153.ばいばいリヴァイスシー王国!
「そうか。もう戻らないといけないのか」
「はい。慌ただしくて申し訳ありません」
「いや、今回はこちらのせいでゆっくりする時間もなかったのだしな」
ミカエル先生からの報せを受けて国に帰らなくちゃいけなくなったあたしたちは王様たちに改めて挨拶することにしたんだ。
謁見の間で、クラリスが代表して王様と話してる。
「ミサ」
「あ、ハイド」
王様たちの話を何となく聞いてると、壇上から降りてきたハイドが話しかけてきた。
ヒナちゃんとかツユちゃんはどっかに行ってるみたいだね。
いまここにはあたしたちと、王様とハイド。あとは騎士団の人たちしかいない。
「今回は本当にありがとう。ミサたちのおかげで、僕は一歩踏み出せたよ」
「やだねぇ。もう何度も聞いたよ」
ハイドはもう何回もおんなじことで頭を下げてる。
義理堅いやら水くさいやらだね。
「これから僕は国のために頑張っていこうと思う。まあ、少しずつにはなるだろうけど……」
ハイドはそう言うと、照れくさそうに笑った。
「うん。あんまりいきなり無理しすぎないで、みんなに助けてもらいながらでいいと思うよ」
ずっと1人でいたハイドは、まずは自分は1人じゃないってことを知ることから始めるといいさ。
「……うん」
ハイドしっかりと頷くと、すっと右手を出してきた。
「僕が王になった暁には、アルベルト王国との変わらぬ友好に尽力することを誓うよ」
「ん! また困ったらいつでも言ってよ! すぐに行くからさ!」
どうせ毎年、リヴァイさんに魔力をごちそうしに行くわけだしね!
「うん! そっちも!」
そうして、あたしたちはがっしりと握手を交わしたんだ。
ん? そういや、ミカエル先生とアザゼルさんはどこ行ったのかね?
2人で逢い引きかね? ぐふふふふ。
「……それで? 結界は今は?」
「ああ。もう元に戻してある。実際、綻びたのは一瞬だったからな。入れても一個小隊以下だっただろう」
謁見の間の近くの結界の張られた部屋でミカエルはアザゼルと会話していた。
「ふむ。で、今回はそれをリヴァイアサンが駆逐してくれた、と」
「ああ。当人はついでだと言っていたようだ」
「ふむ」
ミカエルはアゴに手を当てる。
「それで? 帝国兵を手引きをしたのはやはり?」
「ああ。あいつだ」
アザゼルは嫌な顔をして首を振った。
「ふむ。彼女はウチの方でもいろいろやっているようですからね。
真意が分からない以上、使えるのなら使おうというのがウチの方針のようですが。
しかし、話を聞いた限りでも、今回の狙いはアザゼルさんの消耗だったわけですね。帝国側の目的は何だったのでしょう」
「……分からん。だが、俺も王も兵も消耗していた。もしかしたら完全制圧さえ狙っていた可能性は捨てきれない」
「……あるいは、王子の可能性、か」
「……ああ。ハイドは、あの研究をやめるそうだ」
ミカエルの言葉に、アザゼルが思い出したように告げる。
「……それがいいでしょう。この世界にあれはいらない」
「……悲劇を、繰り返さないためにも、な」
「……」
「!」
「どうしました?」
そこでアザゼルは何かに気付いたようだ。
「どうやら、王たちの話が終わったようだ。急ぐんだろ。転移できるように結界に許可を出しといた。さっさと戻れ」
「分かりました。手配ありがとうございます」
別室の状況を把握していたアザゼルの言葉にミカエルは礼を言って扉に向かう。
「……ミカエル」
「はい?」
出ていこうとするミカエルをアザゼルが呼び止める。
「……あの子は……いや、いい。なんでもない」
「……そうですか」
しかし、アザゼルは言葉を飲み込み、ミカエルはそのまま部屋を出ていった。
「……まさか、な」
1人部屋に残ったアザゼルはミカエルが出ていった扉をしばらく見つめていた。
「では、そろそろ戻りましょうかね」
「やれやれ。なんか長いような短いような、やっぱりあっという間な感じの時間だったね」
あれ? てか、そもそもあたしたちって何しにここに来たんだっけね。
なんだか、まるでリヴァイさんのことを解決するためだけに来たみたいだね、まったく。
謁見の間を出ると、ミカエル先生が待ってた。
少ししてアザゼルさんも合流。
来るタイミングずらして来るなんて、やっぱり逢い引……。
「……ミサさん」
あ、はい。すんません。
なんか久しぶりですね、このやり取り。
「では……」
みんなが揃ってることを確認すると、ミカエル先生が転移魔法の準備をする。
「は~、なんか疲れる旅だったな~」
「だが、良い経験になった」
「そうですね。この国の問題の解決に携われたのも大きな収穫よ」
「まったく。他の国に行くといつも疲れるのです」
「僕おなかすいた~!」
「んね。あたしも~」
「ミサさ~ん!」
「あ、ヒナちゃん」
みんなで口々に今回の感想を言い合ってると、ヒナちゃんが駆け足で現れた。
手に小さな包みを持ってる。
「ハイド。これでいいの?」
「うん。ありがとう」
ヒナちゃんは持ってた包みをハイドに渡す。
どうやら、ハイドに持ってくるように言われたみたいだ。
「ミサ、これ」
「ん?」
ハイドはそれをあたしに渡してきた。
受け取ってみると、手のひらより少し大きいぐらいのそれは思ったより重たかった。
「ミサが持っててほしい。僕にはもう必要ないものだし、まずは友好の証として」
「ミサさん。そろそろ移動しますよ」
「あ、はーい!
そか。わかった。じゃー、ありがたくもらっておくよ!」
先生に呼ばれて、あたしはそれをありがたく受け取った。
中を見るのは帰ってからにするかね。
「じゃ、またね!」
「うん……また」
ハイドとヒナちゃんの手を振る姿を見ながら、あたしたちはリヴァイスシー王国をあとにしたのだった。
「……ミサミサミサミサミサ・フォン・クールベルトぉ~~~~っ!!!」
で、着くなりバカがいきなり目の前に現れたのでした……。やれやれ。




