100.王様は優しそうだよ。てか最後の誰!?
「てなわけで、僕がスノーフォレストの第一王子イノス・スノーフォレスト。
改めてよろしく」
「……イノス、ワシより先に挨拶しないどくれ」
「はは……」
メイドさんの案内であたしたちは王様との謁見のために玉座の間に来た。
しっかりドレスや礼服に着替えたあたしたちと同じように、イノスも真っ白な王子様服に着替えてた。
王子様服って伝わる?
なんか紐とかキラキラとかあるカッコいいやつ。
あ、白タイツじゃなくて普通に白の長ズボンだから安心してね。
で、あたしたちが着いて王様の前で跪いたらイノスが改めて自己紹介し始めたんだ。
で、口を開こうとしてた王様が困ったように突っ込んだって感じ。
きっと、
「面を上げよ」
とかって言いたかったはずなのに、どんまいだね。
でもなんか良い人そうな王様なのは分かったよ。
「はあ。
もうよい。
君たちも面を上げてくれたまえ。
楽にしてくれて構わない」
王様がやれやれとため息をつきながらそう言ってくれたので、あたしたちは顔を上げた。
王様は恰幅がいいおじさんって感じで、三日月みたいな目が優しい性格を現してる感じがした。
「ワシがスノーフォレストの王、スロウス・スノーフォレストだ。
シリウス王子とスケイル君は久しぶりだね」
「はっ!
お久しぶりでございます!」
スロウス王に話し掛けられて、王子とスケさんが頭を下げながら答える。
王子もさすがに他の国の王様にはちゃんとするんだね。
まあ、そうじゃなきゃミカエル先生が来させたりなんてしないよね。
「で、君たちは初めましてだね。
ミサさんとクレアさんだったかな?」
「そーです。
あたしがミサで、こっちが……」
「はっ!
クレア・ノーザンライトと申します!」
「おおう……」
あたしがまたクレアも紹介してあげようとしたらクレアががっつり割り込んできた。
クレア、なにすました顔してんの。
ちゅーしちゃうよ。
「はっはっはっ!
ミサさんは面白い方なんだな。
シリウス王子。
なかなか良い方を婚約者に選ばれましたな」
「……え、と、はい。
もったいないお言葉でございます」
ちょっと、そこは即答しなよ。
照れてるとかじゃなくて、なんて言おうかちょっと迷ってたでしょ。
分かってんだからね、こっち向きなよ。
「それで、今回は短期留学という名目での訪問だったね。
ミカエル君が王国に不在の間、我が国に留まる感じでいいのかな?」
「……はい。
その通りでございます」
?
どゆこと?
あたしたちは普通にこの国に短期留学で来ただけじゃないってこと?
先生がいないと何か不都合でもあるのかね?
王子もスケさんも意味深な表情しちゃって、なんか裏があるのかね?
ま、あたしには関係ないか。
王族同士でのいろいろなゴタゴタがあるんでしょ、きっと。
「まあ、ワシはどんな理由であれ、我が国に来てくれるのは嬉しいよ。
星雪祭もまもなくだ。
短い間だが楽しんでいくとよい」
「はっ!
スロウス王の寛大なるお心に深く感謝を申し上げます!」
王子とスケさんがそう言って深々とお辞儀をしたので、あたしとクレアもそれに合わせて頭を下げておいた。
やっぱり王様には礼儀正しくしてないとね。
にしても、ホントに優しそうな王様だね。
そういや、イノスはずっと静かだけど、どうしたのかね?
「……すー、すー」
あ、寝とる。
「ふ~。
やっぱりかしこまった所は疲れるね~」
王様との謁見が終わって、あたしたちは再びさっきの広い部屋に戻った。
この国の学院に通うのは明後日からで、通い始めてからは学院の寮で寝泊まりするらしい。
あたしはクレアと同室。
王子はスケさんと同室らしい。
クレアと同室か……ぐふふ。
で、今日と明日はこのお城の部屋に泊まらせてくれるらしい。
王様太っ腹だね!
あ、体型の話じゃないよ。
まあ、実際太っ腹だけど。
今は部屋の準備が整うまでこの部屋で4人で待機中。
さっきのナイズバディーなメイドさんがいるから、何か用があればこの人が対応してくれるみたいだ。
「そーいえばさ、星雪祭?ってのはなんなの?
お祭りみたいな感じかい?」
あたしがテーブルに置かれたクッキーをつまみながら尋ねると、スケさんがそれに答えてくれた。
え? てか、このクッキーめっちゃ美味しい!
「星雪祭はこの国唯一の公的なイベントですね。
雪と氷で閉ざされたこの国で暮らしていくのは難しい。
星雪祭はそんな厳しい環境の中でも生きていけるよう取り計らってくれている神に感謝を捧げるお祭りです」
「ほえ~。
やっぱりお祭りってそういうのなんだね~。
あたしんとこもだいたい神様へのお祈りが元で始まったお祭りがほとんどだったからね~」
中には集客用のイベントとして売上狙いのバリバリ商業くさいお祭りもあったけど。
「え?
ミサって昔の記憶がないんじゃなかったっけ?
記憶が戻ったのかい?」
「……え? あ!」
やばっ。
そういえば、あたしは記憶喪失設定だったの忘れてたよ!
普通に懐かしくなって話しちゃった。
「そうなのか!?」
「そうなのですか!?」
ほら、王子たちも食いついちゃった。
え~、どうしよ、なんて誤魔化せば……。
「え、えっと、あの、な、なんか、そんな気がしたな~って思っただけで、なんとなく、そんなんだったような~、みたいな?
ほら、お祭りなんてだいたいそういうもんじゃん?」
「そうか。
まあ、そうだね。
どこもそういう感じかも」
「なんだ、ややこしいな」
「……」
な、なんとか誤魔化せたかね。
スケさんの沈黙がちょっと怖いけど、きっと大丈夫だよね。
てか、べつにあたしが記憶を取り戻したってことになったところでどうこうなるわけじゃなし、変に気にしなくてもいいよね。
「失礼します。
お部屋のご用意が整いましたのでお迎えに上がりました」
そんなこんなで、キレイなバディーのメイドさんが迎えに来たから、あたしたちは今日泊めてもらう部屋に移動することになった。
ちなみに、その部屋もやっぱりとんでもなくおっきくて、クレアのベッドともかなり距離があったよ。ちぇ。
明日はお城の人の案内で街をいろいろ見て回れるみたいだ。
この国は雪とか氷とかでキラキラしててキレイだから楽しみだね。
「……ええ、はい。
そうですね。
記憶を取り戻したわけではないようですが、もう少し様子見といったところかと。
はい……分かりました。
引き続き動向を監視します、ゼン王子」




