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下町ウォーターフロント  作者: りす君
9/13

第9話:籠原の秘密、辰巳の悲哀。

山川から三宮へ告白大作戦の会議中、いきなり籠原がポツリポツリと話し始めた。

山川の、三宮へ告白大作戦会議。 しかし、籠原が驚きの発言をした為に話が中断していた。


溜池:

「どうした、何かあったのか?」

籠原:

「まぁ…、今回の作戦にはあまり関係無い話やねんけどな。」


籠原は、回顧するようにポツリポツリと話し始めた。


籠原:

「実は俺、門真にいた頃に付き合うてた子がいたんや。」

籠原以外の全員:

「なっ?!」

籠原:

「そ、そんな驚く事は無いやろ…。 あれは、中学3年の10月やった。 俺が親父に東京へ引っ越す事を聞かされる少し前、彼女から神戸の女子校を受験する事を聞かされたんや。」

溜池:

「それで?」

籠原:

「彼女は、離れていても俺とずっと一緒やと言うてくれた。 その時は俺も大阪と神戸やし、決して逢えへん距離やないって思ってた。 実際彼女も、休みの日は必ず俺に逢いに来るって。」

谷塚:

「それで?」

籠原:

「その数日後やった、東京へ引っ越す事が決まったのは。 ホンマに苦悩した。 この事を、彼女へ伝えるかどうか。 伝えたら、彼女を哀しませる事が(わこ)うてたから。」

溜池:

「籠原…。」

籠原:

「今、神戸で寮生活をしとる彼女は、俺が未だに大阪に住んどると思うてる。 当然やな。結局、彼女へ話さずに東京へ行く事にしたんやから。 最低やろ、自分。 彼女に嘘をついたまま、大阪から居なくなってしもうたんやから。」

溜池:

「ま、まぁ…色々ツッコミたい所はあるけど、籠原はどうして彼女にその事を伝えず、引っ越してしまったんだ?」

籠原:

「それは…、お互いに辛くならん為かな。 多分、彼女にその事を伝えてたら、確実に泣かれてたと思う。 彼女を泣かせたくないのは、男として解るやろ?」

谷塚:

「でもよ、彼女は今でもお前が大阪に居ると思ってるんだろ? もし彼女が、夏休みとかに大阪へ戻ってきたら普通に嘘がバレるだろうが。」

籠原:

「その時は…、その時や。 事実を、ありのままに彼女へ話すしか無いわ。」

溜池:

「つまり、お前は彼女との関係を自然消滅させそうとしてるのか?」

籠原:

「その方がええやろ、彼女にとっても。」

八頭:

「ずっと会えないなら一層の事、自然と別れた方が良い。 そうしたいんだな?」

山川:

「な、なぁ? 俺の事、忘れてないか?」

籠原:

「せや。」

溜池:

「それって、ちょっと酷くないか?」

籠原:

「せや、俺は酷い男や。 今すぐにでも伝えなきゃいけない事やって、自分でも解うてるつもりや。 せやけど、今の俺にはそうするしか無いんや。 山川。 今、言える機会があるなら、迷わずに言うた方がえぇで。後々、ホンマに後悔するからな。」

山川:

「あ、うん...そうだな、伝えなきゃな。 ずっと言わずにいたら、永遠に相手へ伝わらないよな。」

梅島:

「しかし辰巳ちゃんが、本当に可哀想になるなぁ。」

谷塚:

「あっ、バカ!」

梅島:

「せっかく、籠原の事を好きになっ…うわっ、竹ちゃん何するんだ! …モゴモゴ。」

籠原:

「ん、辰巳? 何で今、辰巳の話になんねん?」

溜池:

「あっ...いや、こっちの話だから気にするなって。」

八頭:

「さてと、俺はそろそろ部屋に戻るよ。」

溜池:

「そうだな。 俺も、かなり眠たくなってきたし。」

籠原:

