白魔導士はコラボするようです 〜協力したら案外良さげなおバカコンビ〜
この作品を読むにあたって、あらすじに記載した原作二作品を先にお読みいただくとより楽しめると思います!
雲一つない青空。太陽が燦々と照らす草原を、青髪の美少女と二人っきりで歩いている俺。
やっほー、ニーヴェだよ。運動もしないとだからってアズに散歩に連れてこられたよ。美少女だからって何してもいいとは限らないんだよ。
要するに俺は今イライラしてます。
「ねぇニーヴェ」
やめろ、イライラニーヴェくんにそんな満面の笑みを向けるな、腹立つなもう。
腹立つので無視を決め込もう。
「ねぇニーヴェ」
反応しません。
「ねぇニーヴェ。……ねぇニーヴェ」
その呼び掛けは右耳の鼓膜を振動させてから脳を華麗にスルーして左耳から抜けていくぞよ。
「ねぇニーヴェ、ねぇニーヴェ、ねぇニーヴェ」
三連呼び掛けとか通じないから。名前ってそんなに連続で呼ばれるより一回だけ大切に呼ばれた方が嬉しいでしょ? 連続で呼ばれる状況を作ってるのは明らかに俺だけど。
「ねぇニーヴ」
「ばぶぉっ!!?!」
右頬がバラバラと音を立てて砕け散った気がする。
「は?! いつかはビンタ来るとは思ってたけどまさか呼び掛け終わるまで待てないとは微塵も思わなかったよ! てかまた手のひらから湯気出してんじゃねぇよ! 頬がいくらあっても足りねぇわっ!」
「大丈夫、頬は左右一つずつだから。すぐに壊してあげますからねー」
ははーん。………………お前もサイコパスか。
「盛大に遠慮しとく。ところで俺を呼んだ用件は?」
「そこは遠慮なんだから奥ゆかしくしなよ。あ、用件はね、あれ」
アズが指さした場所を見ると、ここから十歩先くらいのところに魔法陣が光り輝いている。
「なんだあれ? こんなとこ普段誰もいないのに……」
ここは王都レウコンから結構離れた草原で、魔獣が出ないことで有名だけど、そもそも街の外に出る人のほとんどは魔獣を倒す戦士なので人通りも少ない。
近づいてみると、やはり魔法陣であることが伺える。
アズと二人で顔を見合わせ、興味本位で触れようとした瞬間。
「いでっ」
目の前に人間が二人現れた。召喚魔法? だったら誰が……
あ、動いた。逃げよう。なんか一人勇者みたいな格好してるし強そう。
「アズ、こんなとこで死にたくないからさっさと逃げない?」
「ニーヴェがいるから大丈――そんなことなかった。ごめん」
くそう。俺が白魔導士だからって舐めやがって。
「俺だって戦えるんだぞ?」
「へぇーすごいねー」
「死ぬほど棒読み! 死んだ魚を丸々一週間放置したかのような目してる!」
「う、うぅっ……アタラポルトのやつ、やりやがったな……!」
あ、喋った。殺される。さっさとスライディング土下座で命乞いした方がいいかな?
てか誰? アタラポルト? 聞いたことない名前だな。
勇者っぽい人の方が起き上がった。
「びゃあ、誰?! 真っ白?! ごめんなさい何でもしますから許してください!」
出来ました、「勇者っぽい人~めちゃくちゃ綺麗なスライディング土下座を添えて~」。
「ローブ真っ白なだけで秒で命乞い始めたんだけどこの人?!」
俺と似てるなこの人。てことは悪い人じゃなさそう。あれ、超自分至上主義展開しちゃった?
「えっと、どなたですか?」
冷静だなアズ。もしかして忘れてる? この人たち何も無いとこから急に現れたんだよ?
