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遺書を読む、結ばれる。

久々の投稿です。3000字くらいで済まそうと思っていたのに、気がつけば8000字ほどになっていました。少々長いですが、お付き合いいただければ幸いです。

 放課後、部活終わり。沈んでいく夕陽を横目に、俺は学校の屋上に向かって走っていた。廊下を走ってはいけないとか、階段を走っては危ないとか、そういうことを言っている場合ではない。緊急事態だ。


「屋上にいなかったらどうする?彼女の行き先に心当たりなんかないぞ……」


 階段を駆け上がる音にかき消されるような、小さな声で俺は呟く。全力で走ったせいで息が苦しいが、屋上への扉はすぐそこだ。

 たのむ、間に合ってくれ。


 俺は勢いよく屋上に続くドアを開けた。


 バーーン!と激しい音を立てて開くドア。

 ドアを潜ると、赤色に染まった美しい空と、冷たい屋上の床が視界に広がった。その中に驚いたようにこちらを振り返る少女の姿を見つけ、俺はほっとため息をつく。

 よかった、ここにいた。


「砂川さん!」


 俺は彼女の名前を呼んだ。俺の声に、砂川さんは体をこわばらせる。しばらくその状態の砂川さんと、無言で見つめ合っていた。気まずい沈黙が流れる。

 ついさきほどまでほとんどオレンジ色だった空が、半分くらい紺色に塗り変わったころ。


「……なんの用かな、柳くん」


 砂川さんが口を開いた。まだ俺を警戒する姿勢を崩してはいないが、話をしてくれるつもりにはなったらしい。


「遺書、読んだよ」


 俺は一言、彼女の目を見つめながら答える。


「……そうなんだ」


 彼女は一言だけそう呟き、俺から目を逸らした。


「自殺、するのか?」


 恐る恐る問いかける。


「わからないの」


 砂川さんは、本当にどうしたらいいのかわからない、と言った表情で俺の顔を見つめ返した。

 そのままゆっくりと座り込み、空を見上げる。


「近くに行ってもいいかな?」

「好きにしていいよ」


 彼女の返事を受けて、俺は彼女の隣に座り込んだ。

 彼女と同じように、俺も夕空を見上げた。ゆっくりと、しかし確かな速度で夕日が沈んでいく。


「あの夕陽みたいに、私も進めたらいいのに」


 砂川さんが呟いた。俺は無言で先を促す。


「……本当はね、多分自殺する気なんてない」

「……」

「学校に行って、部活して、家に帰って。なんの変化もない生活を続けている自分が嫌になって、突発的に遺書を書いただけなの」


 ……少しだけ、気持ちはわかる気がする。変わり映えのしない生活を目的もなく続けて、自分は一体何者になるのだろうか?そんな、言い知れない不安を感じて寝れない夜が、俺にもある。高校を卒業した後の自分は何をしている?どんな仕事をしている?結婚はしているのだろうか?歳をとった親をどうやって支えよう?そもそも俺は生きていけるのか?

 そんなことを考え出すたびに、さまざまな不安に押しつぶされそうになる。多かれ少なかれ、きっとみんな似たような不安は持っているのだろう。

 小さなため息をはいて、砂川さんが話を続けた。


「親からの期待に応えて、勉強も部活も頑張ってきた。両親も先生もすごく褒めてくれるし、それはとても嬉しいんだけど……。なんだか、とても窮屈で」

「……砂川さんは、マジでいつも頑張ってるもんな」

「ふふっ、ありがとう」


 彼女が人並み以上に努力していることは、ただの同級生でしかない俺の目から見ても明らかだった。俺の言葉に、砂川さんが少し笑顔を見せる。しかしその笑顔はぎこちなく、意識して作られたものであることが俺にもわかった。

 砂川さんは続ける。


「こうやって自分を押し殺して、いい子を演じて生きていくんだなー……って思ったら、急に自分のことが可哀想になっちゃって。自分の本心を偽りながら、何も成長がない日常を過ごすくらいなら、いっそ死んでしまってもいいんじゃないか。そんなふうに感じて、遺書を書いて屋上に来たの」