「なんやねん、溜やんも戻るんかいな。 ほな、俺も戻るわ。」

山川:

「皆、今回は本当にありがとう。」

谷塚:

「よし、今日はこれでお開きって事で。 じゃ、また明日。」


こうして、籠原の衝撃的な告白がメインとなった告白大作戦会議は終了した。


[翌日/AM6:30]


溜池:

「う、うーん…もう朝か。」

赤羽:

「いやー、ぐっすり寝れたよ。」

籠原:

「(寝言で)もう喰えへん、腹いっぱいやで…。」

溜池の心の声:

「夢の中でも、こいつはお好み焼きを喰っているのか。」


さぞ、良い夢を見ていただろう籠原を叩き起こし、洗顔や歯磨き、用足し等をそれぞれ済ませてから朝食会場へ足を運んだ。


辰巳:

「あっ、おはよう。」

溜池:

「おっす。」

籠原:

「あっ...せや辰巳、昨日はホンマにごめんな。」

辰巳:

「なっ?!」


反省の顔をした籠原の発言に、辰巳の顔が赤くなり小さく縮こまった。


赤羽:

「効果は、抜群だな。」

鶯谷:

「これは、誰でも落ちるよ。」

汐留:

「かりんちゃんっ! だだっ、大丈夫?!」

辰巳:

「か、籠原が…、籠原が…、はにゃあ…。」


(バタリ)


溜池:

「おい、またかよ。」

籠原:

「えっ? えーっ?! またかいな! ほなもう、しっかりしいや辰巳!」


気絶した辰巳を籠原が部屋まで運び、俺、赤羽、汐留、鶯谷は先に行く事にした。


[食事会場]


延岡:

「うーん! スクランブルエッグに、卵掛けご飯! 卵焼きもあるぞ! うー、やったー!」

赤羽:

「おい延岡、うるさいって。 少しは静かにしろよ。」

梅島:

「誰か延ちゃんに、HE○OESのデブの物真似をしろって言った?」

溜池の心の声:

「さっさと、食事を済まそう。」


ツッコミたい気持ちを抑えつつ、朝食を採った。


[312号室]


籠原:

「何で、お前はいつも倒れるねん? 病気か?」

辰巳:

「しっ、知らないわよ! てか、私の倒れる原因の殆どはアンタなんだからね!」

籠原:

「知るか、ボケ! 単に、お前の体が弱いとちゃうんか?」

辰巳:

「はっ? 違うわよ! フンッ!」

籠原:

「ったく、朝から朝食は喰い損ねるわ、嫌いな女の看病をさせられるわで、今日も最悪や。」

辰巳:

「っ?!」

籠原:

「あーあ、昨日は昨日で成り行きで昔の彼女の話もしちまったし。 この頃、ホンマにツイてへんなぁ。」

辰巳の心の声:

「えっ...、か、彼女?」

籠原:

「あ? どした、辰巳? そな、ぽかーんな顔して。」

辰巳の心の声:

「籠原に彼女がいる? う…、嘘でしょ?」

籠原:

「おい、ホンマ大丈夫か? おい! …えっ?!」

辰巳の心の声:

「それじゃ、私の今まで積み重ねてきた想いは?」


(ポタ…ポタ…)


籠原:

「お…おい、泣くなや! なんで泣くねん! 俺、一個も悪い事してへんやろ?」

辰巳の心の声:

「そんな...、あんまりよ。 ねぇ、どうしてこんなに辛くなるの? こんなに胸が苦しくなるのよ…。」

籠原:

「ったく...、何やよう解らへんけど、とりあえず謝るさかい。 せやから、もう泣くなや。 ごめんなさい! この通りや!」

辰巳:

「(小声で)ごめん、一人に…させて。」

籠原:

「ん? 解った。 ほな、俺は部屋に戻るわ。」


(バタン)


辰巳:

「うっ、ううっ…。」


[504号室]