「あれ、もしかして敵じゃない? っていうか異世界の住人だし敵とか味方とかないか。……コホン。俺の名前はサカギリ ヨシハル! 別の世界で魔王にベタなことすると苦しみに襲われる呪い、ベタノロをかけら」
「やっぱりこの人やばい人だよ」
「ね? さっさと俺に従っとけば良かったでしょ?」
そんな見るからに嘘の設定信じられるかい。
「ちょっと待ったぁぁぁぁっ! 変な人とは?! いきなり出会ってそんなこと言われたらヨシハルくん悲しくて部屋の隅で泣きじゃくるよ?!」
「ここ草原だけど?」
あら? 何も言わなくなった? もしかして痛いとこ突いちゃった?
「ほんとやん! 草原じゃん! なんでこんなとこに?!」
ほんとに自分のいるとこ部屋の中だと思ってた!
「ちなみに今の話、どこまでが本当なの?」
「全部ホントなんだけどな……」
えぇぇ。頭のネジどころか配線基盤全部吹っ飛んでないこの人?
そんでもう一人の小さい女の子全然起きないけど大丈夫?
「まぁヨシハル? だっけ。君の言ってることは一旦連れの子に確認を取ってから信じるかどうか決めることにするよ。その子見る限り常識人だし」
「え、あぁ、そう……」
何、自信ないの?
「んぅう……はっ! ここはどこ?! 私は――メリカだ! ちゃんと覚えてた!」
なんかちょっと前の俺を見てる気分。
「えっと、メリカちゃん……でいいのかな。メリカちゃんはどうしてここに来たの?」
「びゃあ、誰?! 真っ白?!」
いや話しかけたの俺じゃなくてアズ。誰も彼も最初俺に目行くのやめて。しかもなんかデジャヴ。命乞いしなかっただけまだ信頼できそう。
「ごめん、驚かせちゃったね。私はアズリス。アズって呼んでね。こっちの真っ白な頼りないのはニーヴェ」
「そ、俺は白魔導士のニーヴェ。強化専門だけど自強化できない雑魚だよ!」
めちゃくちゃ明るく自己紹介。それなのにヨシハルもメリカも口をあんぐりしてるのはなんでかな? 惑星アングリから来たアングリ星人なのかな?
「えー、それって……」
「おにーさん、この人すっごく可哀想……ろくに食べれてないんじゃないの?」
やめろその的と反対方向に向かって矢を放ったくらい的外れな憶測。
「えっと……場を和ませようと思って言ったんだけど……そんなに深刻に考えなくていいよ? それと俺はパーティに日雇いで参加してるから結構お金持ってるんだぞクソガキ」
おっと本音が。
「松明」
「釣り針」
「リキシセナチド」
「ど、ど……ああもうめんどくさいや。毒」
「ちょっと待った! しりとりってことはわかった! でもリキシセナチドって何? 魔獣の名前?」
そうじゃなきゃ、力のある士だから……脳筋のことかな?
「リキシセナチドは毒性のある物質のことだよ!」
「なんでそんなこと知ってんの……ガキに見えてもしかして中身ご老人とか?」
「おにーさんもう一回しりとりしない?」
「まぁ待て。こいつの口に入れたいものしりとりは一旦ストップ」
は?! 俺の口に入れたいもの?! 松明ですか?! そして毒って。いくらなんでも直球すぎる。
「メリカはこう見えて十六なんだわ。中身は」
一個下?! この子が? まぁそんなこともあるか。
「なるほど中身は十六なんだ」
「ちょっとぉ! そんなに『中身は』って強調しなくてもいいでしょ!」
さっきからメリカって子、ツッコミキレキレっすな。これは心強い。とりあえず忘れかけてた当初の目的を果たしましょ。
「なぁメリカ、君とヨシハルはどこから来たの?」
「んーとね、異世界! こことは違う世界だよ」
ダメだこの子もイカれてる。
「本当なの? すごく嘘っぽいけど」
「もし本当だとして、どうやって違う世界からここに?」
疑問が浮かびまくる。
「うーん……なんかわかんないけどアタラポルトっていう悪いやつに術をかけられて、まだ不明だけど条件を満たさないと元の世界に帰れなくされたってことで信じてもらえる?」
そのアタラポルトってやつがここにいなきゃ受け入れらんないかな。俺もそんなにチョロくないし。
「じゃあその条件満たせるように頑張らなきゃだね!」
ちょっとアズさん?! あんたまで頭の配線ブッチしちゃダメだよ!
