11.最強はお母様かもしれないよ
結局、スケさんは時間いっぱいあたしに魔法講義をしてくれた。
おかげで、だいたい大まかな、おおよそなことはたぶん分かったよ。たぶん。たぶんね。
そのあと、ミカエル先生たちと合流した時にクラリスにだいぶ尋問されたけど、魔法学の説明に追い付くのでいっぱいいっぱいだったって苦悶の表情で説明したら、しぶしぶ納得してくれたよ。
スケさんに押し倒されたことは内緒だね、こりゃあ。
「と、いうわけで、ミサ君は戦術学と実践魔法を選択するということで、用紙を提出しておきますね」
「はいぃぃぃっ!?」
実践魔法の説明会が終わり、生徒たちがバラバラと解散する中、ミカエル先生が去り際にそんなことを耳打ちしていった。
え?拒否権ないのかい?
職権乱用じゃないのかい?
あ、そういや教育委員会もないような世界だったね。
そうして、めでたくあたしの選択科目は決定したんだ。
「はぁぁぁぁ~。
つかれた~~~」
「ミサ。いくら馬車の中とはいえ、女の子が大股開きははしたないよ」
「あ、悪かったね」
帰りの馬車では、途中まで道が同じだからと、クラリスの馬車で一緒に帰ることになった。
あたしの迎えの馬車はちゃんと後ろについてきてるよ。
「でもさ~、今日って入学初日なんだよね。
なんだか、とってもとっても長く感じたよ」
しょっぱなから濃すぎる生徒会長の登場でやっちまうし、というか、この疲れの7割は王子が原因な気がするよ。
あ、あとの3割はミカエル先生ね。
「ふふっ。
ミサは大活躍だったもんね、今日」
クラリスが口元に手を当てて笑っている。
学校ではきゃっきゃっしてて可愛らしい感じだったけど、こうしてると所作なんかがちゃんとお姫様してて、なんていうか、
「キレイだねえ」
「えっ?」
あっ。
思わず声に出しちゃったよ。
すると、最初は頬を赤らめて照れていたクラリスが意地悪な顔をしてこちらにずいと顔を寄せてきた。
「なに言ってるの。
ミサがそんなこと言ったら嫌みだよ。
そんなにパッチリした澄んだ瞳で見つめられたら、そりゃあお兄様だって陥落しちゃうよ。
髪だってさらさらで、風に揺らぐ毛先に何人の男子がやられたか分かってないの?」
クラリスがあたしの髪をさらりと撫でる。
あ、そうだった。
自分で言うのもなんだけど、あたしはいま超絶美少女なんだった。
大股開きでイメージ崩すようなことしてごめんよ。
でも、あたしは近くにあるクラリスの大きな猫目に夢中だよ。
「ふふ。
クラリスこそ、あなたのあざとさに何人の男子が勘違いしたか、自覚がおありなのかしら?」
「あ、あざとくなんかないもん!」
あ、かわいい。
「ほっぺた膨らませちゃって~。
そういうとこだよ。
ツンツン」
「も~!!」
「あははははっ!」
『うるせえなぁ』
賑やかな馬車内に、心の中でぼやく御者だった。
いいだろう?
今だけは楽しく笑わせとくれよ。
これからあたしには地獄が待ってるんだからね。
なに地獄かって?
お母様への報告地獄だよ。
「た、ただいま帰りました~」
あたしは玄関のドアをおそるおそる開けた。
「お、おかえり」
「あ、お父様」
お父様?
お顔が真っ青であらせられますわよ?
「ミサ。パパも精一杯援護するから、頑張るんだよ。
気をたしかにな!」
うわーお。
こりゃあヤバいね。
どんなに取り繕っても噂はすぐに回ると思ってたけど、まさか帰宅前に知れてるとは。
「お父様。
骨は拾ってくださいまし」
「ミ、ミサ~~!」
いざ、出陣!
「お、お母様。
ただいま帰りました、ですわ」
「あら、おかえりなさい、ミサ」
うん、お母様。
その笑顔と普段のままの感じがとても恐ろしいよ。
「学校はどうだったの?」
あ、一応、弁解の余地はくださるのですね。
「あ、えと、入学式で多少のトラブルはありましたが、お友達もできて、なんだかわたくしうまくやれそうですわ~。
おほほほほほ………ほ、ほ」
「へ~。
そうなの~。
ずいぶん楽しめたらしいじゃない。
お母様にいろんなお話を聞かせてくださるかしら~?」
あ、こりゃダメだね。
「も、申し訳ございませんでしたぁ~!!!」
「まあ、あのバカ王子のやることを止めたのは、まあ百歩譲っても良いでしょう」
あ、それはいいんだね。
「でもね、手を出してしまってはダメよ。
下手したら、その場で首をハネられてもおかしくなかったのよ」
それは怖いね。
「いい?
そもそも貴女はやり方がね……」
あれ?
なんだか、お説教の方向性が思ってたのと違うね。
王子とトラブルを起こしたことじゃなくて、あたしのやり方に怒ってるのかね。
「……つまり、私が言いたいのはね。
やるならうまくやりなさいってことよ!」
うわーい。
「貴重なお言葉、ありがたく拝聴させていただきました」
さすがはお母様。
貴族の奥様方の社交界を牛耳ってるだけあるね。
やっぱりあたしたち、良いお友達になれるわ。
「それにしても、あの王子と関係性が発生しちゃうのは面倒ね。
これからどう出てくるのやら」
あ、お母様も王子と書いてバカって言っちゃうんだね。
「ふむ。
一応、王には報告しておこう。
かわいい我が娘に王子が手を出そうものなら、クールベルト家を敵に回すことになるので気を付けてくださいとな」
「あら、それはいいわね。
ついでに、社交界とロベルト率いる騎士団も敵に回すとお伝えくださいな」
「おお!
それはナイスアイディア!
さすがは我が愛しの妻だ!」
「あなたの妻ですもの。
これぐらい当然ですわ」
「はっはっはっはっ!」
「うふふふふふふ!」
「おほほほほほほほほほほほっ!!」
笑っとこう、笑うしかないよ、もう。




