148.あたしはきっと、またやっちまったのさ
『ジャアァァァァァーーーッ!!』
「おおうっ! リヴァイさんめっちゃ暴れとる!」
でも、リヴァイさんがすごいバッタンバッタンしてるのに、ハイドが作った機械はリヴァイさんを完全に身動きできなくしてるね。
んで、なんかすんごいおっきい魔方陣が出てきてリヴァイさんを完全に囲んじゃったよ。
「……充填魔力を雷魔法の起動陣に注入。雷魔法の発動、ならびに雷魔法から魔法成分を抽出。機動部分の維持に回す。そして、残った雷部分を魔方陣内に外部出力。全力展開」
ハイドがなんかブツブツ言ってる。
よくわかんないけど、機械の起動に必要みたいだね。
「……よし。発動」
「……お?」
一瞬、バチッ! って静電気みたいな音が聞こえた。
「……って、うわわっ!!」
そのすぐあと、バチチチチッ!! ってもんのすんごい勢いで魔方陣の中に電気がほとばしった。
『シャギャアァァァァァーーーーッ!!!』
魔方陣中を巡る電気がリヴァイさんを襲う。
眩しくて目を開けてられないね。
「いいぞ! 効いてる!」
王様たちが増幅機に魔力を注ぎながら、魔方陣内でのたうち回るリヴァイさんを眺める。
『ガアァァァァァーーッ!!』
すんごい叫び声だね。
なんかちょっと可哀想になってきちゃうけど、でも倒さないと国が滅びちゃうんだもんね。
「……ハ、ハイド。ま、まだなのか?」
王様たちの息がだんだん切れてきた。
そりゃ、魔力をずっと注ぎ続けてるんだから当然っちゃ当然だよね。
「……まだだね。まだ鱗は健在。もっとダメージを与えないと」
「……くっ。意地の見せ所か」
王様たちは真っ赤な顔をして、さらに魔力をひねり出してく。
「ミサ! 私たちもやるのです!」
「来たよー!」
「あ! アルちゃん! ケルちゃん!」
子供の姿に戻ったアルちゃんたちも合流した。
2人は海の上を滑るようにやってきたけど、子供の姿の魔法使いはたまにいるから、2人が魔獣だとは思われないだろうね。
「アザゼルさんはー?」
「あの人は魔力を消費したから休んでるのです。クラリスが魔力を分けてるのです」
「そっかー!」
あたしを助けるためにも無茶をしてくれてたんだろうね。
今はゆっくり休んでてもらおう。
「僕たちもやろう! ヒナ!」
「うんっ!」
ハイドたちもアルちゃんたちに倣って増幅機の近くまでボートを走らせて魔力を注入し始めた。
『ギ、ガアァァァァァーーッ!!』
「くっ! しぶといっ!」
これだけの電撃を受けてもなお、リヴァイさんは魔方陣を破ろうと暴れてる。
ジョンたちもさすがに疲れてきたみたい。
「よっし! あたしもやるよ!」
「ミサ! もう大丈夫なのか?」
ヒナちゃんたちに近付いたあたしをハイドが心配してくれる。
「うん! 体力は消耗したけど魔力はまだまだあるからね! それに、みんなが頑張ってるのにあたしだけのんびり見てられないよ!」
みんなの頑張ってる姿を見たら、体が勝手に動いちゃうよね!
「よーっし! 思いっきりやるよー!」
あたしは髪を束ねると、増幅機に両手をかざした。
これに魔力をぶちこめばいーんでしょ!
「リヴァイさん。起きたとこ悪いけど、またちょっと休んでてもらうよ!」
せーの!
「ミサ! 待つので……」
「……え?」
アルちゃんが何か言いかけてたけど、その時にはもう思いっきり魔力を注いだあとだった。
「……え? わっ!」
あたしが魔力を注ぐと、目の前の増幅機がボン! って爆発して壊れた。
「な、なんだあれ!」
「……か、雷が、黒く……」
みんながザワザワしてる。
みんなが見上げた方を見ると、さっきまでピカピカしてて眩しいぐらいだったはずの雷が真っ黒に染まってた。
『ヴ、ヴギアァァァァーーーーッ!!』
その黒い雷を浴びたリヴァイさんが聞いたこともないような声をあげた。
なんだか、すごい苦しんでる?