「……そっか」


 2人してため息をはく。

 気がつけばもう空はすっかり暗くなっていた。


「……しんどいな」

「うん、しんどい。でも話したら結構楽になったよ」

「……そっか」


 彼女の遺書には、

「私は疲れてしまいました。今までありがとうございます。私は飛び降りますが、どうか皆さんは幸せに生きてください」

 とだけ書かれていた。飛び降りる、という一文があったため、俺は屋上に来たわけなのだが。この短い文章の中に、どれほどの感情が込められていたのだろうか。俺には少し、本当に少しだけその気持ちがわかる気がした。


 1人黙り込んだ俺の顔を、砂川さんが覗き込む。


「柳くんは、なんで私を探しに来てくれたの?」


 尋ねられて、戸惑った。なんでと言われても、クラスメイトが自殺しそうなのを放っては置かないだろう。

 部活終わりに忘れ物を取りに教室に戻った俺は、自分の隣の席に遺書が置かれているのを見つけた。大変だと焦って遺書を読んだ俺は、気がつけば屋上に向かって走り出していたのである。

 ……しかし、先生などに報告するより先に、なぜ自分の足で屋上に向かったのかは自分でも分からなかった。

 理由を探して黙り込んだものの、結局納得のいく答えは見つからず。


「……わからないけど、砂川さんが気になる存在だったからかな」


 気がつけば、空を見つめながらひとりでに呟いた。

 勝手に口をついて出た言葉だが、意外としっくりくる気がして、俺は頷く。

 直後に砂川さんがヒュッと息を吸い込む音が聞こえたため、俺は驚いて彼女の顔を振り返った。


「大丈夫?今なんか変な音したけど」

「だ、大丈夫……」


 少し咳き込みながら答える砂川さん。


「柳くんが屋上に来た時は、すごくびっくりしたけど……」


 彼女は目を瞑ってゆっくりと頷く。


「おかげさまで死ぬのはやっぱり勿体無いって思えたよ」

「俺は何もしてないけどね」

「心配して探してくれたでしょ」

「うん。それはまあそうだけど」


 頷いた俺に、砂川さんはくすりと笑った。


「それに……」


 口調は悪戯めかして、でも真剣な表情で砂川さんが俺の目を見つめる。


「本当の自分じゃない誰かを演じているのは、私だけじゃないってわかったから」


 彼女の言葉に、俺は苦笑した。


「柳くんも、アホなキャラを演じてたんだね」

「失礼だな」


 笑顔ではっきりと言った砂川さんに、俺も思わず笑ってしまう。人間関係を円滑に進めるために、みんなどこかしら仮面をかぶっているところはあるのだろう。砂川さんが指摘するように、俺も学校では別の人間を演じている自覚はある。しかし、やはり仮面をかぶり続けるというのはしんどいものだ。俺は学校では仮面を被っているが、家では基本的に仮面を外している。砂川さんの場合はどこに行っても仮面を被らなくてはいけないわけだから、相当しんどいのだろう。

