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169.また新たな謎キャラがががが

「わー……でっけー……」


 いまあたしの前には巨大なミミズが砂漠の中からザッパーンしてるわけで。

 それが前の方にいた商人さんらしきグループをまるごとドッパーンしたわけで。

 え? デカすぎない? それこそ電車がうねうね蠢いてる感じなんだけど。知ってる? 電車ってホントに下から見るとけっこうおっきいんだよ。いつもはホームから見てるから分かんないけど。って、あたしは何の話を……。


「え? てか、あのミミズって肉食じゃないんでしょ? めっちゃぐちゃぐちゃ食べてるけど」


 それこそ良い子には見せられないぐらいの映像が流れてますけど。


「……おかしいですね。サンドワームは比較的穏やかな気性の持ち主で、移動で人を巻き込むことはあっても、ああして積極的に人を襲ったり、ましてや食べるなんてことはしないはずなのですが」


 まあ、暴走列車に巻き込まれてぐしゃーなるのも困るけど、それが好んで襲ってきたらたまったもんじゃないね。


『……あいつ。なんかおかしいよ』


「ん? ケルちゃん?」


 鼻をくんくんさせてたケルちゃんが首をかしげる。

 何やら巨大ミミズに異変を感じ取ったみたい。


「そうね。なんか魔力の流れがおかしいし、この距離に私たちがいて魔獣が気付かないわけないもの」


 ルーちゃんも訝しげな表情をしてる。

 ケルちゃんとルーちゃんは魔獣が襲ってこないように、魔獣にだけ分かるように自分たちの気配を放っているらしい。

 あのミミズにはそれが分かんないみたい。


「魔力の流れがおかしいってどゆこと?」


 あたしはそんな魔力の流れを見るとかいう芸当できないから分かんないんだけど。


「ん~、詳しくは分からないわ。でも、なんていうか前に見たときのサンドワームの魔力と違う。なんだろ。魔力がかき乱されてるみたいな?」


「うーん。よく分かんないね」


 ルーちゃんは東の魔獣の長さんと知り合いみたいだし、アレにも前に会ったことあるみたいだね。

 にしても、どうゆうことなんだろ。


「……私も、魔力や魔法に関してはあまり詳しくないので……」


 答えを求めてフィーナの方を見ると、フィーナも申し訳なさそうに首をかしげてた。

 アルちゃんとかミカエル先生なら何か分かるのかね。


『ミサ、どーする? 危ないならアイツ倒しちゃってもいいし、遠回りして避けてもいいけど』


「んー……」


 ケルちゃんたちなら倒せちゃうんだろうけど、なんか変みたいだし危ないからやめといた方がいいかね。

 商人さんたちはもうとっくに手遅れだろうし。


「迂回しよ。フィーナ。あとで討伐に出てるっていう兵隊さんたちに報告しとくことって出来る?」


「承知しました。私がやっておきましょう」


『おけー。じゃー回り道して行くよー』


 ケルちゃんはそう言って、くるりを踵を返そうとした。

 そのとき……。



『……けて』



「ん?」


 いま、誰か何か言った?


「お嬢様。いかがなさいましたか?」


「いや、いま何か誰かが……」



『助けて……』



 念話?


「……ケルちゃん、ルーちゃん。いまの聞こえた?」


『なにがー?』


「サンドワームの地滑りの音しか聞こえないわよ」


 2人には聞こえてない?

 たしかにあのミミズの這いずり回る音がすごいけど。あの念話はあたしにだけ聞こえるように送られたってこと?

