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164.なんか、そういうことになったみたいだよ

「……」


「……」


「……ミサ。あのね、お父様たちの言うことはね」


「……クラリス。大丈夫。分かってるよ」


「……そっか」


 クラリスに手を引かれてお城のなかを歩く。

 アルちゃんとケルちゃんも黙って後ろをついてきてくれてる。

 クラリスは気を使って王様たちの言いたかったことを説明しようとしてくれてるけど、あたしにもあの人たちの言わんとすることは分かる。


「……とりあえずここで休みましょ」


「……うん」


 近くの部屋に4人で入る。

 メイドさんが淹れてくれたお茶を飲むと少し落ち着いた。


「……」


 戦争になれば少なからず人が死ぬ。

 兵士さんたちが矢面に立つし、国境付近に住んでる人たちだって気が気じゃない。

 もし戦いに負けて侵略されればこの国全体が危険な目に遭う。

 それが王様たちの判断によって決まる。


 そんで、カイルを助ける、まではいかなくてもそれに準ずる行為をすることがマウロ王国の味方をするってことに繋がる。

 もし今回の件で帝国とマウロ王国が戦争状態になれば、マウロ王国に手を貸したあたしたちは帝国からすればマウロ王国同様に敵で、帝国からの侵攻の対象になる。

 もちろんアルベルト王国はマウロ王国と友好条約を結んでるから、いざとなればマウロ王国に手を貸して兵を出す。

 でも、それはホントに最終手段で、戦争が絶対不可避になったときにマウロ王国からの要請によって行われる。

 王様たちはその前に目立った行動をして、戦争行動以前の帝国による行動の対象になるのを避けたいってことなんだと思う。

 それは諜報だったり妨害だったりいろいろだろうけど。

 それこそ、テロみたいなことをされたらたまったものじゃない。

 もちろんそうなれば戦争になっちゃうけど、それが帝国の仕業だって分からないようにされたらかなり厄介だし、国の人たちに大きな犠牲が出る。

 王様たちは国の長として、自国の民を守るために慎重にならざるを得ないんだと思うよ。


「……」


 ……それでも、やっぱりあたしは……。


「……ミサ。ミサが個人的に勝手に動いても、それはアルベルト王国が動いたと思われるからね」


「……え?」


 クラリスにそう声をかけられ、うつむいていた顔を上げる。

 クラリスはまっすぐにこっちを見てた。

 どうやら、あたしが考えてたことはバレバレだったみたい。


「……バレたか」


「……もう、そんなに短い付き合いでもないからね」


 あたしが苦笑すると、クラリスも苦笑で返す。


「……分かったよ。今回ばかりは勝手に動かない。王様たちの言うことに従うよ」


「……うん。それがいいよ」


「失礼します」


「!」


 クラリスとの話も落ち着いたところでメイドさんが部屋に入ってきた。


「王がお二人をお呼びです」


「え? あ、おけ」


 もう話し合いとやらは終わったのかね?


「……ううん、私にも分からない」


 クラリスに目線で尋ねるけど、クラリスも首をかしげてた。

 あたしたちにいったい何の用なんだろね。















「さっきの今で呼び出して悪いな」


「あ、いえいえ」


 王様たちのところに戻ると王様は玉座に座ってて、その両脇にお兄ちゃん王子と弟王子がいた。

 先生とツユちゃんはいない。どっか行ってるみたいだね。

 いつもは他にも偉そうな大臣さんとか貴族みたいな人たちとか兵士さんたちがいるんだけど、今この場にはその3人しかいない。


「……結論から言うと、我々アルベルト王国はカイル王子の捜索には参加しないことに決めた」


「……そう、かい」


 分かってはいたよ。

 条約に抵触するわけでもないし、マウロ王国とはあくまで対等の友好関係。

 困ってれば手は貸すけど、それは絶対じゃない。

 今回、王様たちは自国民の安全とカイルのことを天秤にかけて、自分たちの国を取った。

 王様としては間違った判断ではないと思うよ。

 そこでわーわー喚くほど、あたしも子供じゃないから。


 ……でも、やっぱり納得はできないけどね。


「……」


「?」


 王様はそこでお兄ちゃん王子に目配せした。

 それを受けたお兄ちゃん王子が口を開く。

 シリウスの方は、なんだか機嫌が良くなさそう。


「……さて、それとは別件なんだが、ミサ・フォン・クールベルト。君に頼みたいことがある」


「……へ?」


 急に話変わるの?

