140.アザゼルさんは良い男だったよ。あと、ハイドたちはいずこ?
「……はぁはぁ」
「ミサ。大丈夫なのです?」
「う、うん。バッチオーケーオールライトだよ」
アルちゃんによる空中散歩(物理)に驚かされたけど、大丈夫大丈夫。ジェットコースターは平気な方だったからね。
「おーい。クラリス姉ちゃんだいしょぶー?」
「……」
あ、クラリスはダメみたいだね。
「……っ!」
「……な、なんだあれ!」
「ん?」
クラリスの回復を待っていると、なんだか下の浜辺が騒がしくなってきたね。
「お、おい! なんかしてるぞ!」
集まった民の1人が水平線にいるリヴァイさんを指差した。
つられてそっちを見てみると、リヴァイさんはなんか後ろに仰け反って何かをしようとしてるみたいだった。
「マズいのです! ケル! クラリス! 障壁全力展開! 浜辺まで包むのです!」
「へ? あ、おっけー」
「え!? あ、はい!」
「え? なに?」
アルちゃんに言われて、ケルちゃんとクラリスが浜辺まで覆うほどのおっきな障壁を張った。
アルちゃんは海の方にだけ四角いおっきな透明な壁(障壁)を何枚か作ってた。
浜辺の方でも何やら頑丈そうな障壁が張られてる。あれはアザゼルさんかね?
「来るのです!」
「……へ?」
アルちゃんがそう言うと、仰け反ってたリヴァイさんが口を開けてこっちに顔を向けてきた。
なんか、口の中がめっちゃ光ってるんですけど。
「うわっ! まぶしっ!」
んで、急にピカッ! って光ったと思ったら、リヴァイさんからものすごい勢いで光線が出てきた。
ビームだよ!
あの人、レーザービーム撃ってきた!
「きゃあぁぁぁーーっ!」
「どわぁぁぁーーっ!!」
あたしもクラリスも突然飛んできたビームに声をあげる。
あ、ちなみに、最初がクラリスで次のがあたしだよ。ちなみにね、一応。
「……くっ!」
で、その飛んできたビームはアルちゃんが張った壁を一気に全部吹き飛ばした。
でも、威力はだいぶ弱まったみたい。
「くっ! つよっ!」
「きゃっ!」
そのあと、ケルちゃんとクラリスの障壁にもぶつかって、どっちも壊されちゃった。
え? ヤバくないかい?
「……ふん!」
で、最後の砦であるアザゼルさんの障壁は、アザゼルさんが気合いを入れると急にすごい分厚くなった。
それにぶち当たったビームは障壁を少しだけ削ったけど、なんとか障壁を壊されることなく空中に四散していったんだ。
「おお~! さすがは魔導天使さんだね!」
「お褒めに与り光栄だな」
「おわっと!」
噂をすればアザゼルさんがいつの間にか空中にいた。
てか、この人、羽はえてるんだけど。
背中からおっきな黒い翼を生やして、バッサバッサして飛んでるんだけど!
「さすがは天使! てか、なんで黒? カラスモチーフ?」
「……しゃーないだろ。そういう仕様なんだよ。
ちなみに魔導天使は全員使える魔法だぞ」
そーなんだ。
え? てか、あのミカエル先生もそんなダークな翼生やしてメガネくいっとかしちゃうの?
え? 死人が出るよ?
「……なんであなたがここに来てるのです?
この国の人間は来ない約束なのです」
アザゼルさんが丘の上に着地すると、アルちゃんが怖い顔でアザゼルさんを睨み付けた。
そういや、そういう約束だったね。
「そうつれないこと言うなよ。それに、おまえらの正体には察しがついてる。ここは互いに連携を取りやすいように一緒にやろうぜ」
「……」
「おおっと! その額の目はやめてくれよ。いくら俺でも固まっちまうぜ」
「……」
どうやらアルちゃんは第3の目でアザゼルさんを石化させようとしたみたい。
でも、そこまで分かってるってことはやっぱりアザゼルさんはアルちゃんたちが魔獣、しかもアルベルト王国の三大魔獣だって分かってるみたいだね。
「……」
「心配しなくても下の奴らには言ってねえよ。王にもな」
「!」
あら、内緒にしてくれるってことかい?