溜池:

「今日の班別行動の予定だが、10時半にホテルをチェックアウトした後、箱根登山鉄道に乗って強羅(ごうら)駅へ。 そこから、ケーブルカーに乗り継いで早雲山(そううんざん)駅へ。 更に、ロープウェイを使って大涌谷(おおわくだに)駅へ向かう。 そこで、名物の黒たまごを買って、再びロープウェイとケーブルカー、箱根登山鉄道を経由して、15時半までに帰りの小田急ロマンスカーが待っている箱根湯本駅へ向かう。 以上、俺達4班のスケジュール内容だ。」

赤羽:

「あっと言う間だったな、箱根小旅行。 まぁ1泊2日だし、仕方ないけど。」

籠原:

「………。」

溜池:

「か、籠原? 浮き沈みが激しいな、今日は。」


部屋に戻ってきた籠原は無言で、俯きながらしきりに首を傾げていた。


赤羽:

「(小声で溜池に)籠原、どうしたんだろう? 朝食を喰い損ねた事が余程、(こた)えているのか。」

溜池:

「(小声で赤羽に)さぁな。 でも、こう(うるさ)くないと逆に不自然で恐いのは確かだ。」


それから、籠原は班別行動中でも一言も喋らず、帰りの集合場所である箱根湯本駅までずっと俯いたままだった。 その症状は女子側にも一人いて、辰巳も全く言葉を発しなかった。 二人を察してなのか、自然にそうなったのか、残り俺達4人の口数も減っていた。


[箱根湯本駅]


中野:

「それじゃ、順番に改札を通って。 くれぐれも押さないようにね。」

生徒一同:

「はーい。」


[小田急ロマンスカー:新宿行き/車内]


谷塚:

「楽しかったな。 お土産も沢山買えたし、温泉にも入れたし。」

梅島:

「おうよ、竹ちゃんがいつもよりはっちゃけてたもんな!」

前橋:

「俺は旅行中、各務原とずっと過ごせて凄く幸せだったさ。 なぁ、各務原?」

各務原:

「うん、凄く楽しかった! ねぇ、萱ちゃん?」

浜松:

「良いなぁ。 私も、梅島君と仲を深めたかったなぁ。」

山科:

「アンタ、あんな奴がタイプなんだ。」

舞鶴:

「帰ったら、道場で精神統一しよう。 それと、竹刀(しない)の手入れもやらねば。」

成田:

「(無言で音楽を聴いている。」

八頭:

「ふぅ、疲れた。」

三宮:

「(小声で)告白...、されちゃった。」

西宮:

「箱根の名水も買ったし、また新しいラーメンの試作品でも作ってみようかな。」

加古川:

「(無言で、車窓から見える外の景色を眺めている。)」

亀戸:

「今回の俺、出番少なかったんじゃね? 俺、忘れられてない?」

延岡:

「早く帰って、温泉まんじゅうをたらふく食べるぞ!」

山川:

「(小声で)籠原…俺、やったよ。 出来たぞ、俺にも。」

蓮根:

「(無言で読書にふけている。」

蔵前:

「ねぇ、紫。 私が居ない間、ちゃんと先輩方は練習してたと思う?」

有明の心の声:

「亀戸君...、私なんか紹介すらされてないよ。」

豊橋:

「あぁ…、かったるい。」

三河:

「箱根の温泉、堪能…ブツブツ…。」

今池:

「んだよ、収穫無しかよ。 チッ!」

知多:

「温泉の効能、効くと良いなぁ。」

一宮:

「少しでも、お肌がツルツルになったかなぁ。」

半田:

「二人共、期待し過ぎだよ。」

鶯谷:

「料理がイマイチだった。」

汐留:

「だっ...大丈夫、かりんちゃん?」

辰巳:

「うん...、平気よ。」

籠原:

「(無言で窓の外の景色を眺めている。)」

赤羽:

