表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/252

182.2人の馴れ初めはなかなか激しかったよ

 まさかいきなり初対面の、しかも魔獣に対してプロポーズするなんて、さすがは稀代のたらし男カイルだね。


『声で女だと判断したのでしょうが、私に対してそんなバカみたいなことを言ってきたのは彼が初めてでした』


「そりゃそーでしょーよ」


 でも、そんなことを言いながらフェリス様はなんだか嬉しそうだった。


「で? で? フェリス様はどーしたんだい?」


「どうしたのですかっ?」


 そして、フィーナも食いついてきた。

 やっぱいくつになってもコイバナは楽しいよね。


『……彼を燃やしました』


「バーイオレーンス……」


 え? なに? なんか想像してたコイバナと違うんだけど。


『……いや、さすがにいきなりそんな変なことを言ってくる男は怪しすぎるでしょう』


「あ、そりゃそーだ」


 あたしだったら殴ってるね。

 これはフェリス様に一票。


「んで? 火だるまカイルはどうしたんだい?」


『魔法で自分の火を消したあと、土下座してきて再び結婚してくれと言ってきました』


「え……さすがにちょっと引くんだけど」


「たしかに……」


 しかもフェリス様って鳥さんの姿だよね?

 いくらなんでも見境なしすぎないかい?


「で? で? 地面に頭を擦り付けるカイルをフェリス様はどしたの?」


 そのまま飛び去ったとか?


『……踏みつけました』


「バーイオレーンスパートツー……」


 あ、フェリス様そっち系?


『いくらなんでも魔獣の姿の私にそんなことを言うなど、他に狙いがあるのは分かりきっています。

 ただでさえ彼は一国の次期国王。瀕死の人間を完全治癒できる存在を近くに置いておきたいと思うのは無理からぬ話。

 しかし、いくらなんでも明け透けすぎて、さすがに腹が立ったのです』


「あー、まあ、そうよねー」


 さすがにね。いくら見境いなしの女の子大好き最低クズ男のカイルでも魔獣相手にそれは無理があるよね。


「で? カイルはフェリス様に、てかおっきい鳥さんに踏みつけられてどうしたの?」


 さすがに怒った?


『……「もっとやれ」、と』


「うわぁ……」


「お嬢様。もうあいつのことは見捨てましょう。死んだ方がいいです、アレは」


 うん。フィーナ。気持ちはわかるよ。でもさ、あれでも一応王子様なわけよ。しかもサリエルさんも一緒だしさ。もうちょっと、もうちょっと様子を見よう?


「そ、それで?」


『言われた通り、私はさらに彼を踏みつけてやりました』


「え? 大丈夫? なんか良い感じの話に転化する気配が皆無なんだけど」


『しばらくすると彼は、「満足したか?」と尋ねてきました』


 え? なんか無理やり話をまとめようとしてない?

 むしろどっちもただの変態にしか思えなくなってきたんだけど。


『そして、「ちゃんと話したいから人の姿になってくれないか?」と言われ、私は今のフェリスの姿になりました』


 なんか大事なシーンなんだと思うんだけど、私の想像のなかだとカイルの鼻にフェリス様の羽がブッ刺さってて緊張感ないんだよなー。


『そして、私の人化した姿を見て彼は「……やっぱり」と言ったのです』


「え? なにが?」


『……「やっぱり、ひどく寂しそうな顔をしてる」と』


 ……良かった。やっぱりドSな顔してるとかじゃなくて。なんか良い話に向かいそうで、あたしはきっとひどく安心した顔してるよ。


『彼はそのまま言葉を続けました。

「たしかに俺は一国の王子として、貴女のその力を手中におさめたいという思いがないわけではない。だが、それ以上に一人の男として、心で泣いている女を一人にはしておけないんだ」と……』


 ふーん。なんか、なかなかやるじゃんと思っちゃったよ。


「それでそれで?」


『……えーと、再び、彼を踏みつけました』


「え? そっちに戻るの?」


『い、いや、だ、だって。人間のそんな甘い言葉に、だ、騙されるわけない、じゃないですかぁ!』


「わっ! ちょっ! フェリス様、急に揺れないでっ! 落ちるっ!」


『はわわわわ。す、すいません。とりあえず降りましょう』


 突然たどたどしくなったフェリス様はさっきの崖に戻ってあたしたちを降ろすと人化の術で人間の姿に戻った。

 あたしの魔力を吸ったからか、前より顔色が良くなってる気がする。


「と、とにかく、私はそんな甘言には騙されないと言って、彼を山の麓まで飛ばしたんです」


 ……良くなってるというか、赤くなっとる。


「えーと、フェリス様ってそういう経験なかった感じ?」


「あ、あるわけないじゃないですか! 私はリヴァイアサンの次に長期間魔獣の長なんです! そんなことしてる暇なんて……なかったんです……」


 フェリス様は最初ははわはわ言いながら言ってたけど、最後の方は呟くように声が消えてった。

 恋なんてしてる余裕はなかったってことね。


「まー、それはいーや。それで? そのあとはどうなったの?」


「ううぅ。ええと、彼は、それから何度も私のもとを尋ねました」


 フェリス様は真っ赤な顔をようやく鎮めると、また話を始めた。


「今日は花を持ってきた、食べ物を持ってきた、珍しい貝殻を持ってきたと、毎回毎回贈り物を持って、彼はやってきました」


 マメなんだね。そりゃモテるよ。

 でも、こんな堅物でウブなフェリス様の気持ちをどうやって傾けたのかね。


「……ミサ様は、どうして彼が側室を大量に抱えているか、知っていますか?」


「え? 女の子大好きだからじゃないの?」


 あとは世継ぎを確実に残すため?


