102.キレーだね~。え、てか、アルちゃんどゆこと!?
「お~!
こりゃ良い眺めだね~!」
お昼ご飯を食べたあたしたちはそのあとも街をいろいろ案内してもらった。
この国はやっぱり雪とか氷とかをモチーフにしたものが売りみたいで、キレイな雪の結晶の形をしたネックレスを皆のお土産に買うことにしたよ。
あ、男連中にはがっつり系の食べ物ね。
アクセサリーとか興味ないのばっかだからね。
で、今はお城の裏手にある高台から街全体を眺めてるんだよ。
お城や街が一望できて、だいぶ遠くの方に高い高い山が連なってる。
で、お城とか家とかは雪が積もったり氷柱がついたりしてて、傾きかけた日の光に照らされてキラキラ輝いてるんだよ。
「キレーだね~」
「……」
「ん? どしたの? イノス」
「……いや、なんでもない」
なんかこっち見ながらボ~っとしてたけど、もうおねむなのかね?
「……ここは星雪祭での祈祷舞台なんだ。
毎年、この国の王がここから空に祈りを捧げる。
神に祈りが届くと、天から星雪が降り注ぐ。
キラキラと光り輝く無数の星雪がこの国に加護をもたらすと言われていてね。
僕は毎年父上に同行してここでそれを見ているんだけど、世界中がキラキラ輝いているようでとても綺麗なんだ」
「へ~! それは見てみたいね~」
そんな不思議現象を起こしちゃうなんて、あの太っ腹王はすごいんだね!
「……それを、今年は僕が担当する」
「え!? そうなのかい!?」
「……ああ。
星雪祭の祈祷の成功をもって、王子を正式な王太子と認めるというのが代々の慣わしなんだ」
「そっかー。
イノスも大変だね。
頑張ってよ! あたしも応援してるからね!」
「……うん」
おや?
いつも無表情でなに考えてるか分かんないことが多いけど、今はなんだか浮かない顔してる気がするね。
やっぱり不安なのかね。
ん~。
「よしよし。
不安だよね。
大丈夫、イノスなら出来るよ」
「……っ!」
あたしは元気付けてあげようと思って、イノスの頭をなでなでしてみた。
「き、貴様っ!
な、な、な、何をしているぅ!?」
「ん? どしたの?」
なんかうちのとこの王子が喚いてるけど、まあ、ほっとこうかね。
「……ミサ」
「んー? 元気出たかい?」
イノスは自分の頭にのせられたあたしの手に自分の手を重ねて、こっちを見上げてきた。
雲ひとつない青空みたいに澄んだ瞳がまっすぐにあたしを見る。
そんな純粋な目で見られちゃ緊張しちゃうね。
「……ミサは、やっぱり……」
「ん? なんだい?」
「……ううん、なんでもない」
イノスはうつむいたと思ったら、パッと手を離してあたしから離れた。
「ぼ、僕は公務があるから先に帰るよ。
明日からは学院だ。
君たちも今日は早く寝るといい」
「あ、ちょっ」
イノスはそれだけ言うと、パッと駆け出してしまった。
「殿下、お待ちください!
申し訳ありません。
私は殿下のお側に参りますので、皆様はゆっくりとお城まで戻ってきてくださいませ」
ナイスバディーなメイドさんはそれだけ言ってお辞儀をすると、イノスのあとを追って行っちゃったよ。
「……私たちは仮にもゲストなんだけどな」
クレアが呆れたような顔で2人の背中を眺めてた。
そういやそうだね。
こんなとこに置いてきぼりにされる隣国の王子ってどうなの?
まあ、コレならいっか。
「……」
ん? スケさん、難しい顔してどうしたの?
「……殿下。
王から買い付けを頼まれていたものがありますので、私もここでいったんお側を離れさせていただきます。
終わりましたら城に戻りますので、そちらで再び合流致しましょう」
「へ?」
「……ああ、許可する」
「……では、失礼します」
スケさんは王子の許しを得ると、すぐに駆け出そうとした……、
「あ、そうそう」
けど、思い出したように足を止めて、あたしの方に近付いてきた。
「ミサさん。
私が離れている時は特に闇属性の魔法を使わないように気を付けてくださいね」
「え? あ、はい」
急にどしたの?
「いいですね。
魔獣を手懐けたり、話したりしてもダメですからね。
アルビナスはそのあたりをわきまえてるでしょうが、油断は禁物ですよ」
「だから大丈夫だって!」
「……クレア。
頼みましたよ。
2人をきちんとお城までお連れしてください。
頼れるのはあなただけなんですから」
「ええ、わかってますよ」
「おい! それどういう意味だ!」
たしかに! こんなのと一緒に扱わないどくれ!
スケさんはクレアに嘆願するようにあたしたちを託すと、パッとその場をあとにした。
イノスたちと同じ方向に向かっていったのかね?
