124.キャラが濃いのばっかだね
「おお~! 浜辺が見えたよ~!」
キレイなさらさらしたビーチ!
波はそんなに強くないんだね。
あたしの生まれ故郷はサスペンスが出来そうなぐらいザッパンザッパンだったけど、こっちは平和そうでいいね。
ん?
「あそこ、なんか騒いでるね」
「ホントだ。なんだろーね」
「うおいっ! すごい重いぞ! アザゼル!」
「ホントだな! グラン! こりゃあデカいぞ!」
「ちょ、ちょっと重すぎる! 俺たちだけじゃ厳しいぞ!」
「たしかにっ! 誰かに手伝ってもらうか!」
「おっ! ちょうどあそこに活きのいいのがいるぞ! おーい!」
「ん? なんか、あたしたちのこと呼んでないかい?」
浜辺ででっかい網を引いてる2人のおっちゃんがこっちに何か呼び掛けてるみたいだ。
あれは地引き網かね。
2人でなんて無謀じゃないかい?
「……あれは」
ん? カクさんどったの?
「おーい! そこの若いの! すまんがちょっと手伝ってくれねぇか! 大物がかかったみたいで重くて上がんねえんだ!」
いや、大物とかじゃなくても2人で網引くのは無茶なんじゃ。
って、それどころじゃないか!
「わかったー! いま行くよ~!」
「えっ!? いくのっ!?」
「そりゃそだよクラリス。あれを2人で上げるなんて無茶だよ。ほら、いくよ!」
「あ、待ってよ~!」
「おまたせ! これを引けばいいのかい!?」
「おう! 助かる! 半分に分かれてそれぞれの縄を引っ張ってくれ!」
「おっけー! みんなやるよ!」
「わーい! たのしそー!」
「こ、これを引けばいいのね? 引くだけでいいのね!?」
「わ、わかった!」
「ほら、カーク先輩もやりましょう!」
「……あ、ああ」
2人がやってたのは囲い込み式の地引き網みたいで、2人は海から続く長い縄を懸命に引っ張ってた。
この縄の先は繋がってて、でっかい網になってるはず。
で、それを一気に引っ張って、網で魚を浜辺まで引っ張るやつだ。
あたしも子供の頃によく地引き網大会でやったよ。
「うわっ! おもっ!」
縄をつかんで引っ張ろうとしたけど、なんかすごい力で引き戻されて縄を離しそうになっちゃって、慌てて掴み直した。
これ、相当でっかいのが暴れてるね。
「腰入れろぉ~!」
あたしの前にいるおっちゃんが声を出す。
懐かしいねぇ。
昔はこうやって皆に激を飛ばす父親と一緒に網を引いたり、釣りをしたりしたもんだよ。
「クラリス! もっと腰落として!」
「う、うん!」
「ケルちゃん! ルーちゃん! 実力見せちゃって!」
「「おっけー!」」
「声出すよ~! オーエス! オーエス!」
あたしの号令に合わせて皆も声を出してくれる。
「オーエス! オーエス!」
オーエスってなんだろって、べつに今じゃなくてもいいことばっかりこういう時に浮かんでくるのってなんでなんだろうね。
「いいぞ! 大漁だ!」
「すごいねぇ!」
皆で網を引いて、ちょっとずつ網が浜辺に顔を出してきた。
大小さまざまな魚がどんどん打ち上げられていく。
「な、なんかでっかいのいるよ!」
「なにあれ!?」
網がだいぶ浜辺に出てきて、もうあと少しってところで、先っぽの方になんだかすごいおっきくて長いのがいることに気が付いた。
「おいおい! シーサーペントじゃねえか!」
「こんな浅瀬に出てくるとはなっ!」
おっちゃん2人は驚きながらも嬉しそうにしてる。
これだけの大物はやっぱり珍しいみたい。
出てきたのはでっかいウミヘビのパワーアップバージョンみたいな、それこそもう竜みたいな長くてでっかいやつだった。
もう魚なのか蛇なのか竜なのか分かんないね。
クラリスなんて軽くひと呑みだよ。ま、クラリスならあたしも食べれるけど。
『シャアアァァァァーーっ!!』
「あぶないっ!」
ついに浜辺に打ち上げられちゃったシーサーペントは最後の足掻きとばかりに、おっきい体をうねらせてこっちに飛びかかってきた。
あたしの前のおっちゃんを狙ってる。
おっきな口がこっちに向かってくる。
「ルーシアたちは動くなっ! ジョン! 俺に続け!」
「あ、はいっ!」
ザシュッ!!!
「おー!」
シーサーペントが頭を上げておっちゃんに襲いかかろうってところで、カクさんがその首を帯剣していた剣で斬りつけ、そこにジョンが追い打ちをかけて完全に首を切り落とした。
ケルちゃんとルーちゃんも飛び出そうとしたけど、カクさんはそれを止めてたみたい。
シーサーペントの残った体が、糸が切れた人形みたいにゆらっと浜辺に倒れる。
ズゥンッ! ってすごい音と衝撃が伝わってきた。
「ふ~。さすがはカクさんとジョンだねぇ……ん?」
2人の腕前に感激してると、カクさんが血を払った剣を鞘に納めて、スタスタと狙われてたおっちゃんのところまで歩いていった。
で、そのままおっちゃんの前で跪いて頭を下げ始めた。
「ご無沙汰しております。お怪我はありませんでしたか? グラン王」
おう?