 しばしの沈黙。

 ふぅ、と吐いたため息が、ほんのり白く染まる。流石にちょっとだけ冷えてきたか。


「……俺でよければ」


 少しだけ勇気を出して口を開く。


「砂川さんさえよければ、俺の前で悪い子になってくれていいよ」


 砂川さんの目を見つめる。やってしまたかと思ったが、もう後には引けない。


「……」

「……」


 異様に長く感じる無言の時間が流れたあと。


「……ふーーん」


 砂川さんは、何を考えているのかよくわからない表情で俺の目を見つめ返した。


「……私そんなに悪い子じゃないんだけどなー。柳くんには悪い子に見えるんだ?」


 そう言って、砂川さんは揶揄うような感じで俺から目を逸らす。よく見るとその頬は少し膨らんでいた。


「悪い子じゃなくてもさ、今みたいに素の自分を出してくれたら嬉しいんだけど」

「……今みたいに?」

「うん。頬を膨らませてそっぽを向いたりとか、砂川さんは普段学校ではしないだろ?」


 俺の話を聞いていた砂川さんの顔が、みるみる赤くなる。両手を顔の前で振りながら、慌てたような感じで声を上げた。


「は、恥ずかしいから冷静な顔でそういう指摘をするのはやめて!」

「へえ、砂川さんもそんな可愛らしい反応で恥ずかしがったりするんだ」

「もう!怒るよ」


 真っ赤になった顔でこちらを睨みつける砂川さん。しかし本気で怒ってはいない。


「ごめんごめん。……まあほんと、俺なんかでよければなんだけどさ」


 一呼吸置いて続ける。


「誰かに甘えても、いいんじゃないかな」


 少し黙り込む砂川さん。


「……ごろごろにゃんにゃーんって?」

「またそうやってはぐらかす。俺相手には、愚痴こぼしたり、泣いたりしていいってことだよ」

「ごろごろにゃんにゃんはダメなの?」

「ダメじゃないけど……って、え?するのか?」

「ううん。しないけど」


 しないのかい。ちょっと想像してしまったじゃないか。


 クラスメイトが自殺してるかも、という緊張から、気がつけばふざけた空気に変わっている。俺はほっとため息をついた。

 本当に、砂川さんが死んでいなくてよかった。

 そう思って砂川さんの方に視線を向けると、どうやら難しい顔で考え込んでいる。ただのクラスメイトに仮面を外して接するのは、意外と抵抗感があるのかもしれない。俺も俯きながら、黙って彼女の言葉を待つ。


「柳くん」


 やがて砂川さんが小さな声を発した。

 ゆっくりと顔を上げると、目の前に砂川さんの顔があって少したじろいだ。


「私多分、甘え始めたら面倒くさくなるよ。大丈夫?」

「大丈夫」


 砂川さんの目を見てそう答える。というより、俺から言い出したことなわけだし、大丈夫と言うしかないだろう。どんなに重かったとしても、俺は絶対に彼女を裏切ってはならない。たまたまとはいえ遺書を読んだ縁だ。覚悟を決めよう。

 俺が固い決意で彼女の顔を見つめていると、彼女は少し顔を赤くして俯いた。

 ……なんだその反応は。


「……じゃあ、私が素を出すために、多少のお願いなら聞いてくれる?」

「まあ、構わないけど……」

「……ありがとう。……じゃあ早速お願いしてもいいかな?」

「な、なんだよ」


 愚痴を聞くだけのつもりが、思いもしなかった展開になって少し身構えてしまう。一体どんなお願いが飛んでくるのか。

 少し緊張して座り直した俺に、震える声で砂川さんが言った。


「明日、一緒に出掛けてほしいな。私同級生の男子と出かけたことが一回もなくて、少し悪い子になってみたいの」

「……待ってくれ。俺はいいけど砂川さんは大丈夫なのか。高2の男女が2人でお出かけって……それ多分デートだぞ」

「デ、デートっていうか、カラオケとかゲームセンターとか行ってみたいなって……」


 漫画だったらボンッという音がするほど一瞬で顔が真っ赤なった砂川さんを見て、俺も自分の顔がみるみる熱くなるのを感じた。なんだ、この初々しい子は。


「な、なるほど。ちょうど明日は部活ないし、俺は構わないけど……」

「じ、じゃあ決まり。待ち合わせ時間とかは後でゆっくり決めたいから、帰ったらSNSでメッセージ送るね」


 戸惑っている間にトントン拍子で約束が決まってしまった。展開の速さに驚いてはいるが、「明日」というワードが彼女の口から出てきたことに少しだけ安心している。今死のうと思っている人から、明日というワードは出てこないはずだ。今は自殺を考えていないと信じてもいいのだろうか。

