118.王子様たちのホントの気持ち?
「いや~! この度は本当に助かったよ!」
星雪祭の夜が明けた翌日、あたしたちは再び王様と謁見することになった。
もろもろの感謝の意を伝えたいってんで王様があたしたちを呼び出したみたいだ。
王様の横にはイノスと2号もいるね。
こっちはミカエル先生とアルちゃんタマちゃん以外がいる感じ。
ミカエル先生はお仕事山積みだからアルベルト王国に。
アルちゃんたちは魔獣さんたちにいろいろ説明しに行ってるみたいだよ。
そこで新しく結ぶ盟約についても話し合うんだって。
「君たちがイノスの近くで応援してくれたから祈祷もうまくいった! あれだけ長時間、広範囲に及んだ星雪は初めてだ!
きっと神が君たちの頑張りにも応えてくれたからだろう!」
王様は跪くあたしたちにウインクしながらそう言った。
もともと三日月みたいな目の人だからよく分かんなかったけど、たぶんしたと思う。
ここには2号がいるから、ミカエル先生が新しい魔獣の長を倒した(ってことになってる)話は内緒にしなきゃだもんね。
それでも実質的に騒ぎを収めたあたしたちを労いたいっていう王様の気概はかっこいいよ。
2号も、「うんうん、我が王は器の大きい王だろう?」みたいな感じで得意げだからいっか。
実際王様はいろいろおっきいしね。
「さて、何か褒美でも取らせようと思うのだが……」
ご褒美!
スイーツ!?
豪華な手土産!?
ナイスバディーなメイドさん!? は、スパイさんだった。
「ミサさんにうちのイノスと婚約してもらうというのはどうだろうか」
(「な、な、な、なんだって~~~~っ!!!」)
って、叫びだしたかったけど、スケさんに先にドレスの裾を引っ張られて、ハッとして口を抑えたよ。
そうだった。
王様との謁見の前に、
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「いいですか、今回の謁見。王が何かしらぶっ込んでくる可能性がありますが、すべて王子が対応するのでミサさんはリアクションとかせずに黙っておいてくださいね」
「ぶ、ぶっ込んでくるのかい?」
「とにかく、立ち上がったり叫んだりしなければ大丈夫です。いいですね?」
「う、うん。オーライ」
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スケさんにこんな感じで釘を刺されてたんだった。
全部王子が対応するからって、コレがどう対応してくれるのかね。
そう思って王子の方を見ると、王子は頭を下げたままわざとらしく苦笑いを浮かべた。
「……ご冗談を。ミサはすでに私の婚約者となっておりますので」
おお。なんて無難な返答。
そんな困ったような苦笑いでスルーするスキルがあったんだね。
あたしゃてっきり王様に雷でも落としてぶちギレるのかと思ったよ。
ん?
なんでぶちギレるんだ?
なんかそれって、コレがあたしのことを大好きみたいじゃないかい。
いやいや、コレはアルベルト王国の王様やらお父様やらが決めた婚約者話に乗っかってるだけなんだし。
ま、でも何も言わないのも心証悪いし、暴れたら外交問題になりかねないし、一番まともな対応なのかもねぇ。
「ふむ。残念じゃのう」
王様が何やらニヤリとしながら答えた。
いや、ぜんぜん残念そうな顔じゃないんだけど。
「……シリウス王子。君は、ミサのことが好きなのかい?」
「……っ!」
あらら、イノスさんったら何をぶっ込んできてるんだい。
さ、王子様。全部対応してくれるんだろ?
「……そ、そ、そ、そ、それは、それはそれはそれは、それは、ま、まぁ……」
……なんすか?
「僕はミサのことが好きだ」
「うわーぉっ!」
「ミサさん!」
あ、すんません。
いや、まさかイノスがそんなどストレートな告白をしてくるとは思わなくてね。
「イ、イ、イノス……殿下。な、何を、お戯れを」
王子様。お顔がひきつっておりますが。
「ミサの優しさも温かさも容姿も少しおバカなところも」
……おバカ?
「ミサのすべてを僕は好きだ。出来ることならこれから先、ずっと僕の伴侶として側にいてほしいと思っている」
ぐほぁっ!
もうやめてあげて。
おばちゃんのライフポイントはもうゼロよ……ぐふっ。
「……」
うちの王子様黙っちゃったよ。
「だから、君がもしミサを好きではないのなら僕にミサをくれないか? 僕ならミサを必ず幸せにする。
どうかな?」
え? そうしよかな。なんかすごい幸せにしてくれそう。
「……だ」
「え?」
ん? なんて?
