113.今回のやらかしは……
スケさんが取り出したるは綺麗な水晶玉だった。青くて透き通った綺麗な真球。
てか、スケさんよくそんなん胸ポケットに入ったね。ホントに四次元胸ポケットなんじゃないのかい?
ていうか、なんかそんなん見たことあるんだけど。
「ーーーー」
スケさんは何事か呪文を唱えると、水晶を高々と掲げた。
水晶からは青い光がぴかーって出てる。
「……すいません、先生。よろしくお願いします」
「……え?」
スケさんの言葉に耳を疑っていると、水晶の光が引っ込んで、ズッ!と中から何かが出てきた。
「……はぁ。やれやれ。やっぱりこうなりましたか」
「げっ! ミカエル先生っ!?」
水晶から出てきたのはペカチュウ、じゃない。ミカエル先生だった。
え? 胸ポケモンスターなの?
ミカエル! 君に決めた~! なの?
先生ってゲットできたの? マスターボール?
「……ミサさん、うるさい」
あ、すんません。
「まったく、これだけの人数の記憶を調整するのは大変なんですから、少しは自重してくださいよ」
先生はそう言うと兵士たちに自分を注視させ、記憶操作の魔法をかけ始めた。
どうやらあたしのことを忘れさせてくれてるみたいだ。
「……いや、ホントすいません。わざわざ来てもらって」
「……私が言いたいのはそういう……いや、今日のお説教係は他にいるようですね」
「……え?」
私が先生の視線の先を振り返ると、王子がずんずんとこちらに歩いてきていた。
「……え?」
な、なんか、今までにないほど怖い顔してないかい?
入学式の時みたいな冷たい感じじゃなくて、あたしをまっすぐに見てるけど、すごい怒ってる感じ?
「ミサ! おまえは! 自分が何をしたか分かっているのか!!」
「うひゃい!」
そんな近くで大声出さなくても。
思わず縮こまっちゃったよ。
「悪かったよ。あたしの能力は秘密って言われてたのにこんなことになっちゃって」
「そういうことではない!」
「わひゃい!」
ど、どういうことだい!?
「俺様はなぜ自分たちだけで魔獣のもとに行ったのかと言っているんだ! 下手したら殺されていたんだぞ!」
「あ……で、でも、あたしなら……」
「魔獣を飼い慣らせる? たしかにそうかもな。
だが、おまえはまだ自分の能力を理解していないし、管理もコントロールも出来ていない。
もしおまえの能力がアルベルト王国の魔獣だけにしか効かなかったらどうする?
もしそうだったら、今ごろ魔獣の長の胃袋の中だぞ」
「……あ」
「それに、おまえだけじゃない。おまえが連れていった者たちも一緒にだ。
奴らはおまえを止めたんじゃないのか?
だが、それでもおまえが来いと言えば奴らは嫌とは言わないだろう?」
「……そう、だね」
お兄様もフィーナもアルちゃんも、あたしが振り回して連れてったんだ。
みんな、あたしが言うことだからってついてきてくれたけど、あたしはみんながそれを断れないだろうからって、利用したんだ。
それに、もしあたしが長さんに襲われたら、みんなはきっとあたしを守ろうとしてくれる。
もしかしたら、あたしだけでも逃がそうとしてくれるかもしれない。
そうなったらあたしは……。
「……はぁ。おまえはもう少し自分の立場を考えた方がいい。おまえの言動や決断で命をかけるような事態は今後も起きるかもしれない。
俺様はそんなことにならないように尽力するつもりだが、おまえ自身にも自覚してほしい。
……その、俺様の婚約者として……。
いや、たとえそうでなくても、おまえにはその考えは必要だろう」
「……うん。分かったよ。ごめんなさい」
「……まあ、今日のところはうまくいって良かった。そして、無事で良かった。
おかげで死傷者も出ない。ありがとな」
「……」
王子はしゅんとするあたしの頭に手をのっけてありがとうなんて言ってきた。
……今は、その優しさが痛いよ。




