137.なんかデッカいの出てきたよ!
「な、なんだいこの音はっ!?」
ハイドが電気を発生させる機械が出来たって言いに来たと思ったら、突然外でどおぉぉーーんっ! っておっきな音がしたんだ。
「揺れてるよ~!」
「きゃー!」
クラリスが倒れそうになってたから支えて上げる。
合法的にクラリスを抱きしめるチャンスだね、ふふふ。
「で、殿下」
「……ヒナ。僕につかまって」
「は、はい」
うんうん。そっちはそっちで良い感じだね。
て、そんな場合じゃないね。
「今の音、なんだったんだろね」
「……海の方からなのです」
「あ! アルちゃん!」
さっきから黙ってたアルちゃんが急に駆け出して行っちゃった。
どうやら緊急事態みたいだね。
「あたしたちも行こう! あ、ハイド。その出来た装置ってのは?」
「ある! 持ってる!」
あたしが尋ねると、ハイドはポケットをポンと叩いた。
そんなちっちゃいやつなのかい?
ま、いっか。
「よっし。じゃあ行こう!」
「うん!」
そうして、あたしたちもアルちゃんを追って海まで走ることにしたんだ。
ミサたちが海からの音に反応する少し前。
王やアザゼル、カークやジョンたちは海に来ていた。
周りには国中から集められた屈強な男たちがおり、さらにはそれに負けず劣らずな女たちもそこここに見受けられた。
「……アザゼル。本当にまもなくなのか?」
王は眉間にシワを寄せながら海の端を見つめていた。
海は不自然なほどに静かで、穏やかに凪いでいた。
「……ああ。ここまでになるとさすがに感じる。強力な魔力だ。
臨界点は近いぞ」
「……そうか」
王はチラリとアザゼルの方を見やると、再び海に視線を戻した。
「2人とも、こんな事態に巻き込んですまないな。ミサたちが来たら君らもそっちに合流するといい」
「……」
王は海を見つめながらカークたちに声をかけた。
カークは無言でジョンの方を向くと、ジョンも黙ってそれに頷き返す。
「いえ、王よ。我々はここでともに戦いましょう」
「!」
王はカークのその言葉に振り向いて2人を見つめた。
「……それはダメだ。君らの主は俺じゃない。こんな最前線で他国の兵を使うわけにはいかない。万一のとき、アルベルト国王に申し訳が立たない」
王の言うことは正しい。
たとえ兵自らの志願であったとしても、他国の兵を自国で死なせたとなったらとてつもない国際問題に発展するからだ。
とはいえ、王はそれよりも2人への申し訳なさからそう言っているようだった。
「……それは理解しています。俺たちが剣を振るべきは主のため。
ですが、今ここでこの国の人々のために剣を振るわねば、それこそ主に叱られるでしょう」
カークは自らの主であるシリウスが怒っている姿を想像して、ふっと笑みを浮かべた。
「俺にはまだ主はいないですが、主にしたいと思ってるヤツも、きっとそういうヤツなんで」
ジョンもそう言って剣をポンポンと叩いた。
ジョンの脳裏にはシリウスと一緒になって怒っているミサの姿があった。
「……2人とも」
「それに、俺たちがあっちにいてもやることないですよ。俺たちよりよっぽど強いのがついてるので」
「ああ、それはまあそうだろうな」
カークの冗談のような呟きにアザゼルが同意する。
彼はもしかしたらケルベロスたちの正体にある程度察しがついているのかもしれないようだった。
「……わかった。君らのことは最大限守ろう。だが、俺の守るべき最優先は民だ。だから、最悪君らのことは見捨てる。それでもいいな?」
「もちろんです。それでこそこの国の王です」
「逆に俺が王や皆を守りますよ」
「はっ。上等」
ジョンの軽口に王はふっと笑い、剣を引き抜いた。
それに合わせて周囲の民も武器を構える。
ほとんどが剣や槍を持っていたが、弓や投石、鍬なんかの者もいた。
やはり急拵えで武器を完全に揃えることは出来なかったようだ。
「……来るぞ」
そして、アザゼルの呟きに合わせるように海が大きく引いていった。
まるで大津波の前兆のように。
そして、水平線の先から爆発のような轟音が響き渡るのだった。
「はぁはぁ。アルちゃん早いよ~」
振り袖なのにすごい勢いで走るアルちゃんにようやく追い付いた。
海が見えるとこまで走るとアルちゃんが止まってくれたからね。
「アルちゃん。固まってどうしたの?」
窓が開け放たれたバルコニーに出たアルちゃんが棒立ちになってたから、アルちゃんの肩に手をかけて海の方を覗いてみた。
「あ、浜辺に人がいっぱい。ジョンたちもいるね。たくさん集められたんだね~」
「ミ、ミサ! あっち! 水平線!」
「へ? ……え? なにあれ?」
クラリスに言われて水平線の方に視線を移すと、なんだか長くておっきなのがうねってるのが見えた。
「……リヴァイアサン」
「え? あれがかい?」
アルちゃんがぽつりと呟いた。
どうやらあれが噂のリヴァイさんらしい。
「え? あれってまだ水平線にいるんだよね? え? この距離で見えるって、ヤバくない?」
「……全長100メートル以上って聞いてるです」
「うわーお!」
クジラもびっくりじゃないかい!
「ん?」
そのとき、浜辺の方で何かがキラリと光ったのが見えた。
「あれは、魔法?」
王様たちの周りにいる人のなかの1人がまだまだ遠くにいるリヴァイさんに向かって何かの魔法を撃ったみたいだね。
いや、さすがにまだ届かないんじゃないかい?
「あ」
それに続いて、他の人たちも慌てて魔法を撃ち始めた。
アザゼルさんたちがそれを慌てて止めてるみたいだね。
「……ダメ。止めなきゃなのです」
「え? あ! アルちゃん!」
アルちゃんがぽつりと呟いたと思ったら、またパッと駆け出していった。
「アルちゃん! そういや、さっきリヴァイさんには勝てないって言ってたけど、あれはどういう意味なの!?」
あたしはアルちゃんを追いかけて走りながら、こっちに召喚したときにアルちゃんが言ってたことを尋ねてみた。
「……リヴァイアサンに攻撃は効かないのです。それどころか逆効果になるのです」
「逆効果?」
どゆこと?
「……リヴァイアサンは敵性攻撃を食べるのです」
く、食いしん坊なんだね。