 でも、あたしの知ってる声じゃない。

 それに、それが送られてきてるのは……。


「……ごめん。ケルちゃん。やっぱりあのミミズ倒して」


「お嬢様?」


『え? あ、おっけー』


「どーしたのよ、ミサ」


「うん。ちょっと気になることがあってね」


 お願いすると、ケルちゃんはすぐにミミズの方に走ってくれた。

 頼んだはいいものの、あのでっかいのどうやって倒すんだろ。


『どーしよっかー。僕が焼いてもいいけど、あんだけおっきいと時間かかるかなー』


 あ、とくに考えてなかったのね。


「私がやるわよ。あいつに触れられる位置まで行ってくれればいいわ」


『おっけー』


 どうやらルーちゃんがやってくれるらしい。

 ケルちゃんがぐんって一気にスピードを上げてミミズに向かう。

 まだ商人さんたちのとこでもぞもぞしてたミミズがようやくこっちに気付いた。


『シャギャーーーッ!!!』


「うるさっ!」


 あたしたちの接近に気付くと、ミミズはでっかい声で威嚇してきた。

 でもなんていうか、小型犬が大型犬に頑張って威嚇してる感じ。大きさは逆だけど、たぶん格が違うのをさすがに理解したんだと思う。


『ジャッ!』


 ミミズは逃げられないって思ったのか、果敢にも体をうねらせて尻尾? を振るみたいにあたしたちに攻撃してきた。


「……やっぱりおかしいですね。サンドワームにあんな習性はありません。普通なら追い詰められると地面に潜って逃げるのですが」


 そーなんだ。

 実際、向かってくるよりそうやって逃げた方が生き残れる可能性はあったと思うけど。


『よっ』


 ケルちゃんは横薙ぎに向かってきたミミズの体を軽くひとっ飛びで飛び越えると、ミミズの頭? の上に直接着地した。


「よいしょっと」


 ルーちゃんはケルちゃんから降りると、ミミズの体に手を当てる。

 

「ほいっ」


『ギャッ!?』


 ルーちゃんの手が一瞬紫色に染まったかと思ったら、それがすぐにミミズに移動して全体に広がっていった。

 ミミズが体をびくん! と揺らす。


「よいしょ」


 ルーちゃんが再びケルちゃんの背に戻ると、すぐにミミズは糸の切れた人形みたいに地面に倒れ込んでいった。

 ズズーン! ってすごい音があたりに響く。


「終わったわよー」


 ルーちゃんが言う通り、ミミズはすでに息絶えてるみたいで微動だにしない。


「……さすがは即死の蜘蛛ですね」


「ルーちゃんすごい! あんなでっかいのも倒しちゃうなんて!」


「えへん! もっと褒めていいのよ!」


「えらいえらい! いーこいーこ!」


「ふふふふー」


『ずるーい! 僕も~!』


「はいはい。ケルちゃんもジャンプすごかったよー。ありがとねー」


『わーい!』


 うんうん。ウチの子たちは優秀だし良い子だねぇ。


「それよりお嬢様。気になることがあると仰ってましたが」


「あ、そだった」


 フィーナに言われて本来の目的を思い出す。


「えーと、あの辺かな? ケルちゃん。あそこらへんに降りてくれる?」


『おっけー』


 あたしたちは念話が聞こえてきた方向に向かった。


「うわ。悲惨ねー」


 そこは襲われた商人さんたちがいたところ。

 現場はもう大変な惨状だった。


「ぐちゃみそで誰が誰だか分かりませんね」


「……フィーナ。言い方がちょっとグロいよ」


 気持ちは分かるけど。


『……ミサ。生きてる人がいるよー』


「!」


 ケルちゃんが鼻をくんくんさせて教えてくれた。


「ケルちゃん。どこか分かる?」


『んー、あの荷車の破片の下かな』


 ケルちゃんはすぐにそこに行ってくれた。

 砂漠を越えるための騎獣に荷車を引かせて商品を運んでたみたいだね。

 いまはそれもバラバラになってる。


「……う」


 その中のおっきな破片の下で誰かの声が聞こえた。


「誰かいる! ケルちゃん。あれどかして!」


『ほーい』


 人の手じゃ動かせないほどの大きさの破片だったけど、ケルちゃんは片手で軽くその破片を吹き飛ばした。

 そこには薄紫色の薄い膜に包まれた女の人が倒れてた。


「生存者!?」


「大丈夫かい!?」


 あたしたちが近付くと、その人を包んでた膜は小さくなって消えていった。


「……うぅ」


 女の人はケガをしてるみたいでお腹を抑えてた。それにずっとでっかい破片の下敷きになってたんだから痛かったよね。


「大丈夫かい! ほら、口開けて! これ食べて!」


 あたしは持ってた荷物のなかから手作りのクッキーを取り出した。


「お嬢様!?」


「大丈夫。何とかなるから」


 フィーナは驚いた顔をしたけど、あたしにはちゃんと用意しておいた文言がある。


「……う。これ、は?」


 女の人は意識はあるみたいだった。薄く目を開けてクッキーを見る。

 いきなり知らない人からクッキー食えって差し出されてもだよね。しかもいまクッキーってね。


「大丈夫。アルベルト王国で携帯用に開発してる乾燥お菓子型のポーションだよ」


「ポ、ポーション?」


 これはお兄ちゃん王子にあたしが作ったお菓子にポーション効果があるって報告したときに、ミカエル先生がお兄ちゃん王子が提案してくるかもしれないって言ってたことなんだ。

