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192.皇帝はアレにちょっと似てたよ

 厳かなおっきな扉の前まで連れてかれた。

 途中で逃げ出してやろうとも思ったけど、その瞬間にこのバラキエルさんてばその道の前にいるのよ。

 そんで、


「……分かっていると言っただろう」


 だって。

 いや、なんかちょっと勝ち誇った顔してんのムカつくんよ。

 子供の頃にこういうすぐ得意気になる勉強できますキャラいたわー。野良犬から助けてあげたら変に懐かれて困った覚えあるわ。


「皇帝。ミサ嬢をお連れした」


「……入れ」


 バラキエルさんが扉の向こうに声をかけるとすぐに返事が返ってきた。

 思ったよりもずいぶん若い声。

 皇帝って言ってもまだなったばっからしいからけっこう年近いのかな。


「……よく来たな」


 部屋に入ると、誰もいないおっきな部屋の奥に玉座が置いてあるのが分かった。

 どうやらここは謁見の間みたいだね。

 だいたい王様と会うときって誰かしらお偉いさんがずらりしてるもんだけど、こんな広い部屋に1人でポツンといるとなんか寂しく感じちゃうね。

 んで、その玉座に偉そうに片ヒザ立てて座ってるのが、


「……余が皇帝だ」


 らしい。

 赤い長めの髪。翡翠色の瞳。

 やっぱり若い。あたしと同じか、ちょっと上ぐらい。

 てか余、とか言う人初めて見たよ。

 なにそれ? 言いづらくない?


「おまえがミサ・フォン・クールベルトか。

 おまえには悪いが、帝国と余のために礎になってもらう。

 そもそも余がバラキエルから……」


 てか、まだそっちに着いてないのに喋んないでくれるかい?

 遠いし声ちっちゃいし、なに言ってんのか分かんないんだけど。


 なんか勝手に話し出しちゃったから急いで玉座の前まで向かわなきゃ。


「……というわけだ。分かったな?」


「え? あんだって?」


 ちょ、タンマ。ダッシュしたから息切れなうよ。てか話すの早いよ。今の数秒で全部話し終わったのかい?


「……余が皇帝だ」


「あ、うん。ごめん。そっからやり直してくれるのね」


「……おまえが……えー……」


「……ミサ・フォン・クールベルト」


「そうだ。ミサ・フォン・クールベルトか」


 え? なに、どったの?


「……えー、おまえには、悪いが……えっと、ちょ、ちょっと待て」


「……なんなん?」


 皇帝は慌てて背中から何やら長い紙を取り出して、こそこそと確認し始めた。


「え、えーと、なになに。帝国、と、俺の、ために……そ? に、なってもらう、ぞ」


「そ?」


「……(いしずえ)


「あー、おけおけ」

 

 ちょいちょいバラキエルさんが教えてくれる。もしかして、そのカンペもバラキエルさんが作ったのかい?


「……そもそも……そもそも俺が……えー、」


 ……いやいや、大丈夫?

 皇帝さんってばこんな感じなの?

 とても帝国を支配してる人とは思えないんだけど。

 てか、余キャラはどうしたの?


「……むん!」


「わひゃい!」


 長い長いカンペにイライラしちゃったのか、皇帝は火魔法でそれを焼き尽くした。


「回りくどいことはよい!

 とにかくおまえは余が世界の覇者となるために犠牲となるのだ!

 余のためにその命を捧げられることに感謝するがよい!」


 ……うーん。なんだろ。

 なんかこの人、誰かに似てるんだよなぁ。

 威張ってて偉そうで、尊大って感じ。


「……ふっ。恐怖と感動で言葉もないか」


 あ、これあれだ。

 初めて会ったときのウチとこのバカ王子だ。

 偉そうにしてることが偉いと思ってるタイプ。


「……おい」


「ねー。こんなふうにしたのはバラキエルさんなの?」


「……いや、彼は王太子のときからこんなだ」


「そっかー。やっぱ王室の教育が極端なのかなー」


「……アルベルト王国の第2王子もこんなんだったと聞く」


「まーねー。まー、アレはだいぶマシになったよ」


「……おーい」


「ふっ。アレをそこまでおとなしくさせる方法は是非ともご教授願いたいところだ」


「とかなんとか言って、ソレにあれこれ吹き込んで唆したのもバラキエルさんなんでしょきっと」


「……まあ、な」


「まーったく。バカとハサミは使い様って言うけど、魔導天使がそんなことしちゃアカンでしょ」


「……むしゃくしゃしてやった。反省はしていない」


「……なに? あっちの世界に詳しいの? あーた」


「おい! 余を無視するな! アレとかソレとか言ってバカにしてることは分かるぞ!」


 あ、皇帝怒っちゃった。


「あー、ごめんよー。で、なんだっけ? 光栄に思え、だっけ?」


 つい、ウチのバカ王子を相手にしてる感じになっちゃったけど、あたし拐われてる身だったよ。

 てか、バラキエルさんもノッてくるから。


「貴様……。

 ……まあいい。どうせすぐに消える命だ。せいぜい喚いているといい」


「あ、そだった」


 なんかノリで何とかなるかなって思ってたけど、このままだとあたしこの人に命捧げて死んじゃうんだった。

 てか、魔導天使のサリエルさんもだっけ?


