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159.敵かな味方かな

「はい、ただいまですー」


 ゼンの居室に現れた影の中から、ツユとともにゼンが姿を現した。


「……ふむ。まさか学院の結界さえ抜けるとはね」


 ツユの影魔法にゼンは改めて驚きを感じていた。


「いやいやー、いくら私でも魔導天使の結界を抜くのは難しいですよー。あれは穴が開いたように、スポット的に結界が抜かれていた学院長室だったから出来たんですー。それも、部屋の主の許諾を得た上で、ですけどねー」


「……ふむ。とはいえ、だね」


 ゼンはそんなことをやってのけるツユを脅威に感じていた。

 だからこそ、手元に置いて管理することにしているのだ。


「でも、なんでジョン君なんですかー? 彼はミサさんの周りの子の中でも近からず遠からずな子じゃないですかー」


「いや、彼女は人に優劣をつけない。自分の仲の良い友人。そのくくりの中にいるのなら誰であっても効果はあるだろうからね」


「なるほどー。良い子なんですねー」


「それに、これはただの牽制だ。つまらない報告はするなよということがシリウスに伝わればそれでいいんだ」


「ふむふむ。なんだか、弟君のためにやってあげてるみたいにも聞こえますねー」


「……ふん。俺は、王国のためにやっている。すべての判断基準はそこからブレることはない」


「ふふ。いっそ潔いですよねー」


 ツユは口元に手を当てて、にこやかに微笑んでみせた。


「……もういい。君は再び職務に戻ってくれ」


「はいなー」


 そしてゼンにそう言われると、ツユはひらひらと手を振りながら再び影に潜っていった。


「……さて、あとはゆっくりと待つとするか」


 ゼンは誰もいなくなった部屋でそう呟くと、豪奢なベッドに上着も脱がずにドサッと倒れこんだ。


















 放課後。

 あたしはクラリスとアルちゃんとケルちゃんと一緒にミカエル先生の研究室に行った。

 先生が夜間許可の申請をしておいてくれてるとはいえ、あんまり生徒が放課後に学院内をウロウロするのは良くないだろうってことで、サリエルさんが来るまで先生のとこで待つことにしたんだ。

 クレアとジョンには家に帰ってもらうことにした。

 クラリスが王族に関する案件でもあるからってことで、一貴族である2人には遠慮してもらうって形を取ったみたい。

 実際は2人がお兄ちゃん王子の影響下にあるからなんだけど、どうやら2人にはその自覚がないみたいなんだよね。

 2人は何か言いたそうだったけど、王族権限を持ち出してきたクラリスには逆らえなくて、しぶしぶ帰っていったよ。

 一応、2人にはそれぞれスケさんとカクさんがつく形になった。

 ついでに2人のおウチの人たちもお兄ちゃん王子に何かされてないかを探る目的もあるみたい。


「……ようこそ」


「お邪魔しまーす」


 あたしたちが着くと、すでに王子(シリウス)もいて先生と何やら話してた。

 つまり、いまここにいるメンバーはあたしの前世のことも含めた全部を知ってる人たちだけになってるわけだ。

 たぶん、わざとそうなるようにスケさんたちをクレアたちにつけたのかもね。


「ん? なんか先生元気なくない? なんかあったのかい?」


 元気いっぱいハイテンションな先生もそれはそれで怖いけど。


「……いえ。じつは……」


 先生はあたしの思ったことにツッコミもなく事情を話した。






「……そんな、学院長が……」


「学院長? なんていたんだねー」


 クラリスは学院長がお兄ちゃん王子の手引きをしたことに驚いてるみたい。

 どうやら、いつもはそういう人じゃないみたいだね。

 てか、そんな校長的な立場の人がいたんだね。

 あたしはてっきりミカエル先生が完全に牛耳ってるのかと思ってたよ。


「……彼は基本的に穏健派なんですが、とにかく学院を守ることには努力を惜しまない方でして。手段を選ばないゼン王子とは相容れないはずだったのですが、王子がミサさんのことを調べようと思うほどの脅威ならば自分もそれを知りたいと言い出しまして……」


「んなるほどねー。

 今まではあたしが学院の生徒だからってことで、あたしに何かあるとは思ってたけど静観してくれてた感じなのかね?」


「概ねそのような認識で間違いないかと……」


「ふむふむ……」


 ミカエル先生が所属し、数多くの王侯貴族を教育してきた学院の権威はけっこうすごいらしい。

 とはいえ、王族とズブズブの関係ってわけじゃなくて、基本的に従いはするけど意見もするよっていう第三者機関的な立場みたい。

 学院は今の王様とはわりとウマが合うみたいでそれなりに友好的にやってるみたいだけど、お兄ちゃん王子の考え方にはついていけないって思ってて、今後の在り方を不安視する声もあるみたい。