 通常、劣化を防ぐために特殊な加工を施したガラス瓶に液体の状態で入れておくポーションなんだけど、これが遠征とかではけっこうなお荷物になるらしくて。重いし割れやすいからね。

 だから、きっとお兄ちゃん王子は遠征用にあたしにお菓子をいっぱい作るように言ってくるかもしれないってことだったんだ。

 まあ、結果的にカイルのこともあってうやむやになったけど。

 とにかく、あとでこの人が事の真偽を確かめようとしても他国が開発中のことだから裏は取れないし、万が一アルベルト王国に聞かれてもすでにお兄ちゃん王子はあたしが微妙なポーションを作れることは知ってるから問題ないってわけ。


「……ん」


 女の人はちょっと怪しんでたけど、放っとけば死んじゃうかもしれない自分にわざわざ嘘をついて悪いものを食べさせる理由もないと思ったのか、あたしが差し出したクッキーを食べた。

 ごめんよ、いまクッキーなんて食べにくいよね。今度はもうちょい食べやすいの作るよ。


 もぐもぐとしっかり噛んでから、女の人はごくんとクッキーを飲み込んだ。

 

「!!」


 その瞬間、女の人は目を見開いてガバッ! と体を起こした。


「あ! まだ急に動いちゃダメだよ!」


 たぶんケガは治ってるんだろうけど、流れた血とかは戻らないんだからね。


「……これは、最上級のポーションレベル?」


 女の人は自分の体を見ながら、信じられないといった顔をしてた。


「……これは、いったい」


 女の人が戸惑った表情でこっちを見上げる。


「こちらはアルベルト王国が極秘で開発中のものです。今回は緊急の案件ということでお嬢様が特別に貴女に差し上げました。

 命の対価は沈黙でお願いしたい所存です」


 そこでフィーナがすかさずそう口添えする。

 助けてやったんだから余計な詮索はすんなよってことだね。


「……分かりました。命の恩人に対してそのような無粋な真似は致しません。今回のことは私の墓場まで持っていくことに致しましょう」


「ありがとうございます」


 女の人も理解したみたいで恭しく頭を下げてくれた。

 この言い方や所作からして、もしかしたらけっこう高貴な人なのかもしれない。

 とっても綺麗な人。黒目黒髪で褐色の肌。マウロ王国の人だね。髪は肩より少し長いぐらい。耳の上の編み込みがかわいい。たぶん、あたしよりちょっと年上。カイルぐらいかな?

 前の世界のアジアンな民族衣裳みたいのを着てる。アクセサリーもそんな感じだね。いまはちょっとボロってなっちゃってるけど。


「……それにしても、このサンドワームはあなたたちが?」


 女の人は驚いたように横たわるミミズを見渡す。


「はい。優秀な護衛たちなので」


 フィーナがそう答えると、ケルちゃんは鼻を鳴らし、ルーちゃんは腰に手を当ててえへんてした。うん、いいぞ。かわいいぞ。


「……な、なるほど」


 女の人は言いたいことを飲み込んで納得してくれた。

 そうだね。突っ込んだら負けだよ。

 こいつらはそういうめちゃくちゃな奴らだって思ってくれればいいから。




「こ、これはっ!?」


「サンドワームが死んでるぞ!」



「?」




 しばらくすると、遠くから大勢の人の声が聞こえてきた。


「あれは、おそらくサンドワームの討伐隊ですね」


 おっきい強そうな馬みたいなのに乗った男の人たちが隊列を組んで近付いてくる。

 黒髪の人が多いから、マウロ王国の軍の人なんだろうね。


「生存者か」


 先頭にいる顎ヒゲをたくわえたイケオジが声をかけてきた。隊長さんかね?


「これはいったい……! あ、あなたは……っ!」


「?」


 イケオジな隊長さんはあたしたちを軽く見回したあと、女の人を見つめて驚いたような顔をした。

 知り合いだったのかね?


「な、なぜ貴女様がここにおられるのですか!」


「……夫が行方不明なのです。探しに行くのが第一婦人である私の役目というものでしょう」


「へ?」


「カイル殿下のことは軍が探しております! それに、貴女様のなかには殿下とのお子がいるのですよ!」


「お、おおーう」


 待って。

 もう情報過多だわ。




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