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188.なんじゃいもんじゃい!

「久しぶりに会ってそうそうバカとはなんだ! バカとは!」


「いや、バカにバカって言って何が悪いんだい?」


 人間、素直が一番だろう?


「わ、悪口言っちゃいけないんだぞ! それにバカって言った方がバカなんだぞー!」


「うっさいバーカバーカ!」


「ぬおーっ!」



「……なんか、一生やってれば? なのです」


「まあ落ち着くまで待ちましょう」








「はぁはぁ……」


「はぁはぁ……」


「……もういいですか?」


「「はい、すいません」」


 先生のゴミくずを見るかのような目で我に返ったよ。


「……んで? あんたは何しに来たんだい?」


 そういや、ずいぶん急いで来たみたいだったけど。


「はっ! そうだ! こんなアホなことしてる場合ではなかった!」


 ホントにね。


「おまえら、帝国に行くつもりなのだろう? 俺様も連れていけ!」


「うわー。相変わらず偉そう」


「実際偉いからな!」


 いや、まあそうなんだけどさ。

 自分で言わなくない?


「……ふむ。あの人はまったく、どうやって情報を仕入れているのだか。我々が戻ってくるタイミングさえ把握しているとしか思えませんね」


「……たぶん、アルベルト王国に張られた結界を転移魔法が通過したことが分かるようにしてるか、単純に王国内の人間の分布をすべて感知・把握してるのです」


「あるいはその両方か。あの人なら本当にしかねないのが恐ろしいところですね」


 先生がやれやれと首をふる。

 あの人ってのはきっとお兄ちゃん王子のことだろうね。

 あたしたちが帝国に行こうとしてて、その作戦を先生やアルちゃんが練ってることは秘密にしてるはずなのに、あのお兄ちゃん王子はどこからかその情報を入手してるってことだよね。

 で、あたしたちがアルベルト王国に戻ってきて、あたしが先生たちからそのことを聞いたタイミングでこのバカ王子が来るようにそそのかしたってことね。


 毎度のことながら、その手腕はすごいよねホント。


「おい! なんの話をしている! 聞いているのかっ!」


 んで、まんまとその手のひらの上で偉いんだぞと踊る王子がここに。

 うん。もはやなんか、ちょっとかわいく思えてきちゃうね。


「あーはいはい。いま先生が話してくれるから、ちょっと待っててねー」


「ミサ。ミサは踊らされる側にならないように気をつけるのです」


「うん。わかってるよアルちゃん。横に実例がいてくれるとそれに気付けるからいいね」


「……なるほど。そんな活用方法もあるわけですね」


「おい! おまえら! 俺様のことをバカにしてるのだけは分かるぞ!」


 まー、一番ヒドいこと言ってるのは先生だけどね。


「ムキーッ!」


 あ、怒った。






「さ。では帝国への潜入についてお話しますね」


「……はい」


 結局、バカ王子が暴れようとしたけど先生に成敗されて静かになりましたとさ。


「メンバーはできれば少数精鋭がいいのですが……言って聞くような方々ではなさそうですよね。特にクラリスさんには動かないでもらいたいのですが」


「……無理だな。ミサが行くとなるとアイツも必ず行こうとするだろう」


 あー、そんな気がするね。

 愛されてるのは嬉しいんだけど。


「……王もですが、何よりゼン王子が嫌がるんですよね。クラリスさんが危険なところに行くのを」


「え? お兄ちゃん王子ってそんなにクラリス大好きなの?」


 ちょっと意外かも。


「……表には出してませんが、王とゼン王子のクラリスさんへの愛情はなかなかなものですよ。あの年齢の王女で婚約者がまだ決まっていないのも、ふたりの審査が厳しすぎるのが原因ですし」


「……あー、溺愛しちゃってるのね」


「大事な一人娘ですからね。本当は学院にも通わせずに、城に教師を呼ぼうとしていたのですが、私とシリウス王子がいるからと無理やり理由をつけて、私とクールベルトさんとで何とか説得してクラリスさんを学院に通えるようにしたんですよ」


 それは先生とお父様グッジョブだね。


「……前に、兄上がこっそりクラリスに似た小さい人形を発注しているのを見てしまったこともある……」


「お、おおう……」


 それは、あんたの胸の中に永遠に仕舞っておきな。


「……でも、クラリスの性格なら最悪、お城を抜け出してでもついてくるかもなのです」


「あー、それは困るねー」


 ホントにやりそうなとこが怖いね。


「ええ。それならばいっそ行動をともにさせて側に置いておいた方がいいでしょう」


「うん、そうだね。他のみんなも、その方が良さそう」


 単独で突っ走って内緒の潜入が帝国にバレちゃ意味ないしね。


「そうですね。まあ、クラリスさんのことはスケイルさんに目を離さないように言っておくので大丈夫でしょう」


 あ、そだね。

 なんたって、お互いうふふな感じだもんね。


「てか、先生も行くんでしょ?

 それならそんなに警戒しなくてもちゃちゃっと解決すんじゃない?」


 なんたって無敵超人最強魔導天使様だし。


「……私は行きませんよ」


「なんで!?」


 なんでこういう時っていつも先生みたいなポジションの人って一緒に行かないのさ!

 あんたが行けば全部解決やろ!

 王国最強なんやろ!