「おおっ! おまえはカークか! ずいぶん立派になって! 気付かなかったぞ!」
「王も相変わらず壮健なようで何よりでございます」
「うむ。相変わらずバカやっておるわ! そっちも相変わらず良い腕だ! シーサーペントの毒袋をきちんと避けて斬っていたな。頼もしい後輩もできたようだしな!
君! 君もいい腕だったぞ!」
「え? あ、どうも」
あ、カクさんお知り合いですか?
おうって?
「カクさんカクさん。このおっちゃん知り合いなの?」
あたしは相変わらず跪いてるカクさんにこっそり耳打ちで聞いてみた。
「この方はリヴァイスシー王国の国王グラン・ジークハルト様だ。皆も跪いてくれ」
「あ! おうって、その王様なのかい!?」
なんていうか、だいぶ王様のイメージないんだけど。
真っ黒で、タンクトップに短パンだし。茶色の短髪で、けっこうムキムキ。年はたぶんけっこういってるのかな? でも若々しくて元気なおっちゃんって感じ。
「なんか、王様っぽくないな」
「ホントね。なにその筋肉」
「ムキムキー!」
「……おまえら、頼むから頭を下げてくれ」
あ、ごめんよ。
あたしたちは改めてグラン王に跪いて頭を下げると、すぐに頭を上げていいって言ってくれた。
「あんま固っ苦しいのは苦手でよ。気楽に接してくれよ」
そう言ってニカッて笑う顔はホントにただの気の良いおっちゃんって感じだった。
なんだかウチの父ちゃんを思い出すね。あ、前の世界の父ちゃんね。
「おっけー! じゃあ気楽にいくねー!」
「おっちゃん王様なのに気難しくないからいいね!」
「その方が私は好きよ!」
「……王よ。この者たちは本気にするのでほどほどにお願い致します」
「はっはっはっ! それぐらい元気な方がいい! この国の女はみな強いからな! なあ、アザゼル?」
話を振られたもう1人のおっちゃんがそれに陽気に応える。
「もちろん! やっぱり女は元気と愛嬌だ!」
そう言って2人で笑うおっちゃんズ。
アザゼルって、もしかして名前的に。
「もしかして、あんたがこの国の魔導天使かい?」
なんか、魔導天使ってみんなインテリで沈着冷静で、インドアなイメージだったけど、この人はすごいアクティブなおっちゃんなんだけど。
王様みたいに焼けた肌で、王様もけっこう大柄だったけど、この人はそれよりもでっかい。
王様よりは少しだけ長い髪を邪魔にならないようにオールバックにしてる。髪色は、赤だね。瞳は翡翠色かな?
すごい見下ろされてるけど、目が優しくてぜんぜん怖い感じはしないね。
「おう! 俺が魔導天使アザゼルだ! 嬢ちゃんがミサだな! ミカエルから話は聞いてるぜ!」
「え? 先生からなんか聞いてるの? 変な話しかしてなさそうなんだけど」
あたしが嫌な顔してそう言うと、アザゼルさんはちょっとだけきょとんとした顔をしたあと、プッと吹き出した。
「はっはっはっはっ! ミカエルに対してそんなこと言えるなんて、たいしたタマだな、嬢ちゃん!」
「わっ! ちょっと! 頭ぐりぐりしないどくれっ!」
アザゼルさんは楽しそうにあたしの頭をぐしぐしとなで回した。
せっかくクラリスにセットしてもらったんだからやめとくれ!
「陛下ぁ~っ! って、ひゃー! シーサーペントー!」
「ん? おお、ヒナか。ご苦労」
そのまましばらく話してると、お城の方からかわいい女の人が走ってきた。
メイドさん、ってわけじゃないみたいだね。
メイド服じゃなくて動きやすそうな格好してる。
上はフリルのついた半袖のシャツで、下は膝が見えるぐらいのハーフパンツ。そして意外とボリュームのある胸元。下がボーイッシュな分、上半身とのギャップがエロ……ごほごほ。魅力的な子だ。
けっこう若い。あたしたちとおんなじぐらいかも。
「彼らがアルベルト王国からの客人だ! 丁重にもてなしてくれ!」
「もう会ってるしぃっ!!」
ヒナちゃん? は大げさなほどに驚いてみせた。
なんだかかわいらしい子だね。
「よしっ! じゃあ俺たちは準備があるから先に帰るぞ! 君たちはゆっくり来てくれ!」
そう言うと、王様とアザゼルさんはわっはっはっ! って笑いながら、2人で大漁の魚とシーサーペントが入った網をズルズル引きずっていった。
「……ねえ、ヒナ? さん。この国の人はみんな2人とかで地引き網しちゃうのかい?」
「そんなわけないじゃないですか。あれは特別です。ボケみたいなもんです」
ヒナちゃんにこっそり尋ねると、ヒナちゃんもこっそり教えてくれた。
王様相手にボケとか言っちゃうこの子もけっこう肝が据わってるよね。




