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本戦開会!

 そして、第52回、高校生『矛と盾』魔法大会、本戦の日がやって来た。

 会場は、プロの魔法スポーツ選手が大会で使うのと同じ、大きなスタジアムだ。市彦と誠介は外からスタジアムを見上げ、その威容に緊張を隠せずにいた。

 その時、黒塗りの車が、二人のそばに止まった。降りてきたのは、先日の炎害の日、『祈りの塔』の前で会った、千鳥の側仕えの男だった。車はそのまま去っていき、男は市彦と誠介に片手を上げて見せる。

「やあ、進藤くん、藤堂くん。今日は、観戦させてもらうよ」

「……どういう風の吹き回しなんですか、伊丹(いたみ)さん」

 どうやら伊丹という名らしい男は、ニッコリと笑い、自身の右目を指差した。よくよく目を凝らすと、その目に魔法陣が浮かんでいる。

「どうしても君たちを応援したいと姫様に言われてね。今日の私は、姫様の『眼』だ」

 その言葉は、市彦と誠介の両方に衝撃をもたらした。

「じゃあ……千鳥は……」

 市彦が震える声で尋ねると、伊丹は頷いた。

「君と我々の契約のこと、最初からご存知だよ」

 市彦がうつむき、ぐっと唇を引き結ぶ。涙をこらえているようだった。誠介もまた、胸を突かれる思いがした。

 ──千鳥は、すべてを承知で、その上で、市彦を信じ、大切な人だと語ったのだ。

「じゃあ、私は観客席から見てるから。せいぜい頑張ってくれ」

 そう言って去っていく伊丹の背を、誠介は見つめた。『祈りの姫』の側仕え。あらゆる魔法でトップクラスの実力を持たないと、決して就けない役職。そんな伊丹にとって、今日の大会など、児戯にも等しいだろう。──まだ遠い背だ、と誠介は思う。

 そんな誠介に、市彦が、万感の思いを込めて言った。

「絶対に勝とうな、誠介」

 誠介も頷く。道がどれだけ遠くとも、まずは、今日の戦いが、その第一歩になるのだから。

「ああ。絶対に勝とう。市彦」



『さあ、第52回、高校生『矛と盾』魔法大会本戦! いよいよ開幕です! 予選を勝ち残った高校生たちの、ぶつかり合う意地とプライド! ご来場の皆様方、どうぞお楽しみください!」

 開会を告げるアナウンスに、満場の観客席からワアっと歓声が上がる。

 本戦は、予選で勝ち残った8チームでのトーナメント制だ。つまり、三連勝すれば優勝、ということになる。各チームがくじを引き、組み合わせが決まる。大きなスクリーンに、トーナメント表が映し出される。誠介と市彦のチームと、須磨のいる鏡見澤高校のチームは、トーナメント表の両端にあった。つまり、決勝までぶつかることはないということだ。

「上等じゃねぇか」

 と市彦は呟き、誠介も頷く。誠介が須磨を睨めば、せせら笑いが返ってきた。気づけば、その様子がスクリーンに映し出されていた。

『CMで注目の決戦は、決勝戦に持ち越されました! 進藤&藤堂チーム、鏡見澤高校チーム、ともに決勝戦まで勝ち上がることができるのか!?』

 煽り立てるアナウンスに、観客席から歓声と、頑張って、という声が飛ぶ。

 一回戦で誠介達と当たることになったチームは、仏頂面をしている。完全に、負けることを観客に期待されているのだから、それは不愉快だろう。ちょっと申し訳ないが、文句はテレビ局に言ってほしい。

 試合前に会場の中央で互いに一礼したが、その際、

「言っとくけど、予選では俺らのほうが勝ったんだからな」

 と不機嫌そうに呟かれた。確かに、今回の対戦相手は、予選で二位だった橘高校魔法研究会チームだった。

 じゃんけんで攻守が決まり、橘高校が攻撃、誠介達が防御となった。

『それでは、各陣営、使用する魔法陣を選んでください──発表します! 橘高校、火属性魔法! 進藤&藤堂、五大属性魔法です! 火属性魔法は、橘高校の最も得意とするところ! 進藤&藤堂チームの防御魔法は、それに耐えうるのか!?』

