしいフォルムだけどさ。


「これは素晴らしい。まさに神の発明だ」


「ぱーどん?」


 あんたが神の、とか言うとややこしいんだけど。


「美味い。小さい。栄養がある。長持ちする。腹持ちもいい。まさに理想の食事の最終究極形態と言っていいだろう」


「あー、そういう人?」


 なんか子供の頃に、崩壊した未来のディストピアのマンガを読んで、「これがあれば俺は1日生きていけるぜ」とかって言ってそんなんばっか食べてた近所のガキんちょいたな~。

 バラキエルさん、宇宙食とか好きそう。


「でも、それだけだとなんか飽きないかい?」


 あたしは次の日の朝に昨日の夜のカレー食べるのもちょっとアレなのに。


「……ふっ。心配ない」


 バラキエルさんはいろんな色のメイトさんをテーブルにバラバラと置いた。


「プレーン。チーズ。チョコ。ブルーベリー……他にも他にも。じつに多彩な味がある。これはやはり完璧神だ」


「……お、おお」


 なんかもう、それでいいよ。





「……んで? なんであっちの世界のもんがこんなにたくさんあるんだい?」


 食材とか香辛料とか、こっちの世界にはないようなものまで使ってるよね?

 それにこの部屋とか電気とかも。


「……俺は、おまえがいたあの世界が好きだ」


 さっきもそんなん言ってたね。

 超越したのがどうとか。


「この世界にもあっちの世界の要素を取り入れたい。科学を発展させたい。それが俺の目的」


「はぁ」


 まあ、あっちはあっちで良いとこは確かにあるけど、大変なこともけっこうあったと思うけど。


「……俺は、この未来を視る占星術という固有魔法でさまざまな先を視てきた」


 あ、なんかまた語りだしたね。こりゃ長くなりそうだ。あ、でも紅茶おいし。


「……だが、だいたい待っていたのは世界の終わり。物語の終わりだ。そこにあるのは結局は破滅。世界はどこも、終わって終わる」


 うーん。なんか言葉遊びだね。なんだろ。始まりがあれば終わりがあるみたいなことを言いたいのかな?


「……俺はもう、未来なんて視たくはないんだ」


「あれ? バラキエルさんは自分で視たい未来を視られるわけじゃないのかい?」


「……意図的に視たいと思う先を視ることをできるようにはなった。だが、それでもなお、未来は俺に勝手にその姿を視せようとしてくる時もある」


「ふーん。なんでだろね。バラキエルさんに知ってほしいのかな」


「……ふっ。さてね。

 だが、未来を視たところでそれを変えられることはほとんどない。それに何をどう変えればいいかも分からない」


「そっかー」


 それだと何のためにそんな未来が視えるのか分かんないね。


「……だから、俺は魔法なんてなくなればいいと思ったんだ」


「……へ?」


「魔力がなければ魔法は使えない。魔力も魔法もない世界には神の手も届かない。人々は信仰と祈りでもって、微かに神の声を受け取る程度しか出来なくなる」


「……それって」


「……そう。おまえがいた世界だ」


 たしかにあっちの世界には魔力とか魔法とかはなかったし、そんなのはフィクションだった。

 神とか信仰とかはあたしにはちょっと分かんないけど、たしかにこっちよりもそういう存在が不確かだったのは確かだね。


「……俺は、この世界に溢れる闇の魔力を暴走させ、他の全ての属性の魔力でもってそれを相殺。この世界から完全に魔力というものを消失させることにしたんだ」


「そ、それって、そんなことして大丈夫なのない?」


 なんかとんでもない感じになりそうだけど。


「ああ。問題ない。全ての魔法的存在が消滅するだけだ。残るのは自然と動物と人間。そして、魔法を失った魔導天使だけ」


 ん? それって別に魔法がなくなるだけで何も変わってなくないかい?


「……それって、魔獣はどうなるんだい?」


「……魔獣は魔力を元に生まれた存在。魔力がなくなれば当然、魔獣たちも消える」


「……え?」


「だが、それでいい。魔獣もまた超越者だ。魔法のない人間に魔獣は倒せない。平等な、フラット世界に魔獣はいらない」


「そんなんダメだよ! 魔獣たちだって生きてんだから!」


 アルちゃんたちが消えちゃうってことでしょう!? そんなん絶対ダメ!


「……魔獣は俺たち魔導天使が造ったようなものだ。創造主が、自分で造ったものをどうしようが勝手だろう」


「んなわけあるかい! 親が子供を好き勝手にしていいなんてことあるわけないんだよ!

 自分で作ったんなら最後まで責任持ちなよ!」


「……ふっ。おまえは甘い。神でさえそうだというのに。……いや、あるいはだからこそ、神たちはおまえを選んだのか」


「あん?」


 その一人でブツブツ言うのやめてくんない? なんか話が通じてない感がすんごいのよ。


「てか、皇帝はそれで良いって言ってるの? 魔法とかなくなっちゃったら、きっと不便だよ?」


 なんか魔法でいろいろ兵隊とか武器とか強化してるみたいだし。


「皇帝は知らないさ。奴には、その力を手にすれば世界を統べることも可能だとだけ言ってある」


「騙してるのかい!?」


「騙してはいない。魔法という存在がなくなれば、あとは人と人との力での勝負だ。帝国の戦力ならば世界を取れる可能性がゼロではない」


 そこまで言うと、バラキエルさんはにやりと笑みを浮かべた。


「……まあ、闇の魔力の暴走を引き起こした張本人が無事でいられるかは分からないがな」


「やっぱり騙してるやん!」


 結局、真犯人はこの人なんだね。まあ皇帝も世界征服しようとしてるから悪い人ではあるんだけど。


「……てか、それならあたしが皇帝にホントのことを教えてあげちゃえばいいよね」


 そしたら皇帝もそんなのをやる人にはなりたがらないでしょ。


「……ふっ。それは無理だ」


「あん?」


 なぜに?