 空を見上げ、思わず苦笑をしてしまう。すっかり暗くなった空には、ポツポツと星が見えはじめていた。


「……砂川さん」


 俺は空を見ながら呟く。


「もう死のうとは思ってないよな?」


 俺の呟きに返事はない。ゆっくりと彼女の方を見ると、彼女も俺と同じように夜空を見上げていた。


「……正直、まだ不安はある。しんどさも。でも、もう死のうとは思ってない」


 小さく笑顔を浮かべて、俺を見つめる砂川さん。その笑顔からは、先程のぎこちなさは消えていた。


「そっか、よかった」


 俺の返事に、穏やかに頷く砂川さん。


「それと」


 思いだした俺は声をあげた。


「遺書を勝手に読んでごめん」


 頭を下げた俺を見て、砂川さんが首を振る。


「隣の席に遺書って書かれた封筒が置かれていたら、気になって読んでも仕方がないよ」

「……あれを見た時はマジで焦った。昨日まで元気だった同級生が亡くなるとか、辛すぎる」


 あの時の衝撃を思い出して、また心臓が早鐘を打ち始める。俺は自分を落ち着かせるため、ふぅ、と小さく息を吐いた。


「……本当に自殺してなくてよかった」

「……ごめんね」


 今度は砂川さんが頭を下げる。


「あ、遺書を他の人が見つけて騒ぎになったりしてないかな?」


 ハッと顔を上げて、砂川さんが不安そうな声をあげた。俺は安心させるように首を振る。


「大丈夫。俺が教室に忘れ物を取りに行った時には、もうほとんど学校に生徒は残ってなかったから。帰るときに回収していけば騒ぎにはならないと思う」

「そっか、よかった……。ごめんね、迷惑かけて」


 本当に申し訳なさそうにする砂川さん。


「……まあ、実際突発的に行動しちゃうことってあるしな。良い行動ではなかったけど、俺は責める気にはなれないよ」

「……ありがとう」


 2人とも黙り込んで、揃って静かに下を向く。「そろそろ帰ろう」と声をかけようと思った頃、砂川さんが小さく声を出した。


「……柳くんでも、死にたいと思ったことはあるの?」


 砂川さんは首を傾げて、どこかすがるような目で俺の目を覗き込んだ。


「……あるよ、もちろん」


 俺は砂川さんの目を見つめ返してから、ゆっくりと息を吐く。

 将来が不安だ。生きることの価値が感じられない。辛い現実から逃げたい。

 悲しいことや嫌なことに直面するたびに、暗い感情が顔を覗かせる。死にたいと思ったことなんて数えきれないし、今でも生きる意味は見つけられない。ただなんとなく生きている現状に嫌気がさすことは、正直今の俺でもたまにある。

 それでも、そんな悩みは誰でも抱えるものなんだって割り切りながら、なんとなく今を生きている。

 俺も偉そうなことを言えた立場じゃないよな、と内心自嘲しながら、視線を落として話を続けた。


「死にたくなったことはあるし、今でもたまに死にたいと思うことはある。だけど、死にたくなって、でもやっぱり踏み止まって、そんなことを繰り返しながらみんな生きてるんじゃないかとも思うんだ」

「……」

「俺は死のうと思った時に、大抵親とか大切な人の顔が浮かぶんだよね。大切な人を悲しませたくないから自殺しないって部分もあると思う」

「大切な人……」


 反芻しながら、真面目な顔で俺の方を見つめる砂川さん。俺は、あえて彼女から視線をそらした。


「……前にさ、本気で死んでやるって思って、信号で車を待ち伏せしてたことがあるんだ。次に突っ込んできた車があったら、それにぶつかってやろうって」


 砂川さんがはっと息をのむ。


「でも、そんな時に限って車は全然来ないんだよな。で、15分くらい待ってようやく車がきた。ゆっくり車に向かって歩き出してさ、あと一歩で轢かれるってところで、体が動かなくなったんだよね」


 俺は相変わらず空を見上げながら、苦笑した。


「親を悲しませたくなかったからなのか、なんの罪もない車の運転手を不幸にするのを恐れたからなのか、色々と自分が死ねなかった理由を探そうとしたんだけどさ」


 俺は顔を上げ、砂川さんの方を向く。そのまま砂川さんの両肩を掴み、しっかりと彼女と目を合わせて言った。


「俺は多分、やっぱり生きたかったんだよ。大切な人を悲しませたくないとか、そういった理由も全部ひっくるめて」


 自分が意識していた以上に穏やかな声が出て、そんな自分に驚く。

 砂川さんは、黙って俺の目を見つめ返していた。


「死にたいって思うのも、生きたいって思うのも、多分自分が大切だからなんだと思うな。自分を大切にしたいからこそ、生きることに不自由さを感じると死にたいと感じるんじゃないかな……と、最近思うんだ」


 俺は再び苦笑する。


「ただの高校生が何悟ったこと言ってんだって感じなんだけどね。……砂川さんはどう思う?」


 俺の問いかけに、砂川さんは泣きそうな顔で首を横に振った。


「わからない」

「……そっか」

「……でも、多分私も生きたいんだと思う」


 砂川さんが小さく息を吐く。


「それじゃあ、俺と同じだね」

「……うん、そうかも」


 俺は砂川さんの両肩を掴んでいた手を離した。2人してまた、静かに夜空を見上げる。気がつけば月がだいぶ高いところに上がってしまっていた。そろそろ親も心配しはじめる頃だろうか。そんなことを考えていると……


