142.こういう時って結局あたしだよね
「ジョン! いくぞっ!」
「はいっ!」
「2人とも、あまり飛び出しすぎるなよっ!」
「わかってます!」
カークとジョンは向かい来るリヴァイアサンに向かって飛んだ。
早くもアザゼルの飛行魔法のコツをつかんだようだ。
王は2人には表に出ないでもらいたいと思っていたが、先陣切って進んでいく2人を見て、自分たちが彼らをサポートした方がいいと判断した。
「皆も続け! 2人を絶対に死なせるな! 回避と防御に専念しつつ、可能ならば2人をサポートしろ! 騎士団は隙を見て攻撃に転じるんだ!」
「はいっ!」
王の指令を受け、武器を持った民たちが空を舞う。
「他国の騎士に遅れを取るなっ! 俺たちもいくぞ!」
「はっ!」
そして、王の周りを囲っていた騎士団の一部隊がそこから飛び出していく。
どうやら王の身を守る部隊と攻撃に向かう部隊で分かれているようだ。
『シャギャアァァァァーーーッ!!』
「くっ! 図体だけじゃなくて声もバカデカいなっ!」
「この咆哮、油断したら麻痺させられますよっ!」
最初にリヴァイアサンの眼前に到着したカークとジョンが耳を抑える。
「……っ! 避けろっ! ジョンっ!」
「わっ!」
その隙をついて、リヴァイアサンが尻尾を大薙ぎに払う。
カークとジョンはそれを何とか避けた。
「っぶな! この図体で速いとか反則じゃないっすか!」
「油断するなっ! 下手したら人間以上に知性があるはずだっ!」
『ジャアァァァァーーッ!!』
「くっ! この声も、作戦や指令を伝えにくくするためかっ!」
「くそ~。ミサとアルビナスたちみたいに念話が使えればな~」
「仕方ないだろう。ここはアルビナスたちの援護を信じて、出来るだけのことはやろう」
「はいっ!」
リヴァイアサンの咆哮に頭を振りながら話すそんな2人の頭上を飛び越える影があった。
「だりゃあぁぁぁぁーーっ!」
王が騎士団の囲いから飛び出してリヴァイアサンの頭に剣を打ち込む。
「王っ!?」
「すごっ!」
「……くっ! 硬いっ!」
だが、鱗に傷ひとつつけることは出来ずに、弾かれるように王はカークたちに並び立った。
そこに慌てるように騎士団も追いつく。
『シャッ!』
そこにすかさずリヴァイアサンが先ほどの光線を溜める。
「まずいっ! 散れっ!」
「くっ!」
リヴァイアサンが光線を放つ頃には王たちは四散していたが、逃げ遅れた民がおり、リヴァイアサンはそんな彼らに向けて光線を放った。
「うわっ! ……あ、あれ?」
が、その光線は大半が石化し、残りは後方から放たれた火の玉によって相殺された。
「後方からの援護がある! 憶さず進め!」
「は、はいっ!」
王に言われ、戸惑っていた民たちも再び空を舞った。
「……あの光線は強力だけど溜めのインターバルがあるのか。速い尻尾に気を付ければ、あれはそこまで怖くないかも」
ジョンは光線を受けずに済んだ民たちを見ながら安堵のため息を吐く。
「ジョン! 前っ!」
「え? あ、ヤバっ!」
よそ見をしたジョンをリヴァイアサンは見逃さず、頭を少しだけ後ろにもたげた。
ジョンはまた光線が来ると思い、避ける準備をしたが、リヴァイアサンは即座に口から細い何かを放ってきた。
「……っ! うわっ! ……え?」
さっきまでの溜めもなく撃ち出されたそれはジョンの頬をかすめていった。
「い、いま、勝手に体が動いて避けたんだけど……」
どうやらジョンが自分の意思で避けたものではないようだ。
それがなければおそらくジョンは頭を撃ち抜かれていただろう。
「アザゼルだ。緊急性を感じて強制的に君の体を動かしたんだろう。だが、そんなに多用はできない。あまり期待はしないように」
「え? あ、は、はい」
王に告げられ、ジョンは軽く後ろを振り返ったが、すぐに前に向き直って剣を構え直した。
「水か。高圧縮された水の噴射。あの圧力じゃガードは無理だろう。避けるしかない」
「カーク先輩……。これ、けっこうムリゲーじゃないですか?」
「ムリゲー? とはなんだ?」
「あ、なんかミサが言ってて。攻略不可能って思えるような時に使うらしいです」
「ふっ。なるほど、ムリゲーか。たしかにな」
ジョンの話にカークはふっと笑みを浮かべる。
「だが、そういうものをクリアしてこその騎士だ。不可能と言われるものを攻略するのは燃えるものがある!」
「あ、それもミサが言ってました。ムリゲーにも必ず攻略法があるって」
「……そ、そうか」
ミサと共鳴したことを少し嫌がるカークだった。
「攻略法か。そんなものがあれば苦労しないのだがな。事前情報のない俺たちはその場その場で判断するしかない。
とりあえず固まっていれば狙われる。全員バラけて四方からヤツを攻撃するぞ。攻撃が効かないとはいえ攻めなければジリ貧だ」
「はいっ!」
そうして、王たちはリヴァイアサンを囲むように散開していった。
「……ハイド。どこにいる。この戦いはおまえにかかっているぞ」
王はそう呟くと、再びリヴァイアサンに向けて剣を振りかぶった。
「ちょっ! はやっ! ハイドっ! ちょっと速すぎないかい!?」
「え!? なに? よく聞こえないよ!」
「ハイド! ミサさんが速いって!」
「あ、ごめん。でも急がなきゃだから、ちょっと我慢して!」
「わ、わかったよ~!」
「え~?」
「ミサさんがわかったって~!」
「あ、うん!」
あたしはハイドの声が聞こえるのになんであたしの声はヒナちゃん経由じゃないと聞こえないんだろ。
え? いやがらせ? ヒナちゃんとの愛のドライブを邪魔した仕返し?
