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170/252

170.そっちはそっちで大変そうだけど、こっちはこっちで大変なのよほほほほ

「……陛下。それでは、こちらは手筈通りに」


「……ああ。今回の件、秘密裏に動くにはおまえのところの諜報部隊が役に立つだろう。動かし方は任せる。好きにするといい」


「はっ」


 アルベルト国王の執務室。

 いまこの場には王とゼン第一王子、そして魔導天使のミカエルがいた。

 3人はたびたび国の運営についてここで秘密裏に話し合っていた。

 複雑な結界によって外から見聞きされないこの場所はさまざまなコトを話すのに最適だったのだ。


「……ゼンよ。くれぐれも慎重にな。おまえの手腕は信頼しているが、今回はあちら側に決して気取られてはならないのだ」


「分かっております。だからこそ、私に今回の件を一任していただけたのでしょう?」


「……うむ。そうだな」


 念を押すかのような王の言葉にゼンは確固たる自信を持って応えた。

 王もそれに自らを納得させるように頷いた。


『よっ、と』


「「「!!!」」」


 そのとき、ゼンの影から1枚の紙切れが姿を現した。

 人の形をした小さな紙切れはそこからハッキリと声を発した。

 3人はその声と、王室の結界を抜けてくるなどという芸当をしたことから、すぐにその人物にアテがついた。


「……ツユ、か」


『あ、どうもですー』


 ゼンが自らの影から現れた紙切れに呟くと、その紙切れは片手をあげてそれに応えた。


「……それは緊急時にしか使えない最終手段のはずだが?」


 おそらくは王にもミカエルにも秘密で、切り札として用意させておいたであろうものを突然披露され、ゼンは紙切れ、もといツユを冷たく見下ろした。


『そうなんですよ~。いままさにその緊急時でしてー』


 ツユはそんな切羽詰まった状況とは思えないほどのんびりと話していた。


「……その術については今は置いておくとして、そちらの状況を教えていただいても?」


 ミカエルは緊急性を感じて話を進めた。

 ゼンの様子から本当に突発的な出来事なのだと感じ取ったからだった。


『あ、ミカエルさんもいるんですねー』


「!」


 どうやらツユの方にこちらの視覚情報はないようだった。


「ええ。いまここにはゼン王子と王と、私しかいません」


『ふむふむ。それはちょうど良かったですー。ちょうど情報を伝えようとしていた方々が揃っていたんですねー』


「……それで? こんなことをしてまで我らに伝えたいこととは?」


『えっとですねー』


 王にせっつかれ、ツユはようやく本題に入る。


『とりあえず私は帝国に捕まっちゃいましたー』


「……捕まったのか? おまえが?」


 ゼンはそもそもその事実を信じられないような表情をしていた。


『そうなんですー。すいませーん』


「……続けろ」


『はいー。えっとー、結論から言うとカイル王子は帝国に拘束されてますねー。しかもサリエルさんも一緒ですー』


「……ほう」


「魔導天使も捕らえられたというのか……」


「……」


『とりあえずは無事みたいですけどー、帝国は何やら狙いがあるみたいですねー。

 あ、あとー、少し前に皇帝は崩御して、第一王子が新しい皇帝に即位していたようですー』


「!!」


 さらりと重大な事実を述べられ、3人は驚きを隠せなかった。


「……ゼン」


「……いえ、俺も、認知していませんでした」


 その様子から、どうやら本当にゼンもそのことを知らなかったようだ。


「ここまで他国に情報を伏せることができるとは……」


『何やら帝国はいろいろな力を研究しているみたいですよー。カイル王子とサリエルさんは無感情に、統一された命令通りに動く大量の兵士たちに戸惑いながら相手をしているうちに後手後手に回ってしまったみたいですー』


