171.ケバブって砂漠の食べ物なの?
「王都! イスタンなブール!!」
「なにそれ?」
「私の中のイメージ像!」
砂漠を平らにしたとこに建物をいっぱい建てて、国を作ったって感じ。
でもすごい高い建物とかもあって、ちょっとドバーイ! な感じもあるかも! 実際はそんな高さないけど。
あれ、なんて言うの? あのちょっと丸っこくなってる玉ねぎみたいな屋根のやつ。あれがちょいちょいあって、あととんがってる尖塔? みたいのもちょいちょいある、まさにイメージ通りの砂漠の中の国! って感じだね。
道行く人たちはターバンを巻いてたりフードを被って顔のほとんどを隠してたり、そっちもまさにな砂漠感。
おおっと、ラクダみたいな生き物の綱を引っ張って歩く商人らしき人。
うんうん。雰囲気あるよ~。
「おおい! そこの嬢ちゃんたち、ケバブ食べるかい?」
「食べる~!」
「……お嬢様」
出店を構えるおっちゃんに誘われてケバブゲット。たぶんケバブ。なんの肉かわかんないけど。
フィーナがしぶしぶお支払い。ホントにダメなときは買ってくれないから仕方ないなぐらいなんだろね。
「わーい!」
「おいしいわよ!」
ケルちゃんとルーちゃんにももちろんあげる。
というより、こういうときはルーちゃんが毒味を兼ねて先に食べてくれる。ルーちゃんに毒は効かないからね。
美味しそうに食べるルーちゃんを見てからあたしも一口。
「うはっ! うんまっ!」
何の肉かわかんないひき肉の旨味がじゅわっと、外側の皮? との相性も最高だね!
「……」
「あ、フェリス様も食べるかい?」
「え?」
なんか物欲しそうな顔してたから、あたしがかじったやつだったけどフェリス様にケバブを差し出した。
「……い、いいのですか?」
フェリス様は驚きながらも嬉しそうだった。
笑った顔めっちゃかわいい。
「……フェリス様。自重してください」
「へ?」
「……はい」
でも、一緒にいた隊長さんにたしなめられて、フェリス様は残念そうに引き下がった。
「えー! ダメなの~? ちょっとぐらいいいじゃないかい!」
「……規則ですから。それにフェリス様は身重の身です。万が一のことがあったら困りますので」
「えー……」
まあ、そうなんだろうけどさー。
「……いいのです。ミサ様。ありがとうございます」
フェリス様はそう言うと、テクテクと歩いていってしまった。
心なしか、足取りがとぼとぼしてる気がする。
この人は、今までずっとこうやっていろいろ我慢して生きてきたのかもしれないね。
王太子妃ともなればいろいろ大変なんだろうね。
あれ? あたしも一応王子の婚約者じゃなかったっけ?
こんな自由だけどいいのかね?
「……お嬢様に関しては皆もう諦めてますから」
……フィーナ。ミカエル先生みたいに心の声を読むのやめてくれるかい?
「着いたー! でっかーい!」
「ホントだー!」
「すごいわねー!」
で、しばらく歩いて王都の真ん中にあるお城に到着。
アルベルト王国のお城とおんなじぐらいおっきいけど、形はけっこう違う。外観がレンガとか砂とか石とかが多い感じ?
