1.誰だい!この美少女はっ!
「こらっ!
ちっちゃい子をいじめるんじゃないよ!」
「ちょっとあんた!
その子たちが先に並んでたでしょ!
横入りするんじゃない!」
「ああ!もう!
男の子が転んだぐらいで泣くんじゃないよ!
ほら!飴玉あげるから泣き止みな!」
「ふ~、やれやれ。
よっこいしょ」
自宅の居間に置かれた仏壇の前に腰を下ろし、手を合わせる女性がいた。
彼女、北川みさえ(56)は早くに夫を亡くしていた。
夫の写真が置かれた仏壇に線香を差し、手を合わせる。
「あんた、今日も1日大変だったよ。
パートの行き帰りの道でいろんなことがあってね。
そのたんびにあたしが間に入ってやったりしてね。
まったく、お節介な性格だね、あたしも」
苦笑するみさえに、仏壇の夫は優しく微笑んでいた。
「さて、お茶でも淹れようかねっ、とと……あれ?」
立ち上がろうとするみさえを突然の目眩が襲う。
「あ、ら?」
みさえは立つことが出来ず、そのまま床に倒れてしまう。
このまま自分は死んでしまうのだろうか。
そう思ったみさえは安堵していた。
やっと、夫の元に逝けるのだと。
目を閉じるみさえは、安心したように微笑んでいた。
「君っ!君っ!大丈夫かっ!」
んん?なんだい?
人がせっかく気持ちよく寝てたのに。
なかなかダンディな良い声じゃないか。
いやいや、あたしは夫一筋だからね!
「あなた。
どうしたの?
その子は?」
なんだい、ツレがいたのかい。
こっちも、なかなか落ち着いた声だね。
ゆっくりと目を開けてみる。
ずいぶん日差しが眩しい。
病院か何かなのかと思ったけど、もしかして外なのかね?
ようやく目が慣れてきた。
「んん」
ん?今の誰の声だい?
視界には木々から漏れる木漏れ日が映る。
ここはどこなんだい?
たしか、家の居間で目眩がして、それから……
「君っ!
気が付いたのかね!」
ああ。
さっきのダンディな声の人かい。
やっぱりダンディな、素敵なおじさまだねえ。
彫りが深くて、凛々しい眉毛がよく似合ってて、惚れ惚れしちゃうねえ。
おや?瞳が青い?
外国の人かね?
「ああ!良かった!」
こちらはさっきのご婦人。
なんてキレイな人なんだい。
さらさらな長い金髪。この人も青い瞳だね。
親切な外国の方に介抱してもらったのかね。
これはすまないね。
「ありがとねえ」
?
さっきから、この若い女の子の声は誰だろうね。
近くを見回しても、このご夫婦しかいないようだけど。
「起きられるかい?」
ダンディな殿方がゆっくりと起こしてくれる。
自分の手足が目に入る。
「はい?」
あたし、こんなにキレイで長い手足だったかね?
手なんてシワシワだったのに、なんだい、このつるつるすべすべな肌はっ!
そういえば、なんだか体が異様に軽いような。
「そ、そんなに急に起き上がって平気なのかね!?」
思い切ってピョンと飛び上がると、おじさまに驚かれた。
でも、あたしは違うことに驚いていた。
体がどこも痛くない!
驚くほどに軽い!
「いったい、どうなってるんだい」
思わず顔に手を当てて考え込もうとして、また驚く。
顔が、つるつるしてるよ!
髪も、とてもさらさらで、これはいったい……
「か、鏡!
鏡、ありますか!」
思わずご婦人にすがっていた。
それに、やっぱりこの若々しい声は、あたしの。
あたしにすがられて、ご婦人が慌てて懐から小さな手鏡を出してくれた。
手鏡を覗き込むと、そこには、長いさらさらの金髪に、空のような澄んだ碧色の瞳の美少女の姿があった。
「ど、どうなってるんだ~~~い!!!」
管澤捻様作