12.バカは何度でも現れるみたいだよ
「はーはっはっはっはっ!
来たな!
ミサ・フォン・クールベルト!」
「……朝っぱらから暑苦しいね、王子様は」
翌日、登校したあたしを校門で待ち構えていたのはバカだった。
「あ、スケさん。
昨日はどうも。
おかげさまで実践魔法を選択することができました」
ミカエル先生の策略によって。
「いえいえ、たいしたお構いもできずに。
今後とも、無作法ながら指導させていただくので、よろしく」
「はい。
こちらこそ、よろしくお願い致します」
「おい!
俺様を無視するな~~!!」
「じゃ、スケさん。
失礼します~」
「おい~~!!」
王子には付き合ってられないよ。
カクさん、そのケガはどうしたの?とは聞かないでおくね。
きっと階段から落ちたんだよね。
スケさん。カクさんを見る視線が取り繕えてないよ。
人が死ぬ視線だよ、それ。気を付けて。
「よ!おはよう!」
「あ、ジョン。
おはよ~」
ジョンは今日もマラソンして来たみたいだね。
そのあと思いっきり水浴びするから、髪がまだ濡れてるよ。
「暖かいとはいえ、そのまんまじゃ風邪ひくだろ。
ちょっと貸しな」
「お、おい!」
あたしはジョンが首にかけていたタオルをぶんどると、わしゃわしゃとジョンの頭を拭きだした。
「やめろよ~」
「いいから、おとなしくしてな!」
あたしにそう言われると、ジョンはきゅ~んとおとなしくなった。
あ~、なんだか前に飼ってた柴犬を思い出すねえ。
あの子もシャンプー後のタオルドライを嫌がったっけねえ。
「も、もういいだろ!」
「おっと」
ジョンに真っ赤な顔でタオルを取り上げられた。
ちょっと強くやりすぎたかね。
「また髪が濡れてたら拭いてやるから言いなよ」
「うっせ!
ちゃんと乾かすよっ!」
「おはよー!
って、どうしたの?」
「なんでもない!」
「あ、クラリス。
おはよー」
「おはようございます。
今日からは授業を進めていきますよ。
席につきなさい」
あ、ミカエル先生だ。
「……ミサさん?」
「何も思ってませんですわ!」
……心でも読めるのかね、この人は。
ミカエル先生の授業は堅っ苦しい話し方とは裏腹に、とても分かりやすかったよ。
あとから聞いた話だけど、戦術学の時はわざと難しい言葉を並べて難解に説明していたらしいね。
武術も魔法も苦手だから座学で適当に済ませようと考えるあたしみたいなヤツを振るいにかけるためなんだって。
あれ?あたしは?
「ミサ・フォン・クールベルトぉ~~!!」
……ご飯ぐらいゆっくり食べさせとくれよ。
「き、貴様、その量を1人で食べるのか?」
「ふえ?」
まさか王子に引かれるなんてね。
え?
山盛りパスタに塊ローストビーフに大皿シチューにバスケットいっぱいのパンなんて普通だろう?
これでも、ちょっとは遠慮したんだよ。
「ま、まあ、それぐらい出来なきゃ俺様に拳を振り上げられないだろうなっ!」
そこ威張るとこかね。
「それよりも、これを見るがいい!」
「今度はなんだい」
王子はまた、1枚の紙を嬉しそうに差し出してきた。
「え~と、なになに、」
あたしは王子に持たせたまま顔を近付けてそれを見てみた。
『男子生徒はミサ・フォン・クールベルトに話しかけたら退学とする』
『ミサ・フォン・クールベルトは飛び級で俺様と同学年で同じクラスで隣の席とする』
「…………《ファイア》」
「ぎゃあ!
俺ごと燃やすなっ!」
そう。
あたしはついに魔法を使えるようになったのだ!
初級の初級だけどね。
昨日のスケさんの解説のおかげだね。
「貴様っ!
今はそんことはどうでもいいだろ!」
なにさ。
人の解説に入ってこないでくれるかい。
王子はスケさんの水魔法で無事に消化されたみたいだ。
「ぐぬぬぬぬっ。
覚えてろ!
今度こそ貴様をぎゃふんと言わせる校則を作ってきてやるからなっ!」
王子はそう言うと、カクさんとともに走り去っていった。
「うちのがすいませんね。
でも、事前にミサさんに見せに来るだけマシだと思ってやってください」
スケさん。たしかにね。
勝手にやらないだけマシかもね。
にしても、
「あの王子はそんなにあたしに復讐したいのかね」
「へっ?」
「いや、だって、男子生徒と話せなくして友達をなくして、自分の監視下に常に置こうってことでしょう?
女子生徒との接触を禁止してないあたりに、何か裏を感じるね」
「いや、王子はあなたのことが……」
「スケイル。
ミサはこういう子なの」
ん?
クラリス、どういうことだい?
「スケイル!
なにしてる!
さっさといくぞ!」
「あ、はい」
なぜだかポカンとしたスケさんは王子に急かされて、慌てて去っていった。




