145.もう泳ぐの飽きてきたよ
「てりゃあっ!」
「はあぁぁぁぁーーっ!」
「はっ!」
ジョンたちがリヴァイアサンに勢いよく斬りかかる。
「……くそぉ~。ぜんぜん傷つかないなぁ」
「……これだけやって、鱗数枚に多少ヒビが入った程度か」
「……だが、一度ヒビが入った部分を庇っている。いくら蚊が刺したような傷でも同じ場所を何度も打たれるのはヤツも嫌なのだろう」
「つまり、ヒビが入ってるところをまた何回も叩けばいいってことですかね?」
「……いや、それよりもヒビが入った鱗を増やそう」
「なんでですか? ちょっとでも深いダメージがあった方がいいんじゃないですか?」
「……ハイド王子が、仕掛けてくれると?」
「……ああ。そのために、少しでもいろいろな箇所にダメージを与えておきたい」
「……わかりました」
「うーん。なんかよく分からないけど、オッケーです!」
『……』
そして、リヴァイアサンの周りを回るジョンたちは再び飛翔しながら剣を振るった。
『……おかしいのです』
「……ああ、そうだな」
『んー? どしたのー?』
高台から攻撃を放つアルビナスが異変に気が付き、アザゼルもそれに同意する。
『リヴァイアサンがさっきから動かないのです。さっきまではぐるぐる回って王たちを叩き落とそうとしてたのです』
「ああ。最低限の回避はしているようだが、なぜだか攻撃に耐えているようだ」
『んー?』
2人に言われて、ケルベロスも攻撃をしながらリヴァイアサンをよく見てみた。
『ん~。なんか、耐えてるって言うより、溜めてるんじゃない?』
『「!!」』
ケルベロスの呟きを聞いて2人がそれに気付いたとき、リヴァイアサンが大きく口を開けたのだった。
『……ジャアァァァァァーーーッ!!!』
「うわっ!」
「なんだっ!?」
「くっ!!」
ジョンたちがリヴァイアサンに向けて剣を振るっていると、突然、リヴァイアサンが大きく口を開けて鳴いた。
『……』
そして、開いた口を閉じると、ぐりぐりと口を動かし、何かを咀嚼しているようだった。
「……な、なにが……あれ?」
しばらくして、ジョンは自分を支えていたものがなくなったような心地になる。
そして、
「え? 落ち……うわあぁぁぁーーっ!」
「くっ!」
「やられたっ!」
ジョンたちは自分たちを覆っていたアザゼルの浮遊魔法を喰われ、まっ逆さまに海に落ちていった。
リヴァイアサンの周りを回っていたすべての人間が落ちているようだった。
そこに、リヴァイアサンは先ほどと同じように首をもたげ、再び口に魔力を溜める。
それは最初に撃ち放ったレーザー光線と同じもの。
「……くそっ! 身動きがっ!」
そしてそれは、王に向けられていた。
「ヤツめっ! 司令官を狙うかっ!」
「誰かっ! 王を守れっ!」
「いや、飛べないとムリっ!」
カークやジョン、騎士団も必死でもがくが、自由落下のなかで動けるはずもなく、ただ重力に身を任せて落ちるだけだった。
そして、リヴァイアサンの口に魔力が満ちる。
「王っ!!」
リヴァイアサンから放たれたそれはまっすぐに王に向かって伸びた。
細く絞られたそれは王の体を容赦なく貫く。
「うおっ!」
……と、思われたが、王の体は突然上方へと浮き、光線を避けることができたのだった。
「あ、良かった~……って、うわっ!」
「……これは」
王が無事なことに安堵しているジョンたちの体も同じように再び空に浮かぶ。
「アザゼルかっ! 助かった!」
王は再び制空権を得た体を操りながらアザゼルがいるであろう高台を見やった。
『……グルルル、ジャアァァァァァーーーッ!!!』
作戦を台無しにされたことに怒り、リヴァイアサンは大きく咆哮をあげた。
「……くっ。はぁっ! ……はぁはぁ」
皆に再び浮遊魔法をかけ直したアザゼルは地面に膝をつき、頭を抑えていた。
『だ、大丈夫ー?』
「あ、ああ。問題ない」
返答するアザゼルは顔が蒼白になっていた。
『あれだけの数の人間に飛行系の魔法をいっせいにかけるようなこと、そう何度も出来るはずないのです。おまけに国を覆う規模の結界を維持し続けたまま。
魔力消費は尋常じゃないはずなのです』
伝った汗が地面に落ちる様子を感じながらアルビナスが呟く。
「……その通りだ。たぶん、もう同じことは出来ない。早いとこ決めないと、ヤツを留めておくことも難しい」
『……ミサ。早く、なのです』
「あー、びっくりした。王様が撃たれちゃうかと思ったけど、間一髪で避けられたね。またアザゼルさんが魔法をかけてくれたんだね、きっと」
あたしは体力を温存しながら泳ぎつつ、順調に装置を設置してた。
あと1/3ってとこかな?
浜辺の方はちょっと見えたけど、アルちゃんたちがいるとこは見えなかったね。
まだちゃんと不可視結界を張れてるみたいだ。
「ふう。だいぶ軽くなってきたね。最初はどうなることかと思ったけど、もうちょいでいけそうだね」
もう両手で持てるぐらいの量になってきたよ。
最初は体力もつかなって思ったけど、泳ぐにつれて軽くもなってきたから、このままなら無事にいけそうだね。
「……ま、そんなうまくいかないのが毎度のパターンなんだけどねー」
「ふふふ、そうですねー。もう少し消耗してもらいたいので、ちょっとイジワルしちゃおうかと思います~」
入り江で遠隔監視魔法を使ってミサの動向を見ていたツユが呪文を紡いだ。
「……ふふふ。ベストは結界の消滅ですが、まあ、弱体化できればそれでいいですかね~」