「なぁ、一体どうしたんだよ籠原?」

溜池:

「今は…、そっとしとこうぜ。」


こうして、長かったような短かったような箱根小旅行は終わりを告げた。


[第9話:終]


[登場人物紹介]


有明(ありあけ) 深鈴(みすず)

身長157cm。 3月生まれ(本人談)。 東京都 港区 麻布十番(あざぶじゅうばん)出身・在住。

特に変わった性格でも無く、ごく普通の女子。 髪型は、セミロング。

西宮と加古川とは仲が良く、時々会話するが、三宮とはあまり話さない。 蔵前と同様に、サッカー部のマネージャーを務めている。 実家が、麻布十番商店街でパン屋を営んでいる。


知多(ちた) 智子(ともこ)

身長161cm。 4月生まれ(本人談)。 神奈川県 横浜市 港北区出身、東京都 目黒区在住。

仲良し3人組の一人。 髪型はショートボブ。

一宮と半田とは、小・中・高と一緒の学校に通っている。 常に三人で一緒に居る為、自分達の世界に入りがちで周りから存在を忘れられがちでいる。 ファッション、グルメ、ショッピング、アイドルの話を毎日飽きたらず話している。 実家は、クリーニング屋を営んでいる。


一宮(いちのみや) 里未(さとみ)

身長159cm。 10月生まれ(本人談)。 神奈川県 横浜市 青葉区出身、東京都 目黒区在住。

仲良し3人組の一人。 髪型はショート。

実家が八百屋を経営しており、将来野菜ソムリエの資格を取得しようと思っている。 姉が2人いる。 三人の中で、一番の常識人でモテるのも彼女である。


半田(はんだ) 由夏(ゆか)

身長160cm。 7月生まれ(本人談)。 神奈川県 横浜市 港北区出身、東京都 目黒区在住。

仲良し3人組の一人。 髪型は、ロング。

成績がとても良く、国立大学レベルの問題も難なくこなす程。 しかし、二人と一緒に居たいが為に、偏差値が高い地元の高校を受験する事を辞めた。 容姿はあまり良くなく、体型もぽっちゃりの次元を通り越す程。


浜松(はままつ) 真彩(まあや)

身長147cm。 12月生まれ(本人談)。 埼玉県 三郷(みさと)市出身、在住。

性格は、天真爛漫(てんしんらんまん)の一言。 山科とは、入学時からの親友。

幼い頃に母親を亡くしており、今は父親と兄の3人暮らし。 1歳上の兄は高校球児で、今年の春の選抜高校野球大会に出場した経験を持ち、プロから早くも注目されている投手。 学生である傍ら、家事全般をこなしており、浜松家を支えている苦労人。


山科(やましな) 紗月(さつき)

身長159cm。 5月生まれ(本人談。 京都府 京都市 下京(しもぎょう)区出身、東京都葛飾区在住。

籠原と同じく、関西からの越境通学者。 髪型は、ポニーテール。

親友の浜松とは対極的に、冷静な性格。

実家は、東の鶯谷家、西の山科家と言われる程の名高い高級料亭を営んでいる。 その為、料理の腕前も鶯谷と肩を並べる程。 鶯谷とは互いに料亭の娘としてのプライドがあり、両者共に認めるライバル関係だが、普段は創作料理の話を頻繁に交わすなど仲はとても良い。 家には、執事が数十人存在する。


各務原(かがみはら) 柚葉(ゆずは)

身長150cm。 11月生まれ(本人談)。 岐阜県 岐阜市出身、東京都 墨田区在住。

籠原、山科に続く、西から上京してきた女子。 髪型はロングで、カチューシャをつけている。

天然系で可愛らしい容姿をしているが、彼氏の前橋と周りがヒく程のバカップルである。

自称、恋する乙女。 同性からかなり嫌われている。 しかし、彼女自身は前橋と同じく全く気にしていない。 実家は、美容院を経営している。

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