107.お風呂で暴れると危ないんだよ
「お嬢様。
お加減はいかがですか?」
「ん~。気持ちいいよ~」
あたしたちはいま皆で学院の寮にある大きなお風呂に入ってる。
他の子たちはまだ来てないみたいで、あたしたちの貸し切り状態だったよ。
今はあたしとクレアとフィーナとアルちゃんの4人だね。
いよいよ明日の早朝、新しい魔獣の長が起こすって言ってるスタンダードがあるらしい。
で、今日はそのあとの星雪祭のために学院も早めに終わったから、あたしたちはさっさとお風呂に入って寝ることにしたんだ。
あ、国民の人たちには魔獣たちのことは内緒らしいよ。
だから街はもう完全にお祭りムード。
出店なんかも出てて活気で溢れてるんだ。
ロベルトお兄様は皆を避難させた方がいいって言ってたけど、王様は長の討伐は成功する前提で、お祭りは万事問題なく行うつもりでいるらしい。
能天気な人なのかと思ったけど、お祭りで皆を外に出しておいた方が最悪のパターンの時に避難誘導もしやすいし守りやすいんだってスケさんが言ってた。
まあ、よく分かんないけど、偉い人はちゃんと考えてくれてるみたいだね。
「……ああ、これだ。
これがないと生きていけない……」
……フィーナ。
心の声が漏れてるよ。
さっきからタオルじゃなくて素手であたしの背中を洗ってるのバレてるからね。
「……ああ。
お嬢様のお背中を流せなかった日はどれだけ口惜しい思いだったか」
「……フィーナ。2日間だよね?
それってあたしがあっちの国を出てから2回だけだよね?」
「私からしたら十分すぎる期間です!」
「そ、そうかい。
てか、それって心の声じゃなかったんだね」
「え? こういうこと言ってお嬢様が照れたり困ったり呆れたりする顔を拝むのも楽しみのひとつですが?」
良い趣味してるね!!
「……やれやれ。
ミサのところはメイドまで騒がしいのか」
「あ、すまんね、クレアさん。
うちはいつもこんなんなんだよ」
隣を見ると、クレアが呆れた顔しながら体を洗ってた。
「……それにしても……」
「ん?」
人の体をじろじろ見てどったの?
「ミサってけっこう女らしい体つきをしているんだな。
腰はしっかりくびれてるのに胸とお尻はしっかり出てて。
同じ女としてうらやましいよ」
「クレア様!」
「うわっ!」
……フィーナ。
クレアとがっしり握手しないの。引いてるから。
「……そんなこと言って。
クレアだってなかなか良い体してるじゃないかい。
お尻はキュッて上がってて、胸も形がキレイで、お腹だって引き締まっててキレイだよ」
「わ、私のはほとんど筋肉だから」
あら、照れちゃって。
自分が褒められるのは慣れてないのかね。
「そんなことないよ~。
ほれほれ、これも筋肉だって言うのか~い」
「わっ! こらっ! 下からぽよぽよするなっ!」
ふははははっ! よいではないかよいではないか!
「~~っ!
このぉっ!」
「わっ! ちょっ! 鷲掴みしないどくれっ!」
「……お嬢様、ぜひ! ぜひ私も混ぜてくださいまし!!」
「わ~! 2人がかりはズルいよ!
ちょっと~!!
アルちゃん助けて~っ!」
「……やれやれ。
騒がしい人たちなのです」
1人でのんびり湯船につかってないで!
ヘルプミー! アルちゃ~~~んっ!!
「う~ん! おいしいのです!」
「はは……良かったね、アルちゃん」
「ご、ごめんよ、ミサ。
ちょっとふざけすぎたよ」
「……申し訳ございません」
ははは~。大丈夫だよ2人とも~。
ちょっとのぼせて滑って転んで頭打っただけだからね~。
「やっぱりミサの料理は格別なのです!」
「そう? なら良かったよ。
まだあるからいっぱい食べるんだよ」
「うんなのです!」
お風呂から出たあたしたちは早めの夕飯をとってた。
アルちゃんがあたしの作ったご飯が食べたいって言うから、今日は寮のご飯は断って、あたしが作ってあげることにしたんだ。
寮では自炊するか、寮の食堂で出される食事をとるか選べるようになってるんだよね。
「しかし、ホントに美味しいよ。
ミサがこんなに料理上手だったなんて意外だな」
「そう?
喜んでもらえたなら何よりだよ」
そりゃあ、云十年も主婦やってりゃ嫌でも出来るようになるわね。
「……ああ。
お嬢様の手料理をいただける日が来るなんて、もうこれで死んでもい……いや、そんなことしたらお嬢様のお召し替えを他の者がやるのか。それは看過できない。やはり死ねない!(早口)」
う、うん。
フィーナも喜んでくれてるんなら良かった。
「……それに、なんだろう。
この料理、食べると力が湧いてくるような……」
「ん? いや、べつに普通の豚汁だけどね、それ」
この世界にも味噌があって嬉しいよ、あたしゃ。
「そうなのです。
ミサの作る料理には多量の魔力が含まれてるから、食べると力が漲るのです」
「え? ああ、お菓子とかとおんなじってこと?」
「そうなのです。
だから戦いがある明日に備える意味もあって、ミサの料理を頼んだのです。
ま、ただ食べたかったのもあるけど」
そっか。
ちゃんと理由があったんだね。
あんまりワガママとか言わないアルちゃんが珍しいなとは思ったけど。
「ん~! やっぱりおいしいのです!」
ふふ。まあ、喜んでるからいっか。
「……ああ。クレア様。
もちろん、このこともご内密にお願いしますね」
フィーナさん。
そんな殺気ビンビンで言わなくてもクレアなら大丈夫だよ。
てか、そんなたいしたことじゃないでしょ。
「……あ、ああ。
もちろんだ。
こんなの、国がひっくり返るよ」
え? そんな?
「それよりも、ミサに事の重大さをきちんと理解させることの方が重要だろう」
「……そうなんですよ。
頑張ります」
「一緒に頑張ろう」
「クレア様。ありがとうございます」
……なんか、あたしの腑に落ちないことで意気投合してません?
にしても、男たちもみんなケンカばっかしてないで、一緒に美味しいご飯でも食べて仲良くすればいいのにね。
結局は衣食住が脅かされるからみんなケンカするんだろ?
ん? そか。ご飯ね。
「……ねえ、フィーナ。
ちょっと用意してほしいものがあるんだけど」
「はい?」




