160.いざ!決戦へ!かな?
「……そうか。学院長はそんなことを……」
ミカエル先生から学院長への報告の結果を聞いた王子が眉間にシワを寄せる。
どうやら学院長もお兄ちゃん王子も、あたしが魔獣の件に関わってることに勘づいてるらしいね。
「……ゼン王子や学院長に記憶操作の魔法は効かないので、そこに至るまでの情報操作には気を遣ったつもりなのですが、おそらく膨大な量のデータなどから傾向を読み解き、私の記憶操作の魔法による穴を自身で補完してミサさんへの可能性に繋げたのでしょう」
「うーむ。とんでもないねー」
そこまでくると、もはや執念めいたものさえ感じてくるよ。
国を守るためにわずかな違和感さえ見逃さないぞって感じかね。
「学院長には演習云々の報告が上がっているのでまだ分かりますが、ゼン王子に関しては魔獣被害の減少理由を他にいくつも用意して報告させていたにも関わらず、ですからね。いったいどこからミサさんに結びつけたのか……」
「あるいは、その確証が得られてないからこんなことをしてきてるのかもね」
「ふむ。あり得ますね」
なんにせよ、お兄ちゃん王子は油断ならない相手って感じだね。
「まあ、学院長の方は何とかなったんだからいいだろう。問題は兄上の方だ。魔獣の件とミサを結び付けて考えているのなら、属性の報告だけでは兄上は納得しないだろう」
「そうだねー。闇属性自体には魔獣さんと対話したり使役したりする能力はないみたいだしね」
前にケルちゃんがミカエル先生に捕らえられてたのは、ちょっとオイタしたケルちゃんを先生が物理的にぶちのめして閉じ込めたらしいし。
「そもそも魔獣言語はヒトには理解できないのです。魔獣の姿のときにミサ以外と話してるのはこちらがそうしようとする意思をもって念話を飛ばしてるからなのです。
まあ、そもそも長とか主レベルじゃないと言語化した思考を持たないというのもあるのですが」
へー。そなんだ。よく分かんないねー。
「……魔獣被害の減少要因とミサさんとの関係性を否定できれば一番いいのですが」
「あー、そもそもそこの関わりがないんだよっていう認識違いに話をもってく感じね」
ありだね。話がうまい人が自分に都合の悪い展開になってきたときに使うやつ。
データの実証で負けそうになったら感情論や感想でいこうとするあれね。
ん? あたしがだいたいそうだろって? その通りだよ!
「でも、やっぱりタイミングが良すぎます。ミサじゃないと言うのなら、他にスケープゴートが必要になってしまいそう」
スケプごと? なにごと?
「……たしかにそうですね。やはりあのとき演習に参加していた誰かが起因になっていたという仮説を否定しきるのは不可能に近い」
うーん。だんだん話が難しくなってきてついていけなくなってきたよ。
……ケルちゃんは……あ、また寝てる。
「……ならば、ミサが原因であるという要素を薄める、というのはどうだろうか?」
「……と、言いますと?」
薄める? そういや、このバカ王子も一応生徒会長だからそれなりに優秀なんだっけ。
「ミサが闇属性で、かつ魔獣言語を理解し、魔獣を使役する能力を持つという、1人が持つには重すぎる要素がそもそも目立つ原因だ。ならば、その要素を細分化し、皆の要素を濃くすることでミサの存在価値を下げるのだ」
……なんか、話だけ聞いてるとあたしを貶めようとしてるとしか思えないんだけど。
「……なるほど。それはありですね。では、どうやって要素を削っていくかですが」
「あ、それなら私に少し考えがあります」
「クラリス?」
クラリスが何か思い付いたみたいでちょこっと手を挙げてる。うん、かわいい。
「ミサ。この前言っといたやつ、準備できてる?」
「え? あ、うん。お兄ちゃん王子への報告に間に合わせるようにってことだったから当日までに準備できるように手配してあるよ」
「オッケー。じゃあ、それはそのままよろしくね」
「あ、うん。わかったよ」
「……クラリスさん。いったい……」
「ふふふ。私に秘策あり、です!」
うん、かわいい。
「……ずいぶん大所帯で来たね」
で、やってきましたお兄ちゃん王子の執務室。
あのあとも皆であーだこーだ会議して、結局そのときのメンツ全員で来ちゃったよ。
お兄ちゃん王子は相変わらずのイケメンっぷりだった。
肩口まで伸びたサラサラの金髪。
空みたいに蒼く澄んだ瞳。
整った顔立ち。
剣を振るはずなのにすらりとした細身の長身。
これは女の子たちがキャーキャー言うのも納得だね。
こっちの王子と造りは似てるのに、何が違うんだろね。バカさかね?
「……何か言ったか?」
「いんや何も~?」
バカ王子がじろりと見てきたから知らん顔しといた。
「……君がミサ・フォン・クールベルトだね。直接こうして話をするのは初めてだね。
俺がアルベルト王国第一王子ゼン・アルベルト・ディオスだ。
よろしく」
「お、おおう」
にこっと笑うとその破壊力はハンパないね。
その爽やかでにこやかな笑みだけで国を落とせそうだよ。
まさに傾城のイケメン!
「……ミサさん。挨拶」
「あ、そだった」
先生に呆れ顔で言われて、あたしは慌ててカテーシーを披露する。
お母様に死ぬほど特訓させられたからね。一応ちゃんと出来るのよ。
「お初にお目にかかります。
ミサ・フォン・クールベルトと申します。
ゼン殿下にお会いできてとても嬉しゅうございます」
王様との謁見みたいな公式のちゃんとした場じゃないから挨拶も軽く。
あんまり堅苦しくならないぐらいでいいらしいよ。不服ながら一応、あたしは王族の婚約者でもあるしね。
「……うん。やはり思った通り、とても美しい方だね」
「おうっふ!」
いやいや、あんたの方が美しいわ!
というツッコミを飲み込んだあたしを誰か褒めて。
「……それで、兄上。こちらを」
シリウスがお兄ちゃん王子をじっと見ながら資料を出す。
サンキュー王子。助かったよ。
あのイケメンに長く当てられてると体に毒だね。
ん? なんかあんた不機嫌じゃない? ま、いっか。
「……ふふ。はいはい」
お兄ちゃん王子はそんな弟の様子に苦笑しながら報告書を受け取る。
「……」
「……」
お兄ちゃん王子がそれをパラパラとめくる。
はたしてどうなるやら……。




