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117/252

117.君の方がキレイだよ、なんて実際言われたら笑っちゃうね

 イノスが高台の先端に設置された台座に跪く。

 四方には蝋燭に火が灯されてて、イノスを幻想的な雰囲気が包んでる。

 この辺も、眼下に広がる街も全部雪化粧。

 でも、イノスが台座に跪いたら不思議と降ってた雪がやんだ。


 イノスは両手を胸の前で握って目を閉じた。

 神様へのお祈りの始まりだね。


 あ、王様だ。

 王様もなんだか心配そうにイノスのことを見つめてる。

 このお祈りの儀式の成功によって、この1年の平穏が約束されるっていうし、何よりイノスにとっては正式に王太子になるための大事な儀式。

 そりゃ王様も緊張しちゃうよね。


 イノスの方は全然そんな感じしなかったね。

 まあ、いつも表情が変わらないからよく分かんないけど。


 街の方では国民の人たちの歓声が上がってるね。

 みんなイノスを応援してるみたい。



「……」


 そして、イノスが手はそのままに目を開けて顔を上げると、四方に置かれた蝋燭の灯りが消された。

 高台の明かりが消えると、歓声を上げていた街の人たちもしんと静かになって、みんながイノスを見つめてるみたい。


 月と星の光だけがイノスを照らす。

 なんだか、不思議とイノスにだけ月のスポットライトが当たってるような気がするよ。


 イノスは空を見上げたまま、すぅっと息を吸って、祈りの言葉を紡ぎ始めた。



『天にまします我らが父よ

 今宵も祈りを捧げましょう

 父より生まれしこの大地

 その恵みを与り生きる我ら

 どうか

 またこの年も我らにこの地の安寧を

 変わらぬ愛をお与えください

 我らはいつも父に祈り

 我らはいつも父とともに』



 祝詞を言い終わると、イノスは再び目を閉じて頭を下げた。

 しんとした空気がスノーフォレストに流れてるのを感じる。


「……ん?」


 イノスに当たっていた月のスポットライトがなくなった気がする。

 なんだかさっきよりも暗く感じるね。

 月が雲で隠れちゃったのかね。

 そう思って空を見上げてみると、


「……あ」


 空から、キラキラした光が降ってきた。

 それもたくさん。

 いや、ホントにたくさん。


「……すごい。これ、雪? 星? 光かな?」


 キラキラした光はどんどん空から落ちてきて、ついにはあたしたちのところにやって来た。


「わ! わ! すごい!」


 雪みたいに無数に落ちる光は雪の積もる地面に着くと、スゥッと消えていった。

 試しに手で受けてみると、それは手を通過して地面に落ちていった。


「……星降り。これが星雪(スタースノー)なんだね」


 とどまることなくどんどん落ちてくる星雪はやがてスノーフォレストの街にも拡がって、きっとこの国全部に降ってるんだと思う。

 街の方からもすごい歓声が聞こえてくる。


「……キレイだね」


 クレアもキラキラ輝きながら降ってくる星雪に感動してるみたいだ。

 キラキラと一緒にクレアも輝いてるよ。

 あ、そだ。


「クレアの方がキレイだよ」


「な! なに言っての! ミサはバカなの!?」


 ふふふ、照れちゃうクレアもかわいいねぇ。

 やっぱりこの場面ではこのセリフでしょ。



「イノス! よくやった! よくやったぞぉ~!!」


「イノス殿下! 私は信じてました! 信じてましたよぉ~!!」


「あ、ああ。2人ともありがとう」


 イノスは王様とサルサルさん2号にがっちりホールドされてる。

 2人とも泣いとるよ。

 肝心のイノスはちょっと引いてない?



「これがスノーフォレストの毎年の風物詩だ。なかなか綺麗だろう?」


「ん? ああ、そうだね」


 王子、あんた今までどこいたの?


「殿下は先ほどミサさんたちに嫉妬しすぎて、ここに来る時に乗った馬車の酔いがぶり返してお休みになられてました」


 あ、スケさん。


「ななななな! なにを言っとる、言ってるんだ! 俺様がしししし、嫉妬などするはずがないだろう! ではないか! かな!」


 落ち着け。


「そ、そ、そ、それよりも、星雪が綺麗だな!」


「あ、うん。そうだね」


 真っ赤な顔していつまでテンパってんの?