「……彼が側室に招いた女性たちはほとんど、そうしなければ本人や一族が滅んでいたかもしれない者たちなのです」


「……へ?」


「頻繁に私のもとにやってくる彼の普段の生活が気になって、私はある日、姿を隠してマウロ王国に潜入してみたのです」


 おお。やるね、フェリス様。


「……マウロ王国は今でこそ貧富の差も減りつつあり、貧しさで亡くなる人間の数も減りましたが、かつては貧民街が存在し、なかには奴隷を持つ貴族もいたのです」


「……そうだったんだね」


「カイルはそんな状態にいち早く声をあげました。そして、助けが必要な者に手を差しのべていったのです。しかし、それを快く思わない貴族もいて。

 ある日。そんな貴族の策略にはまって一族ごと潰されそうになっている家がありました。カイルが気付いた頃にはもう手遅れで。

 そこで彼はその家を助けるために、その家の一人娘を自分の側室に迎えたのです」


「ふむふむ」


「さすがに王太子の側室には下手に手を出すこともできないので、その貴族はその家から手を引き、カイルは私財をなげうってその家を再興させました」


「やるじゃないかい」


「その後も彼は次々と側室を迎え、ときには貧民街からも女性を娶り、彼を中心としたコミュニティのおかげもあって国は安定していきました」


「おー!」


 なんか主人公みたいな活躍だね!


「……ですが、それだと目立ちすぎです」


「フィーナ?」


「……その通りです。彼は、今日まで何度も暗殺されかけているのです」


「ええっ!?」


 そ、そっか。たしかにそんなことされたら、格差社会を望む貴族連中にとって都合が悪いもんね。


「もちろん、彼は強いですし魔導天使の加護もあるからそうそう暗殺なんてできませんが、一度だけ、本当に命の危機に直面したことがありました」


「そ、それはどうしたんだい?」


 そういや、なんかそんなことがあったみたいなことを前に言ってたっけ。

 それ以来、サリエルさんがべったりになったとか。


「……私が、思わず助けていました」


「そっか。フェリス様が」


「彼は最初は驚いてましたが、すぐに笑顔を見せて私を抱きしめたのです」


 おお、さすが。


「そして、『やはり俺には貴女が必要だ。これからも俺のそばで、俺のことを守ってくれないか』と言ってきたのです」


 ふむふむ。

 それは刺さる人には刺さるだろうねー。


「私はなぜか、それにこくりと頷いていました」


「おおー!」


「しかもしかも! 彼ったら『貴女のために、正室の席は空けておいたんだ』なんて言うんですよ! これはもう、ひゃー! ってなるでしょう!?」


「わかる! めっちゃわかるよ! そんなんもう、うわー! だよね!」


「お、お二人とも、急に興奮してどうしたのですか?」


「わからないのですか!? ずっとずっと、誰かが迎えにきてくれるんじゃないかって夢見てた乙女のところに本当に本物の王子様が! しかも超絶優しくてイケメンで良い人な王子様がそんなこと言ってきたら、もう完全にオチるじゃないですかー!」


「わかるー! やっぱ女の子たるもの、一度は白馬の王子様に夢見るよねー!」


「……わ、私がおかしいのか? つ、ついていけない」


 はぁはぁ。

 フィーナの素が出てきちゃったから、いったんちょっと落ち着こう。うん。






「まぁ、そんな感じで、私もカイルもお互いにベタ惚れになっちゃって、気付いたら結婚して子供もできましたとさ、みたいな感じなんです」


「き、気付いたらって……」


 フィーナが戸惑っておられます。

 わかるよ。急なキャラ変についていけないんだよね。

 大丈夫。そういう人種もいるんだって思えば大丈夫。

 あたしの姪っ子もそんな子だったから。

 自分の好きなことになると目の色変わるのよ。


 でもなんか安心したよ。

 聖人みたいなフェリス様もこんな感じなんだね。てか、なんならちょっと趣味合いそうだし。


「ま、とりあえず2人の馴れ初めも分かったし、あたしの魔力で回復もしたんだろ?

 じゃあ、さっさとカイルの居場所を見つけとくれよ」


 ちょっと本来の目的を忘れてたけど。


「あ、すみません。元の姿に戻るのと飛翔するのと、再びこの姿になるのでさっき吸いとった魔力は使いきってしまって、固有魔法は使えないんですよ」


「振り出しに戻る!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