105.思わぬ助っ人参上! んで、あたしに出来ることってなんだろね。
「それで?
ミカエル先生とはうまく話せましたか?」
「うん。
問題ないのです」
「え?
アルちゃんは先生とお話してたのかい?」
あれから結局、作戦2を実行しようとするスケさんを仕留めて難を逃れたあたしとクレアは午後の授業を受けたあと、アルちゃんと王子と合流した。
王子の方はこの国の王様に無事に情報を伝えられたみたいだ。
どうやったのかは分からないけど、やるときはやるんだね。
ちょこ~っとは見直したよ。
「そうなのです。
ルーシアたちを通して、アルベルト王国に戻ってきたミカエルと話をしていたのです」
アルちゃんがこちらを向いてこくりと頷く。
アルちゃんとルーちゃんとケルちゃんは3人の中で念話?とかで遠くにいても話せるらしいよ。
てか、先生はもう帰ってきてるんだね。
そんならもうあたしたちも帰ってよくないかい?
ま、さすがにこの国をこのままってわけにはいかないか。
「そかそか。
それで?
ミカエル先生に何を話してたの?」
「援軍を要請したのです」
「えんぐん?」
えんぐんってなに?
「助っ人なのです」
「あ~! 助っ人!」
私が分かってないだろうからって言い直してくれるなんて、アルちゃんさすが!
「え?
てことは、ケルちゃんたちも来るのかい?」
それはたしかにかなりの助っ人だよね!
ケルちゃんのもふもふ不足だったからありがたいよ!
「ううん。
さすがに私たちが全員あの国から離れるわけにはいかないのです」
「あ、そっか~……」
あたしのもふもふ……。
「でも、その代わりになる助っ人を2人呼んだのです」
「えっ!? だれっ!?」
もふもふ!?
「ミサもよく知ってる人なのです」
え? 他にもふもふいたっけ?
「やっ! ミサ!」
「お嬢様っ!」
「お、お兄様! フィーナ!?」
翌日、助っ人として学院に現れたのはロベルトお兄様とメイドのフィーナだったよ。
「助っ人って2人のことだったんだね!」
考えてみれば、ジョンとかは学校があるし、ルーちゃんたちはあっちを離れられないしで、こっちに来られる人ってあんまりいないんだよね。
「でも、あたしのお世話係でもあるフィーナはまだしも、ロベルトお兄様は騎士団の仕事はいいのかい?」
西の帝国との国境警備で忙しいって聞いたけど。
「それは問題ないよ。
魔導天使たちの会談で帝国も少しだけ動きを停止していたからね。
今のうちに休んでおけってことで長期休暇が取れたんだ」
「そうなんだ。
お休みだったのに、わざわざ申し訳ないね」
せっかく、あたしがいなくて仕事が減ったフィーナとラブラブ出来るとこだったのにね。ぐふふふ。
「いや、構わないよ。
かわいい妹のためだ」
あらやだ、イケメン。
「……それに、これもまあ、旅行みたいなものだ」
「ロベルト様、一応仕事ではあるんですよ」
「ああ、そうだな。すまない」
……あー、観光旅行気分でもあるのね。
らじゃーおっけー了解です。
「ロベルト。
すまないな。急に駆り立ててしまって」
「はっ!
シリウス殿下!
とんでもございません!
このロベルト、微力を尽くす所存でございます!」
わーお、切り替えの早さ。
なんか、年上のお兄様が王子に敬語でかしこまってる姿を見ると違和感しかないね。
まあ、アレも腐っても王子だから当然っちゃ当然なんだけど。
「それから、フィーナ、といったか。
実力は十分だと聞いている。
有事の際はミサ・フォン・クールベルトの護衛を任せたぞ」
「はい。
お嬢様の身はこの全身全霊でもってお守り致します」
フィーナは王子に言われて、ざっと跪いて頭を下げた。
この辺の切り替えはさすがだよね。
それに、フィーナがとっても強いことはこの前の演習で聞いてるからね。
これは安心だよ。
「ロベルトさん。
それで、アルベルト王国の方には今回のことは?」
そこにスケさんが話に入ってきて、お兄様にそんなことを尋ねた。
「大丈夫です。
王を含め、北の魔獣の長の一件はまだ報告されていないようです。
ゼン王子は、もしかしたら多少はご存じかもしれませんが……」
「……そうですか。
この国の王が話の分かる方で良かった」
「ん?