「そ、そうだろ! で、で、でもなぁ。お、お、お、おまえの方が、がががが」


 あ、ごめん。それさっきあたしが言ったわ。















「はぁはぁはぁ……」


 森の中を1人の女性が走る。

 彼女はメイド服が汚れることなど厭わずに、星降る森をひたすら南西に向けて走っていた。


 ミサたちについた2人のメイド。

 その1人はアルベルト王国のゼン王子のスパイであった。

 そして、いま森を走るのはもう1人のメイド。

 彼女は先代の魔獣の長を差し入れとして捧げた酒に入れた毒で殺した張本人。


「くそくそくそっ! 魔獣どもがスタンピードを起こさないとはっ! 魔獣の長を単身で調伏するなんてっ! アルベルト王国の魔導天使めっ!」


 メイドは怒り収まらぬといった様子で夜に光る森を走り続けていた。


「せっかく皇帝陛下にいただいた毒で先代を殺したというのに。このままで済むと思うな。

 まずは体制を立て直して、再びこの国を終わらせて……ん?」


 メイドが不敵な笑みを浮かべたところで、彼女は動きをピタリと止めた。


「……え? 体が、動かない……?」


 メイドは必死に体を動かそうとするが、足を止めた体勢のまま、ピクリとも体を動かせなくなってしまったようだった。


「……無理なのです。私の麻痺石化はあなた程度じゃ解けないのです」


「だれっ!?」


 メイドが声のした方に目だけを動かすと、木の陰から白装束の少女が現れた。


「こ、子供?」


「……あなたが裏切り者ですね」


「……っ。ミカエルっ!」


 その少女の後ろから現れたミカエルを見て、メイドは顔を青くした。


「アルビナス。気絶させてください」


「はいはいなのです」


「……うっ!」


 ミカエルの言葉に従ってアルビナスが麻痺石化の強度を上げると、メイドはあっさりと気を失った。

 アルビナスが麻痺石化を解くと、メイドはその場にどさっと倒れた。


「……では、彼女の調査はそちらにお任せしますね」


「……分かりました」


 ミカエルが声をかけると、メイドの横にもう1人のメイドが現れた。

 ゼン王子のスパイであるメイドだ。

 彼女は倒れているメイドをひょいと持ち上げて担ぎ上げると、すっと森の闇に消えていった。


「……では、尋問が終わり次第、彼女は生きたままあなたに。

 そのあとはどうぞお好きに」


「うむ。それでいいだろう」


 メイドが完全に消えたのを確認すると、ミカエルは自分の後ろに声をかける。

 すると、そこから長身の男性の姿をしたタマモが現れた。


「では、約束通り再びスノーフォレストの王と盟約を」


「ああ、約束は守る」


 ミカエルは先代を殺した人物を引き渡すことを条件に正式に王と盟約を結ぶことをタマモと約束していた。

 シリウスともその話はしていたが、ミカエルはこれをもってそれを確定としたようだった。


「……やれやれ。他国のことにここまで首を突っ込むことになるとは」


 ようやく一段落したミカエルはため息を吐きながら首をこきこきと鳴らした。


「この地の魔導天使にやらせれば良かったではないか」


「……あの人はいろいろ面倒なんですよ。それに、ミサさんのことを露見させるわけにはいかないですから」


 タマモの言葉にミカエルは深いため息とともに答える。


「……なんか、ミカエル。お疲れ様なのです」


「……本当に、あなただけが頼りですよ」


 さすがに大変そうでアルビナスに労われるミカエルだった。


「私も協力するから頑張るのです。ミカエルがミサの味方でいる限り、私もあなたの味方なのです」


「……」


「……」


「……大丈夫ですよ。私はずっと、ミサさんの味方ですから」


「……ん。それならいいのです」







 スノーフォレストに降る星雪は一晩続いた。


 これは歴代でも類を見ないほどの長い時間だったそうだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 星雪祭が無事に開催され、期待以上の盛り上がりでよかったです☆彡 そして真犯人も捕まり、一件落着ですね(`・ω・´)ゞ 次は新章でしょうか??
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