 アナウンスとともに、誠介と橘高校の魔法実行役は位置につく。

 誠介は、深呼吸を繰り返す。『スパルタくん』を使って繰り返し練習した、あの日々を信じるしかない。

『各陣営、魔法を準備してください。カウントスタート! 5,4,3……!』

 羊皮紙を広げ、魔法力を魔法陣に巡らせる。五大属性を均等に、だが、水属性魔法の魔法力だけ、出力を上げて。

「巡れ──!」

「行け──!」

 誠介と、対戦相手が同時に声を上げ、互いの魔法が発動し、ぶつかり合う。

 完璧だった。相手の火属性魔法は、水属性の魔法力に打ち消され、それにより五大属性の魔法力が均等になり、互いを高め合う。

 市彦が作り、誠介が放った五大属性魔法は、橘高校の攻撃魔法を完全に防いでみせた。

 一瞬の間を置いて、歓声が上がる。

『進藤&藤堂チーム、勝利! 圧巻の勝利です!!』

 アナウンスを聞きながら、誠介はホッと力を抜いて、肩を落とした。その誠介に市彦が飛びついて首に腕を回す。市彦は満面の笑顔だった。

「やったな、誠介!」

「ああ、練習の成果だ」

 誠介と市彦は笑い合う。その様子に、また歓声が上がったのだった。


 二回戦までは間がある。控室で休憩しようと廊下を歩いていた誠介と市彦は、これから試合らしい須磨とその仲間と行き合った。

 互いに睨み合い、そのまますれ違うかと思った時、須磨が口を開いた。

「ちょっとはマシになったらしいな。けど──うちだって、予選のままじゃねぇぞ? 本戦で使う魔法陣は、予選の魔法陣から変更可能ってルール、知ってんだろ?」

「……何が来ようと、全力で迎え撃つだけだ」

 誠介が言い放ち、須磨はハッと笑って、そのまま会場に向かった。

 控室には会場の様子を映し出すモニターがあり、誠介と市彦は鏡見澤高校チームの試合を見たが、新しい魔法陣は温存しているのか、予選で見せた魔法陣しか使わなかった。

「……何をする気なんだろうな」

「『何が来ようと、全力で迎え撃つだけ』なんだろ?」

 市彦は誠介を元気づけるように笑い、誠介もそれに笑みを返したが──不安は拭えなかった。


 市彦と誠介の二回戦は、予選でも誠介達が勝利した神埼高校魔法研究部チームだった。なので二人とも、あまり心配はしていなかったが──。

『守備は進藤&藤堂チーム、攻撃は神埼高校チームです! 進藤&藤堂チームはいつもどおりの五大属性魔法陣、神埼チームは……予選から魔法陣を変更してきた! 土・金の二大属性を使用した攻撃魔法です!」

 市彦と誠介は目を見開いた。

「そう来たか……」

 市彦が舌打ちする。各チームが予選で見せた魔法陣は、いずれも単一の属性を利用した魔法陣だった。だから、市彦と誠介は、二大属性を利用した魔法陣への対処を、一切練習してこなかった。『スパルタくん』にも単一の属性の魔法陣を出す機能しかない。

 誠介は青ざめ、だが、力強く言った。

「同じことだ。土属性には水属性の魔法力を、金属製には土属性の魔法力を多めにぶつけて、五大属性を均等にする」

「つっても、ぶっつけ本番だぞ!? 一つの属性の魔法力を調整するだけでも大変なのに、二属性同時になんて──」

「それでもやるしかない!」

 誠介は市彦に怒鳴って、立ち上がり、位置についた。

 原理は、今までと同じだ。できるはずだ。そう、自分に言い聞かせる。

 両陣営が位置に付き、カウントダウンが始まる。

『5,4,3,2,1……』

 魔法陣に魔力を込めていく。まず水属性の魔法力を高めて、次に土属性を──ああ、バランスが崩れた──!

 誠介は頭の中をぐちゃぐちゃにしながらも、なんとか魔法を放った。

「巡れ──!」

「疾走れ──!」

 両者の咆哮とともに、魔法同士がぶつかり合う。互いに譲らず、数秒の膠着があった。が、神埼高校の攻撃魔法が、崩れ落ちていく。

『決まったぁああああ! 進藤&藤堂チーム、決勝進出確定です!」

 歓声が上がるが、誠介は荒い息をつき、羊皮紙を握った拳を見下ろしながら、厳しい表情だった。

「誠介」

 市彦が駆け寄ってくる。誠介は、市彦に顔を向けることができなかった。

「──今のは、失敗だった。相手が二大属性魔法の実行に失敗して、自壊しただけだ」

 ポツリと呟いた誠介の背を、市彦が優しく叩いた。


 ──悪いが、一人にしてくれ。

 そう言って市彦と離れた誠介は、非常ドアの外の、人気のない非常階段に座り込んでいた。上向けた掌の上に、五大属性の魔法力を、次々と浮かべていく。

 ──決勝まで時間がない。五大属性のすべてを、意のままに操れるようにならなくては。

 焦れば焦るほどうまく行かない。魔法力はバランスを欠いて、手の上で霧散していく。

 深呼吸する。

 できるはずだ。誠介はすべての属性の試験で、A評価をもらっているのだから。オールA、総合S。かつて嫌ったその称号が、今は心の支えだった。

 そんな時、ふと、誠介の顔に影が差した。

 須磨がそこに立って、誠介の顔を見下ろしていた。

「──ムカつくんだよ、おまえも、進藤も。正論ばっか吐きやがって。総合成績でも魔法理論学でもおまえらに勝てない俺を、内心見下してるんだろ」

「そんなことはない」

「じゃあ、眼中にないってか」

 それはそのとおりだったので、誠介は黙ってしまう。須磨は眉を顰めた。

「見ろよ、この街。──いまだに煤だらけだ。うちんちなんか貧乏でろくな防災魔法もかけられないから、俺ら家族が避難所にいる間に、全焼だよ。おまえみたいなお坊ちゃんや、進藤みたく、政府の建てた施設にいる奴は、安全だろうけどよ。それでも、おまえらみたく、『祈りの塔』や『祈りの姫』を信望しなきゃならねぇのかよ」

「それは──」

 またしても、誠介の人生経験にはない事柄を語られて、誠介は一瞬言葉に詰まった。だが、答えは決まっていた。

「それは、お前の自由かもしれない。だけど、炎害から人を救うために、精一杯人生を懸けている人への誹謗を、許せない──絶対許せないのも、俺達の自由だ」

 須磨は鼻で笑った。

「まぁいい。決勝戦で、決着をつけようぜ。おまえが言ったとおりにな!」

 そうして、須磨は踵を返し、去っていったのだった。

 その背を見ながら、誠介は、今までの迷いや焦りが、すべて消えている自分に気がついた。

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