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ミリオンとジルニトラと船と島

  

 

 

 海賊襲撃の報告が来ても特に驚きはなかった。

 どうせこの新型船の情報をばら撒いていたんだろう。うちの国があちこちで海賊の略奪行為を邪魔して飢えさせていたのもあって、見事に餌に飛びついてきた。



「遅い」

 検討用の海図を広げ、ミリオンがいまいましそうに現在位置をペンでつつく。

「餌が甘かった。疑われて内容の精査に時間をとられたか」

「早まるならわかるけど、どうしたんだろう」

 ヘリットは不思議そうだった。


「逆だろう。美味すぎる餌だから、お互い足を引っ張りあって足並みが揃わなかった」

 俺の言葉にヘリットの方が笑った。

「そんなことになるんだ。対人の読みは難しいなあ」


 二人は『船長室』へ行き、計画の修正を終えると人を集めて指示を出し始めた。中心に立ち説明するのはヘリットだ。

 あいつがこの計画の総指揮官であり、ミリオンはその副官になる。

 

 竜と共に甲板に出て彼らを眺めていると、簡易装備だけを身につけたミリオンがこちらにやってきた。

「予定通り救援要請に出発する。準備は」

「こちらは完了している」


 この新造船の外見はごく普通の大型貨客船に似せてあり、航行速度は『乗客も貨物も満載しているような速さ』になっている。

 ここから『追われたので新造船として正体を現し、必死に逃げる速度』になって海賊を引き寄せつつ、この先に待つ『偶然にも、秘密裏に演習していた』中小の海洋国家で編成された合同艦隊が待つ海域に突っ込む。


 そこで護衛という名目で借り出されていた俺と竜の出番になる。

 とはいっても戦闘には参加せず、先行して合同艦隊へ救援を求める役目を担う。その同行者にミリオンが名乗りをあげた。

 離脱する場所は、偶然にも彼女がいるとされている、海賊の地図に描かれていた海域付近だ。


 すべて用意してきたかのように物事が進んでいく。


「ヘリット、あとはよろしく」

「うん、頑張ってみるよ」 


 ミリオンが鞍の後部に騎乗したのを確認し、竜に出発の合図を出す。

 竜は元気よく甲板を走り出し、端まで来ると飛び降りて海面に触れる直前で翼を広げ、そのまま水平に飛んでいく。

 最初はわざと察知されやすいように飛び、ある程度のところで索敵避けの法術をいくつか展開し、目標海域に向け方向転換する。加速が安定したところで、背後に対して『法術で近接通話可能』の合図をする。

 右肩に手が乗ったので、俺は前を向いたまま口を開いた。


「お前、その簡易装備だけか?」

「ああ」

 剣すら持たずに行くのか。まあこいつの事だからそれでなんとかするのだろう。

「あの船の指揮はヘリットだけで大丈夫なのか?」

「『船』と『船長』の製造はどちらもヘリットの担当だから、あいつは船にいた方がいい。発明品の実験場として好きに使うと言っていたし、もしもの時の『脚本』は渡してある。船員もヘリットと気が合う騎士団員で揃えてもらったから、問題ない」

 武装が見当たらない船だったが、ヘリットの物騒な発明品を使うなら問題ない……のか?

「追いかけてくる海賊船団の中にはこちらに寝返る予定の船がいるから、完全に潰されることはないはずだ。それにあの船は武装していない事が重要なんだ。多少被害が出るのは想定内で、これは海賊と繋がる大国を糾弾する時に使う」

 少し寒気がした。そこまで組まれているのか。

 ここで離脱するのもはじめから計算に入ってるのだろう。


「一人を助けるために、お前は人も国も動かしたのか」

「そうだ。俺の人探しにルー騎士団総長が許可を出して、計画を上乗せした。ここまで来れたのは俺だけの力じゃないが、新造船で新規航路を航行するのも、海賊退治もその先もすべて『ついで』だ」 

「お前なら一人でも海賊を潰して彼女を見つけられたんじゃないのか?」

「そうだな、できるとは思う」

 予想よりも素直な返答が返ってきた。この広い海の上で、一人でどうするのか俺には想像つかないが、できるのか。

 俺の右肩を掴む手に力が入る。

「でもそれはかなり乱暴な手段を使うことになる。だからやらない。レニーは俺の味方だと言ってくれた。きっと、どんな俺でも彼女はそう言ってくれる。でもそれじゃ駄目なんだ。俺はレニーが味方するのにふさわしい人間でいたい」

「お前の生き方の指針か」

「そうだ」

 まあ悪くは無いんじゃないか。


「お前はレニーの事をどう思っている?」

 いきなり来たな。

「それを聞いてどうする」

「言いたくなければ別にいい。今しか聞いておく暇が無いと思っただけだ」

 脅すような口調ではなく、こいつにしては珍しく答えなくても良いと言う。

 なので正直に答えることにした。


 俺は振り返り、法術を通してではなく直接伝える。

「お前がいなければ交際を提案しようかと考える程度の好意は持っている。だが俺の感情は友情の延長線上だ。彼女の境遇への同情もある。だから特に伝えるつもりはない」

「そうか」

「彼女もそれを望んでいないしな」

 見ていればわかる。彼女がいつも誰を想っているのか。

 それが誰なのか明言するつもりはないが。




 進路取りはうまく行き、俺の隠蔽術も竜の飛行も順調で、海賊に追跡されることもなく目標海域に到達した。

 再び背後を振り返り、ミリオンは胸元から俺たちが船上でずっと眺めていたこの海域の海図を取り出して広げる。

 防水紙の表面には海賊の海図の情報が追加で書き加えられている。


「ヘリットの分析を参考にすると、可能性が一番高いのはこの島だ」

 ミリオンが海底火山に隣接した小島を指さす。

「海底噴火の影響を受けて廃村になっているが、噴火場所からすると島の居住区画は無傷のはずだ。まだ人が住んでいてもおかしくない」

「俺も同意見だ。他の島は火山から離れているから、彼女が手紙に混ぜたような鉱物は簡単には手に入らない。それに……」

「どうした」

「竜が警戒して接近できない。何かある」

 目視できる距離までは近づけるが、あと少しのところで方向転換する。いくらなだめてもそれ以上島に近寄ろうとしない。

「法術で近寄れないだけなら強引に侵入して解除すれば問題ないが、ここまで嫌がるのは少し変だ」

「出来る限り接近してくれたらあとは泳いで行く。お前はこのまま救援要請に行ってくれ。警戒する原因を調べておく」

「わかった」

 ミリオンから救援要請の書状を受け取り、かわりに胸ポケットから黒い卵状の物体をとり出し、手渡す。

「判明次第これを海に投げろ。すぐに駆けつける」


 ミリオンは両手のグローブを調整すると、複数の法術を次々と身体に展開し、最後に深呼吸して顔の包帯を解いていく。

「傷痕はあるか?」

「ない。うちの薬は優秀だろう?」

「そうだな。そこは素直に感謝するよ。じゃあまた後で」


 ある程度のところまで小島に近づくとミリオンは竜の背から降り、海面に飛び込んでいった。

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