「ダメだ!! ダメダメダメダメ!! ダメだ!!
ミサは俺様の婚約者だ! おまえになど! いや、他の誰にも渡さんぞ!」
わーお。
駄々っ子が出た。
「……それはつまり、君はミサのことが好きだということかな?」
「……と……当然だ! でなければ婚約者などにするか!」
「……え?」
そーなの?
「俺様にあそこまでまっすぐにぶつかってくれる奴など他にいない! ミサがいいのだ! ミサでなければダメなのだ!!」
……そーなんだねぇ。
「……それなら、こちらは側室という形でも構わないよ。週に2回ほどこちらに通ってくれるだけでも嬉しい」
そんなハーレム展開あるの?
「……知っているだろう。アルベルト王国は一夫一妻だ」
あ、そなんだっけ。
「……でも、確実に世継ぎが必要な王家はその限りではない。君こそ、それを知らないはずはないよね?」
そなんだ。あれ? でも王様には王妃様しかいないよね?
「……当然だ。だが、俺様はそんなことはするつもりはない。父上も母上だけを妻に迎えているしな。
俺様にはミサがいれば十分だ」
……いや、なんか恥ずかしくなってきたんだけど。
スケさん、あたしが逃げないように裾つかんでるでしょ? ニヤッ、じゃないんだよ。
クレアはお耳ふさいで聞かないようにしてるのかい?
でも耳真っ赤だよ。聞こえてるでしょ。
2号は、なんか遠く見てません?
大事なイノスの一大事なんだけど、そんな他人事でいいのかい?
「……ふーん。そんなにミサが好きなんだ。ミサは僕のものにしたかったのに」
……なんか、イノスってそんな人だったっけ?
「……貴様、さっきから人の婚約者をモノのように。ミサはモノじゃない」
それな。
珍しく王子と意見が一致してるね。
「……つまり、君はミサのことが大好きで誰にも渡したくないってことでいいかな?」
「なっ! ぐおっ!」
王子、謎のダメージ。
……てか、イノスこれって。
「……と、当然だ」
ぐはっ! あたしにも謎のダメージ。
真っ赤な顔でこくりと頷く金髪イケメン。
俺様くそやろうフィルターなしだとけっこうイケメンなんだよね、この人。
「……わかったよ。ミサのことは諦めることにするよ」
「ふぅむ。残念じゃのう」
……ずいぶんあっさりと……いや、2人ともめっちゃニヤニヤしとるやん。
やったな。
こいつら完全に楽しくてやってんな。
うちの王子様はおかげさまで茹でダコ寸前。
おまけにあたしも茹でダコ寸前。
いや、離してスケさん。
あいつらちょっとシメてくるわ。
国際問題? 上等。いっちょ起こしてくるわ。
あ、そのためにつかんでた? さすがっす。
てか、スケさん分かってたんだね。
帰ったら覚えてなよ。
そのあと、謁見の間から出るときにイノスがあたしに声をかけてきた。
さっきのいまでええ度胸しとるの。
「ミサ。さっきはからかうようなことをしてごめんよ。素直じゃなさそうなシリウス王子の本音を聞きたくてね」
やっぱりさっきのは演技だったわけね。
「でも、なんでわざわざそんなことを? 王様まで巻き込んで」
「……ミサには、幸せになってほしかった。ミサのおかげで祈祷がうまくいったと言っても過言ではないからね」
「いやぁ、あたしはなんもしてないよ」
と、否定してみたけど、もしかしたらイノスは今回の魔獣騒動を鎮めたのがホントはあたしだって気付いてるのかも。
「それに、父上はこういうことが大好きだから、喜んで協力してくれたよ。サマエルは呆れてたけど」
あ、さよですか。狸親父め。
「……ま、そういうわけだから、僕はミサのことを諦めることにするよ……」
「……ん?」
イノスはそう言うと、あたしの耳元に口を寄せた。
「……今回は、ね」
「……っ」
イノスのその呟きを聞いたのはあたしだけだったみたい。
「おい! そこ! 何してる!」
「ほら、ミサの王子様がお呼びだよ」
「……もう」
イノスに背中を押されて、あたしはうちの王子たちの所に走っていったんだ。