「信じるの?! アズはそれでいいの?!」
さっきから叫んでばっかりで疲れる。
「だってそれ以外に説明がつかないじゃん」
「なるほど、そんな根拠で俺を押し切ろうだなんて――参りました」
なんて簡潔で完璧な理論なんだ……ッ!
「おにーさん、ニーヴェくん舌戦弱いね」
失敬な! 事実すぎて何も反論できないぜっ!
「ま、まぁ否定できないな……」
でしょうねヨシハルくん。まぁここは三対一ってことでヨシハルたちを信じることにしようか。悪いヤツらじゃなさそうだし。
「でも条件わかんないのは詰んでない?」
アズの言葉がこの場にどれほどの沈黙を降らせたことでしょう。俺たちは雷に打たれたあとに消し炭となって世界を循環した末に生まれ変わったかのような五分を沈黙の中で過ごしたよ。五分で世界って循環するんだね、すごい。
しません。
「そうじゃん! やべぇじゃん! 早くベタノロ解かなきゃいけないのに! こんなところで足止めくらうとか……はっ! これが魔王の目論見かっ!」
あのさぁ、人の暮らしてる世界を「こんなところ」とか言うのやめてもらっていいかな? こんなところで必死こいて生きてる人たちが可哀想。あ、俺も言っちゃった。
「はっはっはっ……ようやく気づいたようだなお主! そう、ワシの目論見は今お主が言った通りのこと! これでベタノロはなかなか解かれまい! ワシの魔力が回復するまで、そこでゆっくり過ごしているがよいわ!」
なんか出たぁ。何この人、ワキ臭そう。
「出たな魔王! お前もこっちの世界に来てる時点で今からボコボコにできるというファーストクラス仕様つけてくれてありがとう!」
「あれが魔王?! なんて言うか……すっごくワキ臭そう」
俺とアズの思考が合うとは珍しい。そしてあの魔王、なんか……
「えぇ、ほんとじゃん! なんでワシこっち来たかな? しかもあんな可愛い女の子に『ワキ臭そう』って言われたワシのメンタルや如何に?!」
なんか俺と同じ匂いがする。
いや、ワキじゃなくて、性格が似てるような気がするっていう比喩ね?! ワキじゃないよ? あの人絶対臭いからね?
「そんなのどうでもいいから元の世界に戻る方法を教えてくれないか? 早く仲間を集めてお前をボコしたいんだけど!」
まずい、俺を置いて話が進んでいる! アズも置いていかれてるからまだいいけど!
「なるほど、つまりヨシハルは、ここに来る前の世界で勇者として冒険してようやくあのオジサンまで辿り着いたのに、あの人にベタノロをかけられて二周目の冒険をすることを余儀なくされたってことだね! だから今、一周目の仲間を集めてる最中なんだね!」
まずい、俺だけを置いて話が進んでいる!
「なんでアズがそれを?! 俺たちそのこと話してないのに!」
「なんとなく」
「はぁ?! 勘にも限度ってもんがあるでしょ?!」
俺がついつい口を挟んでしまう。
「なんだか人数が増えると会話しにくいぞ?! というかここにワシも来てしまった時点で最悪のミスを犯してるのに戻る方法を教えたらさらにそれを重ねることになるんだが?!」
それでいいんだ。魔王は戻りたくないのかな? 向こうの世界に友達いないのかな?