「……あの皇帝ならば、真実を伝えれば自分ではなく適当な誰かにその役目を押し付ける可能性が高い。魔法ありの状況では結局のところどの国が勝つか分からないからな。

 魔法と魔力をなくして人々が混乱している間に各国に攻めいることは、あの皇帝ならば容易だろう」


 ……たしかに、あの皇帝なら生け贄ぐらい平気でやりそうだね。


「それともうひとつ」


「ん?」


 バラキエルさんがあたしに手のひらを向ける。


「おまえはもう、儀式が終わるまで目覚めないからだ」


「……え?」


「……【催眠(ヒュプノ)】」


「……っ」


 これは強制睡眠魔法。

 ……でも、


「残念だけど、今のあたしには効かないよ。あのときは油断してたのもあって眠っちゃったけど、警戒してればあたしの魔力には通らない」


 どういうわけか、バラキエルさんはあたしに匹敵する魔力を使える。だからちょっとでも油断すればその魔法にかかっちゃう。でも、全開バリバリで警戒してる今ならバラキエルさんの魔法にもかからないよ。


「……ふむ。やはり膨大な闇の魔力に任せた防御は硬いな。だが……」


「……ん?」


 バラキエルさんが指を鳴らすと、あたしの前の空間が揺れて、そこに違う場所の風景が映し出された。


「……カイ、ル?」


 そこに移ってたのはボロボロな姿のカイルだった。血は流れてないみたいだけど、だいぶ傷めつられた後みたいだ。

 その奥では倒れてるサリエルさんと、ご機嫌な様子の皇帝も見える。

 床にはおっきな魔方陣。と、それを囲うようにたくさんのローブの人。


「ちょっ! カイルは大丈夫なのかい!?」


 画面に飛びかかろうとするけど、その映像には触れることさえできないし、声も届いてないみたいだった。


「ああ。無事だ。今はな」


「……あんた」


 映像の向こうにいるバラキエルさんを睨み付ける。


「……カイルにこれ以上何かしたら、許さないよ」


「……それはこちらのセリフだ」


「……は?」


「俺の魔法に抵抗するな。そうすれば、アレにはこれ以上何もしないと約束しよう」


「……あんた、ズルいよ」


 こんな声も手も届かないような場所からじゃカイルを助けには行けない。カイルにこれ以上ひどいことをさせないためには、バラキエルさんの要求を飲まないといけない。

 でも、あたしが眠っちゃうと皇帝に真実を伝えられないし、きっと儀式とやらが実行されちゃう。


「選べ。

 あの男を助けるために、世界から魔法と魔力と魔獣を消すための儀式。それを行うために眠りにつくか。

 あるいはこのまま抵抗を続け、あの男を死なせるか。ああそうだな。おまえが断ればすぐにでもあの男を殺そう」


「……このっ!」


 そんなの、選べるわけない!

 魔獣たちが消えちゃうのも嫌だし、カイルが殺されるのもやだ!


「……選べるさ。人間というのはそういうものだ。絶えず苦渋の選択を強いられ、その中で掴み取れるものを掴み取って生きてきた。それがおまえたちだ。

 この世界は一度、その選択を間違えた。

 今再び、その悲劇を繰り返すか、あるいは正しい選択を掴み取れるか。

 おまえは、どちらを選ぶ?」


「……くっ」


 どうすれば。

 眠ることを選べば、少なくとも今すぐにカイルが殺されることはない。でも、儀式とやらであたしもサリエルさんも、魔獣たちも消える。

 抵抗することを選べば、儀式とやらを行う時間は稼げるかもしれないけど、カイルはすぐに殺される。



 あたしの……あたしの選択は……。



「……分かった。バラキエルさんの魔法に抵抗しないよ」


「……ふっ」


「……でも、約束は絶対に守ってよね。カイルにはもう手を出さないって」


「いいだろう。そもそも目的が達せられればあんな男に興味はない。全てが終わればあの男を国に帰すことを約束しよう」


「……分かった」


 あたしは、信じる。

 皆が絶対に助けに来てくれるって。

 だから、今はカイルの命を守る。

 皆ならきっと、儀式が行われる前に助けに来てくれる。

 あの先生との演習の時だって来てくれた。


 バカ王子。今だけは、あんたのことを信じてるよ。


「……」


 あたしは目を閉じて、両手を広げた。

 自然体で、バラキエルさんの魔法を受け入れる。


「……ふん。【催眠(ヒュプノ)】」


「……っ」


 バラキエルさんの魔力が魔法となってあたしの中に侵入してくる。

 それは眠気となってあたしの意識を奪う。

 あたしの魔力が無意識にそれに抵抗しようとするけど、無理やりそれを抑える。


「……っ」


 抗えない眠気に意識が遠くなる。

 そしてそのまま、あたしは気を失った。


 ……皆、信じてるよ。



「……ふん。人間というのは、どこまでも愚かな生き物だ」



 バラキエルさんのその言葉は、倒れたあたしには届かなかった。




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