122.リ、リ、りヴぁ? ま~た覚えにくい名前をぶちこんできたね
「ねえねえクラリス。なんかあたしってほとんど学院にいない気がするんだけど大丈夫なのかい?」
「スノーフォレストへは留学で行ってたからちゃんと単位になってるし、今回は王命による公務だから進級には影響ないから平気だよ」
「そかそか。それなら良かったよ」
勝手にいろんなとこに行かされて学校行ってないから留年ね、とか言われたらたまったもんじゃないからね。
あの悪魔先生ならやりかねないからね。
「わーい! 今回はミサと一緒に行けるー!」
「ふふふ、寒い雪国は苦手だったし、今回は楽しむわよ~」
「ケルちゃん、ルーちゃん。2人とも楽しそうだねぇ」
てなわけで、あたしたちは南の国の王様に挨拶に行くためにアルベルト王国との国境まで来てた。
「いや~! 賑やかでいいですね!」
「やれやれ。公務だってことを分かってるのか」
どっかから取り出した肉にかぶりつくジョンと、皆の浮かれた様子にため息を吐くカクさん。
今回はこの6人で行くことになったんだ。
ホントは今回もアルちゃんがついてくる予定だったみたいなんだけど……。
『やだやだやだやだぁ~~っ!!』
『アルビナスばっかズルイズルイズルイズルイ~~っ!!』
『……遊びに行くんじゃないのです……』
てな感じで、ケルちゃんとルーちゃんがヤダヤダだだっ子になっちゃったから、今回はアルちゃんがお留守番することになったんだよね。
まあ、スノーフォレストでは良い子に留守番してくれてたし、今回は2人と一緒にいっぱい楽しもうと思うよ。
それに、アルちゃんはアルちゃんでなんかやることがあるみたいこと言ってたしね。
「いや~、でも海なんてホント久しぶりだね~」
「ん? ミサは海に行ったことあるの?」
「え? あっ! あ、っと、この前、湖で泳げたから、きっと行ったことあるんだろうなぁ~って」
「あ、そういうことね」
あぶないあぶない。
ちょいちょい記憶喪失設定を忘れちゃうの気をつけなきゃね。
記憶喪失を喪失しちゃうとか、もうワケわかんないからね。
「そういうクラリスは行ったことあるのかい?」
「え? え~と、その、ちょっとだけならあるよ」
ん? なにこの反応。
「クラリス殿下は泳げなくて溺れて、スケイルに助けられたことがありましたね」
「ちょ、ちょっとカーク! 余計なこと言わないでよ!」
あ、泳げないんだね。
ふふふ、真っ赤な顔のクラリスさん。白米欲しくなるよね、ホント。
「そっかそっか。それならあたしが優しく丁寧にしっかりばっちり泳ぎを教えてあげるね」
「……ミサ、目が怖い」
ふふふ、ふふふふふ。
「……海、か」
ん? ルーちゃんもなんか複雑そうな顔してるけど、どったの?
「そういや、南の国ってなんて名前なんだい? やっぱり王国なんだろ?」
帝国は王様が皇帝とか名乗ってるけど、この世界の国はどこも王国みたいだしね。
「名前はリヴァイスシー王国だ。歴史的にはマウロ王国の次に古くからある王国だな」
「リヴァイスシー王国……」
覚えられる自信がまったくないね。
「そういや、アルビナスがリヴァイスシー王国の魔獣は統率が取れてないから気を付けろって言ってたよ」
「ケルちゃん。そうなのかい?」
「あ~、なんかね。あそこの昔っからいる魔獣の長が長い眠りに入ってるのよね。それがもう百年以上も寝ちゃってるから、その威光を知らない若い魔獣たちが好き勝手やってるみたいよ」
「どこにいっても若者はそうなんだねぇ」
前の世界でも強く叱れる人が少なくなっちゃったから、調子にのっちゃう子が増えてきてるって近所に住む学校の先生が嘆いてたからね。
あたしの近所の坊主たちはそれなりに聞き分け良かったけどね。しつこかったからね、あたしゃ。
その子たちの中にはそれなりにやんちゃになった子もいたけど、ホントにダメなラインはちゃんと分かってるみたいだったから良かったけど。
でもまあ、今回はその長さんとやり取りする必要がないからアルちゃんはお留守番することにしたのかもね。
「そうだ。今回は認識阻害や盗聴防止用の魔法を使えるのが俺とクラリス殿下だから、基本的にどちらかと必ず一緒に行動するように」
「あ、は~い」
カクさんが思い出したように皆に注意を促した。
前回はアルちゃんかスケさんが常に皆と一緒にいてくれたから、サルサル2号とかの目を誤魔化せたみたいだからね。
今回もそういうのを警戒するみたい。
「……それに、今回のリヴァイスシー王国への訪問はゼン殿下の息がかかっているような気がするからな」
「お兄ちゃん王子の?」
「……」
クラリスもうつむいちゃって、そんな気がしてたのかい?
「ゼン殿下は眼が広い。スノーフォレストの時のように万全の注意を払って行動していった方がいいだろう」
「そっか~」
眼が広いってどういうことだろ?
千里眼的な?
やっぱりリヴァイスシー王国にもスパイさんをいっぱい置いてるのかね?
どんなスパイさんかね。
またメイドさんかな? それとも海だし、ピチピチ水着ギャル的な?
また皆ナイスバディーなのかね?
ふふふ、楽しみだね。ふふふふ。
「ミ、ミサ? 顔が怖いわよ?」
「あ、これ知ってる。クラリス姉ちゃんのことを考えてる時の顔だ」
「えっ!? やだっ!」
……みんな、わりと失礼だよ?
まあ、こんな感じでガヤガヤやりながら、あたしたちはリヴァイスシー王国へと入っていったんだ。
『ええ、ええ。はい。朝早く出発したので、そろそろ国境を越えた頃かと。
はい。すみませんが、ミサさんとクラリス殿下のことをよろしくお願いしますね。アザゼルさん』
『おう! 任せとけ! ウチの王も良い魚食わせてやるって張り切ってるからな!』
『ふふふ、リヴァイスシーは相変わらず活気があるようですね』
『まあ、それだけが取り柄みたいなもんだからな! ……でもまあ、それも今後はどうなっていくか分からないけどな』
『……やはり、王子はまだ?』
『……ああ、俺も王もああいうタイプは初めてで。正直、どう察していいか分からん』
『そうですか。ミサさんたちが何か良い影響を与えてくれればいいのですが』
『そうだな! お宅のとこの第一王子はそれを見越してその嬢ちゃんたちを寄越してくれたんだろ?』
『……ええ、まあ、そのようですね』
『……ふむ。おまえんとこもいろいろあるのか。ミカエル。俺のとこはいつでもおまえの味方だ。何かあったらすぐに言え。力になるぞ』
『……ありがとうございます』
『おっ! かかったか! 悪い。大物がかかったみたいだ! またな!』
『ふふ、ご苦労様です。また』
「……ゼン殿下はいったい何を狙っているのか……」
「……殿下! ハイド殿下!」
「……」
「殿下! そろそろお客人が来られます! 陛下が準備をせよと仰せですよ!」
「……やだ。僕は出ない。こんな太陽がまぶしい時間に外なんて出たくない」
「殿下! 相手はアルベルト王国の王女様と第二王子様の婚約者様ですよ! 王族として挨拶しないわけにはいきません!」
「もうほっといてくれ。
はあ。いっそ廃嫡してもらえばずっと引きこもっていられるのだろうか」
「殿下~」