「ほら、あの『サクサク魔界クッキー』ないの? お客さんいるんだけどー」
何それ美味しそう。食べたいな。
「あるはずないだろ! しかもそれを言うならワシらが客側だわ!」
「なんだ、残念」
「ほら、ニーヴェが本気で残念がってる! それでいいのかよ魔王?」
なんかヨシハルが余計なこと言うから魔王と目が合ったんだけど。
「ま、真っ白っ?!」
お前も驚くんかーい。お前の顔見て俺もびっくりしたけど声には出さなかったぞ。
「てかこの人とワシ初対面なんだけど?! 別に残念がってもらっても関係な――ダメだわ、初対面だからって他と差をつけちゃ。ごめんな、また明日持ってくるからな」
「わかった。好意だけ受け取っとくからとりあえずヨシハルたちを帰してあげて?」
いや、食べたいよ、食べたいんだけど……あんたが明日までいるのはゴメンだわ。めっちゃ面白いし優しいオジサンだけど、一日いてもらえりゃそれで充分。
「そんなこと言われたって、ワシはもう失敗したくないんだから教えないもん」
ちくしょう無駄なとこだけ頑固になりやがって。
「あの、魔王……さん? 私、この人たちがどうやってここまで来たか聞いて、すっごく悲しくなったの。だから、帰る方法教えてくれない?」
こいつアホか。さっきヨシハルと俺で二回とも突っぱねられてんのに教えてもらえるわけな――
「んーとな、この世界で騎士を百人以上倒した魔獣を一体でも倒せば帰れるぞ」
教えてもらえたっ! バカな上にチョロいのかこの魔王は?! 優しい以外にいいとこないのか?!
「あの、オジサン本当に魔王?」
「今更何を訊いておるのだ? ワシは正真正銘の魔王だぞ? さっきはその青髪の子が可愛かったから口滑らして元の世界に帰れる方法教えてしまったけど――おあっ?! ワシ帰る方法教えちゃってるじゃないのっ?!」
アズが美少女として育ってくれて感謝。
「よし、これでヨシハルたち帰れるな」
「ニーヴェくんたちありがとう! あ、ニーヴェくんは何もしてないや。もとい、アズさんありがとう!」
「言い直さなくてよくない?!」
メリカ恐るべし。現状を冷静に把握してらっしゃる。
「というか魔獣倒さなきゃならないんだろ? 騎士百人倒す魔獣って……強いの?」
「強い強い。結構強い」
俺とあと一人いれば余裕だけど。
「まぁ俺とメリカならなんとかなるっしょ」
「いやならないって! 話聞いてた?!」
心配すぎる。ナメてかかったらほんとにやられるぞ? ヨシハルが最強の勇者ならまだしもそうは見えないからなぁ。
「あ、本当にそうなの? てっきり誇張かと」
「何のための誇張だよ! 誰が『こっちの世界の魔獣の方が強いぞマウント』取りに行くんだよっ?!」
世界一要らないマウンティングだと思われますが。
「ちょっと心配だから私たちも一応ついて行っていいかな?」
アズが訊くと、メリカがヨシハルを手の動きで呼ぶ。
「おにーさん、何の戦力にもならないのなら正直にお断りした方が……」
あの、ひそひそ声で言ってるつもりだと思うけどさぁ。
「全部聞こえてやがんぞメリ公ゴラァ!」
確かに直接的な戦力にはならないけど。
「聞かせるつもりで言ったんだけど?! それとも何、戦力になるの?」
くぁぁ、こいつ腹立つ。
「なるなる。俺、白魔導士だから。強化できるから。もしもの時とかに役立つかも」
「私も情報とかなら!」
そうだ、アズって何の役に立つっけ? って思ったけどこいつは情報持ってるんだった。
「うーん、それじゃその情報が役に立つかどうか、一つだけお試しで聞かせてもらってもいい?」
ほう。アズの情報量を試したか。怖気付くなよヨシハル。こいつは役に立つ時もたまにあるんだぜ?