「……そ、そんな!」
「ハイド、どうしたの?」
驚いたような顔をしてるハイドをヒナちゃんが心配してる。
「……魔法要素の抽出が出来てない。異質な魔力の過剰注入で、回路が壊れたんだ」
「……え?」
「……いま、あの雷はただの雷魔法になってしまった」
「え? でも、リヴァイさんには効いてないかい?」
「……たぶん、リヴァイアサンが喰える魔力量を上回ってるんだ」
ハイドがアゴに手を当てて自分の予想をブツブツと呟く。
「その吸収しきれない余剰魔力がダメージとしてリヴァイアサンに蓄積されてる」
……えーと、あたしはもう魔力送ってないよ。てことは、あたしのせいじゃないよね?
あたしが思いっきり魔力ぶちこんだせいじゃないよね?
もちろん違うよね?
「……な、なあ。ハイド。もう、みんな魔力を送ってないんだが、あれはいつになったら止まるんだ?」
わーお。みんなも魔力送ってないってよ。
「……わからない。あれはもう、完全に自走してる。リヴァイアサン自体の魔力を吸ってるのかもしれない。もしそうだとしたら、あれはもうリヴァイアサンが魔力を喰いきるか、リヴァイアサンが死ぬまで止まらない、かも」
……うん。もうだいたい分かってるよ。
アルちゃんの『だから待てって言ったのに』みたいな視線からも想像はついてるよ。
あたしなんでしょ?
あたしが思いっきり魔力ぶちこんだからこんなんなったんでしょ。
『ガアァァァァァーーッ!!』
……でも、なんだかリヴァイアサンがずっと痛い思いしてるの可哀想だね。
「……」
『ミサ。何をしようとしてるのです?』
『……アルちゃん』
アルちゃんから念話が届く。
どうやら、あたしがあれを止めようとしてるのがバレてるみたいだね。
『……だって、あれじゃ可哀想だよ。リヴァイさん、苦しそうじゃないかい』
『……気持ちは分かるのです。でも、これを逃せばもう二度とあいつを倒すことは出来ないのです。そうなれば、この国はもちろん、アルベルト王国も無事では済まないのです』
『……それは、そうかもだけどさぁ』
だからって、こんなに苦しめて殺しちゃうってのも、なんか違くないかい?
『……それでも、助けると?』
『……ごめんね』
『……はぁ』
あたしが謝ると、アルちゃんはため息をついた。
『……まあ、ミサならそう言う気もしたのです』
『アルちゃん!』
どうやら賛成してくれた様子のアルちゃん。
『賛成なわけじゃないのです』
『あ、はい』
『……でも、魔獣のこともそうやって考えてくれるのは、正直嬉しいのです』
『……アルちゃん』
アルちゃんはそう言うと、魔方陣の方に目を向けた。
『あれはほとんどミサの魔力によって作られたミサの魔法。だから、ミサが消そうと思えばきっと消せるのです』
『そ、そうなのかい!?』
あたしが操ってる感覚皆無なんだけどね。
『……でも、あれを消したらあいつがどうするかは分からないのです。怒って、また暴れるかも。ダメージは受けていても、この場にいる全員を殺すぐらいなら多分まだ出来るのです』
『うーん。ま、そしたらまたあたしが何とかするさ!』
根拠はないけどね!
『……ミサなら、ホントにやってしまいそうなのです』
アルちゃんはそう言って軽く笑った気がした。
『よっし! じゃあ、やるよ!』
あたしは周りの人たちにバレないように、手をかざしたりはせずに黒い雷に念を送るように『消えて』と念じた。
「……消えてくぞ!」
すると、魔方陣の中を駆け巡っていた黒い雷が少しずつなくなっていった。
そして、しばらくすると雷はかなりちっちゃくなって、それはリヴァイさんが完全に飲み尽くしちゃった。
中の雷が消えたことで、リヴァイさんを囲っていた魔方陣も消えた。
みんなが魔力を注いでた増幅機も真っ黒になって、ブスブスと煙が上がってる。
「……これは、もう使えないな」
ハイドが目の前の黒焦げの増幅機を持ち上げてそう呟いたのが聞こえた。
「……ど、どうなったんだ?」
「た、倒したのか?」
リヴァイさんは首をだらんと下に垂らして微動だにしなかった。
間に合わなくて死んじゃったのかな?
無事で、これに懲りておとなしく帰ってくれれば一番いいんだけど。
『……う』
「……え?」




