110.皆の思惑がぐるぐるしてて、新事実も発覚して、ガビーン!って感じだね
「……クレア」
「なんでしょう? シリウス殿下」
スノーフォレストを出て、魔獣の森へと進軍するシリウス率いるスノーフォレスト軍。
その先頭でシリウスは横についていたクレアに声をかけた。
「……すまないが、ミサのことを探してきてくれないだろうか。
あのメイドが行方をつかめないとなると、国の外に出ている可能性が高い。が、この国の者に頼むわけにはいかない」
「……そうですね。分かりました。
行ってまいります」
クレアはこくりと頷くと隊列から離れて森の中へと消えていった。
どんな状況にあるか分からない以上、ミサの能力が露見する可能性のある状況で他国の人間を捜索にかり出すわけにはいかない。
シリウスはそう判断してクレアを行かせたのだった。
「……ミサさんはご無事でしょうか」
「……フィーナやロベルト、アルビナスがついている。まず大丈夫だろう」
クレアを見送ったあと、隣を歩くスケイルがシリウスに話しかけてきた。
「……そうだ。クレアに結界は?」
「大丈夫です。私たちには個別に特殊結界を張っておきました。
アルビナスの方は彼女に任せていますし、おそらく魔獣の長も同様のものを展開しているでしょう。
ですので、我々の話している内容や動向には注視できないでしょう。
遠距離からの遠見ではそこまで詳細は知られないでしょうし、そのために先生には時間稼ぎをしてもらってますからね」
「そうか、ならばいい。……それよりも俺様たちは魔獣との戦いに注力しなければだな」
「……そうですね。最悪、先生からお借りした切り札がありますが、出来れば使いたくはないですからね」
スケイルはそう言って胸元に手を当ててみせた。
「……ミカエルさん。これはいったい何の真似ですか?」
「まあまあ、サマエルさん。たまには魔導天使同士、親睦を深めましょうよ」
「そーですよー。たまにはいいじゃないですかー」
ここはミカエルの研究室。
ミカエルとサリエルの2人は自国に帰ろうとしていたサマエルを引き止め、お茶に誘ったのだった。
「……まあ、べつに構いませんが、今日で何日目だと思ってるんですか。
見せたいものがあるからと今日まで引き止められていますが、いっこうにその見せたいものとやらが出てこないのですが?
それにアザゼルさんは誘わなくて良かったのですか?」
綺麗な銀髪を短くセットしたサマエルは細身の眼鏡をくいっと直した。
魔導天使の会談が終わってから、ミカエルたちは何日もこうしてサマエルを歓待しているのだった。
「いや~、それがですね。手配に少し時間がかかってしまってまして。
まもなくだと思いますので、もう少しだけお待ちください。
それに、アザゼルさんはお忙しいみたいでしたので」
「そーですよー。もう少しですー」
「……サリエルさん。その棒読みは何とかなりませんか」
優雅な笑みを見せるミカエルとは違い、サリエルは常にひきつった笑顔で相づちを打っていた。
サマエルはそれにため息をつきながらも結局は2人に付き合ってくれていた。
「……ですが、星雪祭までには必ず帰りますからね」
サマエルが眼鏡の下の瞳をぎらりと光らせた。
それには有無を言わせぬ圧力が込められているようだった。
「大丈夫です。きっとそれまでには終わりますから」
ミカエルはそれに崩れぬ笑顔で応える。
「……終わる?」
「ああ、いえいえ。こちらの話です。
それに、あなたはスノーフォレストの様子を絶えず見ておられるでしょう?
星雪祭の準備は滞りなく進んでいるのでは?」
「……まあ、そうですね」
ミカエルに話を振られて、サマエルは再度スノーフォレストの映像を視覚に映した。
そこでは民たちが楽しそうに祭の準備をしている姿が映っていた。
そこには王や王子の姿も見てとれ、万事順調なようだった。
「……」
ついでに森や兵士たちの様子も見てみたが、やはり問題はなく、平常通りの平和な光景が広がっているだけだった。
「星雪祭当日には帰れるように私が転移魔法でお送りしますから、安心して寛いでください。
どうです? またチェスでもやりますか?
今度は手加減してあげますよ?」
「……ふん。いいでしょう。
今度と言う今度はこてんぱんにやっつけてやりますよ」
「いいですねー。やれやれー」
「えっと、目的っていうか、あんたが起こそうとしてるスタンダードをやめてほしいんだよね」
『スタンダード?』
「……ミサ、スタンピードなのです」
「あ、そだった」
あたしは長さんが一通りあたしの料理を食べて落ち着いたところで話を再開した。
他の魔獣さんたちも満足したのか、そこら辺で寛いじゃってるね。
なかには仰向けで寝ちゃってる子もいるよ。
あ、そんな魔獣さんのお腹の上で真っ白なウサギさんが寛いでる。
なんか癒される光景だね。
『ふん。それはいくら貴様の願いでも聞いてやることはできんな。
これは我が宿願。
行わなければならない運命、そして復讐なのだ』
うーん。やっぱりご飯あげて、はいそうですかってわけにはいかないよね。
でもなんか、思ってたより話が通じそうな人だね。
それに、
「復讐?
復讐ってなんのだい? あの国の人たちに何かされたのかい?」
王様も良い人だし、そんな恨まれるようなひどいことをするとは思えないんだけど。
『……』
長さんは話そうかどうか迷ってるみたいだった。
「話してみてよ。
あたしたちはあんたとも、あの国の人たちともそんなに関係ないんだし、話を聞いて、協力できそうなとこがあれば協力するからさ」
さすがに国を滅ぼすのを協力したりは出来ないけど、話をいっぱい聞いてあげることぐらいなら出来るしね。
『……ふむ。
そうだな。少なくとも貴様らからは悪意は感じない。
特別に真実を話してやろう。
俺があの国に復讐しようとしている理由を』
「うんうん」
『……先代の長を殺したのは俺だと言ったが、本当は、先代はあの国の人間たちに殺されたのだ』
「えっ!?」
ど、ど、どういうことだい!?




