18.1日の疲れをほぐしてもらったよ
「先生、なんの話だろーねー」
「嫌な予感しかしないけどね」
あたしは無理言って、クラリスにもミカエル先生の研究室についてきてもらった。
あの先生と二人っきりなんて、恐ろしくてたまったもんじゃないよ!
「ああ、ミサ君、ようこそ。
クラリス君も来たのですね。
どうぞ、お二人ともこちらへ」
研究室に着くと、先生はにこやかにあたしたちをソファーへと導いた。
「なんか、先生機嫌良さそうじゃない?」
クラリスがあたしにこそっと耳打ちしてくる。
そうかね?
あたしには悪魔の微笑みにしか見えないけどね。
「……クラリス君。
闇属性である私はね。
他人の感情の機微に敏感なんですよ。
ああ、この人はきっと、いま私の悪口を考えているなとか、そういう負の感情は取り分け、ね(満面の笑み)」
ひいぃぃぃぃぃ!
「す、す、す、すみません!」
「いいのです。
むしろ、それぐらい素直な方が好ましい……」
「?」
先生はそう言うと、少しだけうつむいて黙ってしまった。
「先生?
それで、ミサへのお話というのは?」
クラリスが下を向く先生に先を促した。
「ああ、そうでしたね」
先生はその言葉にぱっと顔を上げて、淹れたお茶をテーブルに置いて、自分も向かいのソファーに腰を下ろした。
「ええとですね……」
ミカエル先生の話は、概ねクラリスが先ほどしてくれた話と似ていたよ。
魔物に対する共通認識。
ケルベロスの強さ。
王子の戦いについて。
その上で、王子に模擬戦闘を頼んだのは自分だから、王子は悪くないんだと頭を下げられちまった。
まさかあのミカエル先生に頭を下げられるとは思わなくて、あたしはわたわたしてしまった。
先生にそこまでされたら王子を許さないわけにはいかないね。
あたしがもう気にしていない旨を伝えると、先生もクラリスもほっとした顔をしてたよ。
「先生は、あのバカのことをずいぶん評価してるんだね」
「ああ、私はそのバカの戦闘の師でもありますからね」
あ、先生もバカって言っちゃうんだね。
まあ、お師匠さんなら許されるのかね。
「それに、彼は確固たる信念を持って、彼なりの正義感の元で行動しています。
そしてそれは、すべて国のためを思ってのものです。
その方向性に迷うことはあっても、その姿勢だけは評価してやりたいのです。
他の教職員が正しく彼を評価できないなら、なおさらね」
最後の言い方が気になっちゃったけど、王族だからと、盲目的に王子をおだてたり、彼の蛮行を見て、裏でこそこそと邪険にしたりする教師が多いのだと、クラリスが耳打ちしてくれたよ。
「方向性ねえ」
「……あとは、その方向性を正してくれるパートナーが横にいてくれれば良いのですが」
「え?何か言ったかい?」
「いえ、何も」
2人してうんうん頷いてどうしたんだい?
まあでも、あの王子にもそれなりに考えがあってのことだったんだね。
正義感なんて言われたら、ちょっとは考えてあげなきゃかね。
まあ、その方向性とやらが一番肝心なんだけどね。
そこが相容れないなら、あたしはやっぱりその相手とは仲良くなれない。
旦那とは、そこが本当に尊敬できたから一緒になったんだ。
「あ、そうそう。
あと、ミサ君にはこれを渡しておきます」
「え?
あ!これって!」
「ただいま~」
「おかえりなさいませ!
お嬢様!」
家に着くと、メイドのフィーナが嬉しそうに出迎えてくれる。
クールで仕事のできるフィーナが嬉しそうに破顔する姿はいつ見ても癒されるねえ。
「……お疲れのようですね、大丈夫ですか?」
フィーナが心配そうにこちらを覗き込んでくる。
言われてみると、今日はたしかにいろいろあって疲れたかもしれない。
「そうだね。
ちょっと授業がハードだったのかもしれないねえ。
またご飯の時にでも話すとするよ」
そう言って笑顔を見せてやると、
「……そうですか。
では!夕食前にお風呂に入りましょう!
そのあと、わたくしがたっぷりマッサージを致します!」
「そ、そうだね。
お願いするよ」
「はい!!」
フィーナのマッサージはたしかに気持ちがいい。
でも、その怪しい笑顔はやめてくれないかね。
なんだか、少し怖いよ。
「ああ、やはりお嬢様はお美しい……」
……フィーナ。
だから、なんでパン1の時に手が止まるんだい?
しかも、これからお風呂だよね?
え?脱ぐ度にそれやるのかい?
「ぐあぁぁぁぁ~~!」
「ふふふ、どうですか?
お嬢様?」
「おおおお~~~~!
そこそこ~~~~!」
「ふふふふ、ここなんてどうです?」
「ひゃふぅぅ~~~~!」
……うん、声のクセとか言わないどくれよ。
おばちゃんのマッサージ受けてる時の声なんてこんなもんなんだよ。
横に控えてる他のメイドが笑いをこらえてるのには気付かないフリしてるんだから。
フィーナのマッサージで自分の思考もほぐされていく気がするね。
あの王子にも、いろいろ考えがあったんだ。
それを頭ごなしに否定してしまうのは、あたしの中の正義感にもとる気がするよ。
「まあ、話ぐらいなら、聞いてやるとするか、ねえええぇぇぇぇ~~~~!!」
「ふふふふふふふふ!!」