「うん。えっとね、まず今回おすすめの魔獣は、今までに騎士を二百人くらい倒してきた、向こうの方にある洞穴に棲んでるグルータっていう魔獣なんだけど」
「あそこの方だな? わかった! ありがとう!」
「ニーヴェくん、アズさんありがとう! あ、ニーヴェくんは何もしてないや! もとい、アズさんありがとう!」
あ、逃げた。そんでメリカあいつわざとやってんな。
「ちなみに俺グルータ知らないんだけど」
「ヤバいよニーヴェ。グルータって、攻撃力はそこそこだけど、装甲が硬くて今まで誰の剣にも貫かれたことないの」
「え、それって……」
負けに行っただけじゃん。
「すぐに追わないと!」
もう二人の姿は遠くで豆粒みたいになってる。あの人たち逃げ足速いな。どこかで逃げてたことあるのかな?
「あの〜……」
なんだ誰かと思えば。ひょこひょこと申し訳なさそうに自称魔王のオジサンが寄ってくる。断言しよう、この人俺が出会った自称魔王の中で一番弱い。
「何? クッキー持ってたとか? 今日中なら俺の腹はいつでもそれ受け付けるよ?」
「違うから! ワシただのクッキーオジサンじゃないから! それは置いといて、ワシ今魔力が無いに等しいのよ。それで、帰るには魔獣を倒した瞬間に近くにいないと行けないんだけど、迷子になるの困るから送ってくれない?」
哀れかよ。まぁでもこの人優しいし、この世界にいられても困るし、送ってやるか。
「よしアズ、この人も連れてこっか」
「いいよ。それじゃあ急ごっか」
俺は頷いて走り出す。
「待ってくれ!」
はっきり言えることが一つ。俺のスタートダッシュ止められがち。
「なぁに魔王さん? もう年で走れないって? そんなら問答無用で置いてくよ?」
「いや、違う。お主白魔導士だろ? 速く走れるように強化とかできない?」
ただただ口をぽかんと開けるしかない俺とアズ。
「え、無理な感じ? それなら走るけど」
「いや、余裕。あんた天才か」
それから詠唱に五分かけてアズをわかりやすくイラつかせたのは知らなくてもいい話。
ちなみにここから洞穴まで全力で走って五分っていうのも知らなくてもいい話。
アズを先頭、魔王を最後尾に配置し、平原を走らせる。え、俺? 俺は自強化出来ないから地面と平行に運ばれてるよ。傍目から見るとすっごくみっともないよ。たまに俺の真っ白なローブの先が地面に擦れるのがものすごく気になるよ。あとで洗濯しないと。
あぁ、風景が速く流れるとかいう次元を超えてもはや止まって見える。これが音速を超える走りか。
「はい、着いたよ」
「ここが洞穴……ヨシハルたちほんとにここに着いたの? 途中で迷子になったりしてない?」
少し前まで草原だったけれど、この辺りだけ木々が密集してて迷子になりやすいと思った。個人の見解だけど。
「いやぁ、お主の力、本物なんだな。よかったらワシに魔力増強魔法とかかけてくれない? それだったらワシだけ帰れるんだけど」
「そんなクズ行動には加担しないよ。俺はあんたの優しさに惹かれたんだ」
「提案は真っ向から否定されたけどなんか嬉しい!」
なんかオジサンが歓喜の舞踊ってる。ちょっと関わりたくないですね。
「さ、こんなバカ放っといて中入ろうぜ、アズ」
「うん」
「えぇぇ、ワシも行きたいし! もう勝手についてくし!」
魔王を背後に、俺たちはさっさと洞穴の中に入っていく。中はすぐに開けていて、その真ん中には綺麗な剣を持って戦うヨシハルたち。
そしてグルータ。アズの説明通り、光り輝く装甲には傷一つなく、悠々とヨシハルの剣やメリカの炎魔法を弾き返している。
「ちくしょ、ぜんっぜん効かねぇっ!」
「おにーさん、あの甲羅、キラキラしてて硬くて、例えるならホタルのお腹だよ!」
いや触ったことないけど多分ブニョブニョだろ。光ってることしか合ってないわ。
よし。ちょっくら詠唱しますか。
わざわざ飛び出していく阿呆な俺。でもこれもヨシハルたちが少しでも傷つかないようにという名目に隠した、少しでも目立ちたいという俺の自己顕示欲からの行動だ。
……と、とりあえず詠唱しながらグルータの気を惹く。へいへーい雑魚ぉー、こっちだぜぇ、とでも言うように体を大仰に動かす。口は急いで長い長い呪文の詠唱をこなしている。
「ブニョォォォォオッ!」
鳴き声ブニョブニョじゃねぇか。
あ、ガチギレして追っかけてきましたわ。やっぱり白いローブって目を刺激するのかな? 良くも悪くも。
「ニー――誰だっけ? まぁいいや、なんで来たんだ……?」
「おにーさん、ニーヴェさんだよ。忘れちゃダメだよ、今まで何もしてないけど今助けてくれてるみたいだし」
なんで来たかはどうでもいいとして、とりあえず何もしてないからといって俺の名前だけは忘れるな。そんでメリカ……あとで一発でいいから殴らせてくれない?
