119.長いようで短い旅だったねぇ
「いや~。今回もいろいろあったね~」
「……いつもいろいろ起こすのはミサさんですけどね」
「ん? スケさんなんか言った?」
「いえ、なにも……」
あたしたちはスノーフォレスト王国をあとにした。
星雪祭が留学の締めくくりだったから、それが終われば自然とアルベルト王国に帰ることになるわけだ。
なんかあんまり勉強した気がしないけど、それ以外のことが衝撃的だっただけだね。
新しい魔獣の長のタマちゃんとか、帝国のこととか。イノスのこととか。
考えることがいろいろあるけど、ミカエル先生にはとりあえず何もするなって言われてるから、あたしはいつも通り過ごそうと思うよ。
何も考えずに過ごすのは得意だしね。
あ、そのタマちゃんだけど、スノーフォレスト王国と盟約を結ぶってことで、正式に北の魔獣の長に認められたらしいよ。
といっても人間が勝手に認定してるだけで、魔獣さんたちの中ではとっくに長ポジみたいだけど。
で、あたしはタマちゃんと契約?みたいのを結んだんだ。
これがあれば、いつでもタマちゃんとお話が出来るし、タマちゃんをあたしの元に召喚することも出来るんだって。
これであたしの料理を振る舞う問題も解決だね。
タマちゃんをこっちに呼んで、料理と一緒に向こうに戻せばいいわけだからね。
「あ、そういえば、アルちゃんたちとはその契約?みたいのをやってないけど、やらなくていいのかい?」
ていうか、そんなのしてなくてもあたしの位置を把握したり、なんかいろいろしてなかったっけ?
「私たちはもうとっくにミサを主人と認めてるのです。そして寝食をともにすることで自然と契約を結んだ形になってるのです」
「あ、そなんだ。でもなんかそっちの方がいいね。
契約とか形式めいた感じじゃなくて、なんか絆みたいで」
「ん。だから私たちはそうしたかったのです」
「このこの~! かわいいやつめ~!!」
「きゃ~!」
あたしがたまらずぎゅ~ってすると、アルちゃんは嬉しそうにしがみついてきた。
いいわ~。
やっぱりこういうのが一番幸せやね~。
「で、殿下。大丈夫ですか?」
「……うう、気持ち悪い」
そんなハッピーさに水を差すゲボリンが1人。
「……」
馬車酔いで隅っこの方でボロ雑巾になってる王子。
この人、あたしのことが好きらしい。
まあ、正直嬉しかったよ。
こんなあたしのことを異性として見てくれる人なんていないと思ってたから。
てか、この世界の王子様たちって見る目なくないかい?
まあ、それはさておき、たしかにあの場で告白された時はびっくりしたし、ちょっとはカッコいいなって思ったよ。
でもね、そのあとコレはいっさいこっちを見やしないし、話しかけても答えもしない。
挙げ句の果てには逃げ出すのよコレ。
「うぅ、ぎもぢわるい……」
で、いまはこの体たらく。
あたしゃもう知らんよ。
あの告白は聞かなかったことにしよう。
こうして、微妙な遺恨を残してあたしたちのスノーフォレストへの留学は終わったんだ。
「ク~ラ~リ~ス~!!」
「ミサぁ~! って、きゃーっ!!」
あ~! 久しぶりのクラリス成分だぁ~!
ぎゅ~! ぎゅ~!
もう離さないぞぉ~!
ああ、首筋の甘い匂い。
クラリスの匂いだ。
もう永遠に嗅いでいたい。
このまま生活したい。
「ミサ、クラリスが死にそうだよ」
「ん? 構わん!」
「いや、構いなよ」
真っ赤な茹でダコになってるクラリスも最高です!