「それは、ゼンの……」


「……固有魔法の研究か」


「……」


『とりあえず調べられたのはそれぐらいですかねー。あ、あと私の侵入経路と調べられるだけ調べた帝国内の地図を渡しときますねー。てか、この紙型がそれなのでー』


「ああ。それは助かる」


 パタパタと動く人型の紙切れをよく見ると、何やら細かく書き込みがされていた。


『そんなところですねー。てなわけで私は今回はこれ以上お役に立てないのであとはお好きに頑張ってくださいねー。

 あ、お暇があったら私のことも助けてくれてもいいですからねー』


 それだけ言うと紙型は力を失ったようにパタリと倒れ、そのまま動き出すことはなかった。

 ゼンはただの紙切れとなったそれを拾い上げて中身を確認する。


「……かなり詳細に書き込まれていますね」


 ゼンは一通り確認するとそれを王に渡した。


「……ふむ。控えを取ったらこれも作戦に加えろ。罠の可能性もあるが、ツユがわざわざそんなことに加担する必要もないだろう」


「ツユのことはどうしますか?」


「放っておいていいだろう。本当に出ようと思えば自力で逃げるだろう」


「わかりました」


 王から紙を受け取ると、ゼンは足早に部屋を出ていった。


「……どう思う?」


 ゼンが部屋を出たことを確認すると王はミカエルに意見を求めた。


「……帝国の狙いは分かりませんが、おそらく火急の事態ではあるかと。

 奴らは魔導天使でさえ無効化させる(すべ)を開発しつつあるようです。手をこまねいていれば取り返しのつかない事態になりかねません」


「……ふむ。水面下で迅速に進めるしかないな。

 ミサ嬢の進捗も合わせて把握しておくように。うまく事が運んだら、カイル王子の居場所だけでなく皇帝の居場所も調べてもらうように」


「……わかりました。

 では、私も少し失礼します」


「うむ」


 王に一礼したからミカエルは部屋を出た。

 ミカエルが部屋から出ると外で待機していた護衛たちが代わりに部屋に入る。







「……」


 ミカエルはそのまま城に用意された自室に戻る。

 常時張っている結界とは別にさらに結界を張り、部屋の隠密性を上げる。


「……それで? 私にまだ何か?」


『はいー』


 誰もいない部屋でミカエルが呟くと、ミカエルの影から紙切れが現れる。

 どうやらミカエルにも同じ術式を仕込んでいたようだ。


「……王族にさえ言えないようなこと、ということですか?」


『えーとですねー。私や魔導天使を封じているこの装置。これたぶん魔法的な何かじゃないんですよー』


「!?」


『あと、帝国の狙いは儀式を行うためのようですー』


「……」


『で、その儀式とやらに魔導天使の血が必要だとかー』


「……そういうことですか」


 ミカエルはツユの報告に何やら心当たりがあるようだった。


「……あなたは、手を貸してはいただけないのですか?」


『あー、もしかして、もうけっこう気がついてますー?』


「さすがにここまでやられれば……。まあ、魔導天使のなかでも私だけなのでしょうが」


『まーそーですねー。でも、残念ながら今回は私はもう動かないですー。皆さんで頑張ってみてくださいねー』


「……わかりました」


 ミカエルの返事を聞くと紙切れはボロッと崩れ、そのまま消滅してしまった。


「……まずは、ミサさんの進捗を聞いてみますか」


 ミカエルはそう呟くと結界を解いてアルビナスのもとに向かったのだった。















「カ、カイルの奥さん!?」


「あら? 主人を知ってるのですか?」


 助けた女の人はやっぱりカイルの奥さんだったらしい。

 とんだ偶然だね。

 フィーナが王様からの書類を見せて事情を説明する。

 討伐隊の隊長さんも一緒に確認してくれたから話はひとまず丸く収まったよ。


「……そうですか。アルベルト王国からの」


 隊長さんは少しだけ落胆したような表情を見せた。

 カイルの捜索に手を貸すために向かわせたであろう人材があたしだけだからだろうね。アルベルト王国は手を貸さないというスタンスを理解したんだと思う。

 まだこの人たちには本当のことを話してない。誰が帝国に通じてるか分からないからね。

 あたしが東の魔獣の長に会うために来てるってことは、まずは王様にしか話さない予定なんだよね。


「……まずはカイル殿下の奥方を助けていただき感謝いたします。このまま王宮まで案内しましょう。

 フェリス様も一緒に王宮まで戻っていただきます。宜しいですね?」


「……仕方ないわね」


 フェリスって呼ばれたカイルの奥さんはしぶしぶ同意した。たしかに旅の同行者も足もなくなっちゃこの砂漠から出るのも難しいだろうからね。

 てか、お腹に赤ちゃんがいるんなら長旅なんかしちゃダメだよ。




「では、出発しましょう」


 こうして、何人かの兵士さんをそこに残してあたしたちは王都に向かった。

 出だしからバタバタだけど、果たしてうまくいくのかね。いや、うまくいってくれなきゃ困るんだけど。

 東の魔獣の長さんは、いったいどんなのなんだろね。




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