129.突入ーっ!!
「おーい! おーじー! ハイド王子ー!」
「どこー!? お肉あるよー! お肉だよー! おいしいよー!」
ケルちゃん、相変わらずそれで攻めるんだね。
あたしとケルちゃんはお城のなかを探してた。
土地勘のないあたしたちにお城の外をウロウロされて迷われても困るってんで、王様からお城のなかを探すようにって言われたんだよね。
たしかにその通りなんだけど、王様たちがいないお城のなかを他国の人間に歩き回らせるってなかなかすごくないかい?
無警戒なのか油断してるのか信頼してるのか。
べつにそんな気はないけど、ちょっと心配になっちゃうよね。
「もしかして、それも含めて試されてるとかね」
ま、あの王様はそんな面倒なことしないか。
「ミサー! こっちに変な扉があるよー!」
「んー?」
そんなことを考えながらしばらく王子を探して歩いてると、ケルちゃんが床にある扉を見つけた。
絨毯でうまいこと隠してるけど、ケルちゃんは鼻で空気の流れとかを感じ取って見つけたみたいだ。
「う~む。いかにも怪しいね~」
この国は常夏なのに、鉄製の扉はどこか冷たくて寒々しく感じられる。
何でもない廊下の床になぜか設置された扉。
ここは1階だから、この下は地下になるのかな?
「ミサっ! 鍵があいてるよ!」
「ってことは、誰かが入ったってことだね」
うう~む。これはいかにもここに降りなよフラグだよね~。
でも、こういう時ってだいたいいつも見ちゃいけないものを見ちゃう展開なんだよね~。
「……でもこれ、きっとあたしたちが降りなきゃ話が進まないんだろうねぇ」
「……ミサ? なにぶつぶつ言ってるの? 早く行こーよ」
「って、もう開けてるし!」
あたしが思い悩んでると、ケルちゃんはさっさと重そうな扉を開けていた。
両開きの扉は勝手に閉まる構造のようで、入るには手で抑えてないといけないみたいだった。
「……もういっか! 王子がいるかもだし、行っちゃえ!」
「れっつごー!!」
そうして、あたしとケルちゃんは謎の地下室へと進んでいったんだ。
鉄の扉が閉まる、ゴォーンって音に不安を抱えながら……。
ミサたちが地下室への扉を見つける前。
二手に分かれてハイドを探そうと言って、ミサたちがその場を立ち去ったときのこと。
「……クラリス? どうしたの? 私たちも早く探しにいこーよ」
ミサたちがその場を去ったあとも動こうとしないクラリスにルーシアが声をかける。
「……」
クラリスはそれに応えず、何やら考えているようだった。
「……え? そっちは王子の部屋よ?」
そして、クラリスはおもむろにハイドの部屋へと入っていった。
ルーシアは仕方なくそのあとについていく。
「……」
クラリスはしばらくその部屋の中心で周りをキョロキョロと見回していた。
「ねえ。クラリス。何してるのよ。何か探してるの?」
「……」
そして、クラリスは静かに右手を前に向けた。
《閃光》
クラリスの光魔法によって、部屋のなかは急激な閃光に襲われる。
「うわっ!」
「きゃっ! ……え?」
「……やっぱり」
突然、部屋の隅から聞こえた男の声にルーシアは目をパチパチしながら驚いた。
「……な、なんで分かったんだ」
そして、その声がしたところからハイドがスウーっと姿を現した。
「あの状況でまた自分の部屋に戻るとか、ある意味すごい神経ね」
ルーシアはその姿に呆れたようにため息をついた。
「ずっと部屋に引きこもってた王子だもの。逃げるためだからって外に出るとは思いにくい。前回も、きっとずっと部屋に隠れてたんだじゃないかと思ったのよ」
「なるほどね~」
どうやらクラリスは前回逃げ出した話を王から聞いたときからその可能性について考えていたようだ。
「……くそっ!」
「ルーシア! 逃がさないで!」
「あ、はーい」
「うわっ!」
ハイドは急いで逃げ出そうとしたが、クラリスの言葉を聞いたルーシアが出した糸にあっという間に巻かれてしまった。
「な、なんだこれっ!?」
糸でぐるぐる巻きにされたハイドは地面に倒れてジタバタともがいていた。
「また逃げられたら厄介だから、このまま王のところに連れてくわ」
「ぼ、僕はこの国の王子だぞ! こんなことをするなんてっ!」
「……申し遅れました。わたくしはアルベルト王国第一王女クラリス・アルベルト・ディオスと申します」
「ア、アルベルト王国の王女!?」
「……ええ、そうだけど?」
「な、なんか、クラリスちょっと怖くない?」
ハイドを冷たく見下ろすクラリスにルーシアは怯えていた。
「……嫌いなのよ。民の納めた税のおかげで生活できてるくせに甘えたこと言ってるの」
「……うう」
「厳しいわね~」
クラリスの視線に耐えられなくなったハイドは手をもぞもぞと動かしていた。
「……! クラリス! なんかしてる!」
「えっ!? あっ!?」
そして、ハイドは再び姿を消した。
ハイドをぐるぐる巻きにしていた糸は縛るものをなくしてその場にへたっと落ちてしまったのだった。
「……こうなったら、あそこに行くしかない」
そうして、ハイドはあの場所へと向かったのだった。