 てか、お兄ちゃん王子があたしに頼みって何?

 嫌な予感しかしないんだけど。


「君に、マウロ王国に行ってもらいたい」


「えっ!?」


「お兄様!?」


 なんでここで急にマウロ王国?

 クラリスも驚いてるみたいだよ。


「じつは、最近マウロ王国の魔獣の長にとある噂が立っていてね」


「噂?」


「……そう。なんでも、探しているものを見つけることができる能力があるらしい、という噂だ」


「……!」


「……だが、あそこの長はなかなか気難しいようでね。マウロ国王といえどもその頼みを聴いてくれるとは限らないようなんだ」


「……」


「そこでだ。この国の魔獣の森で演習した経験もあり、スノーフォレストやリヴァイスシーで『なぜか』魔獣の長とのいざこざに触れたことのある君に、その噂の調査を頼みたい」


 お兄ちゃん王子は素知らぬ顔でしれっとそんなことを言ってきた。


「……噂の調査って、もし長が頼みを聴いてくれたら、どんなものを探してもらえばいいんだい?」


「……それは何でもいいさ。探し物でも、探し人でも、君が気になることを尋ねてみればいい」


「……」


 この人は、とぼけた顔して。


「そして、その調査で君がそれなりの成果をあげたならば、君を俺の婚約者にするといった一連の話はすべてなかったことにしよう」


「!」


 ……そういうことかい。

 シリウスが機嫌悪そうな顔してた理由が分かったよ。


 お兄ちゃん王子は、あたしが魔獣に対して親和性があることをもう確信してる。

 スノーフォレストやリヴァイスシー、そしてこの国の魔獣の長たちに対してあたしがしてることも何となく察してる。

 その上で、あたしの能力を国に対する脅威ではなく有益なものであるとするために今回のことを決めたんだ。


「お兄様! それなら私も行く!」


 クラリスがお兄ちゃん王子にすがるように頼む。


「……それはダメだ。王族が動けば人が動く。そして、その情報はすぐに他国に流れる。『コト』が済むまで、我々は大人しくしていなければならない」


「……う」


 そういうことだね。

 国として動かないことを決めたのなら王族が不穏な動きをしちゃいけない。

 あたしなら、北や南にも行ってるから留学でもなんでも都合(言い訳)がつく。


「クラリス。大丈夫。あたし、行ってくるよ」


「……ミサ」


 シリウスが機嫌悪そうにしてたのはこれもだね。

 本来なら、お兄ちゃん王子はあたしの能力を国のために最大限利用する。そのためにあらゆる手段であたしのことを調べるつもりだった。

 それを、今回の成果によってはなかったことにしてもいいって言ってるんだ。

 あたしを危険に晒すかもしれない上に自分は何もできない。でも、お兄ちゃん王子のその提案を受けないわけにはいかない。シリウスはその葛藤であんな不機嫌そうなんだと思う。


 まあ、あたしのことを心配してくれてることは伝わるよ。


「わかったよ。その調査ってやつ、受ける」


「……よろしく頼む」


「……ミサ」


「ん? アルちゃん?」


「東の長ならルーが知り合いなのです。今回はケルとルーで行ってくるといいのです。私は、今回はここに残るのです」


「あ、そなんだ。おけー……て、ん?」


 魔獣の長と知り合いとか、お兄ちゃん王子に言わない方がいいんじゃ……。


「……私の方でも準備が必要だろうし、いろいろと迂回しながらやり取りするのは面倒だし、たぶんもう分かってると思うのです」


 アルちゃんはお兄ちゃん王子を見てる。

 お兄ちゃん王子は穏やかな笑みをアルちゃんに向けてる。


「……私は、有事の際に魔獣の森の魔獣たちをどうしたらいいのです?」


「え?」


「手を貸せとまでは言わない。だが、森に人の手が伸びるのは嫌だろう? 帝国の奴らがそちらに近付いてきたら報せよう。適当に蹴散らしてくれたら助かる」


「……わかったのです」


「……」


 お兄ちゃん王子はアルちゃんたちが魔獣の森の長だってことにも気付いてたってことかい?

 それも込みで、今回の依頼ってことなのかい?


「……ミサ。そういうことなのです。こっちは私に任せて、そっちはそっちで頑張ってほしいのです」


「……わ、わかったよ」


 正直、そこまで分かってないけど、なんか頑張んなきゃいけないのはわかったよ。




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