19.一家団欒だったんだけどね
「ミサ!
こっちに来るんだ!」
「ミサぁぁぁ~~~!!」
「おまえも下がりなさい!」
……え~と、ロベルトお兄様が剣を抜いてて、お母様は必死にこっちに来ようとしてて、それをお父様が懸命に止めてて。
で、あたしは皆と向かい合ってて。
なんでこんなことになったのかって言うと、それはあたしの後ろにいるこの子のせいなんだよね。
「はっはっはっ!
ミサはまた学食を品切れにしたのか!」
「まったく、だからほどほどにしなさいと言ったのに」
「まあまあ、母上」
あたしは家族で食事を終え、今はまったりとお茶をいただきながら談笑していた。
それで、今日の実践魔法の授業でのことを話したんだよ。
「ケ、ケルベロスが、懐いた?」
「魔物が人に懐くなど、あり得ないぞ」
「嘘でしょ?」
うん。
皆、ケルちゃんのことを話したら驚いたよ。
やっぱり魔物っていうのは、どうやっても人に懐くことはないらしいね。
「まあ、それもまた、ミカエル先生が皆の記憶をどうにかこうにかしたらしいけどね」
あたしはミカエル先生に研究室でそう言われたこととか、クラリスから言われたことなんかも話した。
「……そうか。
まあ、ミカエル先生ならそうしてくださるだろう」
お父様にそう言わせるなんて、ミカエル先生はよっぽど信頼されてるんだね。
「……ミサ。
いいかい?
その力のことも、決して誰にも言ってはいけないよ。
いや、属性についてなんかより、よっぽどね」
そんなになのかい?
「魔物は人類の脅威だ。
その魔物を従わせ、意のままに操る。
それは、悪用しようとすれば、どこまでも悪用できるものだ」
「……悪用」
それを聞いて、ロベルトお兄様が口を開く。
「僕なら、そうだな。
無数の魔物に敵国を襲わせて、逃げて出てきたところを軍で一網打尽にするかな」
「そんなことっ!」
「たとえばだよ。
でも、それだけ危険な力であることは自覚しておいた方がいい。
それを、無理やりにでもさせようと考える輩が現れないとは言えないだろう?」
「……うん」
「またミカエル先生に詳しく話を聞いた方がいい。
もしかしたら、今回はクラリス殿下やシリウス殿下の記憶にも手を入れているかもしれない」
あたしの属性が闇ってことは、クラリスみたいな王族には伝わってるんだったね。
「いかに今の王が賢王とはいえ、為政者ならば、国を豊かにしていく手段を考えなければならない。
そうなった時、ミサの力を背景に、停戦協定なんてすっ飛ばして、国を統一しようと考える時が来ないとは言えない」
「統一?」
「我が国とともに繁栄の道を進もう!
そなたらの国を廃し、すべてをアルベルト王国とするのだ!
と、魔物の軍勢を背後にすえて言えばいい」
お父様が王様さながらの演技を演じてみせた。
「そ、そんなっ!」
「まあ、あくまでたとえば、だけどね。
ミカエル先生なら、そこまで考えて何かされているかもしれない。
ミサが余計なことを口走って、足を引っ張ってはいけないよ」
「で、でも、研究室ではそんなこと一言も……あっ!」
そうだ。
あの時はあたしが無理言ってクラリスについてきてもらったんだった。
あのあと、クラリスには他に話があるからって残されてたっけね。
「分かったかい?」
「う、うん」
「なら、よろしい!」
お父様はようやくほうと一息ついた。
「しかし、魔物を懐かせる、か。
にわかには信じられんな」
お父様が背もたれに身を任せて、やれやれと言った感じで天井を見上げた。
「まったくだよ」
ロベルトお兄様もそれに合わせて、ハハハと笑っていた。
「あ、そうだ。
それならこれ見てよ!
ミカエル先生から預かったんだ。
あたしが持ってた方がキズの治りも早いし、いいだろうからってね」
「んー?」
「なんだい?」
「あら、何かしら?」
あたしが懐から黒い水晶を取り出すと、皆がなんだなんだと覗いてきた。
「いくよ~!
【解放】!」
あたしがそう言って魔力を注ぐと、水晶はひび割れ、大きな音を立てて砕けた。
「ぎゃおおおおおーーーーん!!」
「……はっ?」
そして、その中からケルちゃんが現れて、高々と声を上げたんだ。
あれ?なんか、さっきより強そうになってないかい?
あ、耳は治ったんだね。
良かったねえ。
あれ?しっぽ、そんなにいっぱいあったっけ?
「ケ、ケルベロス……」
「バ、バカなっ!」
「う~ん……」
「あっ!奥様っ!」
ん?皆どうしたんだい?
ロベルトお兄様?
飾ってあった剣なんて抜いて、顔がひきつってるよ?
わんこは嫌いだったかい?
「ミサ!
こっちに来るんだ!」
え~と?
で、まあ、冒頭に戻るわけだね。