「いや~、ミサは相変わらずだな~」
あ、ジョン。久しぶり~。くんかくんか。
「クレア、戻ったか」
「はっ! ただいま帰りました! カーク先輩!」
うんうん、やっぱりこのペアが安定だよね。くんかくんか。
「ジョンく~ん! 発見ですわ~!」
「げっ! シルバ先輩っ!」
ほうほう。お二人は相変わらずのようですな。くんかくんか。
「……皆さん、久しぶりの再会にはしゃぐのもほどほどに」
あ、ミカエル先生。
その節は大変お世話にくんかくんか。
「……ミサさん。そろそろクラリスさんを解放してあげなさい。
もうくたばってますよ」
いやいや、ここからが本番ですよ先生くんかくん……ぎゃっ!
「調子にのらない」
「……あい」
先生のチョップがあたしの頭に落ちて、久しぶりの再会はとりあえず落ち着いたよ。
「もう!」
「だからごめんてクラリス~」
復活したクラリスはぷんすかしてた。
正直、ほっぺを膨らませてるその姿も愛らしいんだけど、そんなこと言ったら余計怒っちゃいそうだからやめとこ。
この人を本気で怒らせたら一番怖いからね。
「ごめんごめん。はいこれ。お土産」
「え?」
あたしは謝るついでにスノーフォレストのお土産をクラリスに渡した。
綺麗な雪の結晶の形をしたネックレス。
それを2つ取り出して1つをクラリスに渡して、もう1つをあたしの顔の横に持ってく。
「お揃いなんだ!」
「……もう、ずるい……ありがと」
ぷんむくれでお礼言うクラリス尊いっ!
「いいな~! 俺には~!?」
「ジョンにはね。これさっ!」
ジョンにせがまれて、どこからともなく取り出したるは大型魔獣の姿焼きのモモ肉!
たぶんあたしぐらいの大きさ。
どっから出したんだって?
それはいいの。ギャグパートだから。
「お~! やった~!」
ジョンは自分ぐらいでっかいお肉を持って嬉しそうに飛び跳ねてる。
うんうん。やっぱり男の子は食べ物で喜ぶよね。
近所のガキんちょたちもそうだったからねぇ。
「あ、あ、あの、カーク先輩。これ、お土産です」
「ん? おお、魔除けのポプリか。これは助かる。ありがとうクレア」
「い、いえ~……」
うんうん、この2人のやり取りは永遠に見てられるね。
「……というか、もう授業始まってるので静かにしてくださいね。カーク君も、補助官の勤め中ですからね」
あ、そうだった。
「申し訳ありません」
んね。カクさん。一緒にごめんしようね。
「ミサ~!!」
「ミサミサ~!!」
「わ~! ミサよ~!」
「ミサミサミサミサミサミサ、ミサぁ~!!」
「……うわーお」
家に帰るとすごかった。
ケルちゃんとルーちゃんがまず飛び込んできて、そのあとお母様とお父様が飛び込んできた。
てか、お父様が一番熱量すごい。
はいはい、みんなただいま。
「……俺も帰ってきたんだけど」
「ロベルト様はよく遠征で留守にされますから」
うんうん。フィーナ、お兄様のフォローは任せたよ。
「……そうか。いろいろ大変だったね」
「ま~ね~。あ、でも星雪はすっごい綺麗だったよ! みんなにも見せたかった!」
「い~な~!」
「私も見たかった~!」
「そうだね、来年はみんなで行こうね」
「あら、それはいいわね」
そのあと、あたしたちは夕飯を食べながら土産話で盛り上がったんだ。
お兄様は報告も兼ねて王都に行っちゃったけど。
ケルちゃんとルーちゃんはあたしの膝から降りようとしないんだよね。
実際、家を空けていた期間はそんなに長くないと思うんだけど、やっぱり寂しかったんだね。
アルちゃんはずっとあたしを独り占めしてたからって遠慮してるみたい。
出来る子だよほんと。
「それで? こっちでは何か変わったことはあったかい?」
あたしの話ばっかしてたけど、アルベルト王国の方では何かあったのかね?
まあ、そんなたいした期間でもないし、そうそう何かが起きるとは思えないけど。
「……そうだね。変わったことと言えばひとつだけ……」
え? あるの?
「王太子のゼン殿下が表舞台に出てきたことかな」
「……え?」