「……はぁはぁ」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫。万事オッケーオールライト」
アルちゃんによるスペースなマウンテンのあとにハイドによるスプラッシュなマウンテンは心臓に悪いね。
てか、ヒナちゃんはよく平気だね。
あ、ちっちゃい頃から海でいろいろやってるから大丈夫? さすがっす。
「……んで、だいぶ近付いたけど、まだリヴァイさんまでには距離があるよ? もっと近付かないのかい?」
あたしたちの乗ってる水上スキー? からリヴァイさんたちまでは、えっと、たぶんけっこう離れてる。目算なんて出来ぬ。
でも、なんかするならもうちょい近くまで行かないとなんじゃないかな。
「いくら魔力を内部にしか使わない乗り物とはいえ、たぶんこれ以上近付けばあいつに気付かれる。だから、ここから始める」
「始める? 何を?」
あたしが尋ねると、ハイドは懐から手のひらサイズの小さな機械を何個も取り出した。
え? いや、それどこに入ってたの? どんだけポッケおっきいのよ。あ、空間収納って魔法? あ、そうですか。
「あの入り江で僕が結界内に雷を流したのを覚えてる?」
「あ、うん。魚いっぱいとってくれたやつ」
なんか、魔方陣を展開して、その中だけに電気を流すやつだね。
「そう。それを、魔法をほとんど使わずに再現するんだ。で、これはそのための補助」
「そのちっこいのが?」
ハイドはジャラリと手のひらに乗った機械を見せてきた。
なんだろ。電池、が一番近いかな。ボタンの方。おっきさもそれぐらい。でも、数は10個どころじゃない。なんかもう、たくさん。
「うん。これを、ヤツに気付かれずに、ヤツの周囲にぐるりと設置したい」
「え? でも海だし、浮いたとしても流されちゃうじゃ……」
「大丈夫。一度設置すれば座標を登録して、そこからズレないようになってる」
「ほ、ほほう」
なんかよく分かんないけど、とりあえず大丈夫なんだね。
「で? それをどうやって設置するの? このボートで気付かれないようにゆっくり回るかい?」
「……いや、あまりウロウロすると気付かれる恐れがある。もっと静かに、慎重にいきたい」
「え? どやって?」
「……泳いで、かな」
「うわーお」
あたしが驚いてると、ヒナちゃんがそろ~っと手を挙げた。
「……すみません。私、泳げなくて……」
え? 海でぶいぶい言わせてたのでは?
「……当然のように僕も……」
「……そうなると」
2人とも、じ~ってあたしを見つめております。
「……あたしがやるのね」
「申し訳ありません」
「ごめん」
ツユちゃんめ。初めっからあたしにやらせるつもりだったね。
てか、2人はあたしがいなかったらどうするつもりだったのかね。
「おっけー! じゃあ、やってやろうじゃないの!」
こっからぐるっと大回りに1周ね! え? 何キロあんの? あははー、たのしいねー!
「ごめん。じゃあ、これ」
「はいはい……って、おもっ!」
ハイド、すんなり持ってたけど、これめちゃくちゃ重いんだけど!
「ハイド。ハイドの基準で渡しちゃダメだよ。ジークハルトの血筋は力持ちなんだから」
「あ、そっか」
あ、ふーん。そーですか。それなのに泳げないんですか。ま、引きこもってたもんね~。まあ、いいんだけどねー。
「……じゃあ、いくよ、うん」
あたしはちょっと納得いかなかったけど、おんもいのを持って海を泳ぐことにしたんだ。