なかなか良い男じゃないかい。
「……あなたは、ミカエルの味方なのです?」
「ま、そういうことだな。俺たちは俺たちの国が守れればそれでいい。それにはアルベルト王国との友好も必要だ。そちらがそれを望むならこちらはそれに応じる。だが、今はあのバカデカいのに対処するのが優先だ。
だから、どうせバレてるんだからこの際俺と連携取ろうぜってわけだ」
「うんうん。そういう分かりやすいのはいいと思うよ」
「おっ! ありがとな! 嬢ちゃん!」
「……まあ、いいのです。あとでミカエルには確認を取るのです。今はひとまず共闘するのです」
「ははっ! ちっこい嬢ちゃんは疑り深いな。まあ、それでいいぜ!」
アルちゃんもとりあえず納得したみたいだね。
「ん! 来るぞ!」
話がひと段落したところでアザゼルさんが海に顔を向けた。
ビームを防がれたリヴァイさんがこっちに向かって突っ込んできたみたい。
「こっち来るよ! てか、浜辺にいる皆はどーすんだい!? あんなんが来たら津波とかもすごそうだよ!」
弓とか魔法とかはまだしも、剣とか槍とか持ってる人はどーすんだい?
ジョンもカクさんも剣なんだけど!
「それはな。こーすんだ、よ!」
アザゼルさんはそう言うと、浜辺のみんなに手をかざした。
で、なんか力をこめたと思ったら手のひらから魔力が飛んで、浜辺のみんながその魔力に包まれたんだ。
「……《空飛び鯨》」
「わっ! わっ!」
「こ、これはっ!?」
「みんなが飛んでる!?」
アザゼルさんの魔力を受けたみんなは体がふわーって浮き上がって、あたしたちと同じぐらいの高さまで浮かんできたんだ。
ジョンもカクさんも驚いてるけど、他のみんなは慣れてるのか、空中でもうまい具合にバランスを取ってるよ。
「……俺は国の結界を維持しないといけないからな。直接、攻撃には参加できない。だが、これなら皆がヤツに直接剣をお見舞いできるだろう。結界を維持しながらでも、これぐらいなら出来るからな」
いや、国を覆う結界を張りながらこれだけの人数相手にこんなすごい魔法をかけられるなんてすごいよ!
やっぱりこの人もミカエル先生と同じ魔導天使なだけあるね!
「それに、この日のために皆には空中での戦闘訓練を受けさせていたからな」
「そーなんだね」
いつか分からない日のためにこんな訓練までしてるなんて、この国の人たちはホントストイックだね。
「あ、そうそう。
この丘の不可視結界なら自分たちで張ってくれよ。さすがにそこまで手を回すのは無理だぜ」
「わかってるのです。クラリス」
あ、そか。
みんながあたしたちと同じ高さに来ちゃったら、ここのことが丸見えだもんね。
アルちゃんたちが魔獣の姿で本気を出すには、みんなから見えないようにしないといけないわけね。
「わかったわ。えいっ!」
アルちゃんに言われたクラリスが丘を覆うぐらいの大きさの結界を張った。
これであたしたちは浮いてるみんなからは見えないようになったんだね。
こういう光系の魔法はクラリスの得意だからちょうどいいね。
「そろそろ来るぞ!」
「おおー!!」
って、気合いを入れてみたけど、あたしがやることある?
てか、そういやハイドとヒナちゃんはどこ行ったのかね?
「ちょ、ちょっとハイド! 急に引き返してどうしたの!? お城にまで戻ってきちゃって、忘れ物!?」
「……いや、違う。あれはたぶん、正面から戦っちゃダメだ。皆が迎え撃ってくれてるから、僕たちは回り込もう」
「で、でも、どうやって?」
「ヒナも行っただろ、あの地下に。あそこに新しく作ったのを用意してあるんだ」
「……わ、わかった。私も行くわ。ハイドに、どこまでもついていく」
「……ありがとう」
「ふふふ、若いっていいですね~。
でも、お二人だけでは心許ないので、あの人も連れてきちゃいましょうか~」




