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158.そういや、先生以外にも先生っていたんだよね

「……そうですか。クレアさんとジョン君が……」


「……はい」


 スケイルの報告にミカエルが眉間にシワを寄せる。


「くそっ!! いつの間にっ!」


「申し訳ありません。気を付けてはいたのですが」


 イラだつシリウスにスケイルが深く頭を下げる。


「……いえ、まさかそんな一瞬でクレアさんに命令を刷り込めるとは」


 ミカエルはゼンがクレアに接触しようとし、それをスケイルが止めたことの報告を受けていた。


「それよりも問題はジョン君の方ですね。いったいいつ、彼はゼン王子と接触したのか。一応、ゼン王子の持つ瞳の魔法は公にはされていないので人気のない場所だとは思いますが、私にもスケイルさんにも気付かれずに実行できるとはとても……」


「……ひとつだけ、心当たりがあります」


「ほう」


「なんだ!」


 心当たりがあると言うスケイルにシリウスががっつく。


「王国としての地位ではミカエル先生の方が上でも、この学院という空間においては職位上、先生よりも上位に位置する方が1人、いますよね?」


「……あ」


「……そういえば、ジョン君はリヴァイスシー王国の件の報告で学院長のもとを訪ねてましたね」


「……そういうことです」


「……わかりました。そちらは私が調べておきます。おふたりはここで引き続きゼン王子への報告資料を作っておいてください」


「ああ」


「わかりました」


 ふたりの返事を聞くと、ミカエルは部屋を出ていった。

 この学院の長から話を聞くために。
















「午後の授業は自習だって。なんかミカエル先生が忙しいみたい」


「あ、そなんだ」


 食堂でご飯を食べ終わって午後の授業を受けに教室に行くと、クラリスからそんな報告を受けた。

 やっぱりお兄ちゃん王子への報告書の件でいろいろ動いてるのかね。


「んじゃあ、とりあえずあたしたちだけで夜のために話し合っとくかい?」


「そうだねー」


「ああ、そうだな……」


「そうしよう……」


 自習だってんで一緒に机を囲んでるクラリスとジョンとクレアも同意する。

 事前にやれることはやっといた方がいいよね。


「……いや、今はその話はいいのです」


「へ? アルちゃん?」


 だけど、アルちゃんがそれを止めてきた。

 いつもは学院に来てても授業中は外で待ってるのに今日はここにいるみたい。

 ケルちゃんはお腹いっぱいで寝てるけど。

 一応、従者は授業中以外は教室にいてもいいことになってるんだけど、今は自習だから特別なのかね。


「……ミサ。クラリス。ちょっと……。

 クレアとジョンはここで待っててほしいのです」


「え?」


「なんだい?」


「……わかった」


「……ああ」


 アルちゃんがあたしとクラリスの袖を引く。

 クレアたちはおとなしくそこで待ってるみたい。





「どーしたんだい?」


 アルちゃんに引かれるままクラリスと2人で教室の外に出る。

 アルちゃんは周りを確認してから小さな声で呟く。


「……クレアとジョンはゼン王子に操られてるかもなのです」


「……え?」


「ど、どゆことだい!?」


 操られてるだって!?