「……なんでスケさんは急にあんな念を押してきたのかね?」
ミカエル先生からもさんざん注意されてるから、けっこう耳タコなんだよね。
「この国に入ってから、あいつが常に結界を張っていたからな。
周りの人間には俺たちの会話が他愛ない内容のものに聞こえるようになる結界を」
「え!? そうなのかい!?」
「ああ。それがなくなるから気を付けろと言いたかったんだろう。
今はもうそれがないから、さっきあいつが言ったことに関してはもう口に出すなよ。
たとえ周りに誰もいなくてもだ」
スケさんが言ってたこと……あたしの属性とか魔獣とのコミュニケーションに関してだね。
見渡す限り誰もいないけど、それでもダメなんだね。
あ、ウサギさん見っけ。ふわもふでかわいいねぇ。
なんかよく分かんないけど、王族ってのはやっぱり大変なんだね。
そんな気を使わないといけないんだから。
「それにしても、そんな結界を常時張っていられるなんて、スケイルさんはやはりすごいですね」
クレアが驚いたような顔をしてる。
たしかに、あたしも結界とかいうのを教えてもらったことあるけど、けっこう調節が難しくて、1分続けるのも大変なんだよね。
「当然だ。
あいつはその結界術をかわれて俺様の側近になったぐらいだからな」
「へ~、そうなんだ~」
スケイルさんはやっぱり仕事が出来る男なんだね。
「……う……ミサ……」
「え? アルちゃん!?
どうしたの!?
ひどいケガじゃないかい!?」
あたしたちがそんな話をしていたら、アルちゃんがぼろぼろになって森から出てきた。
真っ白な振り袖はいろんな所が破れたり切れたりしてて、アルちゃん自身もいろんな所から血を流してた。
「……うっ」
「アルちゃん!」
アルちゃんはあたしたちを見つけると、その場で倒れてしまった。
あたしたちは慌ててアルちゃんのもとに駆け寄った。
「ひどいケガ……」
アルちゃんの横に膝をつくと、アルちゃんのケガがひどいことがよく分かる。
特にお腹のキズがひどい。
大きな何かで刺されたみたいに穴が空いちゃってる。
「くそっ!
スケイルを呼び戻すぞ!」
「……待つの、です」
スケさんが去っていった方向に走り出そうとした王子をアルちゃんが止める。
あたしたちの中で治癒魔法を使えるのはスケさんだけだ。
「……ミサ、飴玉持ってるのです?」
「え? あ、うん! 持ってるよ!
おやつにと思って作ってきたんだ!」
アルちゃんはあたしの袖をつかんで、頑張って力を振り絞ってるみたいだった。
「……なら、それを食べさせて、ほしいのです。
たぶん、それで大丈夫なのです」
「わかった!」
あたしは急いでポッケに入れた飴玉を取り出した。
「待って!」
「え?」
あたしがそれをアルちゃんの口の中に入れてあげようとしたら、クレアに止められた。
「……王子。
…………」
「……! ああ、わかった」
クレアは王子に何事かを耳打ちすると、王子がアルちゃんの横に跪いた。
あたしと王子が向かい合って、その間にアルちゃんが寝てる感じ。
「……え、と、
全てを大いなる御力で癒したまえ。
《高位治癒魔法》」
王子が棒読みでそう言うと、王子の手が光った。
治癒魔法は見たことあるけど、なんか光の感じが違う気がするんだけど、人によって違うのかね。
「ミサ、今だよ。
飴をアルビナスに」
「え? あ、うん。
はい、アルちゃん、あーん」
「……あ、ん」
あたしはアルちゃんの顔のあたりを照らす王子の光が邪魔だなと思いながら、アルちゃんの開いた口に飴を入れてあげた。
「……ん、ん、うむ」
アルちゃんはしばらく飴玉を口の中で転がした。
「……ん」
そしてすぐに、しゅうぅぅ~という音とともに、アルちゃんのキズがどんどん治っていったんだ。
破れた振り袖まで修復されてた。
王子は相変わらずよくわからない光を手から発してた。
「……ん!」
で、アルちゃんが飴玉をこくんと飲み込む頃には、アルちゃんのキズはすっかり治ったみたいだった。
「……ふう」
そのタイミングで王子は光を引っ込めた。
何してたの? この人。
アルちゃんはすくっと立ち上がると、王子たちにペコリと頭を下げた。
「お気遣い感謝するのです。
スケイルがいないのです。
ミサの飴玉の効力を誤魔化すために偽の治癒魔法を使った振りをしたのです」
え? そだったの?
「おい、今は結界がない。
滅多なことを言うな」
王子はそれに対して周りをキョロキョロしながらそう返してた。
「それなら大丈夫なのです。
私が同じ結界を張れるから、キズが治った段階で張ってあるのです」
「そうなのか、それは助かる」
クレアが安心したみたいに、ほっとしてた。
なんか皆、いろいろ気を回しててすごいね。
ホントありがとねぇ。
「ミサ!」
「うおっとぉ!」
あたしが感心してると、アルちゃんがぎゅって抱きついてきた。
「アルちゃん、いったい何があったんだい?」
あたしは優しく抱きしめ返しながら、アルちゃんに経緯を尋ねた。
いったいなんで、こんな大ケガすることになっちゃったんだろね。
たしか、この国の魔獣の長に挨拶しに行くって言って、あたしたちと別れたはずだけど。
「ミサ。
星雪祭は中止にするべきなのです。
じゃないと、魔獣の大群がこの国に攻めてくるのです」
「えっ!?」