「あ、てか、カイルはどうしてるの?

 ちゃんと無事でいるんでしょうね」


「当然だ」


 あ、バラキエルさんが答えるのね。


「その男がいるからサリエルもおまえも大人しくなる。カイル王子にはその時まで人質をやっててもらう」


「ふーん。そっか」


 それはつまり、あたしとサリエルさんが儀式とやらに使われるまではカイルも無事ってわけだね。

 それが分かっただけでも十分な収穫だよ。


「ふん。まあ実際、おまえと魔導天使が手に入った時点でそんな男は用済みだ。さっさと処分してしまえばいいの……だ?」


「……あんた。あんまりあたしとサリエルさんのことをナメない方がいいよ。カイルに何かしたら、ホントに何するか分かんないからね」


「……な、なんだ貴様。そのバカみたいな魔力は」


 あたしの中の魔力をちょっと解放してやると皇帝はポカンと口を開けて固まった。

 少しは威嚇になってくれたらいいんだけど。


「……心配せずとも大事な人質に何かするようなことはない。おまえらが大人しくしている限りはな」


「……ふーん。そうかい」


「虚勢を張っても無駄だ。念話も召喚も封じている今、おまえに出来ることはない」


「……」


 それは実際その通りだった。

 あたしの能力の大半は魔獣との親和性や使役に使われてるみたいで、あたし個人が使える魔法は極端に少ない。だからせいぜい出来るのはたくさんの魔力で相手を威嚇するぐらい。


「……でも、いったいどうやって念話とか召喚とかを封じてるんだい? そんなこと、たぶんミカエル先生にもできないはずなのに」


 そもそもそれらのシステム? は魔獣と契約ができるあたししか分からないはず。

 構造を知らないのにそれに対抗する術式を作るなんて……。


「……あの人は、きっとやろうと思えば何でもできるさ」


「んえ?」


「……いや、企業秘密、とだけ言っておこう」


 この世界に企業なんてないやん。

 バラキエルさん、どんだけあっちの世界大好きやねん。


「ええい! 余を差し置いて話をするな!」


 あ、ごめん。忘れてた。


「もういい! 準備が整うまで貴様は牢で待っていろ!」


「え、待って! ご飯は!? 帝国が誇る数々の名物料理は!?」


「……そういえば、そんなことも言ったな」


 騙したなバラキエル!!


「……はぁ。もういい。メシは牢に運ばせる。だからもう出ていってくれ」


「よっしゃ! おっけ! じゃー牢屋いこ!」


 なんか皇帝さん疲れちゃったみたいだけど、ご飯あるならそんなんどうでもいいや!


「ったく。調子の狂うやつだ。

 バラキエル。さっさと連れていけ」


「……分かった。来い」


「はいはーい」


 呆れた様子で手でぺっぺされたから大人しく出ていくことにする。





「……わざと皇帝を呆れさせたのか?」


 部屋を出てすぐ、あたしを牢屋に案内しながらバラキエルさんが呟く。


「あ、バレた?」


 皇帝さんの性格的に媚びるよりも怒らせるよりも、それが一番何事も起きずに済むかと思ってね。

 今はまだ騒ぐときじゃない。

 こっちに来てから、あたしもそれなりに学んだんだよ。


「……案外食えないやつだな」


「あたしゃ美味しくないからね」


 だてに長く生きてないんだよ。


「……ふむ。もう少し揺さぶりが必要か」


「あん?」


 バラキエルさんはそう呟くと、ピタリと足を止めた。


「……カイル王子たちに会うか?」


「え!? 会わせてくれんのかい!?」


 急にどうしたんだい? バラキエルさん、そんな良いやつキャラだっけ?


「……こっちだ」


 そう言うと、バラキエルさんは途中の廊下の壁に手をかざした。

 すると壁が動いて、下へと延びる階段が姿を現した。


「……隠し通路」


 先生が言ってたお城の地下ってやつだね。

 カイルたちはやっぱりそこにいるんだね。


「……来い」


「……」


 バラキエルさんに連れられて、あたしは地獄の底みたいに真っ暗な地下への階段に足を踏み入れたのだった。


 カイル。待ってて。いま行くよ。




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