「……さっき、食堂の人にジョンがご飯を食べていたか確認したのです」


 あ、さっきのはその話だったんだね。


「でも、珍しくまだ食べてないって言ってたのです」


「それはおかしいね。あのジョンがあたしたちのご飯を前にして我慢できるはずないし、する意味もないもんね」


「……言われてみれば、さっきから2人、いつもよりちょっと大人しいかも」


「……そーいや、そーかもね」


 少なくともジョンはこういうとき、野次馬根性でついてこようとするしね。


 チラッと教室の中を見ると2人は特に話すこともなくて、クレアはケルちゃんを撫でてたけど、ジョンは机に座ったままずっと前を見てた。

 その無機質な目に思わずぞくりとする。


「……とにかく可能性がある以上、2人がいるときに余計な話はしない方がいいのです。あとでミカエルに話して対処を考えるのがいいと思うのです」


「そうだね……」


「う、うん。わかったよ」




「お、おまたせー」


「……いや、待ってないよ」


「なんの話だったんだ?」


「いや、なんでもないよ。自習なんだからちゃんと自習しなよってアルちゃんからのお説教ー」


「その通りなのです」


「……ふーん」


 ってことにすることになったよ。


「さ、じゃあまずは復習からしていこっか」


「そーだね!」


 てなわけで、あたしたちは真面目に普通の自習に取り組むことにしたんだ。
















「どうぞ」


 ミカエルが学院長室のドアをノックすると、すぐに返事が返ってきた。

 いつも通りの、威厳を感じさせながらも威圧感は与えないように気を付けているような気遣いのある声だった。


「……失礼します」


 そのいつも通りに不安な気持ちを感じつつ、ミカエルは学院長室に入る。


「ああ、ミカエルか。そろそろ来る頃だと思っていたよ」


 学院長はミカエルが来ることを予期していたようで、席を立つとお茶を用意し始めた。


「……」


 ミカエルはじっと学院長を見るが、いつもと変わらないように見えた。

 細身で、老齢の白髪頭。

 さりとて腰は曲がっておらず、その凛とした佇まいには気品が感じられた。


「まあ、座りなさい。良い葉が手に入ったんだ」


「……はい」


 学院長はにこやかに紅茶を淹れると来客対応用のテーブルに2つカップを置き、ソファーにゆっくりと腰掛けた。

 穏やかながら有無を言わせぬ対応にミカエルも向かいのソファーに腰を下ろした。


「……ふむ」


「……」


 学院長は紅茶を一口すするとミカエルをまっすぐ見据えた。


「君の聞きたいことは分かっている。

 まず前提として、私はゼン殿下の洗脳は受けてないよ」


「!」


「そもそも、私はそれほど未熟な魔導師でもないからね」


 驚いてみせたミカエルに学院長はそう言って苦笑した。


「……これは、失礼しました」


 ゼンが瞳の魔法を使うには一度目を閉じて、再び開き、相手がその金色の瞳を見るという行程が必要になる。

 たしかに学院内でミカエルに次ぐ魔導師である学院長ならば、そのような失態はしないだろうとミカエルは考えを改めた。


「で、君が聞きたいもうひとつは、ジョン君がここでゼン殿下から瞳の魔法を受けたか否かだろう?」


「……ええ」


「……答えは、イエスだ」


「!」


 驚くミカエルを学院長はしたたかに見つめる。


「学院の機密上、この部屋は君やスケイル君の感知が効かないようになっているからね。殿下からすれば都合が良かったのだろう。どうやったかは分からないが、殿下は私の許可を得ただけで、いとも簡単にこの部屋に入室してみせたよ。君たちに気付かれることなくね。

 そして、報告が終わったジョン君に対して殿下は瞳の魔法を行使したのだ」


「……な、なぜ」


 学院長はゼンに良い印象を持っていなかった。その危うさを感じていたから。

 だからこそミカエルは学院長が敵になることはないと、たかをくくっていたのだ。

 それが裏切られるような形となり、ミカエルはやはり驚きを隠せずにいた。


「今回ばかりはゼン殿下と動機が一致したのだよ」


 ミカエルの心情を把握した上で学院長はそう答える。


「動機?」


「ミサ・フォン・クールベルトについて、君たちが隠していることを知りたい、という動機だ」


「!」


 そこまで言うと学院長は立ち上がり、ソファーの裏側にある窓まで歩いた。


「搦め手や手段を選ばないことで誤解されがちだが、ゼン殿下の考えは常にシンプルだ。

 アルベルト王国にとって有益か否か。

 私は殿下のやり方にはあまり賛成できないが、その考え方は支持できる。

 私もやはりこの国を守る立場なのでね」


「……」


「ミサ君に何かあるのは分かっていた。だが、私は君のことを信用してるし、特に大きな問題を起こさないなら目をつぶろうと思っていた。

 だが、ゼン殿下が動き出したとあれば話は別だ。

 殿下が彼女のことを脅威かもしれないと感じ、それを調べようと言うのならば、私もそれを知らないわけにはいかない。学院は学院の権威のために、生徒に関して王族に遅れを取ってはならないからだ」


「……」


「そして、彼女に関して君たちが私に対しても何も話さないというのなら、私は殿下に協力してそれを知る努力をしようと思ったのだよ」


 にこやかに、穏やかに話しながらも、そこには確固たる意志があるとミカエルは感じていた。


「……もし、私がそれを話せば、学院長は我々の味方になってくれますか?」


「内容によるね。

 私は国の、学院の味方だ。まあ、ミサ・フォン・クールベルトも我が学院の生徒だ。出来る限りの譲歩はしてやりたいとは思うがね」


「……」


 その言葉を聞いてミカエルは立ち上がる。

 そして、入り口へと向かうミカエルに学院長は振り返る。


「……それで? どうするのだね?」


「……少し、時間をください。本人やシリウスにも話をします」


「ふむ。それがいいだろう。

 一応言っておくと、私のことは敵に回さないことをオススメしておくよ」


「……失礼します」


 ミカエルはそれには返事を返さずに部屋を出ていった。


「やれやれ。厄介事は勘弁なんだがな」


 学院長は閉まるドアを見やりながらため息を吐くのだった。




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