「……学院長はこちら側に理解があるものと思っていて油断していました。彼はミサさんのことを教えなければ、このままゼン王子に協力すると言ってきています」


 あのミカエル先生が珍しく動揺してるみたいに見える。

 どうやら学院長ってのはそれだけ信用できる人だったんだね。


「……それは、捨て置くわけにはいかないのか? あまりミサのことを知る者を増やしたくはないんだが」


 王子が眉間にシワを寄せながら言う。

 まーね。あたしもあんまりいろんな人に知られるのは困るかねー。


「……あなたも知ってるでしょうが、学院長の権威は高い。彼とゼン王子が手を組めば、我々に打つ手はなくなると言ってもいいかもしれません。

 それに、彼は戦力としても優秀です。魔法の使い手としては、私を除けばこの国で最も強いのは学院長でしょう。

 彼を敵に回すことはオススメできません」


「……そうか」


 学院長ってのはなんかそんなすごい人なんだね。


「……んーと、つまり、あたしのことを教えてあげれば学院長はこっちの味方をしてくれるんだよね?」


「……まあ、そうなりますね」


「そんなら、さっさと教えてあげればいいんじゃないかい? 先生が信用できそうって言うなら、あたしはべつに構わないよ?」


 お兄ちゃん王子の対処をしなきゃなのに、これ以上他のことを考える頭はあたしにはないよ。


「……信用できると言っても彼は皆さんほど若くはなく、それでいて権力と権威を持つ者です。

 そんな人間が国にとって、いや、世界にとって重要な情報を得たときにどう動くのか、私には容易に推測はできません」


「うーん。ようは、あたしのことを知ったら手のひら返しで態度を変えるかもってことかい?」


「……そうですね。力に魅せられた人間は何をするか分かりませんから……」


 なんか、先生の言い方に含みがあるみたいな感じだね。


「……先生。それならやっぱり学院長にもお兄様に対してと同じように与える情報を制限して、それですべてだと信じさせるしかないんじゃないでしょうか」


「クラリスさん……。そうですね。生徒と学院を守るという理念が根底にある学院長ならば、ミサさんが闇属性であり、それを隠すために我々が画策していただけという話も通りやすいかもしれません」


「まあ、実際その通りなわけだしね」


 隠そうとしてた情報が他にもあるってだけで、学院長に伝える内容に嘘はないもんね。


「……わかりました。それでいきましょう。ミサさんの属性についての秘密を守るためだけだったと、何とか話を整えて学院長に伝えてみます。ゼン王子への報告の前哨戦のようなものですね。

 サリエルさんが来るまでまだ時間がある。

 先に学院長に報告し、その結果如何で再びゼン王子への報告内容を吟味するとしましょう」


 ミカエル先生はそう言うとさっさと部屋を出ていった。

 それで学院長が納得してくれればいいね。
















「……と、いうわけでして。

 ミサさんの属性を周囲に漏らすことなく授業を進めていくために、彼女には特別に目をかけていたのです」


 ミカエルは再び学院長室に来ていた。

 話し合った結果、学院長に真実を話すと告げると学院長はすぐに対応した。


「……」


「……」


 執務机に座ったまま話を聞いた学院長はミカエルの方を見たまま、自分のなかで話を吟味しているようだった。

 ミカエルは学院長に気付かれないようにそっと唾を飲み込んだ。


「……ふむ。闇属性ね。

 なるほど……。まあ、いいだろう」


 学院長は難しい顔をしたままコクリと頷いた。


「一応の筋は通っているし嘘というわけではなさそうだ。君の言い分を信じるとしよう」


「……ありがとうございます」


 ひとまずは関門を突破したことにミカエルは一息つく。


「……ちなみに、ゼン殿下へもそのまま報告するつもりではないよな?」


「……と、言いますと?」


「彼ならその報告を聞いたあとにこう言うだろう。

『では、昨今の我が国での魔獣の沈静化についてはどう思う?』

 とね」


「……っ」


 学院長は机の向こうに立つミカエルをじっと見上げる。


「……彼は感付いてるよ。私がそうであるようにね。

 ミサ・フォン・クールベルトがやってきた頃から魔獣による被害が激減している。具体的に言うと、彼女が演習で魔獣の森に入ってから、だな」


「……」


「ミカエル。私がその報告で納得したのは、君がこの状況においてもなお隠さないといけないと感じるものが彼女にはあると確信したからだ」


「学院長……」


 学院長はそこまで言うと眉を下げ、顔を和らげた。


「ミカエル。君には感謝している。君が国と学院のことを真に想って日々働いてくれていることは私も王もよく分かっている。

 だからこそ、私を敵に回すことになってでも隠さなければならないことがあると分かったから私はそれに納得することにしたんだ」


「……学院長。ありがとうございます」


 ミカエルは学院長の真意に深く頭を下げた。


「……だが、ゼン殿下はそうはいかない。本当に隠したいものがあるなら、真実に真実を重ねて、本当に隠したいものを隠すんだな。彼には嘘は通用しない」


「……分かりました」


 ミカエルはそれだけ言うと部屋をあとにした。


「……練り直しですね」


 結果的に学院長に助けられる形になってしまい、ミカエルは再び頭を悩ませながら皆が待つ研究室に戻るのだった。




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