「言ったでしょう? 私は帝国に最大限警戒されていると。

 転移魔法はもちろん、どれだけ魔力を抑えても私が帝国に侵入すれば帝国側はそれを必ず感知します。

 帝国をまるごと一掃するような事ならともかく、今回はバレずにカイル王子を救出するのが目的です。なので、私が動くわけにはいきません」


「うーん。そっかー」


 強すぎて有名なのも考えものなんだね。


「それに、この騒ぎに便乗して帝国が他国に進軍しないとも限りません。アルベルト軍の一部を魔獣の森に配置し、あなたたちを外に出す分、王国内の護りは手薄になる。

 その分を私一人でカバーしなければなりませんからね」


「なるほどねー」


 そもそもカイルを拐ったこと自体が陽動かもしれないってことね。


「それに、今回はアルビナスたちが3人とも同行するので、そこまで心配はいらないでしょう」


「え!? そうなのっ!?」


「ぶいっ! なのです!」


 はいかわいい。


「じゃなくて!

 アルちゃんたちは誰かひとりはアルベルト王国にいないといけないんじゃなかったっけ?」


 たしか他の魔獣に示しがつかないとか。抑える役目とか。


「それは問題ないのです。

 今回はミカエルが結界を張って魔獣たちを抑えるし、軍の人間も森を見張ってるから私たちも自由に動けるのです。

 まあ、人間が森にそこまで干渉してくるのは今回だけだけど」


「わかってますよ。あなたたちの領域を侵すようなことはしません。

 今回はお互いの利害が一致しているからこそでしょう?」


「そうなのです。今回だけなのです。

 それに、ちゃんと事前に魔獣たちは私たちが躾をしておくから大丈夫なのです」


 躾って。

 アルちゃん目が怖かとです。


「まーいーや。アルちゃんたちがいるなら安心だね。

 んで、肝心の、気付かれずに潜入するにはどうするんだい?」


 なんか、先生のスペシャルな魔法が炸裂するのかい?


「気合いと根性です」


「うおぃっ!!」


「冗談です」


「うおぃっ!!」


 真顔で言うなっ!


「ここはやはり、人のことをこそこそ探るのが大好きなあのシスコンの力を借りるとしましょう」


 ……先生。ホントにお兄ちゃん王子のことが嫌いなんだね。


「でも、お兄ちゃん王子にはこのことは内緒なんだろ? どうやって手伝ってもらうのさ」


 内緒って言ってもきっともう知ってはいるんだろうけど、一応、公には向こうも手を貸せないでしょ。


「いいんですよ。どれだけ隠そうとしたところで、きっとこうして話していれば勝手にあの人にも伝わりますから。

 手を貸さなければクラリスさんも危ないのです。きっと爽やかでにこやかな笑顔を向けながら、笑っていない目でこっそりと力を貸してくれることでしょう」


 ……いや、いままさにあんたがそんな目をしているけどね。

 きっと対面しても、お互いにそんな感じでにこやかに話すんでしょ。こわっ。


「もう開き直るってことね。

 どうせバレてるんなら手伝わざるを得ないようにしちゃえって感じだね」


「ま、そんなところです」


「まーいいんじゃないかい。そういう悪どいの、あんまり嫌いじゃないよ」


 自分の正義のために悪でさえ利用しようって心意気は分からなくもないからね。そんなのにこだわって救える命も救えなくなっちゃったら元も子もないしね。


「よし! じゃー、次回は久々の全員集合回だね!」


「次回? なんの話だ?」


 こっちの話さ!











「うわ。もーすっかり夜やね」


 結局、いろいろ話をしてたら日が暮れちゃったから、みんなの集合は明日の朝ってことになった。

 いまはアルちゃんと2人で迎えの馬車を待ってるとこ。


「あ、ミサごめん。ちょっとミカエルに伝え忘れがあったのです」


「あ、うん。おけー。いってきなー。馬車きたら待っててもらうから」


「すぐ戻るのです」


 アルちゃんはなんか先生に言うの忘れてたって学院に戻っていった。


 仕方ないから1人でのんびり待つとするかね。


「……今日は満月だ」


 なんだか久しぶりに1人になると、ずいぶん世界が静かに感じる。


「……思えば、こっちに来てからはだいたい誰かが側にいたね」


 最初に会ったのがお父様とお母様ってのは、もしかしたらすんごい幸運だったのかも。

 クールベルト家の領地だったとはいえ森の中だし、下手したら山賊とか魔獣とかとファーストコンタクトだった可能性もあるんだもんね。

 もしそうだったら完全に詰んでたね。いまもあんまりだけど、あのときはホントに戦闘能力皆無だったし。


 学院に入ってからは友達もできて楽しかったね。


「ま、最初っからやっちまったときはどうしようかと思ったけど」


 まさかクズ生徒会長が王子様とは思わなかったよね。ま、あれはあのクズが完璧悪かったから後悔してないけど。

 まあ、そのクズもいまではただのバカになったけどね。


「……ふふ。クズでバカで王子様なのがあたしの婚約者って、どんなよ」


 そんな異世界転生……わりとよく聞くか。


「……ま、そんなバカも、ただ国を守ろうとしてたただのバカなのが分かったけど」


 クズは嫌いだけど、まっすぐなバカはそんなに嫌いじゃないんだよね。

 むしろ、まあ、わりと好み、ではあるんだよね……。


「……って、あたしはなにを! あたしは旦那一筋! 他に気を浮かすなんてないない!」


「ミサ」


「うひゃいっ! アルちゃん! 急に現れないでよっ!」


「……いや、俺様だが」


「うおうっ! タイミングなんじゃいもんじゃい!」


「……なんて?」


 いや、なんでもないですはい。自分でもちょっとパニクってるだけですはい。ステイクールだよあたし。


「な、なんの用だい?」


「……いや、少し、話いいか?」


「……お、おおう」


 よくはないけど、よくはないと言えない雰囲気なやつだろこれ。




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