どゆこと?」
あたしが尋ねると、スケさんはこちらを向いて詳しく話してくれた。
「今回のスタンピードの件は我々が、魔獣であるアルビナスによってもたらされた情報を伝えたものです。
その情報の出所は出来る限り伏せたい。
だから、スノーフォレスト側には情報は伝えましたが、そのソース(情報源)は伏せたままです。
そして、それはアルベルト王国においても同じです。
ミサさんの属性や能力はアルベルト王国内でも伏せられてますから、今回の件はなるべく広めたくないのです。
そこで、この国の王にはアルベルト王国にもスタンピードの件はギリギリまで報告しないようにお願いしたのです。
スノーフォレストからしても国の戦力が疲弊するようなことを他国には知らせたくないでしょうから、話が通る可能性は高かったですが」
「そうだったんだね。
ん? でも、もしも今回のことが失敗したら、魔獣たちがウチラんとこの国まで来ちゃうかもしれないんだし、何にも言わないのはさすがにダメなんじゃないのかい?」
あたしたちはアルベルト王国の人なんだし。
「そのあたりは問題ないでしょう。
少なくともミカエル先生は事情を把握しているし、ゼン王子も独自に情報を得ているでしょうから、もしもスノーフォレスト国が壊滅して魔獣たちが南下を始めても対処は可能なはずです」
「は~。
そうなんだね。
でも、なんかそれって、この国の王様にわざわざ手を回してまで情報を止める意味なくないかい?
けっこうバレバレってことでしょ?」
「そうだとしても、やはり必要なのです。
各人が秘密裏に情報を得るならまだしも、王から王への情報の伝達には多くの人が介在します。
その中で情報源について疑問を抱き、ミサさんに目を向ける人物が現れるかもしれない。
その可能性が少しでもあるのなら、我々はそれを避けなければならないのです」
「ふーん。
なんかよく分かんないけど大事ってことだね」
「そういうことです」
スケさんはコクって頷いた。
きっとあたしはよく分かってないだろうけど、まあいっかって思ったんだろうね。
あたしの扱いが分かってきたね、スケさん。
ちくしょう。
「……まあ、その代わりにスロウス王には条件をつけられましたけどね……」
「条件?」
アルベルト王国に言わないでおいてあげることへの条件てこと?
「ええ。
その条件が、我々も魔獣討伐に力を貸すこと、です。
まあ、はじめからそのつもりだったので問題ないですが、なかなか油断ならないお方ですね」
そう言って、スケさんは苦笑してた。
「……あの人は、俺と話していた時はそんなことを微塵も言わなかったのに、後出しでスケイルに伝えてくるとはな。
おそらく、はじめからそれが狙いで情報源を聞かなかったんだろうな」
王子も苦笑してる。
なんかよく分かんないけど、この国の王様はやり手なんだね、きっと。
「でも、スケイル様もそれを見越してアルビナスに私たちを呼ばせたのでしょう?」
「まあ、そうですが」
ロベルトお兄様に言われて、スケさんがかけてるメガネをくいっとする。
そっか。
騎士団のお兄様よりも王子の側近であるスケさんの方が立場は上なんだね。
って、今はそんなんいっか。
なんか、あたしの周りの人たちすごいやり手の人たちばっかだね。
ていうか、なんかいろいろ考えなきゃいけなそうで、偉くなるのも大変なんだね。
「……なんか、剣だけ振ってればいいと思っていた自分が恥ずかしいな」
クレア、私もだよ。
まあ、あたしはそんなことさえ考えてなかったけど。
「……ていうか、北の魔獣の長を討伐するってことは、皆で森に行くんだよね?
他の魔獣さんたちはどうするんだい?」
あたしはふと思い付いたことを聞いてみる。
討伐討伐って言うけど、やっぱり殺しちゃうってことなんだよね。
害獣の駆除にとやかく言うつもりはないけど、他の子が巻き込まれるのは避けたいところだよね。
「そうですね。
この国の編成部隊とともに森に進軍する形になるでしょう。
他の魔獣に関しては放置ですが、長の命令によってこちらに襲い掛かってくるようなら討伐せざるを得ないでしょうね」
「……そっかー」
分かってはいたけど、はっきり言われるとちょっとショックだよね。
長に従うっていう魔獣さんたちの気持ちも動物ならそうなんだろうなって思うし、自分たちの命を守るためにそんな魔獣を殺さないといけないってのも分かる。
あたしもこんな時に、そんなのひどい! って喚くほど世間を知らないわけじゃない。
でも、なんかもっとうまくやる方法があればいいんだけど……。
「……ミサ?
どうかした?」
「ん?
ううん、なんでもないよ」
何か。何か考えてみようかね。