うわっと?! 危ない、グルータの長い大きな尻尾が当たるところだった。
詠唱しながらあいつらにツッコミながらグルータの気を惹いて攻撃避けながら……白魔導士ってやること多いっすな。
「おにーさん、ニーヴェさんって愚痴言いながら戦うんだね!」
「逃げてるだけに見えるけどな」
どっちも事実無根なんだが?! ……あ。
ニーヴェ氏の舌は長い詠唱を乗り越え、無事に役目を終えました。
「ヨシハル! もっかい剣でそいつ切っとぅるれべっ!」
やっちまったか。舌が空回りして何言ってるか分からない状態に。
「あいつ何言ってんだ? まぁいっか、もう一回、泣きの一回でやってやる!」
俺の想い、ヨシハルには直接伝わってないけど天の神様経由でなんとか伝わった?! まじか、こんなこともあるんだ。
ヨシハルの剣は見た事のないような光を放ち、グルータの甲羅をその辺の雑草を切るよりもスムーズに斬り裂いた。
「え、えぇ、えぇぇ?! おにーさん、やったよ! そいつ倒したんだ!」
「ま、俺の強化のおか」
「ほんとだ! 俺ってこんな強かったんだ!」
「俺の強化まほ」
「そうだよ! きっと火事場の馬鹿力だよ!」
今絶対「馬鹿」を強調したと思う。
てかなんでこんなに俺って褒められないの? 御先祖が何か不徳を致しました?
「よぉーし今から宿屋に行って寝」
あれ? なんかヨシハルが動かなくなったぞ?
「それがベタノロだぞ。今発動するとはワシも思ってなかった」
「なるほど、クエストクリア後は宿屋に行くっていうベタか」
「ねぇ、あたしたちまだ帰れないの?」
「うーん、倒して三十秒で勝手に転送されるはずな」
あ、三人とも消えちゃった。今で三十秒、なのかな? せめて別れくらい交わしたかったんだけど。
「か、帰っちゃったね……」
「だな」
ヨシハルくんがベタノロを解除できたことを祈る。
「んじゃあヨシハルの代わりに、俺らが宿屋行って一休みしますか〜」
「賛成!」
こうして異世界転生(?)してきた勇者たちと俺たちとの不可思議な冒険はハッピーエンドともバッドエンドともとれないやり方で終わったのでした。
めでたいかめでたくないかわからなし。
こんにちは、お読みいただきありがとうございます! 「ヴァイス 自強化できない白魔導士は一人で魔獣を倒したい」の作者、氷華青です!
今回、初・小説コラボということで、私の師匠とも言うべき存在の箒星影先生の作品「ベタノロ!〜ベタなことしたら呪われる異世界物語〜」とコラボさせていただきました!
コラボさせていただくのが本当に嬉しく、字数が長くなってしまいすみません(汗)。
これからも、白魔導士ニーヴェの活躍の応援よろしくお願いします! そして、ぜひヨシハルくんの冒険を一緒に応援していきましょう!
それではこの辺りで! 長々と失礼しましたっ!