とりあえずピラミッドじゃなくて良かったよ。なんかあれ迷いそうだもん。
「ん? てか、そういやケルちゃんいつの間に戻ってたの?」
そういや、さっきケバブ食べるときにはもう子供の姿になってたね。
「ふふふ、イッツアマジック!」
そう言って両手を広げるケルちゃん。
あ、それあたしが教えたやつ。
どうやらトイレ休憩とかでバタバタしてる隙に人化したらしい。
騎獣は王都の外で待たせているとフィーナが説明してたみたい。
なんか子供が1人増えてるけど、皆あんま気にしてないみたいだからいっか。
「では、フェリス様は自室に。
おい。お連れしろ」
「はっ」
隊長さんの命令を受けて、フェリス様は兵士さんに部屋に連れていかれた。
別れ際、フェリス様が意味深な視線をこっちに向けてきたけど、嫌な予感しかしないね。
「では、皆さんはこちらに。
王に状況を説明して謁見の準備を整えますので、ひとまずお部屋で休憩していてください」
隊長さんはそう言うと、あたしたちをゲストルームに案内してくれた。
ゲストルームはやっぱりすんごい広かった。
逆に落ち着かないわって思うのはあたしの貧乏性が抜けてないからなのかね。
「こちら。マウロ王国名産のアイリスの花茶でございます」
隊長さんが部屋を出ていったあと、メイドさんがお茶を淹れてくれた。
黒髪黒目に褐色の肌のメイドさん。
うん。これはこれでいいね。
白を基調としたかわいらしいメイド服とよく合ってるよ。
「ありがとう。メイド服、かわいらしくてよく似合ってるね」
そう言うとメイドさんは嬉しそうにしてくれた。大人びて見えたけどまだ若い子みたいだね。あたしよりちょっと下かも。
ホントは「そのメイド服を着たあなたがかわいいね」とか言おうとしたけど、他国の子だし、気持ち悪がられそうだからやめといた。
誰か褒めて。
「……おいしい!」
アイリスの花茶? はとても香り高くて、小さなピンク色の花が浮いていて見た目にもかわいい素敵なお茶だった。
「……あの」
「ふが?」
その後、ケルちゃんたちとお菓子の取り合いしてたらさっきのメイドちゃんがおずおずと話し掛けてきた。
フィーナは付かず離れずの位置で立って待機してる。
遠征とかのとき、フィーナが持参したもの以外の飲食物を食べてるところを見たことない。
きっとそういう決まりなのかもしれないけど、それを「仕事ですから」の一言で片付けちゃうフィーナカッコいいよね。
「……フェリス様のことを助けてくださって、ありがとうございました!!」
メイドちゃんはそう言って、バッと頭を下げた。
「……フェリス様はあまりお体が強くなく、この度のご懐妊も念願叶ってのものでした。
それがカイル殿下がいなくなり、フェリス様も捜索のためにお城を抜け出してしまい、私はとても心配しておりました」
「そーだったんだ」
きっとフェリス様はカイルのことが大好きなんだね。
「カイル殿下も普段は女性に対して気安い態度を取りがちですし、王族として側室を大勢抱えていますが、やはり最も大切になさっているのはフェリス様なのです。そして、フェリス様もカイル殿下を心から慕っていて……」
カイルは最初とんでもないナンパ野郎なんだと思ってたけど、そんな事情があったんだね。
そう思うと一夫一妻制のアルベルト王国って王国としては変だよね。
王様は国のために世継ぎをたくさん作らないといけないのに奥さんは1人だけって。
日本で育ったあたしからしたら普通だけど、他の国から見たらアルベルト王国の方が変なのかも。
「……あなたも、フェリス様が大好きなのね」
「ふぇっ!?」
おお。真っ赤になって。
かわええのう。
「そ、そんな、畏れ多いです!
フェリス様は私のような平民出のメイドにも優しくしてくださるお方で。フェリス様を慕う者は城内にも少なくないのです」
「そーなんだー」
さすがは時期王妃様だね。
こりゃ、何がなんでもカイルを無事に連れ戻さないとだね。
「失礼します。お待たせしました。
謁見の用意が整いましたので、どうぞこちらへ」
その後、さっきの隊長さんが呼びに来たからあたしたちは王様と会うために部屋を出た。
カイルのお父さんか。
いったいどんな人なんだろうね。
「カイルが! カイルが見つからないんだよ~!! 助けてくれよ~!!」
「……うわーお」
まーた面倒くさそうなキャラだね。




