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優しい人

始めての投稿です。

猫とカラスと地蔵が自由にしゃべってるお話しです。

読んでいただけると嬉しいです。


いつからあるのか、誰が作ったのか知らないが路地を曲がったその先の緩やかな長い坂を上るとクチナシの木が見える。その横に小さな地蔵堂があり人々はその地蔵に悩みを話すとか。

地蔵堂に足を向ける人が今日もまた一人。



キョロキョロと辺りを気にしながらやせ形の女性が坂道を少し早足で上がってきた。Tシャツの上にチェックのシャツを重ね、肩にはトートバッグを掛け細身のパンツにスニーカーとかなりラフな服装に肩くらいの髪を後ろにきつくひとつにまとめている。

辺りに人気がないことを確認すると「あームカつく!!」と声を漏らした。

「何でなにもかも私がしないといけないわけ?誰もやりたがらないから親切でやってあげてるのにありがとうとかも全っ然ないし何なら私がやって当たり前みたいになってるし、私にも私の仕事があるんだっつーの!!何なの?この人なら文句言わずにやってくれるでしょ感!!ふざけんなっつーの私は都合良く使える人間じゃないし!!断って揉めたりして仕事が進まなくなるのが嫌だから優しい気持ちでやってあげてるだけなのに!!さらにムカつくのが違う人に回すはずの仕事もこっちに回してきてその人の仕事が増えたらかわいそうって言う上司は何なの!?その人はかわいそうだけど私のことはかわいそうじゃないの!?あー!!ヤダヤダヤダヤダ!!」

と、一通り思いの丈をぶちまけると幾分かすっきりしたようでふーっと長い息をつき「忘れてた」とトートバッグの中からお供えのお饅頭を取り出し、地蔵の前に置き手を合わせて項を返した。女が過ぎていくのを確認し、地蔵堂の裏からそっと猫が顔を覗かせた。茶色と白の三毛猫模様に金に透ける黄色い瞳の猫。

「あの人間、ひどくイライラしていたね。」

少し呆れたように猫が言った。

「嫌ならやらなければいいし断ればいいのに。」

「それができたらイライラしてここに来たりはしないさ。」

いつから居たのかカラスが木の上からそう言った。

「人間って言うのはいろんな考えの人間がいて、それが全部同じところに押し込められて生きてるから上手く立ち回って生きるためにいろんな事を考えてるんだよ。何にも考えずにのらりくらりと生きてる君とは違うね。」

「なっ、俺だって色々考えてるよ!何処に行ったらご飯にありつけるかとか雨が降りそうだから屋根がある場所を探そうとか!」

「それはどちらにしても君一匹のことだろ?自分で考えて自分で決めて自分で動けばいいだけ。僕達は果実や野菜があとどのくらいで食べ頃なのか、何処にどんな人間がいてどんな建物があるのか、どの時期どの時間帯に何処に移動するのかも全部仲間と共有してる。それが社会性ってヤツだよ。仲間皆がそれぞれ自分の役割を全うして話し合って決めてる。」

「じゃあ、お前はあの人間の気持ちがわかるっていうのか?」

「人間の気持ちなんて完璧にわかるわけないだろ?人間じゃないし。」

「何なんだよお前は!猫の俺よりよっぽどマイペースだよ!」

「ただ思うのはさ、『親切で』とか『優しい気持ちで』みたいなことを言ってたけど本当に親切で優しいんならあんなにイライラしないと思うんだよね。」

「どういうこと?」

「だって本当に親切で優しいんならそうすることが自然で当たり前だからやらされてるなんて思わない。あの人間は優しくて親切な自分がこれだけやってるんだから感謝をしてほしいと思ってる。自分の功績にあった評価をしてもらいたいと思ってるのに評価されないことに苛立ってると思うんだ。」

「なるほどね。親切の押し売りってヤツか。あるある。俺も呼ばれたけどいかなかったら『せっかく撫でてあげようと思ったのに』とか『写真撮ってあげようと思ったのに』とか言って勝手に人間が怒ってるの見たことあるわ。誰も頼んでねーつーの!」

「お地蔵様もそう思わない?」

カラスは地蔵の前に降り、饅頭をつつきながら訪ねた。地蔵はニッコリと微笑みながら答えた。

「私はね。彼女はとても優しい人だと思いますよ。」

その言葉に猫もカラスも目を丸くさせた。

「え!?本当に!?」

「親切押し売り自己満足人間が!?」

その様子にクスリと笑い肯定的に笑みを深めた。

「きっと最初は本当に親切から始めたんだと思うんです。それをすることで助かる人がいる。皆が忙しそうだから自分が、とそう思って行動できることはすごく素晴らしいことです。回りから当たり前に思われるくらいにそれを続け誰かを不愉快にさせないために顔や言葉に出さず自分の中に溜まって来ている辛さをさらに押し込めてきたんだと思います。嫌な気持ちになってきている、苦しくなってきている、だけどそれを言えば嫌な気持ちにさせてしまう。そう言うことをぜんぶぜんぶ抱えてしまった優しい人。猫の言うように断ってもいいし、やらない選択肢を持ってもいい。カラスの言うように評価をしてもらえれば満たされる気持ちもあると思います。それを吐き出さなかった彼女は本当に優しい人で、私に吐き出してもらえてとても嬉しく思います。」

そう本当にとても嬉しそうな顔をしたお地蔵様の顔を優しく月が撫でた。夜道を歩く人の影を照らしながら。






ここまで読んでいただきありがとうございました。人の悩みに答えるわけではなく、何だかんだと猫とカラスの率直な感想を言うようなお話です。

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