「うん。やっぱり私は生きたい」


 砂川さんが突然力強く声を上げた。立ち上がって月を見上げる彼女からは、もうおどおどしさは感じられなかった。

 俺はそんな彼女を、少し惚けながら見つめていた。

 やがて彼女は穏やかな表情で、俺の方をゆっくりと振り向いた。


「……柳くん、ありがとね」

「どういたしまして」


 俺は彼女に頷いた。

「何か役に立てたなら何よりだ。……走って屋上にやってきて、多少話を聞いて、自分語りをしただけなのだが。おまけにデートの約束もしてしまった。突発的にとはいえ、自殺したいと思うほど思い悩んだ砂川さんの気持ちを思うと胸が痛むが、ラッキーだった気もしなくはない。こんな美少女とデートできるのは普通にワクワクする」


「こ、心の声、全部漏れてるから…」


 顔を真っ赤にした砂川さんに指摘されてしまう。


「……」

「……」

「……マジ?」

「……マジです」

「……マジかー」


 俺は顔を覆った。












「お前!砂川さんと付き合ってるって本当か!?」


 あれから数ヶ月後、俺はクラスメイトから詰め寄られていた。


「まじだよん。羨ましいだろ」


 俺が返すと、


「はー、信じられねえ!絶対柳じゃ釣り合わないだろ」

「俺もそう思う」


 みんな言いたい放題に言ってくる。こうなるから内緒にしておきたかったのに、いったいどこから情報が漏れたのか。

 はぁ、とため息をつく俺の肩を、クラスメイトの1人が激しく揺さぶった。


「どっちから告白したんだ?やっぱりお前から?」

「いや、砂川さんからしてきた」

「うぎゃーー、羨ましい奴め。なんて告白されたんだ?」

「私の大切な人になってください、って」


 シーンと静まり返る俺の周囲。


「……よし、処刑。即刻処刑。羨ましすぎるから柳はこれからくすぐりの刑に処す」


 1人の男子が俺に宣告し、他の男子もうんうんと頷く。


「おい、ちょ、やめろ」


 必死の抵抗も虚しく羽交い締めにされた俺は、複数の男子からくすぐられはじめた。


「ひーー、やめろって、マジでくすぐったい!」


 お、お前そんなとこまで!?ひー、やめてくれ。

 男子どもは本当に容赦がない。笑いすぎて軽く過呼吸になりながら教室を見回すと、こちらを見つめていた砂川さんと目が合った。目が合ったことに気づいて、くすりと笑いながら手を振ってくる我が彼女。

 かわいい。

 俺もふやけた表情で彼女に手を振り返した。


「「「「ギルティ!」」」」


 俺をくすぐっていた男子数人が一斉に叫ぶ。


「ひぃぃ!?さっきより激しくなってないか?やめてくれって」


 くすぐったいというより、もはや痛い。いたっ、今誰かくすぐるふりして摘んだだろ!?これはもはやいじめだぞ。

 さっきより一層激しくなったくすぐりの刑に処されながら、俺は彼女を見つめていた。

 相変わらず真面目だが、クラスメイトに少し砕けた感じで接するようになった彼女。俺以外にも自然体で接することができるようになった彼女を見て、安心と少しの寂しさを感じている今日この頃だ。もう死にたいと思うことは無くなっただろうか。それとも、今でもたまに死にたいと思うことがあるのだろうか。……もし、彼女がこれから死にたいと思うことがあっても。その時に俺を思い出して死ぬのを踏みとどまってくれる、そんな存在になれたらいいなと思う。俺は彼女を大切したい。


「俺は、君を大切にするよ」


 思わずそう呟く。

 俺の周囲だけでなく、教室中がシーンと静まり返った。

 俺の呟きが聞こえたのか、俺から顔を背けて耳を真っ赤にする砂川さん。


「「「「ギルティ!!」」」」


 教室にいる男子全員が叫び声をあげた。


 死にたくなっても、苦しくなっても、彼女と一緒ならきっと前を向いて生きていけるはずだ。遺書がきっかけで結ばれたこの縁を、一生大事にしていきたい。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

感想、評価お待ちしています。どのような評価であっても筆者は喜びますが、理由なども感想で教えていただけたら嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 継続は力なりですね。
[一言] 死にたいと思ったことない人もいるでしょうけど、一度は考えたことある人の方が多いでしょうね。 それ程までに多くの人が酷い苛めを受けてるとか、明日の食事もままならないとか、病気で毎日辛いとか、そ…
[良い点] 私もそう思うことあるよーなんて思いながら読んでいました。 打ち解けていく二人が微笑ましいです。
感想一覧
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